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投擲士と探検技工士は洞窟を潜る  作者: 左高例
第三章『続く物語』
34/41

第5話『スニーキングの基礎/エリザは甘いものがお好き』


 初心者の洞窟、入口からやや進んだ辺り。

 俺ら三人が進み、やや離れて[胸に七ツ星]とかなんかそんな感じの名前だった四人組の新人がついてきている。

 下手に合流して邪魔になるよりは、若干離れてた方が鬱陶しくなくていいんだが。

 しかしあいつら、よくジゴボルトと戦った後でまだ進める勇気あるよな。

 

 このダンジョンで最初に戦った高レベルの魔物、コボルトの進化系ジゴボルト。

 怪力と素早さしぶとい生命力、全身からの発電と強靭な爪牙を持つという非常にシンプルな魔物だ。

 普通のコボルトはナイフを持ってる立ち上がった中型犬って感じで、そんなに強くない。つーか雑魚。サスマタ持った農民でも勝てる。

 だがジゴボルトとなると、相性の問題もあるだろうが鍛えられた傭兵も危ないだろう。何せ、遠距離攻撃は素早い動きで避けてくるし、近接で打ち合うと発電でやられる。

 さっきはラクショー風に勝ったが、ぶっちゃけタイマンだと俺でも危ない。っていうかまず雷吸収のハイパーガントレットが無いと死ぬ。そんぐらいヤバい敵だった。ラスダンのザコ敵と中盤で出会ったみたいな。

 なので基本は隠れて進む方針だ。リスクは負わないのがセンセイのダンジョン攻略法である。


「それにしても、入り口近くはあんまり敵がいねーな」


 洞窟を進みだして小一時間程度経過しただろうか。最初のジゴボルト以来、敵の姿は見えない。


 "ジゴボルトが全て片付けたのだろう。低級の魔物が同士討ちし合うダンジョンだが、それ故に飛び抜けた力を持つようになったらその魔物の無双になる"

「つまり、強い魔物が出たら暫くは安全ってことですね!」

 "ただ、ダンジョンでは新たな魔物が周期的に出現してくるからな。時間経過によって再び増えてくる"


 だから、とセンセイは続けて解説をした。


 "冒険者の中には、入り口から念入りに魔物を倒し続けて進む者も居るがそうしたところで結局帰り道で戦う羽目になるからな。持久力のある冒険者は、なるべく戦闘を回避して進む"

「でも確か、魔物の中にはアイテムをドロップするやつも居るんだろ?」

 "そうだな。それを狙ってダンジョンに潜る者は倒すことが目的だからいいのだが"

「ところであのジゴボルトから取れた素材って?」

 "[かくねんりょう]だが"

「なにそれ」

「[かくねんりょう]ですよ?」

「いやだからなにそれ」


 などと小声で会話をしながら更に奥へと進んでいった。

 枝分かれが多いダンジョンだが一日目の休憩場所までは一本道なはずだ。

 とはいえ、焦る必要はない。ダンジョンでも普通の探検でもそうだが、日程が重要なのは持ち込む水や食料が主な理由になってくる。長く野外生活するようならばそれに応じて荷物も重くなるから、なるべく早く済ませたいのが普通だ。

 しかしここにはセンセイとエリザが居るので、飢える要素はほぼ無い。つくづくチートだぜ。

 

「そう言えば、長いダンジョンだと一ヶ月ぐらい掛かるらしいけど普通のパーティは食料持ち込む量、大丈夫なのか?」

「といいますと?」


 エリザが首を傾げる。


「ざっと考えて一ヶ月分の食料つったらとんでもねえ量になるだろ。 

 カロリーベースで考えてみると、一日に必要なカロリーが行動することも考えて2000キロカロリーとしてだな。

 一ヶ月30日だと6万キロカロリーが必要になってくる。

 これをジャガイモ(ジャガーに似た模様のイモ)で換算すると、まずジャガイモは100グラム75キロカロリーぐらいだ。

 さてエリザちゃん。ジャガイモで6万キロカロリーを摂取するとなると何キログラム必要でしょうか」

「わかりません!!」

「これただの割り算だろうが!? ええい、とにかく。1ヶ月ダンジョンにこもるとなるとジャガイモだけで1人80kgも持ち込まないといけなくなるんだよ」

 

 エリザは80kgの重さを想像しようとしてるみたいだが、エリザ二人分ぐらいある重さは持とうとしたことも無いだろう。

 

「ええと、ポテトフライ食べ放題ですね」

「だとすると油も持ち込まねえとな。とにかく、80kgのイモ袋背負ったまま魔物と戦うなんざゾッとしねえな。俺だったらイモを投げて戦う」

「エコな戦士です……」


 更に武器防具の装備に、寝袋や着替え、魔法使いがいる場合は別だが飲料水なんかも必要だ。

 そんなもん背負って一月歩くのはしんどすぎ。まあ、徐々に軽くなっていくとはいえ。


「というわけでセンセイ。普通の冒険者って荷物どうしてんだ?」

 "色々だが、便利な方法の多くは魔法使いが絡んでいる。小型ゴーレムを作って荷物運びに使ったり、重量軽減の魔法を掛けて運んだり、座標を固定した特殊な倉庫との間に荷物だけ転送のやり取りが出来る魔法もある。

 それ以外にも様々な工夫がされている。食料をアルトに渡しているような、糖と脂の練り物にすることで重量あたりのカロリーを増やしたり……ジャガイモで言うと乾燥させ水分を抜いてしまえば重量は三分の一以下になる。勿論、食べるには戻すための水が必要だがな"

「お水大事ですー」

「魔法使い命だな。ん? 魔法使いってあんまり水を出してくれないんじゃなかったかセンセイ」

 "エリザぐらいたっぷりは出してくれない、ということだ。持ち込みが乏しくなれば必要な分量は都合してくれるが、それも魔力点を消費するからな。魔法はとにかく便利なのだが、魔力切れはいざという時に大変だ"


 魔法使い何かが魔法を使う度に減っていく魔力は、眠らないと回復しないのが難点だ。

 それもちょっと昼寝する程度じゃダメで、周りに危険がなく精神が落ち着ける場所……つまり、しっかり最低五時間は熟睡しないと碌に回復しない。

 ダンジョンの中だとよっぽど安全な場所で野営しないと、そこらで警戒しつつ寝る程度じゃ駄目だろう。センセイが作る小屋レベルになれば大丈夫だろうが。

 時々、馬小屋なんかに好き好んで寝て回復する変態もいるが。臭くねえのかなあれ。精神落ち着くの?


 "あとダンジョンの魔物は倒すと消えるのだが、その前に素材を剥ぎ取る要領で肉を得たりも出来る" 

「へー。消えるから食えないと思ってた」

 "剥ぎ取りにも技術が必要だがな。素人ではもたついている間に消えてしまう"

 

 まー例えばコボルトをぶっ倒したからといって、冷静にその場で皮を剥いで肉を切り取るのは大変だろう。他に敵が居ないとも限らないしな。

 それにダンジョンでは明らかに食えなさそうな魔物も居る。スケルトンとかゴーストとか。だからダンジョン内で飯の材料になる魔物を頼りに食料持ち込まずに入るのは変態のやることだな。

 

 "後はさっきパンを拾ったように、ダンジョンによっては食料が落ちている。その量はダンジョンによるが……また、隠し部屋のようなところで食料が大量にある部屋が存在するパターンもある"

「何のためにそんなのあるんだろうな?」

 "大なり小なりダンジョンというのは人が挑戦するものとして存在しているからな。ダンジョンの神が与えるご褒美だろう"


 ダンジョン神の恵みに感謝ってか?

 ダンジョン化するまではただの洞窟だったのが、しっかり拡張やら構造変化して隠し通路なんかも作られたりするんだからバランスも気を使ってるんだろう。

 ちなみにダンジョン神が介入しなかった失敗ダンジョンの話としては、随分昔に魔王が作ったクソダンジョンもあったそうだ。過去形だが。

 罠が部屋全面に敷き詰められていてまともな人間は一切進めなかったり、宝箱から7兆エンほどのマネーが出てきたり(発見した勇者に流石にヤバい額だと判断して封印された)滅茶苦茶なクソバランスだったと記録に残っている。

 なお魔王ってのは時々発生するテンションの上がった邪悪な魔法使いだ。魔法を使う魔物や竜なこともある。大抵は出現次第、ボランティアで長いこと勇者やってるとある超封印系勇者サマにやられるという。

 

 "──ストップだ。どうやら敵が前方に居る"

「湧いて出やがったな」


 センセイが手で制したので俺らは立ち止まり、通路の端による。程よく凹凸が多くて隠れるに適していた。

 飯盒みたいなデカイ双眼鏡でセンセイが前を確認する。前は少し開けた小部屋になっていて、その中で何か動いているようだ。


 "あれは……普通の[こんぼうゴブリン]だな。一匹だけだ"

「なんだザコか」

「ふふーん! アルトくん? ザコなどという魚は居ないのですよ! 何事も油断せずに──」

「[ザッコプラティパス]。コイ科に分類される淡水魚。食える」

「居るんですか!?」


 オイカワ(魚)のことだ。

 いいセリフを吐いてドヤ顔しそうになったエリザに華麗なる知識の勝利を収めたところで、俺は出ていこうとする。

 ザコゴブリン程度ならシュンコロして先に進めるだろう。

 だがセンセイが俺の肩を掴んでそれを止めた。


 "待った。折角の機会だ、ゴブリン程度ならば危なくないので、ここでスニーキングの練習をしていこう"

「つーと、あのゴブリンに見つからないように部屋を進むってわけか」

「ドキドキです!」


 ゴブリン程度なら失敗してぶん殴られてもそうそう怪我もしねえしな。

 体つきは欠食児童みたいなもんだから、棍棒を思いっきり振りまわしてもスイカが割れるか割れないか程度の威力だ。集団で囲まれて殴られ続けりゃ危ないが、一匹だけならなんてことはない。

 失敗してエリザが襲われた瞬間にゴブリンを蹴り殺せばいいだけだ。

 何もいきなり、失敗=死みたいな凶悪魔物で練習することもないだろう。

 納得して俺らは無言になり、ダンボールを構えてセンセイを先頭に部屋へ近づく。

 

 部屋の中は、それ本当に必要か?みたいな無駄っぽい太い柱が何本か立っていた。

 こう、スペースオペラとかの漫画でも宇宙船にその柱って本当に必要なの?って思うようなところにあったりするよな。あんな感じ。戦闘になると倒れてきて死人が出るんだ。

 外から中を覗うと、どうもゴブリンは部屋の中を行ったり来たりウロウロしているようだ。敵を探しているのだろうか。

 センセイが指を立ててまず手本を見せると合図した。

 ドラム缶みたいな体型のセンセイは音も立てずに部屋に入る。ゴブリンは背中を向けて、反対側へ向かって歩いているのでセンセイが侵入したことに気づかない。

 そのままセンセイはそろそろと進み、やがてゴブリンが部屋の向こう側の壁近くまで到達したらくるりと振り向いて歩き始めた。

 と、その前にセンセイは柱の影に隠れる。しかしゴブリンは部屋の真ん中辺り歩いて近づいてくるので、このままでは柱の影にいるセンセイの姿を発見するだろう。

 そこでセンセイは隠れたまま、ダンボールを取り出して被った。

 柱の隣に置かれている巨大ダンボール。

 ゴブリンはそれをちらりとも見もせずに、スルーして通り過ぎる。

 それを確認してセンセイはダンボールを被ったままそろそろと向こう側の出口へ向かって歩く。

 途中でゴブリンは立ち止まり、何やら伸びのような仕草をして首をコキコキとならし、それとなく周囲へと視線をやった。無論、俺とエリザは部屋の外にある物陰に隠れているので距離もあって見つからない。

 ゴブリンが周囲を覗うと同時にセンセイも立ち止まり再びダンボール形態になる。無論、ゴブリンはそれに気づかないで再び背中を向けて歩き始めた。センセイはこうして、反対側の出口へと到達。

 

「見事だな。本当にバレないもんだ」


 小声で言うと、エリザもぶんぶんと頷いた。


「よし、次エリザ行け」

「あたしですか!? え、ええとアルトくんのお手本とか……」

「真ん中お前の方がゴブリンに襲われても救出し易いだろ。ほらセンセイが先で待ってるから」


 ゴブリンはどうやら、同じコースを往復しているようだ。

 再び背中を向けたのを確認してエリザを進ませた。

 あわあわとした様子で部屋の中に入り、ゴブ野郎はまだ背中を向けて奥に歩いているというのに一番近い柱に隠れて動きを止めるエリザ。

 そこからチラチラとゴブリンの背中を見やるが、中々進まない。

 意を決して一つ先の柱へ移動。同時にゴブリンを確認もせずにダンボールを被った。

 そのまま停止。やがて近くをゴブリンが通る。よく見ればブルブルとダンボールが震えているのがわかる。

 ゴブリンの足音が遠ざかったのを確認したのか、ダンボールから出て辺りを見回しエリザは大慌てで部屋を進んでいく。ああもう、みっともないな。センセイと違ってダバダバと足音まで聞こえやがる。

 流石に俺のところまで響く足音にゴブリンは不審に思ったのか、


「ナンダ……?」


 と、疑問の声を出して周囲をキョロキョロした。エリザはそれを見て慌ててダンボールを被るが、おい!

 物陰とか壁際とか柱の根本とかじゃなくて、堂々と部屋の真ん中でダンボールになりやがった。

 おまけに動きが遅く、被る動作が視界の端に引っかかったのかゴブリンが完全に振り向いて、ゆっくり近づいていく。


「コノヘンデ、ナニカ物音ガ……」


 まだ気づいていないようだが、ダンボールを小突かれたらお終いだ。

 俺は舌打ちをして拾った石ころをエリザとは関係の無い方向にある柱へと投げる。

 カツン、と石が壁に当たる音がはっきりとしてゴブリンは急ぎそちらへ向き直った。


「ダレダ!?」


 びゅん! とヘイトが溜まった音がした。ゴブリンの様子も、頭の上に!マークがついたように臨戦態勢になっている。

 棍棒を構えたまま柱の方へ向かう。エリザには完全に意識が外れたらしい。勿論俺も投げた位置がバレないように隠れている。

 その間に向こう側に居たセンセイが素早く部屋に舞い戻り、ダンボールを被ったままのエリザを回収して部屋の外へ運んでいった。

 柱を調べたゴブリンは首を捻りながら、


「気ノセイカ……」


 そう言って巡回へ戻った。ウケル。気づいてねえでやんの。

 さて、最後に俺だ。

 ダンボール傘を用意してゴブリンが背中を向けた際に素早く部屋に潜入する。

 潜入任務は何度かこなしたことがある。今回の冒険依頼主であるトリエも潜入して拐かしたのは俺だしな。

 こういうのは本来それこそ軽業師みたいなやつがやるんだが、俺がやる任務は破壊工作も含むんでオークレイパーなんかと中枢部まで侵入して暴れて逃げるみたいなのが多い。

 思い出しつつもゴブリンの様子を伺い、歩いているゴブリンの背中ぴったりに張り付いて先に進んでみた。

 前を歩くゴブ野郎の息遣いまで聞こえる距離だ。そんなすぐ背後に敵が居ることも気づかないで、前に敵が居ないかと血眼で探してやがる。

 どうもやってて悪戯してるみたいで笑っちまいそうだ。

 ……そうだ、ゴブリンが相手なら別に失敗したところで死にはしない。

 どの程度の隠れっぷりが魔物に通用するか確かめるのも必要だ。

 俺はにんまりと笑いながら前を歩くゴブリンの肩を叩いた。


「!?」


 慌てて振り向くゴブリン。しかし、視界には何もない。ダンボールが落ちている以外は……ってな風に見えてるだろう。

 外の様子は僅かな穴しか見えないのでわからないが、ダンボール越しに攻撃が飛んでこないので完全に見失ったようだ。

 そして、


「気ノセイカ……」


 と、呟いてまた歩き始めた。

 気のせいも糞もねえだろ。思いっきり肩を叩かれたのに。

 俺は腹が痛くなりそうな笑いを堪えながらダンボール傘を開いて再びゴブリンの背後を取った。

 さて次は……


「おらっ!」

「!?」


 ゴブリンの頭を背後から殴ってみた。そして即座に傘を被る。


「ダレダ!?」


 緊迫したような声と同時に周囲を慌ただしくゴブリンは動き回り敵を確認する。

 しかし他には誰も居ないだろう。

 ただダンボールが落ちている以外に部屋には誰も居ないのだ。

 数十秒警戒をして、やがてゴブリンは呟いた。


「気ノセイカ……」


 それで済ましていいんだ。どんな注意力だよ。殴られたのに。

 或いはダンボールの隠遁パワーとでも言うのか。すげえな。

 とにかく、ゴブリンの目の前で隠れさえしなければ十分に隠れられるというのが判明した。さっきエリザのダンボールを疑ってたのは、ちょいと被るタイミングが遅れて動いて見えたからだな。

 再び歩き始めるゴブリンの背後で俺はダンボールから出て、今度はシガレットケースみたいなのに入れられたダーツを取り出す。

 大きさはちびた鉛筆ぐらいだがそこそこ重く、先端が細くなっている。毒が塗ってあるというか、刺したら針内部にある麻酔薬が注射されて一気に血液に回る仕組みらしい。

 刺すのは首筋か心臓がいいという。それ以外でも効果はあるが、すぐに昏倒させるにはそのどちらかが良い。

 俺は指に挟んで、[霞の飛礫]を飛ばす要領で手のスナップを効かせて弾くように針を投擲した。

 狙い通りにゴブリンのうなじに針は突き立つ。


「ウッ……」


 一瞬警戒したような声を出して──ゴブリンはうつ伏せに地面に倒れ伏した。

 間抜けないびきを掻いていて、完全に戦闘不能のようだ。

 

「ふーむ、しかしやっぱり、臨戦態勢のジゴボルトには効かねえよなこれ」


 全身の毛を逆立たせて放電しているジゴボルトでは針が突き刺さらなそうな気がした。とにかく、相手が気づいていないときに打ち込むのが一番だ。

 魔物の種類にもよるが。スライムやゴースト系には効かないだろうしな。

 

「アルトくん、遊びすぎですよ」

「悪い悪い。だが限界を見極めないとな」

 "魔物の進化した状態にも寄るから気をつけることだな。例えば[ランボーゴブリン]は常に怒り状態だから注意が必要だ"

「エリザも次は上手くやるんだぜ」

「ううう……すみません。でもでも、いざとなればダンボールの下をくり抜いて地面に潜って隠れますよ!」


 などと会話をしながら部屋を後にする。 

 暫く通路を進むと背後から声が聞こえてきた。


「トゥーリャー! ゴブリンをやっつけ──あれ!? 死んでない!」

「ハッチ──!! 寝てる相手に首ナイフで殺せないってどういう弱さだよぉー!!」

「タマ取ったるよー♪」

「~♪」


 などと大変騒がしい音だった。俺らは無視して先へ進むことにした。

 あいつらそのうち勝手に死にそうだな。




 ********




 暫く進むと、センセイが再び俺らを制止する。

 

 "先の天井付近にダークバットの集団が居る"

「コウモリか。どうする?」

「隠れて行きます?」

 "いや……集団で争っているらしい。ダークバットは超音波の送受信ができるから、それで周囲一帯の同種を集めて争いを起こしているのだろう。全てが興奮状態にあり近づくのは危険だ。それに、放置して進化されたら後々困るかもしれない"

「そうなのか? 放って先に進めば……」

 "[ダークナイト・バット男]という魔物は[バットケイブ]という特殊能力で亜空間から襲撃してくることが稀にあるらしい"

「ウザい敵だな……じゃあここであのコウモリ共を全滅していくか」


 それにしても数が多い。三十四十ぐらいは居そうだ。まだ離れてるので羽虫みたいな大きさにしか見えず、正確にはわからないが。

 センセイからどことなく不機嫌そうな声音を感じていた。彼女はコウモリが嫌いだそうだ。洞窟で戦う機会が一番多いからだ。


「で、あの数をどうやって攻撃する?」


 俺のハイパーガントレットはデカブツに効果的だがコウモリにはオーバーキルすぎる。

 鎌をぶん投げたら小規模の雷竜巻を起こせるが、それは広い部屋でのことでこの通路じゃ無理。

 

 "え? 何か言った?"

「……」

「ワオ」


 センセイは通路にぎっしり、ポンポンと同時発射式連弩砲を準備していた。

 一つや二つじゃなく、それこそ通路の前方に存在する物体を全て蜂の巣にしちまうような数だ。

 ボルト自体は小さいがコウモリを撃ち落とすには十分だろう。同時発射されたら、触れると死ぬ壁が迫ってくるようなものだ。

 センセイのコウモリへの殺意が垣間見えた。


 "使う際は前方に人が居ないことを確認しなければならないが、今回は問題ない。発射!"


 仕掛け作動のスイッチを入れると同時に、連弩が殺意の矢を横殴りの雨のようにコウモリの群れへ打ち付けた。

 一匹残らず血煙に変わった。

 こわっ。


 "さて。先に進もうか"


 センセイが準備万端で先に攻撃できるなら、隠れ回らなくても案外倒せるんじゃないか殆どの魔物は。

 そう思わざるを得なかったが、とにかく俺らは先を目指す。



 暫く進んだら、センセイが周囲を見回して足を止める。


 "ここで休憩をしようか。どうも休憩場所として使われていた形跡がある"

「本当だ。なんか手頃に座れる石とか並んでますね」

 "ダンジョンの中では時折、魔物が近づかないエリアが存在してそこは休憩場所や宿泊場所に使われるのだ。焚き火の痕が古くから残っている場所などは安全だということだな"

「ふーん。とにかく休むとすっか」

「アイス食べましょうアイス!」


 エリザは慣れたようにつるはしを振るうと、休憩所の椅子をグレードアップさせて、テーブルもクラフトした。

 適当に腰掛けてブーツを脱ぎ足を投げ出して座る。

 

「センセイは休まねえの?」

 "私は少し壁を掘って鉱石を探しておく"

「ああ、それも戦力増強に必要だしな」


 と、ハンマーを持ってバコバコと休憩所の小部屋を拡張するように掘り始めた。

 あのスーツのお陰で実際センセイってあんまり疲れねえらしいんだよな……ずるい気はしないでもないが。

 そっちを見ていたらエリザがアイスを作っていた。


「[乳製品マテリアル]+[糖類マテリアル]+[穀物マテリアル]でアイスクリームです! はいアルトくん」

「おう」


 渡されるのは逆三角錐のコーンにとぐろを巻いたクリームアイスが乗っかってる氷菓だった。

 ガキの食いもんだぜこれは。


「うまぁーい」

「ですです!」


 おいちいけど。

 センセイの作業を見ながら齧っていると、どうも手元が斜めってたらしい。


「アルトくん! 垂れてます垂れてます!」

「ん? うげっ」


 見ると溶けたアイスクリームが滴り、俺の指とズボンを汚していた。

 しかめっ面をしながら残りのアイスを口に放り込み、指を舐めながらエリザに要求する。このままじゃ甘ったるい染みになっちまう。股間に蟻でもたかってたら[糖尿病]のアルトなんて噂になるぜ。


「おいエリザ。何か水とタオルとか──」

「もったいないです!」


 と──

 なんか、エリザが身を乗り出して来た。

 女は甘いもののことになると目の色変えるというが。

 もうちょっと落ち着こうぜ?


「はんむっ♥」

「ちょっ待てエリザちゃん!?」


 エリザちゃん、俺の股間に吸い付く。

 垂れたアイスを吸い取るように、ズボンに接吻してらっしゃる。

 それを座ったまま見下ろす俺。

 状況的に完全にあれですわ。口淫屋の如しですわ。お口専門7000エンのお店ですわ。

 

「祟り神よ……! 鎮まりたまえ……!」


 俺はエリザちゃんを厭らしい目で見たことなんて無いよ? こんなちょいとアホな子だもの。罪悪感マックスだからな。

 でもほら、可愛いことは認めるんだぜ? ロリ巨乳エルフだもの。美少女だもの。

 で、そんな娘が股間にアレだろ。俺の股間から顔を上目遣いで上げて見てくるだろ。


「んふー? アルトくん、どうしました~♥」


 収まれ──! 俺のちんちん──!

 呼吸を整えるんだ。血液とは本来、呼吸で取り入れた酸素を全身に巡らすためのシステム。ならば呼吸を完全にコントロールできれば血液のビートも自在に出来るということ! 太陽のエネルギー! そうですよね老師!


(素直に勃起するんじゃよ……)


 この老師……脳内に直接!

 そうだよね! ここでしないとむしろインポだもんね!

 エリザに邪な感情は無いが、俺の相棒が元気であることを確認できたってことただそれだけ!

 

「ちゅー♥ ちゅぱっちゅー♥♥ えへへ、美味しいですねアルトくん♥♥♥」

「もうゴールしていいかな……」


 って違う! 

 謎の弱気が何故か口からこぼれ出た。

 この純心ピュアッピュアーなエリザちゃんは甘いものを求めて服に吸い付いているんだ。

 ならばそれを満たせれば自体は解決する。

 俺に秘策がある!


「食らい……やがれ!」

「はむっ!?」


 俺は腰のポーチに入れていた、センセイの作った非常食を千切ってエリザの口に叩き込んだ。

 非常食。まあイメージとしては粉砂糖をバターで練ったような超高カロリー物体だ。


「うにゃああー!! う、う、ううう! アルトくん! これ一発でニキビができそうな甘さと油っこさですよ!」


 エリザはケーキワンホール直食いしたような表情で口を半開きにし、あうあうと唾液混じりになった黄色がかった白い保存食を口の端から垂らしている。

 ……なんか状況証拠的には俺のバスターが暴発して口の中で出したみたいな見た目だな。

 嫌だぞ。逝くとき「食らい……やがれ!」って言う男とか。そんな奴ゾクフーに通ってたら間違いなく店側から変なあだ名付けられる。キングオブファイターとか呼ばれる。


「ったく。お茶で口でもゆすげよ」

「ううう。がぼがぼ、ごくん」

「あー飲んだー飲んじゃったかーエリザちゃん。明日はニキビだな」

「罠でした!?」


 などと遊んでいると、センセイが十分な鉱石を採取してきたのか戻ってきた。

 彼女の堀った後を見やると、


「ん? 壁の中から、宝箱が出てきてないか?」

 "ああ。隠し部屋があったらしい。だが資料館であったように、ここのダンジョンで取れる武器や防具はそこまで良いものではないし、便利な魔法の道具も出てこない。宝箱には鍵だか罠も掛かっているからな。無理して開けることはないだろう"

「ふーん。あ、そういえばセンセイって宝箱の鍵開けとか出来るのか?」

 "罠付き宝箱はたいてい魔法の力で守られているからな。掘削で破壊できないようになっているので、遠隔で強引に開ける装置を作る。罠が矢とかガス、テレポーターならば防げるが、仕掛け爆弾だった場合は中身ごと消えてしまうな"

「ふーん。まあ安全なのが一番だな」


 幾ら罠解除専門の細工師で更に長年やってる経験豊富な凄腕だろうが、[賽子三つピンゾロ(ファンブル)]っつー大体216分の1ぐらいの確率で見事に失敗するらしい。で、それが致命的になる可能性も結構高い。

 クラフトワーカーが出来る安全策に感心しつつも、とりあえずそこまで頑張って取るものでもないなと俺は宝箱を放置することにした。

 つーか世の中の高品質な武器防具、ダンジョン奥深くで手に入れたら世間に自慢できるアイテムなどなどは、この技工士サマが朝飯前にひょいと作るアイテムのほうがヤバ性能だったりするわけだ。

 二段ジャンプの脛当ても、ハイパーガントレットも、ヒートダガーも売る場所考えりゃかなりお高い貴重なマジックアイテムだ。


「すごいダンジョンだったら凄い宝箱が出るんですか?」

「確かそのはずだぜ。だからそういうダンジョンこそ、鍵開け罠回避する細工師をパーティに入れておくべきなんだな」

「ははあ……ちなみにどんなアイテムとかあるんです?」

「俺の知ってる、とある傭兵の持ってる魔法の刀が今まで見た中では一番ヤベえな。[ティルトウェイとう]つー武器で、振るうと人間が消し炭も残らねえ炎が前方に投射される。しかも回数制限無しで」

 "凄まじく危険で迷惑だな……"


 そこまで行くと戦略兵器扱いで、数多く人をぶつけりゃいいって話じゃなくなってくる。戦場では出会いたくねえな。敵軍に見つけたら即狙撃しねえと。

 そんな会話をしながら適度に休憩し、俺らはその場を後にした。

 休憩部屋から出て暫くすると後ろから、


「解錠成功! 宝箱ゲットだぜ!」


 ってガキの声と拍手が聞こえてきた。俺が捨て置いた宝とはいえ取られると何かムカつくな。ミスれよ。


 



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