第19話 迫りくる襲撃者
「あっはは! 成程、成程。シンタロー君の姿がずっと見えないと思ってたら、そんな面白い事やってたんだ。この状況で魔王に挑んで、しかも自爆なんて無茶すんのアンタぐらいだよ! アンタ、マジでゲーム通りぶっ飛んでるんだなっ!」
ゲームと変わらない真太郎のぶっ飛びぶりを知ったカイリが、楽しそうに笑って面白がる。
「とりあえず、右も左も危険がいっぱいの異世界だから、この街だけでも安心して暮らせる様に、今の混沌とした状況を変えたいんだよねぇ。んで、今の所、『ポム・アンプワゾネ』、『渾沌騎士団』、『JMA』の三大ギルドと『獣人同盟』が、ギルド会談に参加してくれる見通しだ。『蒼天海賊団』にも、是非とも参加してほしい」
話を終えた真太郎が、カイリにギルド会談参加を求める。
「いいね、実に面白そうな話だ」
「参加決定だね、ありがとう。カイリ君が、話が分かる人で良かったよ」
話がまとまったと思った真太郎が、ほっと一息つく。
「だが、その素敵なお誘いは、お断り申し上げるぜ」
「え?」
カイリの思いがけない言葉を聞いた真太郎が、思わず間の抜けた声を出す。
「悪いが、誰が味方で誰が敵か分からない今の状況下で、ほいほいと船を降りる訳にはいかないな。今の俺には、妹のかなこの他にも、守らなきゃいけない仲間がいっぱいいるんでね」
「はぁ? 何言ってんだよ。女の子はべらせて船に引きこもるつもりかよ」
話がまとまると思った所に冷や水を浴びせられた真太郎が、思わず毒づく。
「陸の上に比べれば、この船の方が数倍安全だからな。そりゃ、船に引きこもりもするさ」
「陸の上より、船が安全? そりゃないでしょ? つか、飯はどうすんだよ?」
「飯ならいくらでも手に入るさ」
そう言うとカイリは、この世界の『食』についてざっと話をしてくれた。
どうやらこの世界は、ただ単純に命を繋ぐだけならば、十分な食料を確保するのはそう難しくないらしい。
市場に行けばNPC達が、プレイヤーでも食べられる食料を売っているし、海で釣りをすれば、食べることが出来る魚も釣れる。
どちらも味は、お世辞にも美味いと言えないものだが、味に文句さえ言わなければ満腹になるので、問題はないらしい。
「そんな訳で、何も食うものが無くて、飢え死にする様な事態にはなっていない。サブ職業が漁師の子が何人かいるし、今後もおそらく飯に困る事はないだろうね」
『勇者ゲーム』の世界での食糧アイテムは、市場で買い求めるほかに、フィールドエリアで集める事も出来る。
具体的には、戦闘でモンスターや動物を倒すと、ドロップアイテムとして各種の肉が入手できる。また、山や野原で植物を採取すれば、木の実や野草が手に入り、海で釣りをすれば魚介類が手に入るのだ。
「ゲームと同様に、この世界でも食料はフィールドに溢れている。だから、仮に金が尽きても、ゲームの設定が反映された今の頑強な体があれば、自給自足は十分に可能さ。それに、俺のメイン職業は『侍』で、サブ職業は『料理人』だ、獲物を自分で狩れて、料理もできる。食うに困る事は今の所、皆無と言っていいだろうね」
「へぇ~、そいつは凄い。でも、服はどうするんだい? 潮風と直射日光ですぐにダメになっちゃうだろ? ここは女の子ばっかだし、ある意味で死活問題なのでは?」
段々と好奇心がうずいて来た真太郎が、カイリに質問をぶつける。
「服も飯と似たようなもんさ。見た目を度外視すれば、手持ちの衣料アイテムは腐るほどあるし、装備の性能を気にしないなら、『裁縫師』と『武具職人』の生産職の子が、服を作り出すことが可能だ。困る事なんてないさ」
どうやら食料同様に、衣料もゲームの設定がしっかりと反映されているようだった。
「箸や皿やお椀なんかの日用品や、マストなんかの少し大きなアイテムも『大工』の子が何とかしてくれるし、船の中にいても生活必需品は大体手に入るのさ」
「……成程。ゲームで培ったスキルを使えば、衣と食は、ほぼ自給自足できるのか」
「そういう事」
「でも、住は? デカい船とはいえ、流石に何十人もが長期間一緒にいるのは、キツイでしょ?」
「安全面や快適さを気にさえしなければ、問題ないよ。トイレは海にすればいいし、寝床もマストにハンモックを吊るせば事足りるしね」
カイリはそう言うと、持っていた刀で、マストに括り付けられているハンモックを指し示した。
「つまり、衣食住の質を気にせずに、単純に『生き抜く』だけならば、船から降りて命の危険を冒す必要は無いのさ」
カイリの言葉にギルメンの女の子達が誰も反論しない事から、彼の言葉が正しい事が窺い知れた。
「成程……ね。カイリ君の話はもっともだ」
カイリの話を最後まで聞いた真太郎は、なんだか妙に納得した気分になってしまった。
真太郎が、ギルド会談に蒼天海賊団を参加させるという使命を忘れそうになるなり、突然何者かが船に乗り込んで来た。
「おや~、良い船があるから貰おうと思って来てみれば……どーなってんだよ、これはぁ? 美少女集めたハーレム発見だぜぇ!」
「男が三人、あと三十人以上皆女の子かよ~。やりたい放題でうらやましぃ~」
「んじゃ、あの男共をぶっ殺して、俺達三人が交代でもするかッ! ぎゃはは!」
我が物顔で船に乗り込んできたのは、いかにも柄の悪い感じの男達、三人だ。
どうやら、真太郎とカイリは言うに及ばず、他の連中も二人の会話に聞き耳を立てていたせいで、彼らの接近に気付かなかったようだ。
「なんだこいつらッ!?」
侵入者に気付いた真太郎が、素早く彼らのステータスを確認する。
(三人ともレベル99か。それに職業が『暗黒騎士』に『忍者』、『呪術師』か。厄介な面子だな。しかも、PKが可能なこの状況では、ある意味不意打ちを喰らってると同義。さて、どうする……)
簡易ステータスから敵の戦力を推し量った真太郎が、苦い顔をする。
すると、カイリがうんざりした顔で頭を掻いた。
「やれやれ、また馬鹿が来やがった。この世界では、こういう馬鹿共をきりなく相手しなきゃならないのか?」
カイリの台詞から、彼をギルド会談に引きづり込める算段を閃いた真太郎が、微かにニヤリとする。
「多分そうだろうね。今の状況を放っておけば、こういうのぼせ上がった馬鹿がうようよ湧いて来るよ」
「俺達が馬鹿だとぉ! 失礼しちゃうなぁ!」
真太郎の言葉を聞いた暗黒騎士の男が、ニヤニヤ笑いながら、わざとらしく怒ってみせる。
「それは実に、不愉快だな」
「気が合うね。俺も同感だよ」
カイリが自分の言葉に反応を示してくれた事が嬉しかった真太郎は、自分の閃きに勝算を見て、再びニンマリとする。
「高レベルの馬鹿が一番厄介だな。中身は馬鹿なのに、力は化け物だ。こいつらが野良パーティーじゃなく、ギルド単位で動くようになった所を想像すると、ぞっとするぜ」
「問題無いんじゃない? のぼせ上がった馬鹿共が徒党を組んだとしても、先んず自壊するだろうからね。ここは『勇者ゲーム』の世界だけど、ゲームじゃなくて現実なんだ。コミュニケーション能力が無い上に馬鹿な連中が、組織だって動ける訳ないもん」
真太郎がそう言うなり、侵入者を睨みつけるカイリが横目で彼を見た。
「馬鹿共に、コミュニケーション能力が備わっていて組織だって動いていたら?」
「あの馬鹿共みたいに、PKだか猥褻行為やらをする為に徒党を組んで、うろちょろするんじゃないの? 時には、人の家に押し入って無理矢理、女の子を攫ったりとかもするだろうねぇ。それ以上の事は、純情派の俺の口からはとても言えないよ」
「おいおいー! テメーら、なーに無視してくれちゃってんのー! マジでぶっ殺しちゃうよー!」
自分達を無視して話を続ける真太郎達に、忍者が不快感を露わにして刀を抜いた。
「あーあー。あの忍者ったら、粋がって武器出しちゃったよ」
刀を抜いた忍者を警戒する真太郎が、軽口を叩きながら相手の出方を窺う。
「強い武器と力を持てば、その威力を試したくなる。むしゃくしゃすれば、自分より弱い者をいじめてみたくなったりもする――それが、人間ってもんさ」
カイリはそう言うと、うんざりした様にため息をついた。
「だけど、通常であればブレーキがかかる。ちょっとした良心だったり、世間体だったり、罪悪感や恐怖心だったりな。だが、この世界は勇ゲーに似てるせいで、ブレーキが効きづらくなっている。馬鹿に強い力と武器なんて最悪の組み合わせだぜ」
「はぁ? 何かっこつけて語りに入ってんだよ! この半裸のポエマー野郎がッ!」
ずっと無視されている事に耐えかねた呪術師の男が、カイリを煽った。
「いや~、カイリ君、めっちゃ煽られてんじゃん。そーいえば、聞いた話によると、どの業界でもイケメンは、妬まれて出世が出来ないらしいね。なにもしなくても女が寄ってくるような男を、ほとんどの男は快く想っていないってのが理由らしいよ。普通にしてるだけで人の怨みを買うなんて、イケメンも苦労が多いんだねぇ~」
侵入者たちに便乗した真太郎は軽口を叩くと、不意に真顔でカイリを見つめた。
「カイリ君、今のままだと、敵が多くなり続けるよ。君一人で、この船の皆を守れるのかい?」
「それ、質問か? だとしたら、答えるまでも無い愚問だな」
カイリがすげなく答えるなり、真太郎が不安そうにしているかなこを指さした。
「何があっても、海賊王を守れるかい? 君が想像も出来ない様な想定外の『何かがあっても』だよ?」
真太郎が毒を込めて語るなり、カイリが目を細めて口を閉じた。
そんなカイリを見るなり、真太郎が「釣れた」とばかりにニヤリと笑う。
「余談ですが、僕は海賊王、いやかなこちゃんの心の友なので、ご相談いただければ、アナタにも力をお貸しますよ? カイリお兄さん?」
真太郎がそう言うなり、侵入者にどんなに煽られても顔色一つ変えなかったカイリが、突然顔に怒気を滲ませた。
「黙れッ! アンタに兄さんなどと呼ばれる筋合いはないッ!」
カイリは真太郎を怒鳴りつけると同時に、甲板を蹴って駆けだした。




