第21話 平成の忍・服部忍蔵と双子ガキ忍者
『蒼天海賊団』の船を後にした真太郎達は、再びギルドタウンに戻ってきていた。
「敵襲とか色々と予想外の事態が重なったけど、なんとか目的は達せられたね」
「そだねっ!」
真太郎が少し疲れた顔でそう言うと、みこが元気な笑顔で答えてくれた。
しかし、そんな彼女が不意に顔を暗くする。
「だけど、また変なセクハラ野郎達が出て来るなんて思わなかったよ。やっぱり、街の治安は日に日に悪くなってるみたいだね……」
いつも元気なみこも事態のヤバさを実感したのか、不安げな顔だ。
「今みたいな状況を終わらせる為に、俺達は動いているんだ。ギルド会談が上手くいけば、もっと平和になると思うよ」
「って事は、あたし達の手に世界の命運がかかっている、と言っても過言じゃないねっ!」
みこがなんか勇者っぽい事を言って、やる気に満ちた顔をする。
「ところで、シンタローさん。さっき『お助け忍者』って言っていたけど、それってなぁに?」
「俺達が次に行く、ギルドは『飛龍忍軍』って言って、数あるギルドの中でも、他プレイヤーのサポートに主眼を置いている連中なんだ」
真太郎はそう言うと、勇者ゲームにおけるギルドについて話し始めた。
『勇者ゲーム』のギルドは大別して、『戦闘系』と『生産系』と『サポート系』に分ける事が出来る。
そして、その中でさらに目的別に、ゲームストーリー攻略組、アイテムコンプ組、テキストフレーバー探索組、まったりロールプレイ組、お色気イベントコンプ組などに細かく分ける事が出来る。
「因みに、俺達『名無しのギルド』は、戦闘系の攻略組というくくりになる。そして、これから行く『飛龍忍軍』は、その厳めしい名前に反して、初心者救済を謳うサポート系ギルドだ」
サポート系ギルドとは、戦闘やダンジョン捜索、アイテム採取の助っ人から、ゲームを始めて間もない初心者に対するアドバイスや、攻略の手伝いなどを主な活動目的にするギルドの総称だ。これには、ブログやSNSで攻略情報をまとめたりするゲーム外の活動も含まれる。
こうした活動内容から、サポート系ギルドは、コミュニケーションが密になるので、アットホームな雰囲気になる事が多かったので、人が多く集まっていた。
「そんなサポート系ギルドの中で、最も多くの人に支持されているのが、『飛龍忍軍』。規模的には四十人そこそこの中小ギルドだが、立ち上げメンバーが高レベ攻略組だったことから、少数精鋭の実力派集団なんだな」
などと真太郎がみこと話していると、刹那が「あっ」と言って、急に前方を指さした。
「あっ! 忍者が石○軍団みたいに炊き出ししてるぞっ!」
刹那が妙な事を言い出すなり、真太郎達が彼女の指さす方に視線をやった。
すると、刹那の言う通り、忍者屋敷の前で、忍者達が大きな鍋を持ちだして炊き出しをしているのが見えた。
「バカタロー、忍者共をからかいに行こうぜっ!」
「お前、ホント忍者好きだなぁ~」
いたずらっ子の様な顔をした刹那が駆け出すなり、真太郎も彼女の後を追った。
「おい、チビ忍者共! 炊き出しとは、面白そーな事やってんじゃねーかっ!」
「それ旨そうだなぁ、俺達にも下さいよ~」
何を思ったか、刹那と真太郎がガラの悪いチンピラみたいな感じで、大きな鍋から豚汁を炊き出していた双子の子供忍者におもむろに声をかけた。
「げっ!? 出たッ! こいつは、チンピラヒーラーじゃねーですかっ!」
「げげっ! 子供になってるけど、中二病アサシンじゃねーですかっ!」
赤と青の色違いの忍者装束を着た双子の女の子忍者達が、真太郎達を見るなり、二人同時に驚愕する。
「「お前ら、この世界にいなかったはずじゃねーんですかっ!?」」
変な言葉遣いの双子忍者が声を揃えて、真太郎達をズビシッと指さす。
「「いたんだなぁ、これが」」
それに応える形で、真太郎と刹那が仲のいい兄妹みたいな感じで、声を揃えて答える。
「頭領、頭領ーっ!」
「敵襲、敵襲ーっ!」
真太郎達がやって来るなり、泡食った双子忍者が大声で騒ぎ出した。
「光ある所に影がある――。影ある所に忍あり――。闇に蠢く不埒な悪を、天に代わって我が討つ……!」
すると、双子忍者と真太郎達の間に突如、爆弾が投げつけられ、ドロンと白煙が立ち上った。
「服部忍蔵、只今見参! ニンジャー!」
白煙が消え去るなり、真太郎達の前に、テンプレな格好をした忍者が、カッコつけながら姿を現した。
「うっせ、バカ忍者っ! 何の演出だっ、けむいんだよっ!」
忍者・忍蔵が現れるなり、刹那が彼のケツを思いっきり蹴飛ばす。
「デュフッ!」
「う~ん。スゴイ馬鹿」
刹那の不意打ちを喰らって地面に転がった忍者の忍蔵を、真太郎が馬鹿を見る目で見つめる。
「ったく、出て来るなり何やってんだよ。にんぞーちゃん」
「何をやっているでゴザル……だと……?」
忍者・服部忍蔵は、そう言うと、炊き出しの大釜をビシッと指さした。
「炊き出しをやっているでゴザルよッ!」
「なぜに、炊き出し?」
素朴な疑問を抱いた真太郎が、疑問をそのまま口にする。
「訳の分からないまま、訳の分からない世界にやって来てしまったんでゴザルよ。飯でも食わなっきゃやってられんでゴザル。某達の炊き出しで、皆が元気になってくれればと思って、精一杯炊き出しをやっているのでゴザルよニンニン!」
忍蔵がそんな事を言うなり、彼の後ろで双子忍者が騒ぎ出した。
「おい! そこの青髪女っ! おにぎりは一人一個までなんですよっ!」
「え~。いっぱいあるんだから、二個とってもいいじゃないですかぁ!」
「いくねーですよっ! 米は貴重なんですよっ!」
双子忍者がぷんぷんしながら、おにぎりを両手に握るみこを責める。
「おい、クソガキ共! ぎゃーぎゃー、うっせーぞっ!」
双子忍者がみこに絡んでギャーギャー言い出すなり、刹那が彼女達に蹴りを入れる。
「あぶねーですっ!」
「何すんですか、このクソガキがっ!」
刹那が蹴りを繰り出すなり、双子忍者が素早い身のこなしで揃ってそれを避けた。
「ガキはオメーらだ、ガキ忍者ズっ! 忍○まみたいなダサいカッコしやがって、なんだそれは!?」
「誰が、ガキ忍者ズですかっ!」
「忍者の正装を馬鹿にすんじゃねーですよっ!」
「ハッ! 馬鹿を馬鹿にすんのは当然だろ?」
「「ぶっこぶっ殺すっ!」」
刹那と双子忍者達が、良く分かんない理由で良く分からない喧嘩を始めた。
すると、その脇で、真太郎が忍蔵におもむろに会話を始めた。
「その豚汁とおにぎり、随分とおいしそうだね。にんぞーちゃんは、リアルでは料理人か何かなの?」
「まさか、拙者は生粋の忍者でゴザルよ? 料理などできはしないでゴザルよニンニン。サブ職業が『料理人』だと、リアルで料理が全く作れなくても、勝手に体が動くようになっているのでゴザルよ」
「ほほぅ、カイリ君の言う通りみたいだな」
真太郎はそんな事を呟くと、どう見ても本物そっくりな豚汁とおにぎりに視線をやった。
大きな鍋の中で煮込まれている豚汁からは、味噌と豚肉の食欲をそそる匂いが白い湯気と共に立ち上って来る。おにぎりは、ふっくらと炊きあがった白いお米とパリッとした海苔が、いかにも美味しそうな見た目だ。
「あのさ、にんぞーちゃん。この豚汁とおにぎりって、明らかに本物だよね? この食材は何処から手に入れたの?」
異世界にはそぐわない食材を見た真太郎が、強い疑問に駆られる。
「ギルドの倉庫に置いてあったのでゴザルよ。どうやら、ゲームで所持していたアイテムは、この世界でも自分の所有物として存在しているみたいでゴザルねニンニン」
「って事は、この豚汁とおにぎりは、この世界で新しく仕入れた食材ではないの?」
「そうでゴザルよ。この世界にやって来た時から、某達のギルドハウスの倉庫に置いてあったでゴザルよニンニン」
忍蔵は真太郎の質問に一通り答えると、おもむろに話題を変えた。
「そんな事より、シンタロー氏。急に現れて、何しに来たのでゴザルか?」
忍蔵がどこか警戒した顔つきでそう言うなり、双子忍者達が割って入って来た。
「このカスが! また、うちらの秘伝の巻物を奪いに来たんじゃねーですかっ!」
「そういえば、チンピラヒラーっ! テメー、うちらの家財道具一式を強奪して売ったですよねっ!」
丁寧語と罵声が入り混じる妙な言葉遣いで煽って来る双子忍者が、真太郎を警戒して武器を構える。
「こらこら、子供達。あれは、君達のギルマスが、俺にポーカーで負けた借金のカタとして貰って行っただけだよ。人聞きの悪い事を言うのは止めなさい」
修羅場慣れしている真太郎が大人な態度で双子忍者に諭すと、刹那がそれに加わった。
「そうだ、黙れ! それに、勇ゲーでは、タンスや壺の中身を奪うなんてちゃっちいことはしない、タンスや壺ごと強奪するのが勇ゲー流だ。よく覚えとけガキ共っ!」
刹那が余計な事を言うなり、双子忍者が小動物の様に荒ぶった。
「誰がガキですかぁーっ! テメーもガキじゃねーですかっ!」
「そうだ、そうだっ! テメー、どこ中ですよっ!」
「うるせーっ! 二人いっぺんにしゃべんじゃねーっ!」
刹那と双子忍者達が、再び中学生とは思えない低レベルな喧嘩を始める。
「おいおい、キッズ同士仲良くしろよなぁ~」
小学生以下の馬鹿な刹那達を見て呆れ顔でため息をついた真太郎は、これ以上グダるのを面倒臭がって、さっさと本題に入る事にした。
「現代を生きる忍・服部忍蔵殿、天下泰平に興味はおあり?」
真太郎は、そんな出だしから、ギルド会談についての話を始めた。




