第18話 暴れん幼女とシスコン兄貴
「何、急にどうしたの?」
突然、ぺこりと頭を下げて挨拶したかなこに、真太郎が戸惑う。
すると、刹那が訳知り顔で説明してくれた。
「最近の小学校では、不審者対策として、不審者を見たらとにかく牽制として挨拶をする事を推奨しているそうだぞ」
「ござ……」
刹那のもたらした情報を耳にしたイナバが、何とも言えない苦い顔をする。
「おい、シンタロー。なんだ、そのア○カツおじさんみたいな奴は?」
「幼女先輩――いや、海賊王。このおじさんは、貴女の第二の子分『剣聖のイナバ』です」
「ふぁっ!?」
驚愕の事実を知ったかなこが、幼い顔に驚愕を貼り付け、目を丸くする。
「ふぁっ!?」
「なんで、二回驚くんですか?」
「大事な事だから二回驚いたんだろう」
かなこが二回驚いた理由を、刹那が訳知り顔で説明してくれた。
「あーそう。そんな事より、海賊王。ここに、お兄ちゃんいます?」
「あんちゃんか? いるぞ」
そう言うと、かなこが船室に向かって大声で呼びかけた。
「あーんちゃーん!」
すると、船室から、十数人の女の子を引きつれた青年が姿を現した。
「可愛い妹に呼ばれて来てみれば、呼んでもいない客が勢揃いとは、こいつはどーいうことだ?」
かなこに呼ばれて出て来たのは、特徴的な白い髪を潮風にたなびかせるアイドル風のルックスが目を引く青年だ。
素肌に黒いコートを羽織り、身の丈以上の白鞘の刀を持つこのイケメン青年は、『蒼天海賊団』の真のリーダー・カイリである。
「やぁ、久しぶり。いや、はじめましての方が正確かな? しかし、カイリ君ってば、ゲームよりもイケメンじゃあないか」
ゲームよりもビジュアルがいいイケメンのカイリの姿を見た真太郎が、普通に感心する。
「シンタロー君。アンタ、俺の可愛い妹にちょっかいかけに来るなんて、良い度胸だな。ここは街じゃなくて海のフィールドエリアだ、PKが可能なんだぜ?」
挨拶もそこそこに、カイリが物騒な事を真太郎に語り掛ける。
すると、彼の取り巻きの女の子達が、一斉に武器を構えて真太郎を取り囲んだ
「カイリ君。登場するなり、シスコン全開じゃあないか」
いきなり命の危機に瀕した真太郎だったが、すでに幾多の修羅場を超えているので、この程度でたじろいだりはしなかった。
「それより、俺を殺しちゃったら、この船ごと大爆発しちゃうよ?」
それどころか、カイリに牽制を入れる余裕すらあった。
「なんだって?」
「俺は、死んだら自爆するアクセサリーを装備しているからね。俺を殺せば、その瞬間、この船ごとドカン! だよ」
真太郎がそう言って脅しをかけるなり、かなこが目をキラキラと輝かせた。
「おおぅ! シンタロー、いいなぁー! うちも自爆したいぞっ!」
かなこが馬鹿な事を言い出すなり、真太郎がステータス画面を表示させる。
そして、アイテムを選んでから、アイテムバッグにおもむろに手を突っ込んだ。
「じゃあ、この爆裂石をあげましょう。自爆したくなったら、この石を地面に叩きつけると石が爆発するので、お手軽に自爆が出来ますよ」
真太郎はアイテムバッグから赤い小石を取り出すと、かなこに手渡した。
「さんきゅ、シンタロー!」
かなこは真太郎から爆裂石を受け取るなり、いきなり甲板に叩きつけた。
「おっしゃ! 自爆じゃいーっ!」
「「「いっ!?」」」
思いもよらないかなこのぶっ飛んだ行動に、その場にいた全員が声を揃えて驚愕する。
「何やってんだ、クソガキ!」
「無茶苦茶でござるよ!」
「かなこー! あんちゃんを殺す気かぁぁぁー!?」
しかし、かなこが投げた小石が、爆発する事は無かった。
「おい、シンタロー! 爆発しないぞっ! こいつは不良品かっ!?」
足元に転がる小石を掴み上げたかなこが、不満げな顔で真太郎に抗議する。
「不良品じゃないですよ。絶対すぐに爆発させようとすると思ったから、ただの石ころをあげたんです」
ゲーム時代のかなこの性格を勘定に入れていた真太郎に、抜かりはなかった。
しかし、その計算高さが、裏目に出てしまう。
「きっさまぁ~っ! この海賊王にハッタリなどかましやがってっ! そのなめ腐ったポーカーフェイスをゲドゲドの恐怖面に変えてやらなきゃあ気がすまんっ!」
子分になめた真似をされたかなこが、怒りを爆発させてぶちギレてしまったのだ。
「バカタローが、子供を本気で怒らせたっ!? つか、このガキ口悪っ!」
ぶちキレたかなこを見た刹那が、驚きながらツッコミを入れる。
かなこがキレるなり、彼女の兄であるカイリもキレた。
「……シンタロー君。アンタ、俺の可愛い妹をぶちキレさせるなんて、どういうつもりだい? アンタ、喧嘩売りに来たのかよ……?」
愛しの妹を弄ばれたカイリが端正な顔に似合わない、凶暴な殺気を全身に纏うなり、真太郎が苦笑いする。
(海賊王のやんちゃさが面白くて、ついからかってしまったのは、マズったな……。この兄妹は、キレたら何すっか分かんねーから、慎重に行かないと。特にカイリのあんちゃんは、キレたら手におえないからなぁ~……)
カイリは一旦戦闘になれば、敵の返り血で自らの白い髪が赤く染まで徹底的に大暴れする事から、『血染めの修羅』または『蒼海の白髪鬼』という恐ろしげな異名を持つ要注意人物だった。
「カイリ君。そんな怖い顔をしても、脅しにもならないよ? それより、今の俺は、アダーの下働きだ。俺に危害を加えたら、それはアダーを敵に回し、ひいては『ポム・アンプワゾネ』のお姉様方を敵に回すって事になるけど、いいのかな?」
だが、既に人間よりも数億倍恐ろしい魔王と対峙した経験のある真太郎は、カイリごときにビビったりはしなかった。
「……シンタロー君が、ポムのねーさん方とつるんでるなんて話、初耳だな」
真太郎が、アダーとポム・アンプワゾネの名前を出すなり、カイリが俄かに警戒する。
「状況は常に変化し、情報は常に更新されているんだなぁ~」
「ふ~ん。で、そのアダーさんの下働きのシンタロー君が、何の用……ハッ!?」
真太郎の腹を探るかの様に警戒しながら話を続けていたカイリが、急に何かに気付いて目を丸くさせた。
「おいおい、シンタロー君。アンタ、なに海坊主なんか、テイムしてんだよッ!」
海風に長髪をたなびかせる海坊主然としたイナバに気付いたカイリが、刀に手を伸ばし、戦闘態勢に入る。
「してねーよ。あれは、海坊主でも舟幽霊でもない、『剣聖のイナバ』だよ」
イナバについていちいち説明するのが面倒になって来た真太郎が、雑な説明でカイリをあしらう。
「なんだってっ!? あの海坊主が、イナバの旦那だってっ!?」
「ひぃッ!」「あれが人間なのっ!?」「剣聖っていうか、ただの落武者じゃない!」
謎の海坊主の正体がイナバだと知ったカイリとその取り巻きの女の子達が、揃って驚愕する。
「まぁ、あれだよ。事実っていうのは、常に予想の斜め上を行くものだよ」
しかし、そんな毎度のリアクションにも流石に慣れて来た真太郎は、イナバの事をカイリ達にいちいち説明などしなかった。
「それより、女の子達に武器を下ろすように言ってくれないかな? これじゃ、落ち着いて話も出来やしないよ」
「おっと、これは申し訳ない。男を見たら、襲われる前に襲い掛かれって言ってあるんだよ。ほら、この世界はとても物騒だからさ。脅かして悪かったね」
カイリは冗談めかして笑うと、女の子達に武器を下ろすように言った。
どうやら、気の置けない会話のやり取りをする事で、真太郎に対する警戒レベルを下げてくれたようだ。
「問答無用で殺されなかったんだ、別に構わないさ。しかし、女の子を集めてハーレム作っちゃうなんて、いいご身分だね。モテモテ君」
包囲状態から解放された真太郎が、可愛い女の子をはべらせるアキトをジト目で見ながら腐す。
「ハーレム? ただギルドの皆で、まとまってるだけだけど?」
まったく悪意や自慢などの感情を込めずに言ったカイリが、素で不思議そうな顔をする。
(ふ、天然のモテ男は言う事が違うな。ま、妹もいるし、ギルメン集めてハーレムというよりも、ギルメン集めて守ってるってのが正しい所なのかもな)
真太郎はそんな事を思うと、カイリに自分がしてきた今までの体験と、ギルド会談の話を聞かせた。




