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投擲士と探検技工士は洞窟を潜る  作者: 左高例
第二章『次の物語』
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第6話『惑わされるなと言っておる』


 ダンジョンってのは基本的に人間が通れる条件で作られている。

 その点で言えば、センセイとエリザと三人でこの前潜った洞窟よりも、専門的な探検の準備は必要無い。

 登れない絶壁、底の見えない断崖、道を埋め尽くす地底湖などは基本的に出現しない。あっても、クラフトワーカーの助け無くとも通れる程度の措置がある。

 罠は見えないものの歩き易くはある通路を進んでいると、次の部屋が現れた。

 センセイと並んで頷き合い、静かに、だが素早くドアを開けて部屋の中を確かめる。

 中にはサキュバスケルトンによく似た骨の魔物が五体ほど部屋の中央に並んでいた。ただし、その手には剣と盾を持っている。

 予め聞いていた、上位種のサキュバスパルトイだ。特技は誘惑と武器による近接攻撃。

 俺は躊躇わず三つの焼夷手榴弾を部屋の中に叩き込んだ。すぐさまセンセイが扉を閉めると、内部で爆発した音が聞こえる。不死系の魔物は浄化されるので火に弱い。

 間髪入れずにセンセイは再度扉を開いて、石材と木材と燭台から作り上げた、ワイヤー式連射クロスボウを煙と熱の篭もる室内に打ち込みまくる。貫通力よりも打撃力を高めた、発射後に十字に展開する炸裂スタンボルトを射出する武器だ。


「クリアー!」

 "よし、仕留めたか"


 火に焼かれて動きを止めていたサキュバスパルトイらも、強力なクロスボウの一撃で頭蓋骨や脊髄をへし折られて地面に崩れ落ちたようだ。

 相手がサキュバスモンスターだろうと容赦無い部屋の制圧である。というか武器持ってる相手に五体同時はやってられん。こちとらパン一なのに。

 爆煙が包んで焦げた室内に入ると、どことなく絨毯やらベッドやらが置かれている豪華な部屋だった。

 中央付近まで進むと、声が響く。


『くっくっく……よくここまで来たでちね』

「うるせえええ!!」

『ひっ』


 誰だ?とは聞かない。

 十中八九サキュバスなのでとりあえず怒鳴った。会話じゃなくて怒鳴るのが大事だ。

 部屋のモヤが先に続く扉の前で集まり、驚いたような顔をしたサキュバスの少女が現れた。

 青白い肌に小さな角。背中にしょぼい羽根と尻尾。そして服装は幼児が着る青いスモック服と黄色い帽子を被っている。

 一桁年齢にしか見えない、幼女サキュバスであった。


「い、いきなりあちしの配下を始末するとは……さすがは四天王最強の、すぐ人間形態になるがっかりドラゴン娘のバハ子を倒してきたやつらでち……」


 ビビりながらも予め決めていた台詞のようにそう呟いた。

 というかあのバハムートドラゴン、すぐ人間に変化するのか……いや、そりゃあドラゴン属性よりは普通に女の子の方が誘惑できるんだろうが……


「でもここは! 四天王の一人、ペドサキュバスが相手をするでち!!」


 そのペド幼女はびしっと俺に指を突き付けてそう宣言してきた。


「センセイ。ここは俺に任せておけ。近づくと転化が進む可能性がある」

 "あ、ああ。大丈夫か?"

「大丈夫だ。俺はロリ属性無いしな」


 そして、敢えてこちらから略称ペドサに大股で近づいていく。

 

「ああああ!? んっだコラテメェー!! なんだボケエエ!」

「ううっ、お、お兄ちゃ」

「ハァァンコラアアア! 糞ガキがアアア!!」


 サキュバス対策の一つ。とにかくキレて話に付き合わない。

 そして相手が触ってくる前に、


「オッラアアア! ボケカスゥウウ!!」

「へぶっ!」


 俺の腰ぐらいまでしか身長の無いペドサの腹に蹴りを叩き込んで踏み潰した。

 

「痛い! 痛いよう!」

「ンッジャコラアア! ナンッッテメー!」

「えほっ! おえっ! うあああん! ひぐっ」

「ハアアアアン!? ハアアアアアアアアアアン!?」

 "アルト。ちょっと、アルト"


 倒れたペドサに蹴りをぶっ込みまくっている俺の手を掴んで、センセイが引っ張った。


「何だよ今いいところなのに」


 少し離れたところに連れてこられて、ヒソヒソと話しだす。


 "絵面が最悪すぎるんだけど……半裸で幼女に怒鳴りながら蹴りまくるチンピラって"

「仕方ないじゃん! そういう方法で倒す、そういう形をした魔物なんだから!」

 "いや、それは分かるんだけど今のご時世じゃちょっとえぐすぎるっていうか……幼女虐待のアルトとかあだ名つけられそうで"


 こんなダンジョンの中で何の風評を気にする必要があるというのか。

 しかし、だ。

 センセイがそう見ているというのは中々に痛いことではあった。

 考えても見て欲しい。冒険の仲間に幼女虐待が趣味の男が居たとしたらどう思う? 俺は嫌だ。すげー嫌だ。

 たとえ、事実としては幼女型の魔物を退治するためにやむを得なく暴行を振るっているのだとしても微妙に感情的なしこりは残りそうであった。

 面倒なことだが、全て仕事と割りきって生きるには人間の精神は強くない。

 その場限りの傭兵づきあいならまだしも、暫くは一緒に冒険する仲間だしな……。

 クソっ! ペドサキュバスめ! 体面的な精神攻撃をパッシブで持ってるとは!


「それじゃあどうするんだよ」

 "……埋めて見なかったことにするとか"

「センセイも微妙にエグいよな。育児疲れで幼児の死体遺棄みたいな……」

 "ううっ! そ、そんなことはしないぞ! 私子供を大事にする!"


 俺らが怯んでいると、ダメージを受けて倒れていたペドサが起き上がってきた。


「いたたたた……危ないところだったでち……」


 全体的にボロっとしている淫魔は結構なダメージを負っていたようだ。

 見た目の通り、体の強度はそんなに高くないらしい。少しばかり俺とセンセイが人間として大事な何かから目を瞑って、暴力という行為に身を任せれば仕留められたかもしれなかったが……

 

「女の子に何するでちか! ロリコンじゃないにしてもいきなりお腹蹴ってくるやつ初めて見たでち!」

「待て。今センセイと協議の結果が出た──俺ら後ろ向いてるからお前そこで自害しろ」

「しないでち!!」

 

 怒ったように園児服のサキュバスは羽根を広げて、体からピンク色の魔力を放出しだした。


「正攻法じゃ危ないからこっちも術を使わせてもらうでち……! 召喚魔法『サキュ幼稚園バス』!」

「なに!?」


 すると、どこからともなく変な物体がペドサの後ろにやってきて止まった。

 直方体の柱を横にして、四つばかり車輪をつけたような形で中が空洞でガラス窓があるものだ。乗り物なのか?

 その変な乗り物の入り口がぶしゅ、と音を鳴らして開くと、中からペドサと同じ外見年齢ぐらいで、スモックを着た様々な容姿の幼女サキュバスが十匹以上降りてきたのだ。

 

 "援軍か! 力は弱いが、サキュバスを召喚したようだ!"

「クソっ! ソッコで殺しとけばよかった!」

 "最近はそういう描写危ないんだって!"


 ぞろぞろと出てきた幼女サキュバス共に、リーダーであるペドサが命令を出す。


「さあ! あのお兄ちゃんとお姉ちゃんに遊んでもらうでち! 性的に!」

「はーい♥」

「産婦人科さんごっこしよー♥」

「あの二人もスモック着せよー♥」


 走って向かってくる淫魔共に危機感を覚える。幼いが故にヤバイ行為をさせられちまいそうだ。

 

 "クラフト──すべすべオイル!"


 するとセンセイが樽一つ創りだしてそれを蹴り正面に中身をぶち撒けた。

 樽からは油が広がり、のっぺりとした床を覆う。

 駆け寄ってきていたサキュバスがその摩擦係数を極端に減らす油を踏んで盛大にすっ転ぶ。

 動きが止まったところでクロスボウを発射する。空中で尖端が広がり、貫通力は下がるがプロボクサーにぶん殴られたぐらいの衝撃を与えるそれが先頭に居たサキュバスの一匹に直撃し、その姿を霧散させた。

 

「飛んでこー!」

「わー!」


 転んだサキュバス共は羽根を動かして空中を滑るようにこちらに移動を再開する。

 センセイが追撃で飛んだ連中に射撃を行うが、三次元的な運動でそれを軽く回避して接近。


「あぶねえ!」


 センセイを引っ込ませて盾を構える。前衛ガードは俺のガラじゃないんだが!

 シールドバッシュで殴りつけるように振るったが、見よう見まねの素人技だからか手応えはない。

 代わりに、即座に回りこんできたサキュバスが数体俺の体にしがみついた。


「ぬおっ!?」

「えーいお兄ちゃん一番乗りー♥♥」

「パンツ脱ぎ脱ぎー♥♥♥」


 ヤバイ。ちっこい手で体を直接掴まれただけで、何か体力気力的なものが減少していくのが自覚できた。 

 サキュバスのドレイン攻撃だ。手で触れる簡易ドレインで死ぬことはないが、抵抗力を削がれて身動きが取れなくされ、性交まで持ち込まれると死ぬまでドレインされる。

  

「うおおおおらああああ!!」

「きゃふっ」


 首元に抱きついているサキュバスの襟を掴んで引き剥がしてぶん投げる。

 腰に手を回しているサキュバスに肘を落とすと痛がって手を離したので、膝に抱きついているサキュバスごと足を振り回して蹴り飛ばした。膝にくっついてるのはそのまま地面に叩きつけて剥がす。

 

 "投網だ!"


 センセイが床に落ちた二体に金属製の投網を投げつけて動きを封じる。

 だが続けざまに数体がまた俺の近くまで飛んできていた。キリがねえ!


 "一旦通路まで引くぞ!"

「そうはさせぬでち!」


 すると、退路に奴らの乗り物が回りこんできてその大きな車体で扉を塞いでしまった。

 乗り物……仮称[バス]の運転席にはペドサが乗っている。どうやら自由自在にそれを動かせるようだ。

 

 "くっ……構造物は破壊するのに時間が掛かる"


 センセイは大木槌を恨めしげに見ながらそう言う。

 単純な塊と違い、複数の物体で構成されているものは一気に破壊できないのだろう。それこそ爆弾を使わない限りは。

 ペドサは船の舵輪めいた道具を両手で握り、こっちへと子供的な残酷さと悪戯心が見え隠れする笑みを浮かべて、ゆっくりとそれを方向転換させる。


「車で撥ねてから逆レイプしてやるでち!」

「発想が異様に治安悪ィ!?」

 "来るぞ!"


 徐々に加速してこちらにバスを突進させてきた!

 馬車なんかよりも余程質量物だ。ぶつかられればひとたまりも無いだろう。馬も居ねえのにどうやって動いてるんだ? センセイのホバークラフトみたいなもんか?

 こんなときに二段ジャンプのできる装備があれば楽なんだが。

 

 "アルト! 後ろに!"


 センセイが前に出て、手を合わせてクラフトした。

 唐突に出現したのは巨大な正方形のブロック塊である。空中から地面に設置された衝撃で軽く地面が揺れるほどの質量を持つ。

 壁のように立ちふさがるその塊に、バスが正面から突っ込んで──止まろうとしたのか一瞬減速し、それでも激突した。


「でちー!?」


 悲鳴が聞こえる。ひとまずこれでバスの方は大丈夫だろう。

 だがそっちに対応しているうちに他のサキュバスが絡んで来やがった。

 掴みかかってくるのに躊躇いがない集団ってだけで相当に厄介だ。囲まれていて、逃げこむ入り口のドア付近にも数体待ち構えているようだ。


 "うあっ!? ちょっ! パンツに手を入れるなあ!"

「センセイ嫌がるのは駄目だ、相手を助長させるぞ! 蹴って殴って振りほどけ!」

 "そうは言うが……!"


 取りつかれて困っているセンセイ。あくまで、ジャケットを着ていない彼女の体格は普通の女性であってオークレイパーのような筋繊維に鋼が混じっている女ではない。

 ざっと20kgぐらいの生き物が集団で体中に抱きついてきて、パンツやらサラシやらを引っ張っているのだからその対処しようは難しいだろう。

 ええい、こうなったら、


「体にオイルだ!」

 "! わかった!"


 俺のアドバイスでセンセイはすべすべオイルを頭から被って、肌の滑りをよくした。

 そしてぬるりとサキュバスの手から抜けだして距離を取る。俺も取りついていた三匹目を投げっぱなしパワーボムで床に叩きつけて逃げる。


「待て待てー!」

「オイルプレイー!」


 追いかけてくるサキュバスから、少しばかり顔色を悪くして息を切らせながらセンセイは言う。ドレインされて疲れているのだろう。


 "あのバスに籠城する!"

「了解!」


 停車しているバスに、運転席から乗り込む。

 正面部分がぐしゃぐしゃに壊れているが内部はそうでもなく、運転席にいるペドサは変な布団みたいなのが舵輪の左右から飛び出てきてそれに包まれて昏倒していた。衝撃を吸収して運転手を守る仕組みだろうか。

 とにかくそいつの襟首を掴んで外に引っ張りだし、投げ捨てる。俺が先に入って後から来たセンセイは壊れた周囲の素材を砕いて、再構成し割れた窓などの破損箇所を埋めて修理した。運転席のドアも外から開かないように鍵をする。

 バスの中はなんというか、子供用の椅子が並んで小さな遊具や菓子が散らばっている小部屋のようだ。俺が見回しているとセンセイが流れるような動きでガラスを砕いたかと思うと再び貼り直す。


 "強化ガラスに変えておいた。メイスの一撃でも砕けないだろう"

 

 他にサキュバスが入れる隙間が無いかチェックをして、ひとまず俺らはそのバス内に閉じこもることに成功したのだ。

 外から飛んでいるサキュバス共が、小さな手で窓をバンバンと叩いている。


「袋のネズミだな……」


 小憎たらしい顔をガラス越しに見ていると、外から声が聞こえる。


「その通りでち! 大人しくあちしらのカキタレになるでち!」

「うっせバーカブース!」

「むきー! 女はロリ化してペドサキュバスの仲間にしてやるでち! 男は絞ったあとショタ化してインピオするでち!」

「意味ワカんねえ専門用語使うな!」   


 さて、罵り合いはともあれこれからどうしたものか……

 油でぬらぬらなセンセイはそこらの道具を次々にマテリアルに変えつつ、言ってきた。


 "安心しろ、アルト。安全地帯からの一方的攻撃はクラフトワーカーの得意とするところだ"

「おう、頼りにしてるぜ。あと早く油拭いたほうがいいぞ」

 "……それもそうだな"


 子供用椅子から布素材も取れるのでそれでタオルを作って軽く拭きとった。

 

 "敏感水にはエタノール成分が含まれていたのでそれを抽出。バスにあったお菓子から塩化ナトリウムを取り出しそれを塩素に分解、塩素ガスを生成。素材から噴霧器と燃料から揮発し易いガスを創りだして……"


 次々にマテリアルを変化させて組み合わせて、やがて一つの装置を完成させた。

 大きな煙突のような道具はバスの屋根を突き破って外に出る。壊れた屋根を目張りする要領で隙間を塞いで、装置に手を掛けた。


 "完成! 睡眠ガス放出装置!"


 ゴウンゴウンと装置が動いたかと思ったら、屋根の上で蒸気が吹き出す音が聞こえた。

 窓から見るに、部屋中に白い煙が充満していく。

 それを吸い込んだサキュバスがふらふらと飛ぶ力を失って床に落ちていく。

 

 "エタノールと塩素ガスを化合させた睡眠薬を揮発成分でガス状にして噴出させている。肉体的には幼児と同じようだったから、少量でも効果は覿面のようだな"

「見ろよこれ……眠ってるように見えるだろ……」

 "眠ってるんだよ! 縁起でもないことを言わないでくれ!"


 バス内にあった幼児用マスクから、センセイは目まで覆うガスマスクを生成して渡してきた。

 外が静かになったのを確認して俺らはバスから出てペドサキュバスの部屋を後にするのであった。

 倒しても一切得しないんだからスルーできればそれが一番だな、うん。





この戦いで敗北した場合ノクターンイベント

『サキュバス幼稚園にようこそ!END』

になります

前の話でドラゴンに負けた場合は

『お前がパパになるんだよ!END』

に突入です。イベントCGと文章を回収して次の話へ

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