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投擲士と探検技工士は洞窟を潜る  作者: 左高例
第三章『続く物語』
39/41

第10話『チャージ用燃料』

 ──我が名を呼べ。


 ──我が滅ぼすべき邪悪が迫っている。


 ──奴らの比類なき天敵である我が名を呼べ。


 ──我は夢魔の齎す泡沫の夢を破壊する剣。





 ********






『ンヒィィィィイグウウウウウ!!!111』

「キモッ」


 迫ってきたゴースト系種族相手に、サキュバスタードソードをぶん投げたら超キモい嬌声を上げて浄化されていった。

 それにしてもキモい。ダブピーって感じ。このサキュバス殺しの剣は、精神的・霊的に相手を攻撃(ファッキングレイプ)するわけで、ゴーストなんかの精神生命体及びライフドレインカマしてくる吸血鬼、淫魔の類には特攻に効く。

 人間相手にぶち当てても、弱威力だと精神疲労で強威力だと昏倒させれる便利な武器なんだが……


「マジキモいわこの剣。なんか回収したくねえ」


 ゴーストに突き刺さって落ちた剣を、俺はバッチそうに蹴った。

 攻撃(ファッキングレイプ)するという特性上、なんかよろしくない感覚を相手に与えるのが難点だ。


「変脳系で出てきそうな武器ですね……」

「ごめん。ヘンノ……なに? 知らない単語を当然のように出さないでくれる?」

「変態洗脳の略ですけど……例えば今の武器で快楽漬けにした後、ゴーストを家具に加工して[スケベレ椅子イス]とか言ってお風呂場に置かれてる椅子みたいにしたりとか」

「説明して欲しかったわけでもねえよ。おいメスガキ! お前の幼馴染の性癖どうなってんだ! 頭の病院連れてけ!」

「お、オレに言うなよ! 大体、チャモンはちょっと詳しいだけでノーマルタイプだって本人が言ってるだろ!」

「かなりヤバいアブノーマル/非行タイプだよ!」


 空を飛ぶどころか変なところにトんで行ってるよ!



 さて、にわかパーティを組んで一晩が経過し、俺らはひとまず先を目指して進むことにした。

 合流できる可能性が一番高いのはラスト手前の地点だからな。ひとまず向こうは、無敵のダンジョン攻略者レイパーセンセイがいれば問題は無いだろう。

 問題はこっちチームだ。戦闘力的に戦えるのが俺しかいねえ。向こうはクラフトワーカー二人に囮役の軽業師、高出力バフ使いの歌い手まで居るっつーのに。

 そんなわけで、隠れながら進む方針は変わらずに前に向かっているわけだ。ちなみに、前後の確認はダンジョンの傾斜で判断した。一応は奥の方向が下っていく感じには作られているらしい。

 で、まあ進みつつも倒した方が良い奴は倒すわけだ。


「ゴーストはいつの間にか後ろから付いてきてたり、壁をすり抜けたりするから危ねえのでぬっ殺すわけだ」

「うーん、僕らのパーティだとゴースト系はヨーコさん頼みになるから、今はアルトさん居ないと危なかったなあ」

「レクイエムでゾンビなんかには無双なんだぜ!」

「誰が役に立つかより、自分が役に立つことを自慢できるようになれよ」

「むうー……」


 唸るメスガキを蹴飛ばしながら前に進ませる。

 パーティの並びは先頭にハッチ(斥候・罠回避)で俺と後ろにチャモンが続く。とりあえず罠を避けつつ、いざという時は俺が攻撃するまでの盾にさせる感じだ。

 正直、この雑魚メスガキが前衛やるよりは俺がやった方が強いのは明らかなんだが、それだと全体の火力が低くなる。俺が足止めしても後ろの二人に攻撃は期待できねえし。

 暫く進んでいるとやがて独自に新たなマップを作っていたチャモンが気づいたように告げる。


「この長い直線の通路は……確か資料館で見たことがありますよ。分岐の一つで、結構合流まで長いルートの一つです」

「マジかよ。ってかよく気づいたな」

「基本曲がりくねっている中で特徴的でしたから……ただ、先に幾つか分岐がありますのでそれで正しい道を選べば距離を縮められるはずです。なんとか記憶を手繰って行きましょう」

「頼むぞチャモン! オレさっぱり覚えてないからな!」

「俺も全然覚えてねえ」

「はぐれた時の為とかに覚えておきましょうよ……折角詳細なマップが予めあったのに……」


 半眼で言うが、そこら辺はセンセイが全部記憶してるはずだったしな……

 しかし現在位置が判ったのは朗報だ。どっちが最短ルートかわからずにうろつかねえで済む。

 大事なのはとにかく合流地点にたどり着くことで、最短最速で戦闘を避けていかねーとな。

 

「うん? ちょっとストップ。何か居る」


 声を顰めてハッチが制止した。

 俺らはダンボールを構えながら岩陰に入り、前方を見やる。前は幾つか鍾乳洞が垂れ下がっているような小部屋になっていて、またいくつか分岐の洞穴が顔を覗かせていた。

 視力は俺の方が優れているのでその部屋に居る敵を確認すると、見た目はシミか何かかと思ったがどうやら違う。

 琥珀色の巨大ゼリーで囲まれている、黒に近いこげ茶色をしているスライムだ。 

 微かにヨウ素とアンモニウムの臭いが感じられて、俺はわなわなと震えた。

 やっべえ。

 いきなりやっべえわ。


「ヨウ化窒素スライムだ……センセイから解説を受けた姿に間違いはない」

「げっ、もしかして、触ると大爆発するっていう?」

「触るどころか飛びかかってくる動きをするだけで自爆するクソモンスだ。声を上げるなよ。下手すりゃ空気の震動でも危ないかもしれねえ」

「ど、どうしましょう……どうにか横を通り抜けますか?」


 幸いこちらが先に見つけたこともあり、まだ気づかれていない。

 あの部屋は遮蔽物も多いので遠回りに離れながら進めば気づかれないかもしれないが──

 気づかれたら即死するような状況に入り込むのは危なすぎるだろ。寝ている飢えたライオンの檻に踏み込むようなもんだ。

 センセイー! 早く来てくれー!


「アレを安全に処理るためには液体窒素が必要なんだけど持ってねえ?」

「無いですよ……!」

「っていうか今俺ら非常にやばいからな。ここは爆発の範囲内で、もしあの小部屋に別の魔物が現れて争いだしたら……ボム!」

「やややや、やばい! どうしよう」


 そう、マジでやばいのがあのスライムの爆発半径。

 洞窟という爆風が一直線に収束しやすい形なのと、通常じゃありえん量の爆薬の塊であることが加わってそいつが爆発した地点数百メートルを蹂躙する。

 もちろん曲がり角を何個か経由すれば安全にはなるだろうが、当然今いる場所は危なすぎる。

 というか、知らん場所で爆発されて急に爆風に巻き込まれる可能性すらあるのがあの魔物の厄介な特性だ。

 ひとまず俺らは爆発半径外まで退避すべく後退を始めた。だが直線距離が長い通路を進んでいたのがいささか不安だ。背後にドラゴンが居て、ブレスを吐くか吐かないかを気まぐれに待っているような状況。次の瞬間にも、俺が何のミスもしていないのに死んでいるかもしれない理不尽な感覚。クソッタレだ。

 そして嫌な鳴き声がスライムの居る方から響いてきた。 


『ガアアアア!!』


 はい魔物ポップ。 

 

「うああああ! デカイ狼男がスライムに襲いかかってますよー!?」

「うっせ馬鹿! 早く逃げんだよ!!」


 やばい。まだまだ通路は直線だ。

 ヨウ化窒素スライムの外側を取り囲んでいる飴色のゼリーは硝酸アンモニウム水溶液っつー水に溶けた爆薬みたいなもんで、中のヨウ化窒素を保湿して守っているらしいが。

 ずしゃ、と音が妙に大きく響いた。

 あのスライムは衝撃を受けるとまずその外縁を守るゼリーが溶け落ちて全て剥がれ、外気に晒されたヨウ化窒素の塊が急激にスーパードライしやがる。

 そうなれば強力な起爆力を持つ爆薬の出来上がりだ。おまけに周囲には爆発力アップする硝酸アンモニウムがたっぷり数十リットルはありやがる。

 センセイが真剣に説明していたのでよーくわかってる。そして爆発から逃げるには時間が足りない。狼くんが絶望の爆弾に攻撃を仕掛けるのは次の瞬間だろう。

 俺らにエゲツない爆風と有毒の空気が吹き付けてくるのはその次だ。アーメン。死体残るかしら。


「こ、こっちだ!! さっき仕掛けを見つけた隠し通路!!」


 立ち止まってハッチが壁の黒ずんだ小さな穴に腕を突っ込むと、何かを引っ張る仕草をしたらがちゃりと音が鳴って近くの壁がガラガラと崩れて、穴が出てきた。

 しゃがめば進めるような小さな通路にまずハッチが飛び込み、次にリュックを外したチャモンと俺が入った。やつの背負っている道具はでかすぎたので即座に諦めたが、性分なのか手に持てる荷物を即座に選り分けて幾らか持ち出したようだ。

 そして穴の入り口を、仕掛けを作動する前に隠していた石ころをギュウギュウに詰め込むことで塞ぎながら通路を急いで後退。

 奥に行けばそれなりの広さを持つ空間になったようで、立ち上がってとにかくその先へ駆け出した。三人で足をもつれさせながら、とにかく離れようとする。


 ──爆音でダンジョンが揺れた。

 

 地面や壁の震動で立っておられずに、ぱらぱらと落ちてくる天井の石ころから頭を庇って伏せた。

 

「あわわわ……」

「よ、よっしゃあー! どんなもんだ! 助かったぞ!」

「ふぅー……まあそもそもセンセイとエリザと離れなかったらこんなピンチは無かったとはいえ、たまたま隠し部屋があったから良かったようなものの、一応は褒めてやるぜ」

「褒められた気がしなくない!?」


 何とか一難去ったわけだが、爆発した正規通路に戻って進むわけにはいかない。吸ったら即死というわけではないが、有毒性のガスが残留しているだろう。

 

「おい物知り博士。この隠し通路のマップは覚えてるか?」

「いえ……資料館には無かったですね。ひょっとしたら最近自然発生したものかも」

「ずっと隠されてた超秘密の通路を、オレが発見したかもしれないだろ!」

「それは無いでしょ……洞窟の奥まった行き止まりにあるならまだしもこんな順路の途中にあるみたいなの、注意深い冒険者なら見つけてるよ」


 まあ……駆け出し細工師が見つけられるようなものが延々と見つからねえわけはねえな。

 魔物や宝箱がポップするように、隠し通路や隠し部屋も出来たりする。時にはダンジョンの地形が完全に変化しまくる事前マップの通用しない不思議なダンジョンもあるそうだ。


「とにかく、こっちの道を行くしかねえか……」

「ううう、荷物をロストしたのがつらい……」

「っていうかお前何か持ち出して無かったか──」


 俺がやつの手を持っているのを見ると。

 えっちな……いや、ううーん……特殊な性癖の本を何冊も抱えていた。


「……」

「……」

「違いますよ。これは稀覯本なんです。非常に貴重な本で、お金に変えると値段も相当しますし、そもそも爆発で吹き飛んでこの世から消えたら文化的な損失なんです。だから優先して保護しただけであって、僕の趣味とかそういうのじゃないんです。あっ! 勘違いしてますよね疑ってますよねその顔は! 違うんですって! アルトさんも鍋と宝石のどちらをいざというとき持ち出すかと言えば宝石を選ぶでしょう!? 宝石なんて実用性のない石っころで、鍋の方が普段使いには便利だけど貴重でお金になるから! だから僕がこれを選んだのも同じで換金した場合一番高価だからでもあるんです。合理的な判断でこれらを持ち出したんです! ハ、ハッチなら理解してくれるよね!」

「こいつ自己弁護になると早口になるの信用ならないよな」

「ハッチ!」


 俺の評価を無視してチャモンはハッチの手を握って顔を寄せて真摯な目を合わせて納得させようとしていた。

 メスガキは早口でまくし立てた言葉の半分も理解していなかったようだし、そもそもこいつはチャモンの性癖が特殊すぎて逆に「それ本当にエロ本なの? 現代アートか何かじゃないの?」って感じにしか思えていないっぽいし。

 で、近づかれたチャモンに顔を赤らめて、唇を尖らせながらそっぽ向き、


「お、おう。チャモンが正しい……」

「だよね!」


 と、説得されてやがった。特殊性癖野郎が青春してんじゃねーぞ。

 っていうかこのメスガキも怖くねえのかな。こんな幼馴染に付き合ってたら、朝起きた時チクチンに改造されてるかもしれないとか恐怖感を抱かないんだろーか。どうでもいいが。

 

「……まあ、この際変態本はどうでもいいとして……問題はダンボールが消し飛んだことだな」

「あっ! 隠れられない!」


 一応、俺が装備してた傘みたいな形の個人用は残っているが。

 これではダンボールハウスを錬成することも、三人隠れて進むことも難しくなった。

 

「ちっ……仕方ねえ。出会う魔物は先制攻撃必殺でぶち殺して行くしかねえか。荷物ロストした分はお仲間の体でも売って買い戻すんだな」

「売りませんよ。なんですかその異様に鬼畜な発想」

「体? 売る? なんだ、肉体ロードーでもするのか?」

「都会にはおじさんに個室の飲み屋でシャクすれば一晩に一万以上は稼げる仕事があんだよ」

「すげえ! チャモン! やろうぜ! ハッカも誘って!」

「やっちゃ駄目だから! ヒョットコに改造されるから──ハッカがヒョットコ……ウッ、見たいような見たくないような……」

「お前の発想が怖いわ」


 ゲンナリしつつも、とりあえずそこらの壁際に腰掛けた。


「とりあえず休憩だ。ガントレットに電力チャージしねえといけねえしな」


 最初にジゴボルトから吸収した電気はとうに放電し終えた。

 各々座って、ハッチは背負っている小さめのリュックから水筒を取り出して喉を潤し、それをチャモンに分けつつ何やらきゃっきゃとしててうざい。

 俺はヒートダガーを抜き放ち、ガントレットで熱くなる刀身を握りしめる。


「何をやってるんですか?」

「このガントレットは熱とか雷とかを電気に変換して蓄え、俺の能力補助をする道具だ。だからこうして地道に充電してるんだが……」


 ジト目で赤い刀身──赤熱化しているわけではなく、単に色が赤い──を見ながら言う。


「ヒートダガーはずっと熱を出す便利な武器なんだが、チャージするには熱量が足りないんだよな。精々熱した鉄鍋ぐらいの熱さにしかならんし」


 本来ならば骨まで消し炭にするドラゴンブレスを受け止めてチャージ完了する防具だ。料理で使う程度の火力熱量では、充電率がある程度の低い値から上昇しない。 

 しかし強力な魔物と戦う分には、このガントレットの運動能力向上+反射神経加速に投擲威力上昇という強力なバフがあるとないとでは大きく変わってくる。  

 これをマックス充電してりゃ、小型のドラゴン程度ならば一人で倒せる気がするほどだ。


「なんか強烈な熱を出す敵とかいねーもんか……」

「強力な……どれぐらいの熱に耐えられるんですか?」

「ドラゴンブレスを受けても平気だから……まあ1000度2000度ぐらいはいけるんじゃねえかな」


 とはいっても、自然界で1000度以上の熱を出す生き物なんざそれこそドラゴン系か溶岩ゴーレムかぐらいなんだが。

 そう告げると、チャモンは暫く考える仕草を見せて腰のサブポシェットから一つの瓶を取り出した。

 灰色の粒が入っているそれを見せて、道具士は真面目な顔で告げる。


「あります。強力な炎の秘薬が」

「マジか」

「僕の切り札に用意していたものですが……正直、ここの魔物に上手くぶつけられる気がしません」


 まあそりゃそうだろうな。実際ジゴボルトに外しまくってたし。 

 

「ただし、これは非常に強力な火を出すので……正直、めっっちゃ危ないです。火花が飛び散り秘薬が超高熱な液状化して垂れるので3mは離れて使いますし、鉄の金庫も溶かして開けられます」

「だ、大丈夫かよ。なんて火薬だ? そんなの聞いたことがねえが……」


 正直、火薬ってのは世界的に未発達の技術系統だ。研究はイマイチ進んでいない。センセイ曰く、多くの火薬に必要な硝石が碌に存在しないからだそうだ。まあ、俺らみたいな一般人にはまず「硝石」とか「硝酸」とかいう物質がピンと来ないんだけどな。

 そんなわけで火薬というと、油を使った道具が多い。簡単に言うと油を小麦粉とか砂糖に染み込ませて燃やす点火剤だな。まあ、正直炎魔法使う魔法使いがいれば代用できる程度である、

 で、そんな鉄を溶かすような火薬とかまったく知らねえ。そんだけの火力を出せればなんかこー……色々凄いんじゃねえの?

 チャモンは眼鏡を光らせながら俺に告げた。


「僕らが住んでた街に居る、自称賢者のお爺さんが調合した秘薬です。材料が単純で簡単に作れて強力、だからこそ表には流通させなかったそうです。でも僕が旅に出るときに、幾つか餞別に貰った道具の一つとして持ってたんです」

「あの空想爺さんか?」


 ハッチが首を傾げて言う。


「変わり者の爺さんで、色々商売に失敗した挙句に空想小説家になってラノベ書いてる人だけど……」

「本当は凄いんだってあのお爺さん。商売に失敗したのは、元手とツテとコネと商才が全然無かったからで」

「何もねえな!」


 まったくフォローになってない言葉だった。人それをカスという。


「でもいい人なんですよ! 次はこれがブームになるって僕に変脳系の稀覯本をくれて!」

「いたいけな少年を特殊性癖に引きずり込んでる妖怪だろそれは! 犯罪だ犯罪!」

 

 とんでもねえ爺だ。そんなやつが発明した火薬って本当に大丈夫かよ。

 

「と、とにかく火力は確かな火薬なんです、この[サーマイト]っていうやつは!」


 その名前を聞いて、ハッチがふと思い出したように手を叩いた。


「あっ、そういやもしかして……あの空想爺さんが町内会で開いた『ローストターキーを早く焼き上げる選手権』で優勝したときに使ってたやつか?」

「そう、それ!」

「いやなんだその変な選手権は」

「いろんな選手が集まってローストターキーを焼いてたんだ。油を噴出する火炎放射器で焼く選手とか、茹でた後で最後に焦げ目をつければ焼いたのと同じって主張する選手とか」

「ありかよそれ」

「まあどっちにしろ、お爺さんが優勝しましたから……」

「ちなみにどんなんだった?」

「火柱が上がってターキーを焼いていた台が溶け落ち肉は真っ黒に焦げてました」

「ゲラゲラ笑いながら見物してた大会のムードがお通夜みたいになってたよな」


 えっ、なに俺今からそんなもの握って着火するの。

 嘘みたい。

 脳内で俺がテーブルの上に載せられて火柱に包まれる図が想像できた。魔女狩りか。悪魔退治か。うちの親父がぶん投げた松明を思い出した。上手くやれば大魔王だって松明で倒せるんだぞアーサー。そんな吹かしこいてたクソ親父。嘘つくなよ。


「それじゃあアルトさん。男ならやってやれです!」

「ちょ、ちょっと待て。分量とか大丈夫なのか? 少なめで様子を見てみようぜ」

「そうですね。これは普通の火薬と違ってすぐには燃え尽きませんから少なくても大丈夫かもしれません。あ、それとハッチ。アルトさんの持ってるダンボール傘を加工して、顔とかを防御する盾を作って」

「お、おう」

「なんでも溶けたサーマイトが顔に当たると脳みそが沸騰して破裂するらしいから」

「怖──!? お、おい!! 本当に大丈夫なのか!?」

「ドラゴンの炎に耐えたなら或いは……」


 いやね、そりゃあドラゴンブレスの正面に立って手を翳すってのも正気の沙汰じゃねえよ?

 十中八九──おおよそ人類が装備しえる装備では、全身消し炭になるしその際に脳みそだって熱で破裂すると思う。

 だがなあ……トンチキ爺の作った怪しい火薬を手に載せて、飛び散ったのが頭に当たると死ぬってマジこわ。

 ブレスをガードしたときは何か妙な熱緩和フィールドが張られて、ある程度緩和されてはいたが……

 思い悩んでいる間に傘の防御盾加工が進む。

 ダンボールってのは蜂の巣(ハニカム)構造つって中に隙間を持たせることで衝撃吸収材のような作用を持たせている。ほら、有名な創作物のガンとかダムとか言うゴーレムの材料であるガントカダムトカリウム合金。あれもハニカム構造だ。

 その隙間を水で湿らせることで耐熱性を格段にアップさせる。

 水ってのは基本的に温度が沸点以上あがらねえので耐熱性に優れる。金属なんかは際限なく上がるからな。

 チャモンが注意するように告げてくる。


「あ、水を付けたところと燃えてるサーマイトを直接触れさせないようにしてくださいね。水蒸気爆発起こしますので」

「なんなの。炎の悪魔でも召喚する儀式なの」


 なんでこう不安要素が多いかな!

 濡らしたダンボールを盾にして右手でこんな危険物燃やすやつは俺ぐらいだと思う。

 やがて、準備が整った。

 壁に向かって岩とダンボールを盾にして、俺はガントレットで覆った右手を伸ばす。

 広げた掌に金属の砂みたいなザラザラした硬質のサーマイトが載せられ、紙縒りのような導火線が伸ばされた。


「やりますよ、アルトさん」

「もし腕が溶けたらお前らに俺は心底八つ当たりするかもしれん……」

「それどころじゃねーと思うけど……」


 ええい、エリザの作ったガントレットの力を信じるんだ!! 

 ドラゴンの炎すらドバドバ分解してやっただろうに!


「着火!」


 紙縒りに火を付けて二人は安全圏まで退避した。導火線が手に載せた粉に近づいていき、着火する。

 ん? そんなでもなァ────!?

 ああああああああ!!


「うおおおお!! メッチャ光ってる! 白い炎なんて始めてみたぞオラッ!」

「直視しないで! 視力が無くなりますよ!」

「危なすぎんだるおおおおおおお!? 火山みたいに火の粉が飛び散りまくってるぞおおおお!?」


 すっげえ燃えてるっていうか、熱源があつすぎて近くの空気が発火するレベル。

 俺の方向にはガントレットの炎バリアが入っているのか、ストーブの前数十センチに居るぐらいの熱さだがって超それも熱いわ!

 盾越しにも噴火したように火柱が立って熱々の金属片を核にした火花が乱舞している。

 ガントレットがバチバチととんでもない雷を生み出しつつ、中の手が肉が内側と外側から焼かれたような痛みを訴えている。


「ぬあああああ!!」

「燃焼反応が終わるまで絶対手を動かさないでくださいね! 飛び散って死にますよ!」

 

 火力を電力に、電力を魔力に、魔力を身体能力に。

 コンバーターの役目を備えているガントレットがフル活動して俺に活力を送りつつ過剰電力を放電していた。

 

「ごあああああ!! あっちいいいい!!」

「ファイトですご隠居!」

「誰がご隠居じゃああああ!! ファイトで熱がどうにかなるかああああ!」


 熱い熱い熱い。

 何より、熱くて苦しいはずなのに体に流れてくる電気系魔力が異様な高揚感ハイをもたらしてくるから、痛いっつーのに笑っちまいそうだ。


「俺に膨大な電力を!」


 気合の叫びを上げて熱さに耐える。っていうかチャージする度にこの熱さはマジで半端ねえ。やっぱり充電器必要だって!

 やがて、一分ほど経過しただろうか。

 コイビトと過ごす一時間は短く、ストーブに触れる十秒は長いとか言いやがったのは誰だったか、とにかくめちゃ熱かった俺には非常に長く感じられた。

 そして熱が冷め、手の上にある溶けた金属を投げ捨てた頃には……ガントレットの電力はフルチャージされていたのだ。


「来た来た最強モード!! よっし、これならガンガン進めるぜ!」


 バリバリと静電気で逆立つ髪の毛を後ろに撫で付けながら、やたら軽くなった体で通路を進むべく立った。

 感覚的にはスゲえ重い荷物を一日中担いでいた後下ろした軽快さかつ体力がマックスな感じ。万能感すげえ。

 

「行くぜ!」


 無敵形態な俺は二人を引き連れて、カッコよくゴールを目指して進んでいく──


「あっ、ピザが落ちてたぜ。食料の」


 ハッチが箱に入ったピザをゲットして、開けるとホカホカに湯気が立った美味しそうなピザが出てきた。ダンジョンの食料だ。

 チャモンが荷物をロストした今ではこれも貴重な栄養源であり、ピザって美味いから食べたいよね。


「行くぜ! むしゃむしゃ!」


 俺らはピザを三等分にして齧りながら再び進行を再開した。

 

「キメ顔なのにピザ食ってるのってどうなんだろう……」

 

 チャモンが何か呟いていたが、俺は無視した。ピザはペパロニに限る。待ってろよ、センセイとエリザ!










 ********** 




 記録甲


 アルトとはぐれて、向こうのパーティの二人と共に進むことになった。

 幸い、向こうの女性二人も協力的であり、ダンジョンでの合流地点もそこまで遠くないので楽観的だ。

 問題はエリザがサキュバス化の兆候が見られることだが、サキュバスネストでもないここで第一段階程度の転化ノクターンならばアルトと合流するまで耐えられるだろう。

 念のためにスペランクラフトジャケットは常に着用しておくことにする。




 記録乙


 暫く道を進めば、全ての道が合流する地点に近いルートであることが判明した。

 やはり合流地点で野営してアルトたちを待ち構えることになるだろう。

 最長として、四日は待つことになるかもしれないが焦ることはない。

 アルトが合流できない怪我を負わないことを祈るが、私から見ても彼は強いので大丈夫だと信じている。

 ただし合流が遅い場合は、私のみ三人を探索へ向かうことも考慮しておく。

 それにしても、エリザが発情してストレスを訴えている。仕方なく、アルトの匂いがついたティッシュを提供した。




 記録丙

 

 合流地点へたどり着いた。小屋を作り、魔物に見つからないようにダンボールで覆って待つ。

 合流地点は水場があるので、お風呂の水などはそこから取ってこれた。

 問題が起きた。エリザの転化が進んだことだ。それも一気に、角と羽根が生えてしまった。

 アルトのティッシュがいけなかったのだろうか……

 しかし、お風呂に入っていないせいか体が痒い。特に股が蒸れているように思う。ジャケットの空調が壊れたのか?




 記録丁

 

 合流するまで待機。

 問題がまた発生した。エリザの転化を甘く──というか、優しく見ていた二人の女性にもサキュバス化の兆候が伝染した。

 一緒にお風呂に入ったのがいけなかったようだ。私は相変わらずジャケットの中にいるが、エリザが甘えるように脱ぐことを誘ってくる。

 相当精神がサキュバスに近づいているようだ。アルトが早く来てくれることを祈る。




 記録戌


 皆の転化が進んでいる。同時多発的にエロくなってしまった彼女らは、妄想を口にしながら……いや、名誉の為にそれは記録に残せない。

 私への誘いも強くなっているが、気を強く持たねばならない。幸い、皆も最後の一線はまだ越えていない。目が黒と金にならなければまだセーフなはずだ。

 早くアルトに解除させなければならない。

 それにしても股が痒い。今日な何時間も、痒くて指で触れている気がする。虫刺されを触るように、痛みと快感が僅かに走り無意識に触れてしまう。

 下着が何度も……汗、で濡れて、ジャケットの中では干せずに、蒸れる。

 早くお風呂に入りたい。アルト。早く来てくれ。合流したらアルトとお風呂に入ろう。狭い、二人だけしか入れないお風呂に密着して入ることを想像して、なんどもかゆくてかきました。




 きろく♥♥♥???


  かゆい。

 

        あると。 

 


 

サーマイト=テルミット

テルミット反応ですが細かいところは異世界補正で違うのでテルミット警察は止そう!


まずい……ノクタ展開にはならないようにしないといけないのに……!

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