第1話『ダンジョン生成始めました』
岩場を走るのと暗闇を走るのはどちらが危ないのか。
それを追求すれば恐らくどちらにも相応の危険性がありそうなものだが、そうすると暗闇の岩場を走るというのはもはや自殺行為に近いのではないだろうか。
俺はそう思いながら、目の前を走る少女が転ばないかハラハラしながら、一列になった暗闇岩場走り自殺志願チームの最後尾に居た。
転倒死を避ける用心として持っている松明の光を背後に向けて視線を向けると、反射する無数の僅かな光──獣の瞳だ──に焦りの声を上げる。
「ヤバイ、どんどん追いついてきてるぞ、多分!」
大型の猛獣が無数にじりじりと追いかけてきている。大きさは大型の虎ほどもあるだろうか。こんな洞窟の深部で、何を食って生きているのかまったくわからない。甘い汁でも湧いてるのか。
暗闇の岩場で獣に追いかけられるとか中々の危機的状況にあるわけだ。
俺は牽制のように背後に精神エネルギーを弾丸にする銃、サイコブラスターをぶっ放す。
緑閃光の粒がばら撒かれるがもとより集弾率が悪く狙いが甘いので弾が散らばり、追いかけてくる獣には碌に当たらない。当たったとしても数発じゃ勢いは止まらず、むしろ興奮しているようだ。一匹二匹ならまだしも、この数じゃ力不足かよ。
「せ、先生! どうしましょうか!?」
足を止めずに目の前を走る少女が髪を振り乱して叫んだ。
先生と彼女が呼ぶのは俺ではなく、暗闇岩場走りチームの先頭(三人組である)を行くリーダーのセンセイだ。
もっとも洞窟探検に関しては手練であるセンセイは小さなヘッドライトの灯りで正面を照らしながら道を走る。
ひとえに後ろを走るのに俺と少女が転ばないのも、センセイが安全なルートを選んでくれたり、時には瞬時に整地したりしてくれているからだった。
センセイの背負っている大きなリュックから二本の長い、先端がCのような形をしたマジックハンドが伸びて走る先にある段差や窪みを、石材で均していくのだ。センセイ特有の技術だか装備だかで走りながらリアルタイムに道が舗装される。
"音の反響からこの先に深い崖があるようだ"
センセイの報告が危機を助長させる。迷惑なことに真実はいつだって人を不幸にする。
少女が泣きそうな声で聞き返した。
「どうするんですか、追いつめられますよ!」
"崖を一気にトロッコで下るから覚悟をしていてくれ"
トロッコ。車輪の付いた箱である。勿論、そこらに落ちている物ではないし、俺達が担いで走っているわけではない。
だがセンセイのその提案で少女は息を飲んで、胃のあたりを押さえながら覚悟をしたようだ。
俺にも想像が付いた。センセイがトロッコを用意する方法が。
崖が近づく。下から風を感じた。背後の猛獣の群れが放つ気配は既に疾走へと代わり、俺達を追い詰める段階に入ったようだ。
"バラバラにならないように抱えてくれ。やれやれ、飛び降りるのは趣味じゃないのだが"
と、センセイは俺に言った。
「覚悟を決めろよ、二人とも」
俺は獣達への牽制に、持っていた松明を後ろに放り投げて走りを早め、まず少女を小脇に抱えた。
「きゃっ」
「しがみついてろ、物を落とすな、チビるなよ!」
「一度に三つも!」
続けてセンセイに並ぶ。すぐ先の道は見えなくなっていた。つまり、崖だ。
センセイのリュックを掴んで持ち上げ、俺は崖に飛び降りた。
浮遊感が臨死を彷彿とさせて色々と泣きたくなる。この洞窟に入る前の俺よ、なんでか崖から飛び降りるのにも慣れてしまったぞと過去を振り返った。
崖は直角ではなく、急勾配な坂道になっている。壁面はまあよく見えないのだが岩でゴツゴツしており、人間を大根おろしのようにするには十分だろう。
だが。
壁面に激突する僅かな滞空時間の中で、センセイは作業を行った。
マジックハンドがセンセイのリュックから必要な素材を取り出して、技工者の手に渡す。
木材と鉄の塊にしか見えないそれをセンセイは受け取り、両手で潰すように叩いた。
すると──何度見てもわからんのだが、ぽん、と空間に湧き出るように──この場合は、俺達三人をすっぽりと入れるように木箱が出現する。その箱の外側底面には鉄製の車輪がくっついていた。
トロッコを一瞬で作ったのである。
更にその神業は続いた。箱の中に入った衝撃で俺はセンセイの襟首から手を離したのだが、センセイはその間もマジックハンドを残像が見えるような速度で操る。リュックから素材を取り出して手元で組み立てた部品をトロッコの外に置いているようだ。
尻もちをついていた少女が恐る恐るトロッコから顔を出して外を見ると──センセイの行動が軌跡として残っている。
トロッコが崖を下るのと同じ速度で、センセイはトロッコのレールを作り、トロッコの進行方向に繋ぎ続けているのだ。
「嘘ぉ……」
次々に組み上がるレールを見て少女は口を半開きにしていた。確かに、とんでもない。まるでスタンプローラーでレールを作るように、するすると道がリアルタイムで作られていく。斜めにトロッコが落ちる速度とほぼ同じ速さで。
神業と云うしか無いが、ここに来るまでに何度も実感したセンセイの信頼できる技術であった。
「さすがセンセイだぜ。……げっ、あの猛獣ども崖を下って追いかけてきてやがる!」
「えええ!?」
岩を蹴り崩しながらも、こちらに駆けてくる地響きのような音が聞こえてくる。
人間様では転げ落ちたら死ぬ崖でも、頑丈な獣なら平気のようだ。これだから4足歩行は!
「ええい、狙い撃ちにしてやる。おい! センセイから素材借りて武器作ってくれ!」
この距離ではサイコブラスターは当たらん。自分でぶん投げた方がマシだと判断した。
「あたしが!?」
「センセイ今忙しいだろうが! 簡単なのでいいから早く!」
おどおどとした様子で少女はセンセイに顔を向ける。
"大丈夫、教えた通りに作るんだ"
師であるセンセイの言葉に少女は頷いて、センセイのリュックから素材を取り出した。レールに使う木材と鉄材には手を付けずに、石材と砂材を出して「ええと」などと手間取りながら並べる。
熟練のセンセイに掛かれば一瞬で作り上げるのでさっぱり俺には理解できていないのだが、ちゃんと作り方の法則というのがあるらしい。それに素材を加工して作成するには才能が必要だ。俺にはさっぱりできない。
「こうして──できた! [石の槍]!」
素材がぱっと消えて、少女の手元に石の槍ができあがる。
円すい形をした小型のランスのような石塊である。俺はそれを受け取って、手製の投擲機──鈎状になって道具を引っ掛けて投げる棒で、威力を増して投擲軌道がまっすぐになる──に乗せてトロッコの後方へ槍を射出した。
手応えがある。槍が猛獣の一匹に命中したようだ。怒号のような悲鳴が聞こえた。
多少頑丈な獣だろうが、戦場で鎧四枚ぶち抜いたことのある俺の投擲にはひとたまりも無いようだ。
「よし、どんどん作ってくれ!」
「はい!」
続けて渡されたのは砂材から作られた[硝子の斧]だ。これは柄を握って回転させるようにぶん投げる。
また先頭あたりのやつに当たって、キラキラと細かい硝子の粒子になりながら斧が砕け散った。広範囲に散らばる硝子の欠片が確かに複数の魔獣を怯ませる。
「よっしゃ!」
それから何度か石の槍と硝子の斧で攻撃を繰り返した。
やがて追いかけるものが居なくなり、トロッコで下り続ける崖の先を見ながら俺は呟いた。
「それにしても、この洞窟から出るのも大変そうだ……」
ヘッドライトが照らす、レールが組み上げられていく道の先を見ながら、この洞窟に足を踏み入れた時のことを思い出していた。
話は結構前に遡る。
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「──冗談はよしてくれると凄く助かる。誰が助かるって? ううん、そりゃ俺もだし、あと裁判所とかギルドとかそういうのもだ」
俺は少女と老人に向けてげんなりとした顔でそう言い放った。
軽装鎧に、腰と背中に取り出しやすいように工夫された道具袋をつけている傭兵風の男が俺だ。と言うか雇われてこの田舎の村にやってきた傭兵以外の何者でもないのだが。
傭兵っていうと戦争の兵隊で何十人から何百人集まってあれこれやるって感じだが、世間が平和なら数人規模で隊商の護衛したり、建物の警備員やったり、猛獣退治なんかの依頼をギルドで受けて日銭を稼いでる奴が多い。農民に戻るのもそこそこに居る。
相対する老人は村長であり、まあ十人に見せて村長だと教えれば反論は出ない程度に村長系の容姿をしていた。選挙で選べって言われたら無難に投票するぐらいには村長顔だ。
もう一人の少女は耳が葉っぱのように尖っている、青銀系の髪色をした種族である。この世界におけるエルフ族の特徴である。
長寿の種族なので正確な年齢は不明だが、顔つきに幼さが残り雰囲気も老練しているわけではない。外見的には十代半ばぐらいだろう。小柄でじっと俺を見上げている。
ともあれ、俺は再度確認をする。
「もう一回聞くけど、ダンジョン生成の仕事に入るのが、俺とその娘さんと、もう一人だけだってのか?」
「そうなる」
村長は頷き、応えた。
「依頼書にも、村から魔法使いの補助を出すと書いていたし、定員に達し次第募集は締め切ると書いていた。そして定員は、この娘を除いて二人」
「二人って!」
大きく肩を竦めながら言う。信じられないとばかりに。
「二人と来たか! 爺さん、ダンジョンの初期生成作業に使う人数を知ってるか? まだ攻略されてない、三大ダンジョンなんて百人単位で最奥まで極地法を使って僅か二人の人数を送り込んだんだぞ! それが最初から二人か!」
「だからなるべく精鋭をって高値の報酬出してギルドに頼んだんだろーが! あんた受けたんなら凄腕の傭兵なんだろ!」
自画自賛するわけじゃないが、これでも戦場で一度の投擲で四人の重装兵をぶっ殺したから[四枚通し]なんてアダ名で呼ばれてる、それなりに評価が高い傭兵ではあるのだが。
「募集要項よく見てなかったんだよ!」
「開き直るな!」
頭をがりがりと掻きながら呻く。
「成功報酬でダンジョンの命名権が貰えるって聞いて飛びついたんだけどなあ……」
それが二人、いや三人では成功は覚束ないだろうことぐらいはわかる。
飛びついた俺が悪いか? いや、多分見えにくい所とかに人数が書いてたんだろ。受付のジジイが苦笑してた気がするが、絶対そうだ。
ダンジョン生成作業という仕事がある。
これは天然に存在しているか人工的に作られたかは問わないが、すでに存在している地下洞穴や巨大な遺跡などを[ダンジョン]に変化させる仕事である。
基本的に洞窟などだが、入り口の門からしか入れない古代都市まるまる一つがダンジョンになっている例もある。
最奥の地点に[ダンジョンの証]と云うダンジョン神から授かるアーティファクトを設置することで、ただの洞窟や建造物は魔物が溢れて魔力により複製された宝物が自然発生するダンジョンへと変化する。
ダンジョンとなる元の洞窟や遺跡の規模が大きければ大きい程、ダンジョン化した時に出る魔物は強くなり、得られる財宝は増える。また、ダンジョンの証も次第に魔力を帯びて、ダンジョンマスターというボスモンスターに変化し、それを倒すと更に巨額の財宝が手に入る。
それを求めてダンジョン入り口近くの集落にはダンジョン探検者などが集まってくるし、所得した財宝を換金する金融機関やら増えた人口へ対応するサービス・娯楽産業も入ってくる。
つまりは、あちこちの名産が無いが自然に出来た洞窟などがある田舎は、村おこしにダンジョンを作るブームがあったのだ。
とはいえ探検者で大流行するような巨大ダンジョンの元になる場所は少なく、またダンジョンの証を置いてくる作業が酷く危険な為に徐々に流行は廃れた。
なにせ作業員は証を置いてダンジョン化した洞窟の、最も強い魔物が出る一番奥から脱出しないといけないのだ。人身御供などと噂されることさえあった。
現在でも攻略されていない幾つかのダンジョンでは、それこそ百人程の生成作業員が洞窟内で幾つもベースキャンプを作り、荷物を大量に持ち込んで作られた。こうなると掛かる費用はそれこそ大きな都市の計画予算でなければ払えない。
俺は再度確認するように、
「それで、ダンジョン候補の深さってのはどれぐらいなんだ? 一日二日で辿り着く場所ならまだわかるが……」
「この村が始まった数百年前から残る、超級奈落と呼ばれておる洞窟でな。昔に地元の領主が探検させたが、一月かけても底には辿り着かなかったそうな。噂によれば地下世界に繋がっているとか……」
「そんなところを三人で潜るのかよ!」
再び怒鳴ったが、相手はやかましそうに首を振った。冗談はよし子さんだぜ。
一応、ダンジョン生成作業に興味があって調べていただけあって危険度は村長よりも分かる。
つーか普通に考えて先のわからねえ一ヶ月潜っても底の見えねえ洞窟に三人で挑むとか、保険金狙いの事件かと疑う。
「地下世界か……ダンジョン作らなくても既に異界化してるような場所だぞ。となるとこの地下は虫や甲殻類だけじゃなくて魔物まで出てくる可能性もあるわけだ……」
俺が呟いてこいつらに言う通りに、地下世界はなんか知らんが地下深くにある妙な空間のことだ。前文明だか地下文明だかの遺跡とか、古代ダンジョンの名残とか言われてる場所だ。
地下の中を進んでいたらいきなり建物とか公園とか砂漠とか妙な場所に行き着くのがそれで、大体は深層に存在している。
「で、でも地下世界に繋がっているから、空気なんかは心配が少ないはず……多分」
「そりゃありがたい情報だ。嬉しくって涙出るぜ」
「うう」
少女が弱気そうに口ごもった。
洞窟を潜るわけだから場合によっては毒ガスが出てたり空気が薄かったりすることがある。俺が読んだ洞窟探検の本では、地熱と密閉された水蒸気でスチームサウナみたいなところもあったそうだ。
そういう場所は魔法使いがパーティに居ないと即引き返さねえと無理。
一方で、地下世界はまだ殆ど解明されてないが地上と同じく空気はあるそうだ。地上の入り口と繋がってるなら、風の通り道になっているので空気が流れている。
「それでお嬢ちゃん。オタクがついてくる魔法使いっつーんだけど」
「は、はい!」
「どれぐれー腕利きなんでございますか? 一級か準一級ぐらい持ってるんだよな、免許」
疑わしい声になるのはこの仕事のやる気がかなり失せているからだ。
どう見てもこの少女が腕のいい魔法使いに見えなかった。っていうか腕の良い魔法使いならこんな田舎村に居ねえ。
「さ、三級です……」
「ほー」
予想より低くて肩をすくめた。
大体魔法使いの階位免許は、特級から三級まで分かれているわけでつまり、
「見習い魔法使いを卒業したひよっ子レベルだ。初歩魔法ぐらいしか使えないだろ」
「お、お水を出したり……灯りや火を点けたりはできます! 村の子供たちとキャンプ教室とかに行くと役に立つんですからね!」
「おー便利便利。なあ、村長さんよ」
俺は声を潜めて老人に告げる。
「止めとこうぜ。つーかまずダンジョン作成関連の本で勉強しようぜ。どれだけ困難で金が掛かるかをよ。何なら講義してやってもいい──有料だが」
「い、いや! まだ来ておらんが、もう一人は超凄腕に依頼が通ったのだ! こんな幸運は滅多に無いんだぞ!」
「チョー凄腕つってもなあ……」
そう俺が呻いたときに。
背後から男とも女とも言えないような、独特の声が聞こえた。
"待たせたな。ここがダンジョン作成依頼のあった村か?"
奇妙な、印象の残りにくい声だった。本当に声を出したのか怪しくなるぐらい耳に残らない。ただ、言葉の意味はしっかりと伝わる。自分で説明しててよくわからんが、そんな声だ。
俺は振り向いて、その発言をしたもう一人の無謀な依頼につられてきたお仲間を見る。
その姿はなんというか──奇妙であった。
服装はいかにも探検家か作業員に見える、ライト付きヘルメットにツルハシの下がった大きなリュックサック。オーバーオールの作業着に頑丈そうなブーツ。腰には銃のようなものをベルトにつけている。
だがその服の中身は、人型ではあるのだが全体的にふっくらとした寸胴で……ドラム缶サイズの巨大コケシに手足をつけたような妙にデフォルメされた姿であった。
地域のマスコット的なキグルミと言っても信じられるが、版権的に多分セーフな感じの変な生き物だ。
「センセイ! よくぞ来てくださいました!」
村長が歓喜の声を上げた。
彼が言い放ったセンセイという言葉──[先生]とはニュアンスの異なる発音で、その奇抜な見た目から俺の知識中でカチリと人物が該当して上がった。
「ひょっとして……探検技工士のセンセイか!? 伝説のダンジョン潜りじゃねえか!」
こいつは俺も驚いた。
場末の酒場の喧嘩にボクシングチャンピオンが登場したっつーか、場末の酒場にミリオンアイドルが歌いに来たっつーか、場末の酒場のお通しがサーロインステーキだったっつーか。
場違いなレベルの有名なダンジョン専門家だ。
技工士という魔法職がある。特殊な才能が必要なレア職業で、成れれば大都市でも引く手数多で絶対食いっぱぐれない重要かつ便利な能力を持つ。
彼らの手に掛かれば石の素材から一瞬でレンガを作り、土の素材から即座に陶器を生み出し、木の素材から家具を一日で屋敷いっぱいに組み立て、砂の素材を透明な硝子に変えてしまう。
一軒家だって半日もあれば建てて道路に噴水、砦に大砲。料理や武具まで、世界にある植物鉱物有機物からなんでも作成してしまうのだ。
大工が恨む職業ナンバーワンだけれど、本気で数が少ないから仕事を完全に奪うまでには至っていない。更にどこでも生きられるので放浪癖があり、定住せずに世界をうろついているから何人いるかも正確にはわからない。
そんな中で一等の腕利きであり変わり種で有名なのが、センセイと呼ばれる目の前の彼?だ。
見た目は人間なのか何の種族なのかよくわからん、安い予算で作ったマスコットキャラみたいな版権セーフ存在だが、実際見るのは初めてである。
何故か彼は地上での仕事を殆ど請け負わず、ダンジョン生成とダンジョン攻略に力を注いでいる。故に世界でただ一人、探検技工士と呼ばれるのはセンセイだけだ。
その業績の特筆すべきは、
「ダンジョン生成における成功率100%……なんでこんなド田舎に!?」
ダンジョン生成と攻略に関わっていることで有名なのだが、攻略の方は単独で挑むことが多くて実際に攻略されたのかを他の者が確かめられないし、本人も語らないので成功率とかはよくわかっていない。ただ全て踏破している、という噂はある。
そして生成に関しては、センセイが参加した生成作業チームの証言もあり確実に全ての関わったダンジョンを成功させている。
彼が絡むか絡まないかでダンジョン生成に付けられる予算の桁が変わってくるレベルで信頼されているのだ。
"ダンジョンに関わることならば、私は参加する。それだけだ"
と、センセイは人形のような顔を俺に向けて言った。
「よく連絡が取れたな。わりと世界各地で待望されてるんだぜ、このセンセイ」
俺が聞くと村長が頷いて一枚の手紙を取り出した。
「ダンジョン神の神殿に[ダンジョンの証]を取りに行った時にな、たまたまそこにセンセイが居らして、頼むことができたのだ」
「ふーん。あれ? それにしちゃ到着が遅かったな」
"ダンジョン神殿でダンジョン拡張工事を手伝わされていたから、それを終わらしてからと約束したんだ"
センセイは事情を説明する。
ダンジョン神の聖地は一般の用事があるここの村長みたいな客が訪れる神殿以外に、開放されているダンジョンへ挑む冒険者が集まっている。
常に拡張を続けているダンジョン神のダンジョンはまさに無限の不思議なダンジョンであり有名だ。拡張に技工士を使っているのは噂に聞いたことがあったが。
それはともあれ。
このダンジョン生成にセンセイが絡むとなると、話は別だ。
成功率100%伝説は伊達じゃない、まさに超凄腕のダンジョン専門家である。
センセイのネームバリューに比べれば、[四枚通し]のアルトリウスなんて俺のちっぽけな評判は足元にも及ばない。酒場で自慢できるレベルと、国が顧問を頼んでくるレベルの差がある。世界的有名人でダンジョンに関わる冒険者の守護神扱い、実際恐らく無許可にセンセイお守りとかゲームブックとか売っている。そんなレベルの偉人だ。
そうなってくると、この無謀な人数で挑むダンジョン生成にも可能性が生まれるのではないか。
むしろ、可能性は急激に上昇して100%に到達したのでは?
「村長、俺頑張るよ! 」
「うわあさっきまでしたり顔で説教かましてきた傭兵が爽やかな笑みを浮かべてる」
「いやいやいや、これはマジで行けるって! なんだあんたすげえ幸運だな。よし! この俺とセンセイに任せておけばオールオッケーだ!」
「なんというか……凄い手のひら返しです」
呆れたようにエルフ娘が言うが、気にしない。
と、三級とはいえ確かに魔法使いが居て損はなく、彼女も仲間の一員だ。
「よろしく頼むぜ、お嬢ちゃん。名前なんて言うんだ?」
「エリザと呼んでください」
「俺はアルトリウスだ。長かったらアルトでもいいぞ。エリザもアダ名っぽいしな」
「は、はあ……」
握手をしていると、センセイも近づいてきて長袖と手袋に包まれたぬいぐるみのような手をこちらに伸ばして来た。
"エリザとアルトだな。私の紹介は必要なさそうだが、共に頑張ろう"
センセイは握手を求めながら友好的に言う。
二人順番に彼と手を握る。やはりぬいぐるみめいた感触だったが、まあいい。
よし、多少エリザは不安だがそれでもセンセイが参加するだけで百人力だろう。仕事が上手くいったら、高い報酬と俺が目当てにしているダンジョン命名権をゲットできる。
村の者であるエリザは外部協力者の雇用条件に命名権を出すだけあって、彼女がそれを取ることはない。センセイは今まで無数にダンジョンを生成してきて、命名にこだわったという話は聞かない。すると俺が貰えるわけだ。
吹けば飛ぶような、歴史になんの価値もねえ傭兵な俺だが、この仕事を成功させれば[アルトリウスダンジョン]として俺の名は残る。
それを目的にしてるのだから、やる気を出さねえとな。なにせ伝説が仲間に居るんだ。絶対やり遂げて見せる。
「よし! ダンジョン生成のために洞窟潜り、行こうぜ!」
俺が張り切ると、エリザが呆れたように言う。
「急にやる気出てますよこの人……」
そしてセンセイが冷静に頷いて告げた。
"まずは準備からな"
そうして、俺達の冒険は始まった。準備っておやつとウォッカはどれぐらい持ち込めばいいんだ? まあセンセイに聞けばいいか。




