第9話『サキュバス』
「ふははは! 私こそ最後の四天王! トットリサキュウバスだ! さあ我が砂地獄に踏み込んでくるがいい! わきあがる力にてサンドレイプしてくれるー!」
進んだ先の部屋は中央に向けてすり鉢状の窪地になっていて、砂に足を取られ動くとその中心に居るサキュバスへと落ちていくような仕組みであった。
「センセイ。コンクリート」
"そうだな。睡眠薬入りだ"
「ちょっ待っ……とりぴいいいい!」
とりあえず中央に向けて、ドロドロのコンクリートを大量に流し込んで埋めてやったら謎の叫びを上げて沈んだ。
四天王最後の一人を倒した──。
ここに来る前に素浪人をどうにか退治したものの、消耗激しい俺らには安全に倒せてラッキーであった。
「そういや聞いたことがあるんだが、前にどこかの国で水の精霊が暴走して人を取り込んで溺れさせたり大洪水を起こしたりしてたとき、国から依頼を受けた退治人は精霊の住処に睡眠薬を叩き込んで眠らせてコンクリで埋めて解決したそうだな」
"高位悪魔である[蝿の王]の必殺技も相手を金縛りにしてドラム缶に詰めてコンクリートで固める魔法だという。宇宙からの侵略者をちぎっては固めちぎっては固めの活躍をしたとか"
「強いよな、コンクリ」
そんなことを言いながら、固まった砂丘を越えて行く。
四天王も片付けた──バハムートドラゴンはスルーしたが──のでダンジョンの終わりもそろそろだろう。
大抵お約束というか、ダンジョンはそういう作りになっているという。ボスを倒してクリアみたいな。
"四天王という中ボスもダンジョンが大きくなれば規模が増えていた可能性もあるから、少なくて良かったと思っておこう"
「そうなのか……八人衆とかになるわけだな」
"私が見た中で一番多かったのは確か255大頂を名乗っていたか……"
「頂き多すぎだろ。ウニか何かか」
"無論、そこまで多いと全てに遭遇することも難しく、結局戦ったのは十人足らずでダンジョンの奥までついてしまった……"
きっと殆ど通られない通路の先とかにも居るんだろうな……
全部見つけた奴にはいっそ勲章とかくれてやったほうがいいんじゃなかろうか。
しかし殆どサキュバス化したセンセイはなんかこう目の毒だ。
微妙に魅了の能力が発露しかけていると思う。そこはかとなく肉付きがむちーんとしてるし、いい匂いがするから困る。
早くダンジョンをクリアせねば。
特にこういう時は、エリザが居ないのが悔やまれる。二人きりって状況がまずよろしくねえ。あの小動物めいた癒しパワーがあれば多少のエロ雰囲気は払拭できるものだ。
居なくなって分かるエリザちゃんのありがたさ。
助けねば。使命感。
「とりあえずサキュバスに会ったら奇声を上げて殴りかかるけど、今度は止めないでくれよセンセイ」
"わかった。手段も選んでられないからな"
そして、俺らは通路の先にある豪華そうな扉に手を掛けた。
息を大きく吸い込み、腹に力を入れる。
「おああああーッッ!!」
意味のない叫び声を発しながら、扉を開いて中に踏み込む。
部屋を見回してサキュバスの姿を探す。いねえ。
それっぽい玉座とかあるのにそこはもぬけの殻であった。
勢いをつけて問答無用でぶん殴る作戦失敗である。なんてこった。
「辺鄙な所からよぉ来ましたなあ」
声に反応して見上げると、そこはかとなく慌てて移動しましたみたいな、雑な収まり具合で玉座近くにある高い柱の上にサキュバスの姿があった。
メガネを掛けた赤髪の、以前に洞窟の中で見かけた方言サキュバスだ。通称サキ子。
その隣には枕を抱えて寝こけているエリザが、やはり今さっき持ってきたように引っ掛けてあった。
"……扉の外の会話を聞いていて、いきなり殴られないように慌ててあそこに逃げたようだな"
冷静にセンセイが分析する。
「てめっオラー! 降りてこっクラー!!」
「なんや、随分お怒りの様子どすなあ」
「このクソポンコツサキュバスが! てめえが変なサキュバスを呼び寄せたせいでこちとら道中苦労してんだボケ!」
「うちは知りません。サキュバスネストを作ったらお仲間らは勝手に集まりますねん。どなたが来たかまでは責任とれませんわ」
すました顔でそっぽ向きながらサキ子は言う。
そもそもお前がサキュバスネストなんざ作るのがいけねーんじゃねーか!
ゴミ屋敷は作ったけどそこに発生する悪臭や害虫は関係ないって主張は通らねえぞ。
「──!? なんや!?」
突然エリザとサキ子が乗っていた柱が急速沈下した。
俺が会話をしている隙にセンセイが近づいて、柱の根本を床に沈ませたのだ。
降りるというか落ちる速度のエリザをセンセイは救出しようとしたが、間一髪でサキ子がエリザの体を掴んで空を飛び玉座の方へ戻った。
「危ない危ない」
「エリザもいつまで寝てんだー! おーい起きろエリザー!!」
「無駄やん。うちが魔力で寝かしつけてますんで」
"何故エリザを攫った?"
するとサキ子は眼鏡を光らせて見下すように言う。
「なんや自分ら、この娘がただのエルフやと思うとるん? いや、コレはエルフどころか……」
言いかけて、眼鏡の位置を正した。
「まあ、今はええやろ。教えたところでしょーもないし」
「言いかけて止めんなや! 気になるだろ! インテリぶったクソかテメーは!」
こういうのに限って後から面倒なことになるんだ!
センセイは大木槌を構えて、
"エリザは私の生徒で大事な仲間だ。返してもらう"
そうだ。とにかく、まずはこのサキ子をぶっ殺すこと優先。
俺は拳を固めて、床に降りてきているサキ子へ向かう。
しかし彼女はにやっと笑って、体の周りに怪しげな霧を纏わせた。
「おっと! 魔力の充実しとるうちに掛かれば、あんさんがとても殴れないような、性癖のツボを付いた美女の姿に変身することも可能なんやで……!」
「な、なにィ!? それじゃあ紫髪でおさげで眼鏡でソバカスで発明家属性の女の子になれるっていうのか!?」
「余裕や!」
すると、サキ子は紫髪でおさげで眼鏡でソバカスで発明家属性の方言娘へと姿を変えたのだ。
俺は躊躇わずにぶん殴った。
「そんな不人気属性で惑わされるわけねえだろうがああああ!!」
「酷ぉー!?」
"……特定のキャラをディスって無いかな、アルト"
敢えて特に趣味でもない属性を教えることで変身を引っ掛けるIQの高い作戦が成功した。やはりこのサキュバス、ポンコツ気味だ。
後ろからセンセイのやや引くような声が聞こえたが、今は無視。
殴り飛ばしたサキ子に追撃でステップを使い接近して、左右の拳を体に叩き込む。
センセイがコーナーポストとロープを作ってくれた。それに追い詰めて後ろに下がらないように、そして倒れないようにしてめった打ちにする。
「ちょっ待っまああああ!」
悲鳴を上げながら顔を両手で防いで泣き叫ぶサキュバス。
ほぼ無抵抗である。少なくとも見た目は女で、無抵抗の相手を殴りまくらねばいけない。そんなことができるのか。
できる。できるのだ。
殴りながら怒りと拒絶を込めて叫ぶ。
「こいつは俺のゾクフー巡りを邪魔にされた分! こいつはトラウマになりそうなホモに襲われた怒り! そしてこれがセンセイとエリザの受けた精神的被害分だ!」
"……纏められてる"
執拗に腹を殴りまくりガードが下がったら鼻っ柱をぶん殴る。
DVのコツは顔を殴ることだとロクデナシの傭兵に聞いたことがある。見えない腹などを殴る方が周囲への発覚は避けられそうだが、誰にでも見せる顔を傷つけてやることで相手の自尊心をへし折って優位に立つことができるのだとか。
まあそいつはその話をした二日後に嫁が家に火を放って心中させられたが。ともあれ、そのテクを使ってサキュバスの力を削る。
物理的な耐久力より、サキュバスとしての精神力を拳で殴るという手段で奪うのだ。
だから断じて俺が女に暴力を振るうことに対して愉悦を感じる性格というわけではない。
蜂を煙で燻すとか、アブラムシに牛乳を霧吹きで浴びせるとか、そういう感じの正式な退治法をとっているに過ぎないのだ。
「ここまで殴りながら罪悪感を覚えんやつ初めて見たわぁ……!」
サキュバスが何か喋ったようだが、魔法の詠唱だと危ないので即座に顔を狙って黙らせる。
よし! このままで……!
"ぐ、す、すまないアルト……!"
「なに!?」
急に背後から羽交い締めにされて俺の連撃は止まった。
背中に胸を押し付けて抱きついてきているセンセイを肩越しに見ると、目が金色に点滅していた。
"体がいうことを聞かず、勝手に……!"
「今度は何に興奮したのセンセイ!? 怖いんだけど!」
DV受けたい願望とか?
やだなにそれ恐ろしい。
"違っ……霧を操作されたようだ……"
「ふっふっふ……残念やったなあ、あんさん。攻撃を受けてる間に飛び散った、唾とか涙を霧に変えてそっちのセンセに食らわせたんどす。それで転化を進行させればほら、うちの言いなりの新人サキュバスの完成やわぁ」
「このエンガチョ悪魔め……! くっそセンセイ離れろ! 俺の色々吸われて行ってるから!」
"う、く……頑張る、が……長くは持たない……!"
センセイがぎこちなく俺の体を離して、蹌踉めきながら後ろに下がった。目の点滅が激しくなり、徐々に金色に変わっていくようだ。
クソ、センセイもヤバイが俺もヤバイ。今のでかなり体力をドレインされた。
そもそもさっきからサキ子を袋叩きにしていて仕留められないあたり、力が入ってないはずだ。
行軍で装備担いで40km歩いた後のような疲労を感じながらも、サキ子を睨んで前に進む。
「ぐう……! このボケが……!」
「更にこうや!」
言うとサキ子はエリザを持ちだして、体を消したかと思うとエリザの黄金に輝く目が開かれ、瞬時に彼女の体はサキュバス化した状態で起き上がった。
「憑依しやがった……!」
「これで体はお仲間のやんなあ、可愛いお友達やで? えろう殴れやしませんわ」
「舐めんなよ……俺は女でも殴れるタイプの男だぜ……」
意気がるが、呼吸も荒く脳内アラート鳴りっぱなしだ。
さすがにエリザを顔の形変わるほどぶん殴るわけにはいかない。
どうする? 何か方法は……ヤバイ、膝に力が入らん。
"アルト!?"
膝をついた俺に、背後からセンセイが心配して叫んだ。
ヨユーの笑みでも返せればいいが、継続するバッドステータスの疲労が厄介すぎる。
エリザの体を乗っ取ったサキ子は厭らしい顔をしながら言う。
「そらあかんわ。むしろ頑張った方やと思うんよ? だってこのネストは狭い分、魔力の瘴気が溜まっていて──せやなあ、男なら十五分に一回は射精してるレベルで体力を消耗していくやん」
「人をソーローみたいに言うんじゃねえよ、ビッチ」
なるほど、精気は溜め込んで入れってババアが言ってただけはあるぜ。
だが超頑張ってもそろそろ赤玉だ。心臓にも負担が来てる気がする。おまけに、抜いたと同じレベルで体力は消耗していくのに実際はすっきりせずにストレスが溜まる一方だ。ずっしりと股間にきてやがる。
取る手段は幾つある?
ここがサキュバスネストじゃなければ退却して再起を図るのが一番なんだが、それこそワープしてダンジョンの外にでも出れない限り逃げられないのが難点すぎる。
「ほらほら、そこのお姉ちゃんも、このあんさんを助けたいなら協力せな」
"協力……?"
「安心せや。別にうちかて殺したいわけじゃなし」
サキ子は余裕の表情で近づいて来ながら告げてくる。エリザと憑依したことでダメージ回復しやがったようだ。おのれ。
「お姉ちゃんがこのあんさんをマーキングすれば、このサキュバスネストの毒気で体力を消耗するのも止められるんやで?」
"マーキングは……人間を強制的にサキュバスの下僕にすることだろう"
「おっと? 言い方があかんなあ。こう考えればええやん。──このあんさんを旦那にする、て」
"だ、旦那ぁ!?"
「うんうん。二人が契約して、このサキュバスネストで生活すればええ。外には出れんけど、食べ物もお酒も作れるしな? 毎日おいしいご飯食べて、仲良う遊んで、夜にセックる生活をするんや? 契約さえすればこんなに疲れることもないし、触るだけで吸精されることも無くなる。美人の嫁さんもろうて暮らすんは、このあんさんにとっても幸せ言うもんやで?」
秘技、話聞き流し。
右耳から入った言葉を左耳から抜いて脳裏に記憶させない術である。学校の朝礼とかでよく使われるアレだ。
どう考えてもサキュバスの話とかまともに聞いてはいけない。惑わされるだけだからだ。
しかし俺はいいとして、もう九割方サキュバス化してるセンセイは聞き流しの術すら使えなくなっているのか、サキ子の話をまともに受けているらしい。何を話しているかはあんまり理解しないようにしているので、よくわからんが。
いかんな、センセイが完全サキュバスになったら危険だ。何より、このポンがコツしてるサキ子と違って割烹着趣味のことを知っている。そのコスされたら理性が。
「せやなあ、すぐには決められんかもしれんから、まずは二人で一回やろか? 契約さえすれば、とりあえずは体調も落ち着くしな。お試しの一回だけ。ここで暫く休んで、逃げるにしてもそれからすればどうやろ」
"まずは……アルトを……休ませてから……?"
「そや。一回二回やるぐらいなら大丈夫やろ? なあ? 二人して苦しんでるんやから、それを解消してから考えよ?」
"……"
センセイがもうかなりサキュバスの提案に乗りかけているようで、瞳も虚ろになっている。このままだと襲われかねないな。
いや、勿論精神支配系の術を、転化の影響で受けやすくなっているからであってセンセイの本心ではないことは間違いない。
つーか聞き流しているけど絶対一回契約っていうかやったらまず間違いなく出られなくさせられる。ヤクのお誘いみたいなもんだろこれ。
俺の頭にも、ひとまず成り行きに身を任せて持て余したストレスを発散したあとで逃げたらどうか?って罠選択肢が浮かんでくるぐらい、誘いの魔力が声に掛けられている。
「なあ? ほら、お姉ちゃんは乗り気になってきたで?」
こちらの顔を覗き込んでくるサキ子。
「うっせえボケ。エリザの顔でエロい表情すんな殺すぞ」
俺の癒し系エリザちゃんはそんな卑し系の顔をしねえ。
……しなかったと思う。確か。別れて数日だというのに、相対的に随分と美化されてる気がするけど。
「おお怖。でもなあ? もう打つ手ないやろ? 素直に気持よくなろ?」
「俺の隠された能力が発動して瞬殺されたくなかったらとっととセンセイもエリザも治して田舎に引っ込みやがれ」
「なんでそんなに強がって耐えるん?」
俺は顔を上げて、睨みつけてやった。
「俺の心には、サキュバスなんざに屈しない信念があるからだ……! それさえあれば、センセイに迫られようが腰が抜けそうになろうが、てめえになんか従わねえんだよ……!」
"……! アルト……"
「そんなに心に決めた誰かがおるん? うち、ちょっと張り切って来たわ。そういうのを快楽落ちさせるのが──」
気合を入れて手を握りしめて、喉を鳴らして言い切る。
「高・級・ゾクフー! これを終わらせて必ず行く! 絶対行く! 六時間コースをハシゴする! それが俺の心の支えだ! 魔物なんかに、絶対負けたりなんかしない!」
「……」
"……ふーん"
「うわちょっとセンセイ!? なんで無言になって裸割烹着で俺の背中に抱きついてくるの!?」
"なんかムカついた"
「落ち着けセンセイ! あんたは操られてるんだぐあああああ! 体力があああ!!」
"ゾクフーに行かせるぐらいなら私がもらう。どんなことでもする"
くっ! なんてこった! センセイが転化して精神がサキュバスめいてやがる!
そうでもなければ嫉妬したような声音で嫌がらせのように俺に抱きついてドレインしてくるはずがねえ!
呆れ果てたエリザの顔で、サキ子も正面から俺の顔を掴んで来やがった。
前後をサキュバスに挟まれてのダブルドレイン。
金の瞳にハートの浮かんだ目は見ているとクラクラしてくる。あと何秒持つかってぐらいだが。
俺は笑った。
「おっ? 観念するん?」
「いいや。さっきから足が動かなくてな──近づくのを待ってたんだ」
近づかれないまま俺の体力が尽きたらアウトだったな。
隠された秘密の力なんてまったくもって俺には無かった。
つい、さっきまでは。
だが使いたくは無かったんだけどよ。キモいから。
「来い!」
滅茶苦茶気持ち悪いことなのだが、本能的に理解していたことがある。
あのホモサキュバスの持っていた『継ぎ目の無い逸品』の魔剣──それの所有者が俺になったってことだ。
絆だか知らんが、所有者登録を渡せる魔力が会ったらしい。
それで使い方も特性も理解していた。だから──
"……!"
「悪いな、センセイ。一応言い訳するが、刺さっても死にはしねえから」
俺の手に現れたサキュバスタードソードは切腹するように俺の腹を貫き、背後に居るセンセイへと突き刺さった。
刺した相手の精力を奪う──そして、自分を刺せば奪った精力を還元できる特性を持つ。
体から失われた活力が無闇矢鱈に回復していく。気持ち悪い。あのホモの絆を感じるようで。というかホモがこれまで切った分も剣に残ってるから、ゲロ吐きそうなぐらい流れ込んでくる。
ああ、脳裏に顎の割れたあのクソ笑顔が浮かんでくる。来るな。滅びろ。死ね。
これ以上剣の還元を受けると吐くと思って、剣を引きぬいた。背後でセンセイが力を失い、ゆっくりと床に倒れる。
振り向かずに手を伸ばして受け止め、床に寝かせてやった。
「少し眠っててくれ。起きたら終わっている」
"ああ……後は任せた……"
この剣では人間の体は決して傷つけないが、内部のサキュバスに支配された精神を切ったようで眠りにつく。
後ずさりして離れたサキ子から目を離さないように、剣を構えた。
サキ子は目に見えて狼狽していた。俺は体中に漲った力でゆっくりと起ち上がる。
「な、ななな、なんやそれ……さ、サキュバス殺しの魔剣!? なんでそんなもん持っとるんや!?」
「知るか。ググれ(想像しろ、を意味するスラング)」
そういえば勝手に四天王を名乗っていたけど、サキ子は何のサキュバスがここに居るかは把握してないって言ってたな。
「ま、まさか悪名高いサキュバス殺しのサキュバス、サキュバ素浪人とただならぬホモ関係で絆として譲り受けたとか」
「うがああああああ!!」
邪推された俺はキレて掴みかかった。
人間、触れられたくない話題はあるし受けたくない汚名も存在する。
だから使いたくなかったんだ! こんなクソ剣!
このどうしても使用しないと切り抜けられない状況さえ無ければ、記憶の彼方に放り捨てて二度と使わずにあのホモから譲り受けたという事実も消えていただろう。
だが、
「よくも俺に隠された能力を発動させやがったなあああ!!」
「あかんあかんて! それに切られたらあかん!!」
剣を近づけると慌てて逃げようとする顔には余裕は欠片もなく、俺の凶悪に昂ぶった嗜虐心を擽られる。
いやいやエリザってちょっと虐めたくなる顔してるけど虐めると悦ぶもんであんまりやりたくないからなあ。
今は乗っ取られてるから仕方ないよな。
「おいおい、散々誘っといて今更ヤダはねえだろ?」
「お、お願いや……このサキュバスネストなら、あんさんの好みのサキュバスが百匹も集まるんやで? 一生ハーレム、望めば永遠に飽きること無く過ごせる! この体のお嬢ちゃんとも、そこのお姉ちゃんとも幸せに過ごそ? ね? だから堪忍してや」
「そう……呑み込んで俺のサキュバスタードソード……」
「まったく話を聞いとらあああん!?」
サキュバスの誘惑なんざまともに取り合うわけねえだろ。
例えそうだとしても。
超可愛いサキュバスと割烹着センセイと癒しのエリザに囲まれる生活を送れるとしても。
高級ゾクフーに勝るものではない……!
「あっ、あっ、いやっ」
涙ぐむサキュバスの腹に剣をめり込ませていく。
「イっちまいな、雌犬」
ごりごりと刺した剣を捻くり回すと、苦痛からやがて中々お子様には見せられない蕩けた顔になった。
エリザの皮膚が血色の良い色に変わり、角や羽根が引っ込んでいく。
そしてサキュバスの痕跡は消えたのか、安らかに眠る表情で倒れるエリザが残った。全裸で、豊かな胸がゆっくりと上下して寝息を立てている。
どうやら倒したらしい。俺は剣を適当に投げ捨てて、エリザの頭を撫でた。
ど、と大きな音がした。
「地震か!? ……いや、ボスを倒してダンジョン化が解けて……やべえ、この建物自体が掘り抜いた地下に落下するぞ!」
入る前にセンセイが隔離するため、この建物の地下を数メートル空洞にしていたのを思い出した。
落下の衝撃は当然ながら建物の中にも伝わる。物理的に当たり前だ。
ではその建物の中で寝っ転がっている、センセイとエリザはどうなるか。
数メートルの高さから受け身もなく石畳に叩きつけられたのと同じ衝撃を受けるだろう。
段差に慎重なセンセイどころの話じゃなく、普通に頭打って死ぬ。
まだ落ちるには僅かな時間がある。だが、二人を担いで入り口まで戻れるほどではない。
「ちっ! こうなりゃ仕方ねえ! 俺の知能指数を舐めるなよ!」
俺はまずセンセイをお姫様抱きして、その腹の上に重ねてエリザも持ち上げる。
そして部屋にあった玉座風の高い椅子の上に乗って、バランスを崩さないように腰を落として落下を待つ。
「建物が地面に落ちた瞬間に、この椅子を蹴ってジャンプすれば衝撃は来ないはずだ……!」
エレベーターという昇降機が一部の砦や城にあったので乗ったことがある。
小さな部屋全体を、頑丈なワイヤーで吊るして巻き上げ機を使い上下に移動することで階を移動する道具だ。
で、それのワイヤーが切れたときに地面に叩きつけられるんじゃないかって心配は勿論あったのだが、満場一致で傭兵仲間とそれの対策を考えたのだ。
それがこれ。地面に落ちた瞬間にジャンプしてれば大丈夫。
天才的だろ。
実際に、二段ジャンプやジェットが出るブーツを履いてから似たようなことしてたしな。
「……今だ!」
タマがヒュンとするような慣れた浮遊感で、タイミングを図って俺は二人を抱えたまま大きく跳躍した────!
こうして、サキュバスネストを破壊した俺だったが。
着地したときに足の骨がへし折れたことは、センセイとエリザを無事に救った名誉の負傷ということにしよう。
おかしいな、理論的には間違っていないはずだが……。
解説
退魔剣サキュバスタードソード
種別:片手半剣
特性:シームレス・ワン(破壊不能)
固有武装(所持者アルトリウス以外使用不能)
能力:刃が生命体を透過して精神にダメージを与える
吸精する種族の淫魔・吸血鬼・幽霊などに特攻
精神ダメージ量はアルトの意志力に比例。軽い気分で刺せば少ない量を奪う
非生物への切れ味は本人の腕次第。魔法も打ち払えるが、それも技量に依る
呼ぶとアルトの手に出現する
わきあがる力
種別:歌
特性:鳥取県県歌
能力:鳥取 鳥取 鳥取県民と歌い上げる
トリピー
種別:鳥取県マスコットキャラ
特性:鳥というかナシ
能力:羽根の生えたナシ




