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投擲士と探検技工士は洞窟を潜る  作者: 左高例
第三章『続く物語』
38/41

第9話『それぞれのチームの一晩』

 センセイ達と俺がはぐれた問題。

 バカガキが罠解除にミスってテレポーター作動させたことで、俺らは互いの場所を完全に見失ってしまっていた。

 前方はダンジョンの洞窟。後方もダンジョンの洞窟。

 チャモンが地図を取り出しているが、そんなもん睨んでも現在地がわかる筈はねえ。

 しかも二日目の休憩地点から先は道が複雑に枝分かれや合流していて、そこのルート選択次第で奥にたどり着く時間が二日から四日ぐらいは変わってくるという面倒さだ。

 本来はこのダンジョン、全てのマップが作成済みで資料館に置かれているのだが、テレポートして出現した位置が不明なら役に立たない。ついでに言えば、凄まじく遠回りのルートに飛ばされていたとして戻るか進むかは微妙な判断だ。

 

「そんなことよりすることがあんだろ」

「ダンジョン内での不可抗力の事由による巻き込まれでは、賠償金の請求はできない法律があります」

「……よく俺の言いたいことがわかったな」


 ちぇっ。何だよ人道的だな。

 まあこの場合は、他のパーティが宝箱を開けてるのを近くでしげしげと眺めていた別パーティということで、迂闊に近くに居た方が悪いとか何とかで裁判では不利だろう。


「それはともかく。元のパーティに合流するまで協力して行動するぞ。いいな」

「……」

「何だその意外そうな顔は」


 チャモンは眼鏡を正して疑わしげに告げてくる。


「いえ……『足手まといはここで野垂れ死ね! 俺は一人で行かせてもらうぜ!』とか言い出しそうだったので」

「単独行動は最後の手段だろ。三人で進めばいざという時のバリアーが二体ついてるようなもんだ」

「オレらを人身御供にするつもりだ!?」

「人身御供と書いて友情パワーと読むんだよ」

 

 ハッチが失礼なことを言ってくるので訂正した。

 実際のところ、足手まといが無ければ楽に進めるってのはそうでもない。

 見張りや斥候になるし、バリアーというかいざ逃げる際に別れれば敵のタゲを分散できる。

 足手まといを切り捨てるってのは最初から連れて行かないじゃなく、連れて行ってもう無理ってなったら切り捨てるのが常識だ。いや、これは俺が外道とかじゃなく、傭兵なんかでも役に立ちそうにない新兵だろうが歩けりゃ最後まで連れていく。

 戦いは数というが、一人より二人、三人の方がやれることは多くなるし一人辺りの事故死率も低くなる。怪我しても仲間がいれば何とかなることも多い。

 

「これからの行動だが……まずは休憩だ」

「キューケイ!? 急いで、ハッカとヨーコを探しに行かねーのか!」

「行かねーよ。考えてもみろ。別れた組は俺らの前に居るか後ろに居るかわからねーんだぞ」

 

 洞窟の前後を指差して俺は告げる。

 現在地が不明なこの状況ではどちらも奥へ続いているように見えて、入り口がどっちだったかもわからない。


「それに今日はもう歩きづめでそろそろキャンプの時間だったろーが。強行軍で進んで合流できる目処があるならまだしも、後ろから追いついて合流してくるかもしれねえ状況だ。ひとまず休んで様子を見て再出発を掛ける」


 こっちにエリザでもいれば、技工士の能力を使って小屋を立てて水と食料を用意しフルで休憩モードに入り、センセイが探してくれるまでひたすら待つという選択肢もあるのだが。

 ずっと待ち続けるには食料と水が乏しい。だが闇雲に進むよりは、体力を温存しながら行くのが肝心だろう。


「この洞窟はゴール手前で殆どの分かれ道が合流するように出来てる。道中出会わなくても向こうが先にたどり着いたらそこで待っててくれるだろうから慌てんな」

「あいつらは大丈夫なのかよ。おっさんのパーティ、ちびっ子と変なマスコットだろ?」


 訝しむような目つきのハッチに俺は「へっ」と鼻で笑いながら告げてやる。

 

「チョー安全快適だっつーの。俺が代わりてえぐらいだ。今頃高級ホテルでフランス料理を食ってるに違いねえ……うっぷ。俺はあと一ヶ月はフランス料理を食いたくねえが」

「昨日食べてたあれ絶対違いますよ……生クリームコンソメ料理でしかないですよ……」


 何言ってやがる。まあ、ガキってのは知識が少ないから仕方ない。

 

「とりあえず今日はここで野営だ。洞窟の中だから夜って感じもしねえが、一晩眠って休むぐらいの時間な」

「わかりました」

「お、おう」

「野宿ってのもこのキチガイみたいにクソ強い魔物が徘徊してるダンジョンの通路じゃぞっとしねえな……」


 周囲を見回す。現在地点は洞窟の通路で、道幅や天井の高さは10mぐらいありそうな広い空間だ。

 部屋ではないが身を隠すスペースは何とかあるだろう。

 壁際の岩がごつごつとせり出しているスペースに寄る。これまで出くわした魔物は堂々と道の真ん中を歩いていたので視界からはハズレ気味になるはずだ。

 

「おい。ダンボールは幾つある?」

「ええと、僕が他の仲間の分も運んでいたからとりあえず四つ……」


 四つか。こいつが全員分持っていたのは不幸中の幸いといったところだな。

 向こうはセンセイとエリザがいれば幾つでも出せるから心配することはない。


「それを組み合わせてテントを作るぞ。おい細工師。お前向きの仕事だ」

「任せろ!」


 秘技、ダンボール住居の術だ。

 何せ魔物の背後で隠れても気づかれない神秘のボックスだぜこれは。

 これで住処を作ったら確実にバレることはない。夜の見張りさえ要らねえ。すげえ便利。

 というか実際、村で試したら相手が人間でも問題なく気づかれなかったぐらいだから、この事実が広まると斥候とか密偵がダンボール隠れの術で潜入工作とかし放題になるんじゃねーかな。

 普通はダンボールの中に人が隠れているわけがない、という常識を誰もが持っているので使える技ではある。

 広まると見破る為のマニュアルが広まり、『不審なところにダンボールがある場合は注意する』という認識が出来て隠れる能力が低くなるかもしれない。勿体無いからあんまり広めないようにしとこう。 


 ダンボールの一辺をナイフで切り離して広げ、組み合わせて大きめのテントというかシェルター状に作った。

 細工師はこういうときの手先が器用で隙間なくダンボールを並べてぴっちりとダクトテープで止めている。まあ……俺が作ると割りと雑に妥協しそう。


「秘密基地みてーだな!」

「キミ、そういうの好きだよね……」

「昔チャモンも一緒に作っただろ」

「路上生活者が勝手に入ってて、危うく僕が乱暴されそうになったからいい思い出無いなあ……」

「ホモかよ」


 ホームレスだから飢えてるのかもしれんが、ショタ相手でも見境なしか。

 そこまでは堕ちたくないな。

 ……そこまでは堕ちたくないな!(切実)

 げんなりとした表情でチャモンが告げる。


「いえ……彼の妹のハッカが連れ込まれ掛けてたので何とか助けたら今度はこっちにロックオンされて……ハッチが外から火を付けて救出というか、もろとも仕留めようとして危なかった……」

「お、オレも慌ててたんだよ! チャモンを助けようとな! でも大人相手に勝つには腕力じゃ駄目だろ! 大人は火に弱い!」

「火に強い大人もそういねーが」


 まあ俺とかは強い方だな。装備込みで。

 とりあえずダンボールハウスは、俺ら三人が入って荷物を置き、それぞれ横になれる程度の広さにはなった。

 多少、通常のテントよりも硬質の密閉感があるが壁側に向けた入り口を大きく開けていることで何とか緩和させている。入り口は俺の持っているダンボール傘を置くことで簡単に隠したり開けたりできるようにしてある。

 

「おっと。中に入る前に道具屋。ペンキか白墨を持ってねえか」

「何に使うんです?」

「隠れてる間にセンセイ達が通り過ぎていったら元も子もねえだろ。そこら辺に存在を示すマークをペイントしておくんだよ」

 

 俺はダンジョン用の良く目立つ白墨を借りて、ハウスを作った反対側の壁にマークを書いておく。

 二重丸◎の真ん中に縦線|を入れて、その円の周りへ放射状に短い線を何本か書いて……


「なんでお下品なマークなんですか!? 十代の非行少年じゃないんだから!」

「いや、なんとなく……」

「なんだこれ? なんか下品なのか?」


 意味をわかっていない感じのアホお子様ハッチがマークをしげしげと眺めている。意外だな。バカガキは好きなもんだがこれ。

 

「だが考えてもみろよお前。例えば女の子がだな、このマークを見て『なんでしょうねこれ……意味があるものでしょうか』とかペタペタ興味深げに触れたり、『こ、こんな卑猥な……見てはいけないぞ!(顔真っ赤)』とか反応しているのを想像するとちょっとだけ他人に優しい気持ちになれねえ?」

「精神の病ですよそれは」


 一言で切り捨てられた。クソッ。思春期全開の癖しやがって。

 ともあれ俺達は一旦、ダンボールハウスの中に入ることにしたのだが……

 俺は二人を睥睨して心底嫌そうな顔で呻いた。


「……外だとあんまり気にしてなかったがよ」

「なんだー?」

「はい?」


 鼻をつまみながら言う。


「くっさ! お前ら、なんかこう、粘膜がツンとする臭いがするぞ! 超くせえ!」

「あー……」


 微妙そうな顔で二人は目線を合わせた。

 外ぐらい広くて距離を取ってればまあ、そこまでだったのだが近くに居ると頭痛がこみ上げてくるレベルで臭え。

 傭兵暮らししてりゃあ、一ヶ月二ヶ月風呂に入らねえ状況で仲間とキャンプをしていたこともあるが、だからといって臭さウェルカムになるわけじゃない。そういう時は相手も臭いが自分も臭いのでイーブンではあるのだが、今の状況は違う。

 チャモンが頭を掻きながら説明をする。


「進んでる途中で[アンモニアスライム]が天井から降ってきたんですよ。それぞれの頭に覆いかぶさって窒息させられかけて、ヨーコさんが吹き飛ばしてくれましたけど、髪の毛とかにアンモニア臭が……」

「臭すぎてもう慣れたけどな」

「鮫を腐らせた名物料理みたいな臭いがすんだよ! せめて頭洗ってこい!」


 アンモニアスライムは薬物系統に体液が進化している一種で、とにかく臭い。

 臭い特化で毒性はあまり無いのか、精々引っ被っても粘膜がヒリヒリする程度ではあるがまーこの臭さときたら。鮫を何ヶ月も放置したみたいな臭いだ。

 おまけにそれが強烈に臭ってくるのではなく、密閉空間に居るとうっすらと、しかし無視できない程度に俺に纏わりついてくる。


「とりあえず頭と体を外で洗ってこいお前ら。そんなんじゃ隠れてても臭いで敵に見つかるぞ」

「うう……水の残量が」

「人数が減ったから大丈夫だろ。水筒分は俺の水タバコを分けてやる」


 服の内ポケットには幾つかタバコケースが入っていて、水やら空気やらのエリザ特性タバコを持っている。

 後で空気タバコをへし折ってこのダンボールハウスの換気もしよう……

 チャモンが道具袋から石鹸を取り出すと、ハッチがそれを受け取って細腕で水タンクを持ち上げ、出口へ行く。


「じゃ、じゃあオレから水を浴びてくるから二人はそこで待ってろよ!」


 そう言い残してダンボールハウス近くの岩陰へ向かっていった。

 ぼへーっとどうでも良さそうに見送りながら、思ったことを告げる。


「二人同時に洗えよ効率悪ィなあ」

「ハッチはああ見えてシャイなんですよ」

「そうなのか?」


 まったくそうは見えねえというか。ザ・バカガキって感じ。下町を半裸で走ってそう。女子の前で無駄に脱いでキャアキャア騒ぐのを楽しんでそう。


「川近くの野営でも水浴びなんかは絶対僕としませんし。ハッカとは二人で行ってるみたいだけど」

「近親ソーカンでもしてるんじゃね?」

「ゲスだなあ散々この人」

「或いは……ちんこが小さいかだな。男が裸を隠す理由第二位が『ちんこが小さい』だ。まあ見るからにちんこの小さいやつだしな」

「酷い言い草だ……ちなみに一位は?」

「『伝説の戦士の末裔か生まれ変わりである証の、体に刻まれた痣のような模様を隠すため』」

「そんなレアな理由が一位であるわけがない!?」


 と、そこまで話して俺はふと気づいた提案をしてみた。


「なあ、お前エロ本持ってない?」

「なんでこの状況で……」

「バッカ男しか居ないからこそエロ本だろうが。お前だってパーティに女が居るとエロ本も碌に読めてないんじゃねえの?」

「おほん」


 チャモンは咳払いして目線を逸しながら言う。


「持ってることは持っていますけど、これは商品として扱っているだけであって僕の個人的な趣向で持っているわけじゃないんですよ」

「わかってるわかってる」

「わかってない!」


 ビシリと俺に指差して、どこか必死な顔で言う。


「いいですか! 商品だから、ちょっと色んな種類の性癖の本を持っているだけであって僕が持っているエロ本から、僕がそういう性癖なんだ~って思ったりは絶対しないでくださいね! マジで!」

「なぁに言ってやがる。そんなちょいと変わった性癖ぐらいで一々そんな思わねえよ。これだからガキは」


 こいつらは学校でウンコしただけでウンコマンとかスカトロ野郎って呼ばれる世代だからな。まあ、敏感になるのは仕方ねえか。

 きっつい性癖なんざ傭兵仲間の間では笑い話で散々聞いてるんだよ。獣人じゃなくてガチで山羊に突っ込んだり。バブみを感じるゾクフーでオギャったり。稚児趣味野郎だったり。ああ、最後のやつは顰蹙を買ってたな。

 

「絶対! いや、引いたとしてもそれは僕の性癖とは一切関係ないですからそれを理解してくださいよ!」

「わぁーったわぁーった。いいからラインナップを見せてみろ」


 なんだろうな? この十四か五ぐらいのガキが必死になって隠そうとする性癖か。

 熟女趣味とか……露出とか……精々キツいとしてスカトロとかその程度だろ。

 チャモンが道具袋の奥深くから取り出して並べた本の多くは漫画系のようだった。エロ漫画か。はっはっは。子供らしいな。

 俺はそれを眺め回して一言。



「うわあ……引くわお前」



「違うって散々言ってるでしょうが!」


 床に拳を叩きつけて涙を流すチャモン。

 いやぁ、でもこれはちょっと……


「なんで乳首からチンコ生えてるのこれ……」

「[チクチン]属性ですよ!」

「なんで直方体に固められてるのこれ……」

「[箱化]属性ですよ!」

「なんでドラゴンが馬車にちんちん突っ込んでるの……」

「[ドラゴンカーセックス]属性ですよ!」


 他にも色々。変態洗脳や全身を金箔で覆ったやつ。蛇口に改造されたやつ。バレエのスワンがちんちんなやつなど様々な特殊性癖のオンパレードだった。

 こう、笑っていいのか気持ち悪がっていいのか凄く微妙な気分がぶつかり合い、目眩を感じる。

 そんな俺の様子に、必死こいてた──いっそその必死さを隠す方向に使って欲しかった──チャモンが改めて抗弁する。


「商品だから持ってるだけって言ってるじゃないですか!」

「お前な、商品にも限度があるだろ。こんな商品置いてる本屋あったら問答無用で異常な本屋認定だわ」

「そ、そんなことは……」

「じゃあ今度大きな街に行ったら官能小説図書館で同じ属性探してみろよ! [チクチン]なんか一件も出てこねえよ! それだけ特殊すぎるわ!」


 酷いもん見せやがって。

 ちなみに官能小説図書館とは、非営利団体が作っている図書館で素人の書いたエロ小説が主に寄贈されている。一箇所に寄贈されたものも写本されて他の図書館に回されるので、理論上世界中の素人エロ小説が読めて中には良いものもあったりする。

 そして多分チクチンは無いと思う。


「とにかく、ゲテモノだがちょいと内容を改めさせてもらうぜ。中には使えるのはあるかもしれねえ」

「ちなみにどんなのがお好みで?」

「割烹着とか巨乳とか」

「では[かっぽれ割烹着]とかどうでしょう」

「ふむ……説明をしろ」

「割烹着を来てかっぽれかっぽれと踊ります」

「ほう」

「踊ると目の前の女を洗脳して相手もかっぽれ割烹着になり、アヘ顔ダブルピースしながら踊り更なる感染者を増やします」

「ぶっ殺すぞてめえ」


 上等の素材に砂をぶちまけるが如き惨状じゃねえか。

 っていうか何でそんなエロ本まで持ってるんだよ。

 引くわ。

 こんなの中学のクラスメイトに居たらエロ星人どころじゃなくてエロ聖人って呼ばれてむしろ憧憬されるわ。

 

「巨乳系だったらこっちの超乳ジャンルは……」

「うん。何この街を押しつぶす大きさの巨乳」

「巨女属性も兼ねてるんでしょうかね」

「もうちょっと常識的なサイズってもんがあるだろーがよ」

「ではこちら」

「これはチクチンだろ!」


 などと言いながらでもエロ本の吟味ってのはそれなりに興が乗るものだ。

 いっそ性癖をアンロックして少し広げてみるのも良いかもしれない。チクチンは無理だが。痴女系で。

 床に広げてアレじゃないこれも違う概ね違うと確認していると、しっとりと水で濡れたハッチが帰ってきた。


「ただいまー──ってええっ!?」


 そいつは床に広げまくっているエロ本コレクションを見て大げさに驚いた。

 いや。

 まあ俺でも、こんな特殊性癖の何処で売ってるの?って感じの本がこんなにあったら驚くけどな。っていうか引く。

 そしてわなわなと震え始め、顔を真っ赤にして怒鳴った。


「なななな、何してんだぁー!!」

「何ってエロ本の吟味だよ。今夜の友を探してだな──こいつの私物から」

「私物じゃなくて商品だって! 僕は全然ノーマルだし!」

「その割には詳しかったじゃねえか」

「商人なら商品に詳しくて当たり前でしょ──ってあれ? ハッチ?」


 なんだろう。

 このエロガキ(たぶん)は嬉々としてエロトークに混ざってくるタイプかと思っていたのだが。

 顔を赤くしたり青くしたりしながら、ぺたりと床に座り込んで後ずさった。

 

「馬鹿ぁー!! 出てけぇー!!」

「うわっ!? ちょっ」


 エロ本を投げつけてきたので俺らはダンボールハウスが壊れたらたまらんとばかりに外に出た。

 中では警戒したように息の荒いハッチが睨んでいる。

 俺らは顔を見合わせて、ひとまずクールダウンさせようとその場を離れた。


「おい。あいつエロに耐性無かったのか?」

「ええと、そう言えばエロ本トークなんかはしたこと無いですね……あんまり学校でもエロ会話には参加しないタイプで」

「それにしたって過剰な反応だよなあ……はっ! まさか」

「何か心当たりが?」

「馬鹿おめえ。俺ら二人追い出して一人室内でやることつったら決まってるだろ。今頃ストレス発散してるんだよ」

「ああ~……」


 納得が行ったように頷くチャモン。

 そうに違いない。蒼き性衝動に突き動かされたハッチは、潔癖な演技をして俺らを追い出し今は一人エロ本と向き合うシンキングタイムなのだ。

 誰もがそうだけれど、このストレス社会では発散しなければやっていけない。しかし他人にストレス発散を見られるのは避けたい。きっと皆そう思っている。俺も、君も。

 

「いっそ順番で一人になるか。中で何をしていても関知しないタイム」

「なるほど……いえね、正直言うと普段はハッカにヨーコさんが居て僕も我慢しているというか。特にヨーコさんは耳が良くて」

「ま、とにかく今のうちに水浴びしておけ。臭ぇから」


 岩陰に置きっぱなしの水タンクのところでチャモンは服を脱いで水を浴びることにした。

 頭からジャバジャバと被り石鹸で臭いを落としているようだ。俺は適当なところに腰掛けてタバコを吹かせている。

 暫くすると、手早く頭を洗ったチャモンが出てきたのでダンボールハウスへと戻っていく。


「ストレス発散がしっかり出来たかは微妙な時間だな……じっくりと選んでたらまだ発散中かもしれねえ」

「もうちょっと待ったほうが良くないですか?」

「馬鹿。あのガキは協定も何も作らずに一方的に追い出したんだぞ。発散中に踏み込まれるぐらい、むしろ向こうが悪いってなもんだぜ」


 くくく、と喉を鳴らして笑うとチャモンは若干引いていた。

 足音を殺して近づき、入り口に手を掛ける。


「ストレス発散の時間は終わりだゴラァ!」


 !?

 IQの低い不良漫画マガジンみたいな勢いで中に突入した俺とチャモンは中の状況を見て、一瞬予想通りの光景にニヤけて──それから真顔で固まった。


 予想通り、ハッチはストレス発散というか直接的には見えないがこう、横たわってエロ本を眺めて手をもぞもぞとやっていたのだが。

 片手は股間に片手は胸に。あれ。オパパパパが膨らんでるように見えるよ。

 


「お前……女だったのか……」


 

 チャモンと俺の声が被った。






 ******





「っていうか何でお前までびっくりしてんだよ! 幼馴染とかそういうのじゃなかったのか」

「ええ……? そりゃ家が近所でしたから長い付き合いですけど、ずっと男っぽい恰好してましたよハッチは」


 顔真っ赤涙目になって正座してるハッチを放置して俺達は女にあまり見せるべきではないお下劣な本を回収しつつ言い合った。

 いや、確かに双子の妹っつーハッカと髪型以外は似てたけどよ。

 幼馴染が知らないってどういうことやねん。


「今思えば……ハッチは学校で女子トイレに入ってたような……」

「なるほど……そりゃあ難しいヒントだ。名探偵でもなければ無理だろうな察するのは」

 

 心底そう思う。

 俺だったらそんなの目撃したら女子便所に出入りしてるエロ星人として学校中に噂を広める方向に話を持っていくだろう。

 いや、十代前半なんてのはそんな奴らばっかりなはずだ。これはもう間違いなく。


「ううう……!」


 恥ずかしいやら何やらで涙目で睨みあげてくるハッチ。

 こう、前提条件として女と予め知っていればその姿もメスって感じはするんだが。

 無論俺の守備範囲外なので興味は欠片もない。俺は基本的に18歳以上からが対象だ。健全すぎる。


「ハ、ハッチ? どうして今まで男の振りを……はっ!?」


 チャモンは何か気づいたようで動揺した。


「まさか[TS戦士]にやられたの!?」

「な、なにそれ」

「TS光線を受けて洗脳されて女体化戦闘員になり、次々にTS戦士を増やしていく感じな属性のことだけど」

「お前……特殊性癖は自分の脳内だけにしろよな」

「あるんですよ! そういうのが! 僕は商品として知ってるだけで!」


 引くわ。

 しっかしなんか面倒なことになったな。

 正直言えば、こいつらの事情とかマジど~でも良すぎる。即席パーティとはいえお友達ってわけでもねえんだから。

 何を思ってこのガキが男装してたとか凄く俺には関係が無い理由だろうし。

 あっふと思いついた。


「よし……お前ら、積もる話もあるだろうから──」


 俺は親指をハウスの入り口に向けて言った。


「外で二人で話してこい」

「……」

「……」

「入る前にはノックしろよ」


 堂々と宣言して二人を追い出した。

 そして回収したエロ本から使えそうなのを選んでジロジロとストレスボルテージオンする。

 それにしても。

 あのチャモンのスケコマシ野郎。自分以外女のパーティとか……正直どうかと思うね! チンコもげろ。

 あいつは男装幼馴染とドギマギ二人っきりで、俺はいい年こいて一人セルフストレス発散か。ストレッスパワーが溜まってきただろーとか頑張るわけか。

 そんなことを考えていると俺のお楽しみ棒(ジョイスティック)が元気を失ってきた。撫でて励ましてやっても、どこか疲れたようにうなだれていた。

 ゾクフーだ。早くゾクフーに行かねばならない。このままでは惨めさで不能になってしまう。俺には女がいるんだ! お風呂屋で自由恋愛をしてくれる女が!



 ノックの音に不機嫌に応えて招き入れ、微妙な雰囲気の二人と顔を突き合わせた。

 なんかこう、ほろ苦い事情的なあれがあったのかもしれねえがどうでもいい。

 

「メシにするぞ。鍋持ってただろ」

「あ、はい」


 言われるとチャモンは鍋にタンクから水を注いだ。


「でも火を起こすにもこの中じゃ……」

「これ突っ込みゃいいんだよ」


 言いながら鍋の中にヒートダガーの刀身をいれた。

 竜の火を合成して作られているこの延々熱くなるダガーナイフは熱源に便利だ。次第に鍋から熱気が登ってきた。


「適当に食材いれとけ」

「はい」

「俺のも混ぜとくか。栄養だけはあるからな」


 大麦やら干物やら入れる中に、腰に吊るしてあったセンセイ特製の保存食も切り取って入れた。


「なんですかそれ」

「カロリーの塊」

「太りそう……」


 ぽつりと呟いたハッチに俺は難癖をつける。


「うるせー貧乳! いきなり女子みたいなこと言ってんじゃね-!」

「は、はあ!? ちげーし! 前から太りそうな料理気にしてるし!」

「いや……ハッチはもうちょっと食べて肉を付けたほうがいいよ」

「ううう、チャ、チャモンがそういうなら」

「じゃないと超乳になれないよ」

「お前やっぱり特殊性癖だろ!?」


 絶対こいつおかしい。真面目なメガネ君のフリをしてその本心は限りなくカオスだ。

 ひょっとしたらあの恐る恐るといった様子で俺に特殊性癖作品群を見せた行為。

 それは同士を探すための探りではなかっただろうか。

 新たな性癖に目覚める、その属性の片鱗を持った者を探している静かな狩人。

 俺はあったかい雑炊をかき回しているというのに、背筋が冷たくなった。


 早くセンセイ達と合流してえ……


 なお雑炊の味は、甘くて油っこくて塩辛くて、控えめに言ってゲロマズ。栄養だけはあった。



 飯を食ったら楽しいお喋りタイムに入るなんざ、センセイらと一緒にいる場合の話だ。

 さっさと片付けて寝る。ダンボールハウスに居るから見張りは立てなくとも魔物は寄ってこないだろう。

 こう、寝る位置ってのは


 俺 チャモン ハッチ


 ってのが警戒されてるみたいで超ムカつくけどな!

 個人的に言えばこいつらが夜中にイチャツカねえように俺を真ん中にして欲しい。


「お前ら隣でおっ始めたら確実に殺すからな」

「しませんよ! なんだと思ってるんですか!?」

「確実に殺すからな」

「繰り返すほどに真の殺意が見え隠れしてる……!」

  

 これはマジである。

 陪審員も納得するんじゃないでしょうか。『キャンプしてたら、隣の鈍感草食系特殊性癖少年が、幼馴染の男装少女とメイクラブしたので殺して捨てました』……いける。絶対いけるって。判例なかったっけ? 今度調べよう。

 まあ、心配は杞憂だったのかすぐに寝息が聞こえてきた──ところで杞憂ってのは、[枸杞(クコ)]の木を植えたは良いが、盗人に盗まれるんじゃないかと盗まれてもいないのに憂うという故事から来た言葉だな。クコの実とかはナッツミックスに入ってたりするだろ? あれだ。


 入り口に最も近い位置で寝ている俺はごそごそとウォッカを取り出して、僅かに外の気配を探りながらちびちびと呑んだ。

 ちなみに入り口に布陣しているのはこのカス共が外で盛りに行かないようにガーディアンとしてである。

 見張りをするほどではないが、万が一に備えて体を休めつつも熟睡しないように夜を過ごそう。

 ここ暫くはセンセイとエリザの作った居住性グンバツな小屋で寝ていたから緩み気味だったが、傭兵として長く過ごしていた俺からすれば休みつつもいつでも動けるようにする技能は当然持ち合わせていて、二日三日は熟睡しないでも活動に支障はない。

 センセイと合流するまで、長く迷って三日程度だろうからそれぐらいは大丈夫だ。何せお荷物二人連れてるから、俺が慎重にならねえとな。

 ちびり、とウォッカを呑みながら俺は体から力を抜いて疲労を取りつつ、意識を研ぎすませていた────





「ちょっと。アルトさん。起きて下さい何時まで寝てるんですか。出発の準備してください」




 メッチャ寝てて翌朝遅くにチャモンに起こされた。

 まさか……薬を盛られたか!? おっと。瓶のウォッカが大分減ってやがる。蓋をしてなかったから揮発したかな……







 ********





「先生~! お家出来ましたよ!」


 私を先生と呼ぶ少女エリザが、洞窟の壁をくり抜いた一室を作って報告をしてきた。

 広い部屋ならまだしも通路に小屋を作っては進行の邪魔になったりするからな。ダンジョンによってはこうして壁の中に部屋を作る。

 ──まあ、中には私が作った部屋が隠し部屋扱いになっているダンジョンもあると聞くが。 


「おおお~凄いなー」

「~♪」


 ハッカとヨーコも物珍しげに中を覗いて感嘆の声と音を漏らしている。

 アルトとテレポーターで別れて、ひとまずお互いの仲間と合流するまで女四人組のパーティになった。

 とりあえずは互いの位置もわからず、迂闊に動くのも危険で体力的にも三人は疲れている様子だったので探索は明日に回し、宿泊所をエリザに作らせていたのだ。

 

 "よくやった。さて、それでは休憩に入るが……うっかりアルトがこの部屋の前を通り過ぎないとも限らないな。何か壁に印を付けておくか"

「はいはい! あたしやります!」


 やる気満々なエリザが立候補する。アルトと離れたことで取り乱すかとも思ったけれど、案外に元気だ。

 まあ私もアルトならば何とか大丈夫だろうと信頼しているからな。

 エリザはスプレーラッカーを取り出して壁に、二重丸◎の真ん中に縦線|を引いて、円の外周沿いに放射状の線を書いたようなマークを記した。

 あまり見たことがないマークだな。地図記号か?


 "エリザ。そのマークは?"

「うふふ~、アルトくんが大好きなものです! 絶対気づきますよ!」

 "そ、そうなのか? 食べ物か何かかな……"


 ふむ……察するに、リンゴだろうか。確かに縦真っ二つに切れば断面は芯のところが二重丸で縦線が入っているように見えるし、横から切れば種が放射線状に配置されている。

 間違いないな。リンゴだろう。


 "私も好きだぞ、それは"


 ぶふっとエリザが嗤った。そんなにおかしいか?


 家の中にいつも通り、風呂やトイレの水も仕込んだ。 

 ハッカとヨーコの二人はアンモニアスライムとの戦闘があったようで体が臭うので風呂に大いに喜んだ。

 

「折角なので大浴場にしました! 女同士だから平気です!」


 と、エリザの言。

 ううむ、女同士とはいえ私はこのスペランクラフトジャケットをあまり脱がないのだが……

 きらきらと輝く目で見てくるエリザに耐えきれず、やむを得ずにジャケットを脱いで入ることにした。まあ……この前の教会でも中身は見られたからな。 

 案の定私の姿にハッカは驚いているようだった。ヨーコはいつも通りだが。

 ゆったりとした広い風呂──縦横深さからこれにどれだけ水が必要だったかつい計算してしまう──に入る。洗い場で念入りにアンモニア臭を二人の体から取るのだが。


「あたしに任せてください!」


 消臭ローションとか言うのをクラフトして、エリザがぬるぬるヌチョヌチョと二人に塗りたくり、自分もべとべとになる。


「ちょっ、あはは、くすぐったー」

「~♪」

「先生もどうですか? お肌にいいんですよ?

 "いや……私は良い"


 何か。

 絵面が何かおかしい。

 エリザは何故楽しそうにニコニコと笑って二人に、その、念入りにローションを塗り込んでいるのだ?

 いかがわしい雰囲気を感じるが、それは私の心が穢れているからだろうか。

 

 湯船に入るとヨーコが人魚形態に変化した。

 感嘆の息を吐いて、人魚らしい蠱惑的な美しい声で久しぶりに風呂に入れたお礼と、遅れた挨拶をしてきた。聞き惚れるような声と言葉遣いは文章にし難いほどだ。

 エリザはそっちではなく足の方に感心しながら近づいていった。


「おおー……腰から下が……魚?」

 "魚ではなくイルカなどの水棲哺乳類に近い形だな。人魚、というが卵生ではなく胎生のようだ。昔は海にいれば大雑把に魚の一種だった。今でも例えば鯨などは、哺乳類ではなく魚類として流通されている。通常は哺乳類の生肉を食べてはいけないのだが、鯨は刺し身でも食べれるだろう"

「ははー……ところでヨーコさん! その形態になったらおしっことかどうやってするんですか?」

 "ちゃんと聞いてた?"


 疑わしいものだ。エリザは見せられた下半身の排泄口を撫で回してヨーコに微妙な顔をされていた。

 

「はぁー……お兄ちゃんとチャモン大丈夫かな?」

「ところでハッカさん! あの、ハッチくんって女の子ですよね?」

「えっ嘘!? 気づいたの?」

「気づきますよ~なんで男装なんか?」


 えっ。女の子だったの。

 全然気づかなかったけど素知らぬ顔をしておこう。

 

「なんかねー、チャモンが昔虐められてて、それをハッチが助けたら女に助けられるヘタレとか余計にチャモン言われたみたいで。それから男装して助けて友達になったんだとか」

「ほほー。ロマンスの香り!」

「まーお兄ちゃん、チャモン大好き過ぎだから」

「青春ですねー」

「チャモンはそのエピソードで、あたしがチャモンを助けたと勘違いしたままあたしのこと好きになってるんだけど」

「三角関係! いいですね~!」


 何か。

 エリザとハッカの距離が近い。

 言葉ごとに近づいて、今ではハッカの後ろから抱きつくような体勢にいつの間にかなっている。

 何か、何かおかしい。

 私はざばりと立ち上がってエリザに近づいていった。


「あれ? 先生どうしたんですか?」

 "いや、背中を流してやろうと思って"

「もう湯船入っちゃいましたけど……でもお願いします! ローションいいですよローション」


 エリザも立ち上がり、湯けむりが充満する風呂場の流し場へ上がり私に背中を向けた。

 そして。

 あった。

 エリザの尾てい骨の辺りに、悪魔の尻尾が。



 "エ、エリザアアアアア!! サキュバスに転化ノクターンが進行しているぞ! 無意識にエロくなっているから注意しろ!"

「ええっ!? な、なんでですかぁー!?」



 ……私とエリザの中には、封印しきれなかったサキュバス化の種が残ったままだ。

 何度か発芽させてその度にアルトのサキュバスタードソードで斬ればそのうちサキュバス化はしなくなるのだったが。 

 こうして、時間経過か日々の行動かよくわからないが、タイミングが揃えばサキュバス化の兆候として尻尾や羽根、角などが生えてきたりする。

 よりにもよって、アルトの居ないときに。



「先生~大丈夫です! 大丈夫ですからあ、拘束服から外してください~!」

 "アルトと合流するまでの我慢だ"

「可哀想な気も……」

「~♪」


 同情的な意見だが、二人共このままだとレズレイプっていうかサキュバス化が感染する危険がある!

 サキュバスが女を襲うのは同じサキュバスにするためらしい。そうなれば三人のサキュバスに私という超不利な状況に!

 不味い……早くアルトと合流しないと……



「せーんーせーいー! じゃあ我慢するからアルトくんのティッシュくださーい! 持ってるのはわかってるんですよジャケットから匂いしますからー!」



「テッシュってなに?」

 "さあ。何を言っているかわからないな"


 あと私の名誉的なのも危ない……!

 とりあえず夜をやり過ごせば多少はマシになると思うので、頑張ってアルトを探さねばならない……





特殊性癖VSサキュバスレズハーレム

ファイッ

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