第17話 出ました! 海賊王かなこクライシス!
真太郎は今、重兵衛に振られた心の傷を癒す為、海にいた。
「海はいいね、俺の全てを受け入れてくれて癒してくれるよ」
『勇者ゲーム』には、人里以外に、馬やウサギなど野生動物が暮らす大草原、地の果てまで悠然と広がる大海原、灼熱の太陽が全てを焦がす砂漠、神話の動物たちが生息する深淵たる森林、天まで届く険しい山が連なる山脈、魔王とその眷属が根城としている暗黒大陸――などの様々な自然環境が存在する。
そしてオリエンスの街の南端は、この世界で最も大きな海に面しており、そこには港があった。
「駄猫にかまってもらえなかったくらいで、何を黄昏てんだよ。……しかし、港町なのに覇気がないな」
真太郎の『海賊王に癒して貰う』とかいう訳の分からない理由に従って港に来ていた刹那が、人気の無い寂れた港をグルリと一望する。
「ゲームだったら、船乗りやら貿易商やら漁師やらが、いっぱいいてスゲー賑やかなのに、今は人っ子一人いないのな」
「魚市にお魚を盗みに来たドラ猫すら、いないでござるなぁ。それに港なのに、船の姿が見当たらないでござるよ」
船が見当たらない寂しい港を一望したイナバが、訝しげに語る。
「ねぇー! 皆見て、見てっ! でっかい黒船が一隻、港から離れた所に泊ってるよっ!」
港を調べて回っていたみこが、港の隅で一隻の船を見つけた。
船の規模はフリゲート程度で、三本のマストを持ち、横帆7枚、縦帆3枚を備え、船体と帆は黒く塗られており、みこの言う通り正に黒船だった。
「いや~、ゲームと同じで良い船だなぁ。ゲームでも十分リアルな出来栄えだったけど、実物は本当の海賊船みたいだ。海賊王はやる事が本格的だなぁ」
「って、おいぃぃぃ! バカタロー、何しれっと乗り込んでんだよっ!」
いつの間にか、海賊船のタラップに足をかけていた真太郎に、刹那がツッコむ。
「船に玄関は無いんだから、乗り込んで直接挨拶しに行く他ないでしょ?」
そう言って刹那のツッコミを一蹴した真太郎が、黒塗りの海賊船に乗り込む。
「おい、待てよ! 相手は海賊だぞ! 勝手な行動をするなっ!」
交渉の相手がヤバそうだと警戒する刹那が、声を荒げて制止する。
「魔王がいる魔大陸は、海の向こうにある。よって、先々の事を考えると、船は絶対に必要。そして、俺の知り合いで船を持っているのは、『海賊王』のみ、相手が海賊だろうが、避けては通れんのだ。ビビりはここで待っていろ」
真太郎がそう言うと、刹那は馬鹿にされたと思って、ムッとしながら彼の後を追った。
「バカタローの癖に生意気言いやがって、俺がビビってるだとっ!」
「あはは! おしゃべり猫ちゃんの次は海賊だって! なんだかとっても面白そーっ!」
真太郎に続いて刹那、みこが、海賊船に乗り込む。
「ちょ、三人共っ! 拙者を置いて行かないで欲しいでござるーっ!」
そして、最後にイナバが海賊船に乗り込んだ。
四人が船に乗り込むと同時に、海賊船の船首の方から何者かが、勢いよく飛び出して来た。
「おりゃー! 侵入者共ぉー! 『蒼天海賊団』の船に侵入するとは、良い度胸だなぁ! この海賊王が成敗してくれるわーっ!」
「この元気な声はっ! 早速お出ましだな、『海賊王』っ!」
元気な声を張り上げて威勢よく現れたのは、小学生ぐらいの見た目の小さな女の子だった。
「って、誰? この幼女?」
自分が想像していた人物と違う人物が出て来た事に動揺を隠せない真太郎が、慌てて彼女の簡易ステータスを確認する。
『かなこクライシス!!! レベル36 海賊』
「ええっ、マジかよ!? 『海賊王』ってば、リアルじゃ幼女だったのかよッ!?」
ゲームでのかなこは、ダイナマイトバディが売りのセクシーな女海賊だった。
だが、今のかなこは、どう見ても海賊のコスプレをしている小学校低学年ぐらいの女の子にしか見えない。
「ど……どうなっているんだっ!? 俺が会いに来たのは、見た目はダイナマイトボディの超セクシーな大人のお姉さんなのに、中身は少女の様に無邪気でロリ声の天使『海賊王・かなこクライシス』だぞ……! この海賊のコスプレをした幼女は一体誰だ……?」
目の前のかなこの姿が自分の知っているゲームでの姿とあまりに違うので、思わず動揺してしまう真太郎だった。
「幼女じゃねーよっ! 小学三年生だよっ!」
「小学三年生っ!? 八歳かよっ!」
真太郎の胸の位置ぐらいまでしかない背丈で、あどけなさすぎる顔つきのかなこは、確かに小学三年生と言われてみれば、納得の見た目だった。
「違うっ、九歳だっ!」
年を間違えられて怒ったかなこが、サーベルを真太郎に突き付ける。
「おいっ、このやろー! うちを誰だと心得るっ!? うちは、七つの海を制覇した『海賊王』かなこクライシス様だぞっ!」
(海賊王って自分で言ったぞ……! 確かに、トレードマークの太陽の様に明るいオレンジ色の髪の毛と、髑髏があしらわれた海賊帽、そして、『蒼天海賊団』の長の証である青色のロングコートは、海賊王の物だ……)
「貴女は、本物の『海賊王』なんですか……?」
「ったりめーだろうがぃ! 『海賊王』かなこクライシス様は、世界に一人しかいないんだよぉっ!」
頭では、ゲームのキャラと、それを操作している現実の人間が別人だという事をしっかりと理解出来ている真太郎だったが、セクシー美女の正体が、謎の暴れん坊幼女だったという事実は、彼を少なからず混乱させた。
「マジか……。ゲームのキャラとプレイヤー本人の容姿が混ざるから、海賊王にはちょっと期待していたのに……」
不埒な期待を描いていた真太郎が、かなこの正体を知ってガックリとうなだれる。
「ま、正体がネカマで、おっさん化しているよりは、数億倍マシか……」
「そんな事より、お前は侵入者だなっ! 名を名乗れぇいーっ!」
事実を受け入れて若干落ち込む真太郎と対照的に、無駄に元気いっぱいなかなこが、彼の正体を暴こうとやっきになる。
「俺はシンタローですよ、『海賊王』」
落ち込むシンタローが名乗るなり、『海賊王』かなこが目を丸くして驚く。
「なにぃーっ!? シンタローだとぉ!? お前は、あのシンタローなのかっ?」
「どのシンタローか分からないですけど、俺は『海賊王』かなこクライシス第一の子分シンタローですよ」
真太郎はそう言うと、アイテムバッグから虹色のサンゴの首飾りを取り出した。
「はい、コレ。海賊王が前から欲しがっていた秘宝級アイテム『人魚姫の首飾り』です」
「なんだこれ? くれるのか……?」
かなこが子犬みたいな上目遣いで、首飾りを差し出す真太郎を見つめる。
「あげますよ。だって、ゲームで約束したじゃあないですか」
「わーいっ! やったぁーっ! えへへー、これずっと欲しかったんだーっ!」
不意打ちのプレゼント攻撃を受けたかなこが、無邪気にぴょんぴょん飛び跳ねて喜ぶ。
「でも、知らない人に物を貰うのは良くないって、あんちゃんが言ってた……」
しかし、すぐさま兄の忠告を思い出して、しゅんとする。
「だから、俺はシンタローだって。知らない人じゃないでしょ? ステータス画面を見てわかんない? それに何より、ゲームで交わした海賊王との約束をしっかり覚えているんだ、偽者の訳ないじゃないか。そうでしょ?」
「そうだなっ! さんきゅー、シンタロー!」
真太郎の問いかけにすぐさま納得するかなこは、ちょっとアホの子っぽかった。
「やだ! この子、ちょろいっ!」
素直すぎるかなこのちょろさに、思わずイナバが驚いて声を上げた。
「はうあ!」
すると、かなこがイナバに気付いた。
そして、気付いた瞬間、
「こんにちはっ!」
と大きな声で挨拶をした。




