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投擲士と探検技工士は洞窟を潜る  作者: 左高例
第一章『始まりの冒険』
12/41

第12話『難しい年頃/二段ジャンプぐらい最初から実装してて欲しい』

 風呂から上がってメシの時間だ。 

 エリザとセンセイも復調していて、晩飯を用意していた。

 さてと今日のメシは……


・フカヒレの丸鶏スープ(サメ素材+塩素材+植物素材(筍になった)+コウモリ素材(鶏じゃねえだろ)+水)

・エビのステーキ、トリュフソース掛け(ザリガニ素材+塩素材+茸素材(大雑把すぎる)+油素材) 


「うますぎる!」

「舌でなんかがシャッキリポンですー!」

 "エリザのお祝いだからな……いや何故二人でダブルピースしているの"


 とりあえず薄汚い傭兵稼業な俺とは輪廻レベルで人生に関わり合いにならなそうな豪華メニューだった。

 ちなみに最初ダブPしたのはエリザで俺はやつと知能指数を合わせてやっただけだ。勘違いしてもらっちゃ困る。俺は大人なのだから。

 腹いっぱいになるまで食い終わったあとで、センセイなら別に材料も手間もそこそこで作れるわけで、最後の晩餐みたいな勢いでがっつかなくてもリクエストしたらまた食えたかなと思い直した。

 

「いやーセンセイの料理マジでうめえな。あとアレを付けてくれればパーフェクトなんだが。割烹g」

「はい! アルトくん! 割烹着を着たあたしがビールを注いであげますよ! 美味しいですか!?」

「小学校の給食に出てくるビールみたいな味がする……」

「出ませんよ給食にビールは!」


 素敵な俺の提案を遮った割烹着エリザから注がれた酒を呑んで、物哀しい感想を述べた。

 センセイが着たらきっと似合うはずだが、エリザが割烹着を着てもやはり給食当番にしか見えない。

 まあそんな感じで、食後の団欒も終えて再びエリザの技工士修行へ。 

 一応ながら彼女はマテリアル化と、素材収納術を覚えたわけだ。それだけでも運び屋として食っていけそうな技能だな。

 後はクラフトだ。


 "まずは改めて手本を見せよう。最も基本的な道具だ"


 センセイは木材のマテリアルキューブを床に並べて見せた。エリザはすぐ近くで、見逃すまいと目を見開いて見ている。俺は椅子に座ってビールを飲みながらだが。

 

 "木材を三つ。いいか、エリザ。クラフトの基本数は三つの素材だ。複雑なクラフトも単純なクラフトも、三の倍数で素材を組み合わせる"

「でも先生。例えば……ビールなんかは、穀物素材と水の二つですよね」

 "その場合は穀物を一、水を二の割合で使うことを意識する。三の倍数にすることで完成する物質が安定した存在になる。錬金術における三物質──硫黄・塩・水銀の関係のように"


 よくわかんねえが、まあ二つより三つのほうが安定感があるのは確かだな。二本足の椅子は倒れるが三本足なら倒れない。倒れないなら四本足にする必要もねえ。


 "三つの木材を組み合わせる。大事なのは完成図の構成や成分、強度に用途を思い浮かべることだ。可能ならば分子レベルで。具体的な完成品をしっかりとわかっていなければ、同じ素材はビールにもなるしウイスキーにもなり、ただの砂糖水か穀物の浮いた水にもなる。そして知っている物を全て作れるようになれば、知らない物すら作れるようになる。"


 言いながら、センセイは木材のマテリアルキューブを両手の平で挟むように、軽く叩いた。

 ぽん、という軽い音はてっきり完成品が出現するときの音だと思っていたが。

 センセイが手を合わせた音だった。

 間に挟んだマテリアルキューブは消え去り、その場には簡易な木製のベンチが出現している。


 "こうして作る"


 うん。さっぱりわからなかったね。

 マテリアルキューブが消滅してベンチが出現した。

 それ以外の過程はふっ飛ばされてアルトリウスくんにはわかりませんでした。グビっ(ビールを飲む音)。


「う、うにゅにゅ……」

 

 エリザは真似したように、木材を三つ並べて、積み木を叩きつけるようにくっつけようとした。

 だがセンセイのように手が打ち合う音はならずに、木材のマテリアルキューブはぽろりと手からこぼれて落ちるだけである。


「どうやってくっつけてるんですかー……」

 "これも感覚的なものだからな。マテリアル化と収納が出来たからできるようになるはずだ。ちなみに私のやり方は分子結合同士の隙間にもう一つの結合モデルをはめ込んで埋めるイメージで行っている"

「ううう」

 "何も私のやり方にこだわる必要は無い。クラフトの方法も千差万別、技工士によって違う。クラフト用の壺に素材を入れて混ぜあわせて作る者や、ハンマーで素材同士を叩いて作る者。例の銃使いなど一番面倒くさそうだった"

「ちなみにどんなだ?」


 俺の質問にセンセイは指を銃の形にして俺に向け、


 "『マテリアルリロード! 清純なるグラスアクア! 無垢なるシリアルクリア! 情熱のクリムゾンプラント! ──クラフト!』"


 仰々しくセンセイはそう告げると、素材をクラフトしてテーブルの上にコップに入った赤い汁を作り出した。

 訝しげに、俺がそれを軽く舐めるように呑む。トマトの甘みと、青臭さが強めの酒で気にならないカクテルであるようだ。


「……ウォッカのトマトジュース割り?」

 "……こんな風になんともない物をクラフトするのに、一々台詞を叫びながら銃に素材を込めて打ち出す。恐らく技工士の中では一番時間が掛かる面倒なタイプだ"

「センセイってその銃の技工士さんのことは詳しいんですね」


 エリザの修行とは関係ない質問に、センセイは頬を掻きながら応えた。


 "まあ……前に、少しだけ一緒に過ごしてたからな。昔なじみというやつだ"


 なんだと。 

 俺は吐血のようにトマトジュース酒を口から垂れ流した。昔つーことは外装をつける前か。

 気障なガンマン野郎とセンセイが並んでいる図を想像した。駄目だ。ガンマンなんて大抵悪い男だ。だって銃とか持ってるし。いや世界的にガンマンとかそんなに存在しないんだけどさ。

 死のう。今すぐ目の前で血を吐いて死んでセンセイの思い出になってやろう。なんか知らんがそんなプランが脳裏に湧いた。


「先生の恋人だったりしたんですか!?」


 余計なこと聞いてんじゃねえよエリザアアアアア!!

 なんだその歳相応の恋話見つけたみたいなキラキラした眼差しは。うわなんでこっちチラってみるのかなエリザくん後で死刑ね。


 "それはない。そもそもその銃の技工士は女ウェアウルフだったからな"

「なんだーウェアウルフかーハハハー」

「なんですかアルトくんその露骨な安心具合は」

 "安心?"


 首を傾げているセンセイに、なんでもないと手を振って返す。

 いやね? 別にこう特別なアレじゃないんですよ? 保護者的目線から見てセンセイみたいな若い女が、悪い奴に騙されてたりする想像で義憤に駆られただけであって。

 守護まもらねばならない精神というか。

 今時こんな純な人は珍しいわけで。

 

「でもでも、色んな種族の技工士が居るんですね」

 "ふむ……人間が多いが知っている限りではクリムゾン──その銃使いのウェアウルフと、ドワーフぐらいか"

「ドワーフさんこそ彼氏ですね!!」

 "勘ぐってるところを悪いが、そんな関係になった相手は居ないよ"


 何故かセンセイを傷物にしたがっているエリザの発言を、彼女はクールに流した。

 

「エーリーザーくーん。いい加減鬱陶しいぞ。人様の人間関係を根掘り葉掘り聞くもんじゃねえって」

「ううー……恋話が気になるお年ごろなんですよ」

「俺やセンセイより年上だろうが……仕方ねえ。俺の昔の女の話でも教えてやるか。妙齢の美女な魔法学者を敵地から救出しろって作戦があってな。あれは十年前、紛争中の国の山岳地帯でのことだった──」

「聞きません! 聞いてませんよ! そんなこと教えなくていいです!!」

「ワガママ放題だなあ。じゃあ恋話やめて修行の続きしろよ」

 "私はちょっと気になるが"


 センセイの話は聞きたがるのに俺の話は聞きたがらないとか。選り好みの基準がわからん。

 それにしてもそこそこ好みだったあの魔法学者の女どうしてるかな。借金にまみれて風俗落ちとかしてたら気兼ねなくお買い求めできるから落ちぶれてないものだろうか。

 

 などとゲスいことを思いながら、その夜はエリザもクラフトを成功できずに一日を終えた。




 *******




 翌日も修行はともかく仕事なのでエンヤコラと洞窟を進んでいく。

 それにしても長えなあこの洞窟。

 一人で潜ってたら確実に気が変になりそうだ。一日中洞窟を歩き続ける生活がもう何日目だったか。


「こりゃ帰るのも大変そうだぜ」

 "運が良ければ[ディメンションゲート]の素材が手に入るかもしれないな。そうなれば楽だ"

「ディメンションゲート?」


 歩きながらの会話が洞窟探検では娯楽の一つだ。黙っていると耳がキンキンしだす。

 声が響いて猛獣が寄ってくる……と思うこともあったが、そもそも肉食のやつなら足音だけで寄ってくるだろうし、そうじゃないなら話し声で逃げていくだろ。多分。

 センセイの聞き覚えの無い道具の説明を促した。


 "一瞬で地上まで戻れる道具だ。素材も貴重なものを使うから、それがここにあるかは不明だが"

「どんな材料なんですか?」

 "種類というか素材自体に込められた神秘性が大事でな。殆ど魔術のような領域だ。例えば竜の逆鱗、神鳥の尾羽根、百年マンドラゴラ、星の霊魂……"

「いいところに売り捌けばそれだけで大儲けになる物ばっかだな」


 ここがダンジョンなら或いはあるんだろうな。いや、元ダンジョンだから可能性はあるのか?


 魔力の満ちた迷宮は、その魔力から様々な生物や物質が自然発生する。

 そのメカニズムには様々な説があるが、俺が知ってるのはこういうのだ。

 宇宙というものは、ありとあらゆるものが存在する可能性を持っている。ここに俺という人間存在が居るが、実際のところ俺は宇宙のどこにでも居る可能性があった。その無数の可能性はとてつもなく低い確率であり、その中で一番可能性の高かった、ここにいる俺という存在が魔力か何かで自然発生して生活をすることになった。

 或いは観測もできない宇宙の彼方でも俺が偶然出現しているのかもしれないが、それは誰の目に止まることもなく宇宙の果てを漂い消えていく。

 石像を掘る職人は、大岩を前に「この岩の中には最初から像がある。俺はそれを掘り出してやるだけだ」と言うように。

 絵かきが白紙のキャンバスと絵の具を用意して「これで世界のなにもかもをあのキャンバスに存在させられる」と言うように。

 この宇宙には最初からあらゆるものがあらゆる場所に存在する可能性がある。それを、ダンジョンという閉鎖された世界を作りその内部のゆらぎに魔力を加えることで、偶然の魔物や財宝が生み出される。

 

 まあ理屈はともかく、ダンジョンを作ればドラゴンが出てくる可能性もあるし、神秘の宝が手に入る可能性もあるってことだ。

 

「クラフトって本当に魔法みたいなことができるんですねー」

 "少しだけ制作難度は下がるが、変わったワープ道具の[トラベルチケット]というほんの一日だけ私の拠点と行き来できる使い捨ての道具もある。これも手に入れば、素材の補給などに便利だ"

「拠点?」

 "一応、交易都市バニシュドに一軒家を持っていてな。家に大した物は置いていないが、半日もあればクラフトで金を稼いで必要な素材を購入するに足る"

「ふーん。バニシュドか。デカい傭兵のギルドあるよな。俺も行ったことあるよ」

「あ、あたしもっ!」


 こうして探検に出ていると、もう随分と寄っていない気がする街のことを考えていたら、ぐっと握りこぶしを作ってエリザが話題に割り込んできた。

 

「あ、あの三丁目のパン屋さんとか美味しかったですよね!」

「三丁目? ああ、あの戦闘用黒パンを売ってる魔女の店か」

 "当てると爆発するからな、あの黒パン"

「時々知らねえ観光客が食って爆発騒ぎを起こしてるのは美味しいっちゃ美味しい旅先の笑い話だよな。はっはっは」

「ううう……そ、そうですよね! 爆発してますよね!」

 "ちなみに黒パンの話は嘘だ"

「やーい知ったかぶりー」

「酷いです!!」


 二人でエリザを追い詰めるのはちょっと楽しい。巨悪に対抗するために協力するライバルみたいな感じで。

 

「大体、なんでそんな嘘をついてんだ」

「だって……二人だけ知ってる街の思い出を共有できて羨ましいなって……」

「そんなもん羨ましがるな。あー……そうだな。この洞窟の仕事終わったらお前も行ってみりゃいいだろ。バニシュド」

「うう……そうじゃなくて……」


 妙に歯切れが悪い。


「なんだったら俺が連れてってやるけど。お前一人だと危なっかしいし。センセイもいいだろ? どうせ次はどこに行くにしても、通り道みたいなもんだ」

 "……そうだな。エリザが良ければ、この洞窟を出てもついてきてくれて構わないのだが"

「い、行きます! 約束ですよ! 三人で一緒に行きましょうね……えへへ楽しみだあ」


 手を上げて喜ぶエリザは実に嬉しそうだった。さては友達居ないなこいつ。

 だがまあしかし。

 上の村では、エルフはエリザだけだった上に村長が若い頃から知っているぐらいの古株だ。

 どれだけ子供っぽくても人間はすぐにエリザを抜き去って成長していく。

 成長して老化する人間は、変わらない姿の彼女から距離を置くのも想像できた。いつまでもエリザと同じノリでは遊んでやれないのだ。

 

「──ま、洞窟を出てからの話だな。それも。せいぜい怪我しないように気をつけろよ、エリザ」

「はい!」

 

 返事だけは花丸をくれてやろう。

 

「じゃ、気をつけるアレとして全員ストップ。さっきから後ろ、なんかついてくる気配があるんだよな」

「ええ!?」

 "後ろからか。風の向き的には気づきにくいが、よくわかったな"

「ああ。松明の光を獲物の瞳が反射して……と」


 一行は隊列を反転。俺が先頭になって松明を後ろに向けた。センセイがすかさず、石の槍や剣を作って俺の近くの地面に放ってくれた。

 スモールサイズのランスじみた槍を手にとって、松明を代わりに数メートル後方へ投げた。地面に転がっても、煌々と炎を灯している。

 そしてその明かりの範囲に。

 ずるずると足を引きずるような動きで、土色の肌をしたあちこち欠損している人間の死体そっくりな生き物が、手を前にして近寄ってきていた。

 ゾンビだ。


「ひっ」


 息を呑むエリザだったが、相手の姿が見えりゃ対処は楽だ。それにゾンビは肌が柔らかい上に回避もしない雑魚。数が揃えば面倒だがな。

 投擲機を使うまでもなく、腕でぶん投げた槍がゾンビの胸に深々と突き刺さって、その重みにバランスを崩して地面に倒れる。

 

シックルを頼む」

 "了解"


 俺の要求にセンセイは鉄素材を組み合わせた手鎌を数本出してくれる。

 それを拾ってゾンビが来た方向に向けて回転させながら投げる。まあ、放物線を描かずとも百メートルは飛ぶだろう。

 何度か横にずれて、道をなるべくカバーするように投げた鎌には手応えが無かった。つまり、後ろにはもうゾンビは居ないということだ。

 なーんか別の気配感じたんだけど、気のせいか? それならいいんだけどよ。


「一匹だけか。ラクショーだな」

「ううう……なんでこんなところにゾンビが……」

「ビビるなって。ほらよく見てみろ。土ゾンビだ」


 センセイが近寄って念の為にサイコブラスターを叩きこんでるゾンビを、よくエリザに見せる。

 人体だったら血肉が飛び散りそうな攻撃だが、ゾンビの体はぐずぐずと崩れて地面に還っていく。


「土に霊魂が宿って人間の形を取ったタイプのゾンビだな。ネクロマンサーなんかは墓場で死体を調達するより楽だからこっちを使うことが多い。人権的にも気楽だ」

「本当ですかぁ?」

「一部の国じゃあ『土ゾンビにも人権を!』って活動で煩いところもあるけど少数派だ」

「センセイ……それもマテリアル化するんです?」


 土ゾンビの死体が完全に朽ちる前に、センセイがツルハシを取り出したのを見てエリザは声を掛けた。

 

 "まあ見てなさい"

 

 素材は土なんだがな。

 そう思っていると、センセイがツルハシを振るって取り出したマテリアルは、仄かに発光する謎の素材であった。


 "[土の霊魂素材]……神秘度は低いけれど、ゾンビを作っていた核だ。ああ、勿論誰か実在していた人の実際の魂ってわけじゃないから安心して欲しい"

「わぁ……あんなゾンビからなのに綺麗なマテリアルですね」

「醜い生き物からでもこうして私達の生活に役立つものが採取できるのです。だから死んだゾンビも光栄なんじゃないでしょうか」

「なんですかアルトくんその引っかかる物言い」

「前に雑誌で見たけど、カブトガニの血液を採取して売ってる会社の社長がそんなこと言ってて笑ったわ。悪の組織かよって」

 "……いや、土ゾンビはもう完全に非生物だからね? 襲ってくるし"


 解体されたゾンビはもう完全に土に還ったようだった。

 幾つかの霊魂マテリアルをリュックにしまって、一つだけ手に持ちながらセンセイは微妙そうに言った。

 まあ俺は動植物の保護にはあんまり興味無いタイプだが。アリの巣にお湯とか入れるし。虹色の油っぽいのが出てちょっと綺麗なんだぜ。


「それでセンセイ、霊魂はどういう物をクラフトするのに使うんですか?」

 "魔法系の道具に使ったりするが……そうだな。試しに私が、今まで作ったことのない物をクラフトしてみよう"


 言うとセンセイはなぜか俺の方を見てから、リュックからマテリアルを取り出した。

 ええと見た目からして[土の霊魂素材][瓶入りの風素材][グラビトン鉱石素材]だな。多分。そんな感じのマークがキューブに浮かんでるし。

 それらをクラフトすると──結び紐のついた湾曲した二枚の板みたいな道具が出来上がった。

 

「こりゃあ……防具?」

 "一応、脛当てをイメージして作った。アルト、付けてみてくれ"


 触ってみると金属質なのに軽い素材で作られているようだ。


「あれ? メチャ重い金属じゃなかったか? あれ」

 "正確には重さが変わる金属だ。魔力を込めると質によって、より重くなったり軽くなったりする"


 軽鎧はつけているものの、脛は保護していないので別段装備に問題は無い。むしろ洞窟だと、足回りを疎かにしたら面倒だろう。転んだときに脛当てがあったほうが多少は安心だ。

 そう思って付けてみる。


 "ちょっと軽くジャンプしてみてくれ"

「こうか?」


 言われてその場で跳躍すると──軽い違和感があった。

 普通は足の筋力で重力に逆らい、そしてその頂点で重力に負けて落ちる。

 だが今は飛んでいる間──速度は変わらないのだが、足の裏に地面があるような──。

 俺は感覚に任せて、ジャンプ中にもう一度足を蹴るという動作をした。


 すると、上昇中に再度蹴り足から得られる加速が発生して、俺はより高く跳躍をできた。

 

 つまり、二段ジャンプができたのである。


「うおおお!?」


 驚嘆と歓喜と奇妙な浮遊感に俺は叫んだ。垂直跳びだってのに、エリザの背を飛び越せるぐらい高く跳べたのだ!

 助走をつければ軽く3メートルぐらいは上に跳べるんじゃないか? これ!

 急な浮上だったが慌てずに着地をする。二回目の跳躍をすれば、足元の違和感は取れて高い位置から飛び降りたのと同等の衝撃が来るが、まあ5メートル以内なら怪我をせずに着地はできる。

 地面に降り立って、俺は喜んだ顔で二人を見回した。


「すっげえ! 今俺、二段ジャンプしたぞ! ヒュウ!」

 "我ながらなんて怖ろしいものを作ってしまったのだ……まるで自殺アイテム"


 わなわなとセンセイが震えていて、エリザは羨望の眼差しで俺を見てきた。

 何を恐ろしがってるのかわからんが、ぴょんぴょんと軽く二段ジャンプを繰り返してみる。


「凄い! 漫画みたいです! アルトくん! あたしもやりたい!」

「おお、いいぜ? ほらこの脛当てをつけて」


 外して、エリザにもそれを付けさせてやった。

 そして彼女は踏ん張るような仕草を見せて、


「えい!」

 

 ジャンプして空中で足を動かし──うお危ねえ!?


「いひゃああ!?」」


 バランスを崩して前につんのめるように二段目時点でスッ倒れるエリザを、慌てて落ちる前に掴んで引き寄せた。

 

「む、難しいですよこれ!? 空中でもう一段ジャンプするって動作が! アルトくんなんで普通にできるんですか?」

「ばっかおめー、男子ってのは若いころ誰だって二段ジャンプの練習をするもんだ。だけどエリザにゃちょいと危ないな」

 

 歩いてるだけで転びそうな娘に、二段ジャンプの高さからこけさせるわけにはいかない。

 エリザの足から脛当てを外して、今度はセンセイに聞いた。


「センセイはどうだ? 使ってみるか?」

 "……そんな高さから落ちるアイテムなど。アルトは私に死ねというのか"

「なんで!? 自分で作ったんだよな!?」


 とりあえず、この二段ジャンプアイテムは俺が使うことになった。ひゃほう。





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