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投擲士と探検技工士は洞窟を潜る  作者: 左高例
第三章『続く物語』
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第8話『アクシデンタル!』



 昼休憩でセンセイとエリザがきゃっきゃってしたりうふふってしたりしている間に。

 ダンジョンの通路を、激強モンスターが通過していった様子だった。

 トウエイスパイダーとダークナイトバット男でも最上級なのに、どっちかが勝利していれば下手すりゃ更に進化しているかもしれない。危険極まりないぜ。

 背後から追ってきている、ならば幾らでもやりようはある。センセイとエリザが道を塞いだり別の道を作ったり罠を仕掛けたりで倒せるのだろうが、向こうが先に進んでこっちの進行先に居るとなると面倒な話になる。


「で、どうすんだセンセイ」

 "……とりあえず、相手の動きを探ろう"


 センセイは何かラッカースプレーのような物体をクラフトすると、その辺の地面に霧吹きみたく吹き付けまくった。


「何をしているんですか?」

 "ここを通った魔物の足跡を探している"

「カチカチの石畳な通路だが大丈夫なのか」


 森なんかで足跡を探すのはわかるが、どう見てもここにはそんなのは残らなそうだ。

 俺の素人考えをセンセイはすぐに否定した。


 "ここ暫くはこのダンジョンに誰も入っていなかったらしいから、僅かに見えない程度埃が床にある。それを踏んで歩いたのならば、目には見えないが薄っすらと足跡は残るはずだ──見つけた"


 噴霧していたセンセイが俺らを呼ぶと、比較的はっきりとした足跡らしいものだけ色が付いていた。

 そういう感じの効果がある薬品を撒いたのだろう。確かに、こうしてはっきり色をつけても周りに紛れそうな薄い足跡だがその進行先に転々と続いているのでよくわかる。


 "念のために追跡して行こう。分かれ道などのルート選択に関わる。エリザは周囲、アルトは前方を警戒してくれ"

「了解です!」

「わかった」


 ゆっくりとした速度で俺らは先に進んでいる強敵にかち合わないように進行を始めた。

 一応利点もある。誰でも彼でも襲いかかるクソつよモンスターを先行させれば、このルートでの前に居る魔物は勝手に争って消えていくだろう。 

 問題は、そのうちあの新人共のルートと合流することか。


「ちなみにセンセイ。どっちの魔物が勝って進んでるかわかるか?」

 "いや……足跡が引きずり気味で特徴が掴みにくい。負傷をしているようだ"

「ううう……ホラーみたいで嫌ですね。振り向いたら襲われた!とか無いですよね?」

「知らん」

 "不意打ちも警戒しよう"


 足跡を付けたフリをしてそこらに隠れてやり過ごすか奇襲を仕掛けてくる技術もある。熊とか狼とかがやる。

 そうされないようにエリザに警戒させてるんだが、ビビってて大丈夫かよ。


「な、何か明るい話題でも出しましょうよ」

「じゃあお前が振れよ。楽しい話」

「ええとそれじゃあ……アルトくんって彼女とか居たことあります?」

「修学旅行中の学生か!」


 なんだその話題の振り方。ダンジョン攻略中に、二十後半な男に聞く話じゃねえぞ。

 しかしジッとエリザは俺に応えを伺うようにしている。ええい、面倒な。

 

「彼女ね。ふんふん。俺はこれでも中学の頃に女子からコクられたことがあるぐらいだぜ」

「へぇ~」

 "ふーん……"


 あれ!? 応えたのに反応が悪いというか、冷たいというか、じとっとしている。

 どういうことだってばよ。折角俺のモテトークを聞かせてやろうとしたのに。

 

「ちなみに、どんな相手でした?」

「あ、ああ。俺は前に言ったとおり、親父が国辱系後ろ指さされ組だったせいで、世間様からすると『あの子に近づいちゃいけないザマス!』とか言われるそんな感じだったんだ」

「ザマス!?」

「で、コクってきた女の子は偏見をしない心優しい子で、クラスでも人気者な可愛い子だった……俺の親父がどうとか関係なく俺と付き合おうと言ってくれたわけだ」

 "ふーん……"


 どうしてだろうか。センセイの背中から迫力を感じる。


「それでそれで、どうなったんですかアルトくん。なんて返事を?」

「俺も感激してな。思わず敬語でこう言い返したよ。『えっ!? じゃあタダでヤらしてくれるってことですか!?』」

「……」

 "……"

「女の子からはぶん殴られて、周りで見守っていた女子からは不快害虫を見るような目を向けられて、親にまで話が行ってうちのクソ親父が松明をぶん投げてきやがった……何故かクソ親父が松明を投げると火柱が発生するんだよな。あれどうなってんだ」

「最低すぎます……」


 エリザが眉を顰めて言うが、思わせぶりな態度を取った向こうも悪いと俺は思うんだよねウン。

 撮影までOK? とかまで当時は凍った空気の中聞いたんだが、NGなら最初から言って欲しいもんだ。


「で、さすがに俺も反省して翌日に謝りに行ったわけだ。誠意を見せるべくな」


 俺にしちゃ気の利いた対応だったと思う。なにせ純心な少年だったからな。


「それでどうなりました?」

「3000エンを渡して『じゃあ料金はこれで。ホ代別だから安心しろ』って言ったら大泣きされた。学校中の女子から女の敵扱いされて二度とモテ期は来ず、噂を聞いた親父が変な腕輪を装備して俺にサイコキャノンとか撃ってきた」

「どう考えても最低ですよ!?」

「だよなあ、うちの親父。サイコキャノンの流れ弾が近所の有馬赤男ありまあかおさんの家を直撃して破壊してたし。キレた有馬さんが火炎放射でこっちの家を焼いてきたし。最低だぜ」

「それも元々はアルトくんが原因ですよ!」

 "告白されたとかより大変な事になっているじゃないか……"

 

 ちなみに有馬さんは職業ダンサーだ。チャカチャカした独特の怪しいダンスが人気のかなり赤い人だった。多分人だったと思う。

 まあ勿論、その後は器物損壊と火炎放射罪で親父もアリーマーさんも豚箱に叩き込まれたわけだが。

 

「で、俺は思ったね。ちゃんとお金の交渉は最初からしないといけないって」

 "それ以前の問題だと思うが……だいたい、3000エンって安すぎないか。相場を知らないけれど"

「そこはほら、恋人割引とかあるかもしれないと思って」

「発想がゲスですよ」

「バッカ、ちゃんと恋人割引があるゾクフーとかあるんだぞ。恋人カードを作ってもらって来店の度に恋人スタンプを押して貰えるんだ。まあ、アフターに誘おうとすると厳ついお兄さんにメってされるが」

 "それはただのポイントカードじゃないか"


 問題は異様にポイント失効の期間が短いんだよなあれ……二ヶ月行かなかったらポイント消えるし。鬼かよ。

  

「つまり、俺にとっちゃ常連のゾクフー嬢がコイビトってところか……な!」

「キメ顔で言ってるところ悪いですけどそれ全然コイビトじゃない上に、出禁を食らってる現状は別れたも同然ですよ」

 "新しいコイビトを探すのだな……"

「泣けてきた。エリザ、テッシュ出してくれ」

「はいアルトくん!」


 そう言って手渡してきたちり紙は、何か使い終えてくしゃくしゃに丸まってるやつだった。

 なんだこりゃ。おいおいエリザちゃんよ嫌がらせか──と思いながら僅かに臭ったそのテッシュの雰囲気で、どっと背中に汗を掻いた。


「おっと。間違えました。はいアルトくん! 新品のティッシュです!」


 ひょいと俺の手から使用済み恥ずかしいティッシュを奪い取り、エリザはポケットティッシュを渡してきた。センセイも振り向いて固まっている。

 がくがくと俺の体が震える。

 どう見ても俺のストレスが染み込んだまま行方不明になったアレです本当にありがとうございました。

 なんでそれエリザちゃんが持ってるの。

 言及していいものだろうか……なんでそれエリザちゃんが持ってるの(二回目)。


「エリッ、エリザっ、その……なんだ、よ、ヨゴレたちり紙は埋めるなり何なりした方がいいと思うよ僕は」

「え? いやー何言ってるんですか。技工士はなんでもリサイクルできるんですよ? だから回収しときました! えへへ、お掃除しといたんですからね!」

「じゃあ早くマテリアルにでもなんでも──いや! やっぱ捨てよう! あれだ、なんでも還元可能とはいえ何もダイレクトにリサイクルする必要はねえ。この大いなる大地にセルロース資源を返してやろうじゃないか。大体持ち歩くなよばっちい!」

「ねえアルトくん。体調大丈夫ですか? なんかこのティッシュに染み込んだお鼻水、変な色と匂いですよ」

「やめろォ!」


 俺はなんとか奪い取り、適当な方向にぶん投げた。

 

「ポイ捨てー」

「やかましいわい!」

 "ゴミを漁るエリザもどうかと思うが、ポイ捨ても感心しないぞアルト。まあいい。私が埋めておこう"


 センセイはスタスタと俺が恥ずかしティッシュをぶん投げた方に行き──それを拾って、何故か俺とエリザに背中を向けるようにして手元を見せず、バゴっと床を砕いて大げさに中に放り込むモーションを見せ、そして埋めた。


 "よし。確かに埋めたフンフン"

「そうか。サンキューなセンセイ。ところでアレはただの鼻紙だから」

 "フンフン。そうだな。フンフン"

「なんか中で鼻鳴らしてない? センセイ」

 "いや? 別に?"


 などと話しながら進んでいると、やがてセンセイの歩みが止まった。 

 スプレーを周囲の床に振りまいて注意深く痕跡を探している。どうやら、足跡がここで途切れているらしい。

 この先の床が水で濡れたりして変わっているというわけでもない。つまり追っていた何者かはここで何かをした。飛んだか跳んだか。咄嗟に俺は天井を警戒する。高さ5m程で、さすがに上の方までは薄暗くてよく見えないが魔物の影は見当たらない。ダンジョンの明かりは主に壁から発せられているが、上の方は光らないらしい。

 センセイもヘルメットにつけているライトを上に向けてみた。明かりがなぞるように天井付近を探る。


 "……あった。あの天井の横穴だ"

 

 センセイが光で指し示したところを見ると、上の方にすっぽりと穴が開いていた。順路ではない。


 "地図にも書かれていない、隠し通路か魔物の通り道か……とにかく、ここで跳躍してあそこに入っていったようだな"

「ふーむ。俺らの進む道から外れてくれたのは助かるが、放置するのも不気味だな。どうする?」

 "どうにかしよう"


 と、頼もしくセンセイは言うとその横穴がある壁の近くに素早く階段を組み上げていく。

 慣れた熟練の手さばきと、背中から伸びる二本のアームもあってエリザの二倍以上の速度でセンセイは物を組み立てることが出来る。

 みるみるうちに階段は出来上がり、安全にセンセイはその穴まで登り上がった。

 そして、穴から飛び出して来ないか警戒をしてからアームを伸ばして中に何かを設置。

 更に穴の入り口に、ぐにゅーっと変なもんを注入して塞いだ。イメージとしてはあれだ。アリの巣穴に接着剤をぶち込んでる感じ?

 降りてきたセンセイが説明をした。


 "中に仕掛け爆弾とトリモチで壁を作ってきた。単純な腕力では粘着剤の壁を吹き飛ばせない上に、仕掛け爆弾が発動すれば爆発力と同時に落盤して生き埋め効果が期待される"


 超強いパンチで殴っても、ネバネバ粘着剤に絡まって動きが取れなくなるってことか。そりゃ厄介だ。

 おまけに仕掛け爆弾。爆風&落盤で、下手すりゃトリモチも飛び散って全身にひっつく。そうなればドラゴンでも動けなくなるかもしれない。


「これであの穴から出てくる心配は無いってことですね!」

「どっか別の穴に繋がって無ければな」

 "どちらにせよ、今後の警戒はあの一匹だけではない。奥にはまだまだ高レベルモンスターが居るだろうからな"


奥に行くに連れて魔物と遭遇する数自体は減ってきたが、それ故に濃いのが残っている可能性は大だ。

 どうやら低級だと湧いた地点のあたりをウロウロする性質があるらしいが、強くなってくるとダンジョンを徘徊しだす性質があるようだ。

 相手が部屋に居るのを先に発見して隠れて進むのはいいが、会敵遭遇はしたくねえもんだ。


 それから暫くダンジョンを進む。 

 途中でやはり時折冒険者らの遺留品と思しき装備が落ちていたりしたので、身元の証明などができないか一応調べてみた。


「ちっ。ろくなもん持ってやがらねえ」

「アルトくん! それ調べたっていいませんよ!? 盗人ですよね!?」

「おいおい、勘違いしないでくれるかエリザくん。俺はこの遺品を遺族に届けられたらなという善意丸出しな意図で探っているんだ。そのためには身分証明書とか印鑑とか預金通帳とか見つければ確実だろ?」

 "預金通帳を持ってダンジョンに潜る者はあまり聞いたことが無いな……"


 それにしても、と俺は大した物が入ってなかった荷物袋を投げ捨てる。


「思ったより骨が落ちてねえな。入り口近くは結構残ってたのに、遺品はあっても死体がねえ」


 武器やら防具やら道具袋は見つかるのだが、死体はというと骨の欠片らしきものがあったりする程度であった。


「土に還ったんじゃないですか?」

「そんなに適当に土に還るんだったら山への死体遺棄ブームだっつーの。爆風で全部吹き飛んだか……?」

 "或いは、スケルトンか何かに変貌しているか、だな"

 

 スケルトン。言うまでもなく骸骨のバケモンだ。

 白骨死体に呪いが取り憑いたりするパターンと、魔法使いが使役するパターンが有名だな。骨オンリーで動きが悪そうかつ脆そうに見えるが、魔力的なパワーで色々カバーしているらしい。

 

「ちなみにスケルトンって進化するとどうなるんだったっけか?」


 サキュバスケルトンとかいうアホな魔物とは戦ったことがあるが、あれは違うだろうと思いたい。


 "複数のスケルトンが融合するように密度を高めていき、[スパルタカス]という頑丈で素早くて重武器を振り回す魔物になる"

「怖いです!」

 "そこから更に進化すると……見たことはないのだが、文献によれば[スパルタ300]という群体に別れるという。300体のスパルタカスが朽ちるまで暴れ、かつては討伐軍に二万人の犠牲者を出したとか"

「あ、それ聞いたことある。『ディス・イズ・スパルタアアアアアア!!』って魔物の叫びがまだそのあたりの土地で恐怖の代名詞として残ってるとか、兵士崩れの傭兵仲間が言ってたぜ」


 一度凝縮したように強くなり、更にその後分身してくるとか反則だろ。

 っていうか三百の俊敏骸骨に襲われればこの狭い洞窟じゃひとたまりもねえな。


 "まあ安心してくれ。それが出てきたら壁と堀でなんとかできるだろう。数は多くとも基本的には歩兵だからな"


 大丈夫みたいです。

 いや、まあいつでもどこでも壁と大穴を作れるってのは戦争で考えると反則もいいところなんだがな。壁と大穴の二つに押さえられない兵種はそれこそ英雄とかそういう一騎当千のやつぐらいだ。

 若干拍子抜けしつつも、魔物に警戒して俺らは先を進んだ。

 



 *******




 休憩を挟みつつ、そろそろ今日の移動を終了する時間になってきた頃合いだ。

 一日目はまだしも、二日目からの野営地点は冒険者によってまばらであるし完全な安全地帯は無いらしい。三日目か四日目にたどり着く水場が安全らしいが。

 

 "宿泊場所は壁をくり抜いて作ろう。ダンボールで入り口を覆っておけば問題はないことは証明された"

「後々隠し部屋扱いになりそうだな」

「宝箱でも置いておきます?」

 "というか、隠し部屋を作っておくと本当に宝箱が自然発生することがあるらしい。他にも行き止まりの道や、崖の上など様々な条件でダンジョンには宝箱が埋まれるという"

「ふーん。便利なんだなー」

 "ダンジョンは金銀財宝や魔法の宝を無限に生み出す釜だと言われることもあるからな。勿論、貴重だったり高価だったりする物品が出て来るダンジョンは相応に危険を伴うのだが"


 そんな中でセンセイは基本的に最奥への到達が目的というのが欲がないというか、探検技工士所以か。金に困ることはねえからなあ。好き好んで危険に挑む目的はそうなりゃ、達成感なんかだろ。

 適当に宿を作るのに適した壁を探しながら進んでいると、例のトーシロ四人組が前の方に居た。生きてやがったか。

 向こうもこちらに気づいたようで、道具士のチャモンが会釈をする。

 どうやら細工師ハッチが壁にある仕掛けに挑んでいるのを、他三人が周囲を警戒しつつ見守っているようだ。

 

「──っしゃあ! 開いた!」

 

 キン、と金属音がしたかと思ったら、壁の一部が地面に沈み込んで宝箱がせり出てきた。罠を解除して隠し宝箱を出したようだ。


「おお~! さすがハッチ!」

「~♪」

「褒めんな褒めんな。これでも故郷じゃ二百回は深夜の学校の鍵を開けて忍び込んで遊んでたハッチ様だ! 余裕だっての」


 女二人から褒められてチョーシこいた笑顔を振りまくガキ。

 学校の窓の鍵とダンジョンの仕掛けは同レベルなのか。驚愕的な意見だ。

 集中していた様子だが、俺らに気づいて自慢するように胸を張った。


「ようおっさん! こっちは順調に宝箱を開けて進んでるところだ!」

「へえーそうなんだー」

「うわ興味無さそうなその顔ムカつく! こちとら、レア武器の[カシナードの剣]まで見つけたんだからな!」

「……マジで? こんなクソダンジョンで?」


 意外だったので俺は聞き返す。

 カシナードの剣ってのは名工カシナードが作った、複合金属製でエグるような凶悪な形をした長剣だ。

 まずその刀工がもう生きていないのと、現存するのは粗方持ち主が居るのでめったに市場に出てこないレア剣である。複合金属をスクリュー加工する技術は失伝していて新たに作られることもない。

 

「見せてみろよ。盗んだりしねえって」

 

 俺が興味本位で聞いたら、装備できるのが道具士しか居ないのかチャモンが気まずそうな顔で背中のリュックに差していた剣を鞘ごと渡してきた。

 ん? なんか普通の剣の鞘で妙に軽いが……

 鞘から剣を抜くと、刀身は木製だった。

 チャモンの解説が続く。


「ええと、これはかしなどの木材を組み合わせて作られている剣で……」

「[(かし)なーどの剣]じゃねえか!!」

「ああっへし折られたっ弁償っ!」

「エリザ! 修理!」

「はい!」


 膝でへし折った竹光の如きなまくらをエリザに渡して分解再構成させチャモンに投げ返す。

 

「ったく。くだらねえもん見つけやがって……」

「ウッセー! 見てろ! 今度の宝箱はレアい匂いがするんだ!」 

「ほー! じゃあその宝箱クソだったらお前罰金百万エンな!」

「は、はあ!? なんで罰金があんだよ!」

「自信がねえなら吠えるんじゃねえよ……大人ってのはな、ガキ。ちょいとしたことで百万エンを掛けるんだよ。ガキにはわからねえか……エリザ! 冷めたピザとビール!」

「はい!」

「くっ……ハードボイルドだ……いいだろう! 俺だって大人だ! 百万エン掛けてやっからな!」

 "小学生かアルトお前は"


 謎の駆け引きをしてハッチは宝箱の鍵穴に向かって何やら細工を始めた。

 俺は無駄なハードボイルド感を出しつつ不味いピザとぬるいビールを呑んで見守る。まあ今日もそろそろ休憩だからいいだろ。

 鍵穴を覗き込んで金属製の耳かきみたいな道具と、細長くてちっちゃい鋏を鍵穴に突っ込んでカチャカチャしている。

 

「開くと極小の糸が反応して罠が作動するタイプ……閉めているうちに複雑に絡んでる糸を素早く切れば無効化できる……よし」


 ちなみに鍵穴は小指の先ほどだ。

 そこにツール二本突っ込んで、中の糸の絡みを理解して、細かい鋏で一本ずつ正確に切らないといけないらしい。

 面倒くさ。俺ならウォッカがないと手が震えるわ。ぐびっとウォッカを呑みながら見守った。

 しかし、単に細工師と名乗っただけじゃなくてちゃんと鍵開けの練習というか素質はあるみたいだなこのガキも。

 二百回はもう鍵開け成功してるって──うん? なんか引っかかるな。

 

 [賽子三つピンゾロ(ファンブル)]

 鍵開け役の誰もが逃れられない、216分の1の絶対失敗。


 言葉が浮かび、悪い予感がよぎる前にハッチの声が耳に届いた。




「おおっと」



 目の前の景色が歪んだ。





 ********





 テレポーターの罠。

 引っかかった冒険者を違う場所へ──ときには壁の中に吹っ飛ばす最低の罠だが、よりによってそれが仕掛けられている宝箱に引っかかりやがったカスを俺は許さない。

 具体的に言うと、


「オラッオラッ」

「うげはァー!」

「ちょっと!? その辺でお願いしますよ!?」


 腹に膝蹴り入れまくってやった。

 ゲロを吐いて倒れるハッチと、それを介抱するチャモン。

 周囲は何処を見渡してもダンジョンの中。 

 幸い、初心者向けのこのダンジョンに仕掛けられていたテレポーターは壁の中ではなくダンジョンの何処かに転移させる方だったらしいが、突然の移動で現在地は当然ながら不明。

 そして何より──この場には俺とハッチとチャモンの三人しか居なかった。


「どうなってやがる……」


 他の四人はどこだ。クソッ、最低の状況だ。


「ええと、いいですか?」

「なんだ眼鏡」

「僕が調べた限りだと、テレポーターの罠っていうのは六人編成の冒険者を転移させる用にできているらしいんです。それで、六人以上居るときに掛かると六人以下に分断されたパーティが別々の場所に転移されるそうです」

「つーと、俺ら以外の四人は四人で纏まって一つのパーティだと思われて飛ばされたってことか」

「そうみたいですね」


 チッ。四人三人に別れるなら普通に俺らとこいつらで分けろってんだ。

 そして少なくとも、向こうの心配はいらないことが判明した。センセイが入れば問題はないだろう。多分。

 問題はこっちだ。

 

 ゲロ吐いてる細工師のガキ。荷物持ちのガキ。そして俺。

 


「バランス悪ぅ……」



 どうにかして皆と合流しねーとヤバいぞこれは……






○カシナートの剣

×カシナードの剣

パチモノに注意しましょう


次回、男同士で友情を深める……!(エロ本で)

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