第14話 にゃんにゃん! 猫人・重兵衛ちゃん!
「この強盗めっ! いい気味にゃ!」
猫人がアキトに罵声を浴びせるなり、真太郎が猫人に声をかけようと近づく。
「猫ちゃん。よければ、何があったか話してくれないかい?」
その際、猫に挨拶する時のセオリー通り、まず指の臭いをかがせた。
中腰でゆっくり近づく真太郎が、猫人の小さい鼻の前に指を差し出す。
すると、猫人がまるで本物の猫そっくりの動きで、クンクンと匂いを嗅いだ。
「クンクン……って、止めるにゃ! 猫扱いするにゃ!」
何故か猫が妙な事を言って荒ぶった。
「猫じゃん」
「猫じゃない、猫人にゃ! いや、人間にゃ!」
自分を人間だと言うの猫人は、その言動と簡易ステータスの表示から、『勇者ゲーム』のプレイヤーだという事が容易に理解出来た。
『柳生重兵衛 レベル99 シーフ/武具職人 所属ギルド・獣人同盟』
三毛の猫人のステータスを改めて見た真太郎が、俄かに驚く。
「あれぇー!? 君ってば、重兵衛ちゃんなのっ!?」
「そうにゃ。ステータス画面を見たら分かるにゃろ? お前は、ホントにバカタローにゃ」
目を丸くして驚く真太郎と対照的に、三毛の猫人・重兵衛は猫らしい素気なさでクールに応じた。
「つか、えっ!? マジで『猫人』になってんじゃん! どーなってんだよっ!?」
ふわふわの毛に覆われたちんまい体と、まるっこい顔にぴくぴくと動く三角の耳、ピンと伸びた髭としなやかに動く尻尾という猫の特徴、それに、自由に動く手の指と直立二足歩行という人間の特徴を合わせた姿の重兵衛は、どう見てもゲームに出て来る『猫人』そのものだった。
「それはこっちが聞きたいにゃん。ゲームやってて、ふと気が付いたら、人間の姿から『猫人』の姿になっていたのにゃ。理由なんて知らないにゃん……」
人間から猫人になってしまった今の状況を、受け入れる事がまだ出来ていないのだろう、重兵衛はかなり落ち込んでいるように見えた。
「しかも、勇ゲーそっくりの異世界に飛ばされちゃうし、凶暴なPKに追い掛け回されるし、もう訳が分からないにゃ……」
ふわふわの尻尾と髭をしょぼんと下げて打ちひしがれる重兵衛をかわいそうに思った真太郎が、慌てて慰める。
「ああ、重兵衛ちゃん! 泣かないで! 俺がいるから、もう大丈夫だよ?」
「シンタローがいた所で、どうにもならないにゃん。お前がいた所で、元の世界に帰れる訳じゃにゃいし……」
非情な現実を知っている重兵衛はネガティブな事を言って、真太郎の慰めを一蹴した。
「でも、助けてくれてありがとにゃん。やっぱり持つべきものは友達にゃ!」
重兵衛は気持ちを切り替えると、可愛らしいにゃんこスマイルで真太郎にお礼を言った。
「くっ! なんて可愛いいんだっ!」
無類の可愛さを誇る重兵衛のにゃんこスマイルに、真太郎が一撃でやられる。
「イナバもありがとにゃ」
「やだっ! このぬこ、拙者を萌え殺しに来たでござるぅー!」
「しかしお前、スゲーキモいにゃ。重兵衛、思わずドン引きだにゃ」
「ああっ! 何でござろう? 可愛すぎるから、キモオタ扱いされても不思議と許せちゃうでござるっ!」
どっからどう見ても可愛い猫にしか見えない重兵衛には、二次元しか愛せないロリコンのイナバも思わず骨抜きである。
イナバが骨抜きになるなり、みこがおもむろに重兵衛に声をかけた。
「あらあら、上手におしゃべりして、可愛い猫ちゃんだこと」
「お前も可愛いにゃん」
「あはは~。お世辞も言えるなんてすごいねぇ~。賢い猫ちゃんだねぇ~」
「誰が猫にゃ! 重兵衛は猫人、いや、人間にゃ!」
みこの何気ない言動にカチンときた重兵衛が、全身の毛を逆立てシャーシャー唸った。
「にゃにゃー言いやがって、重兵衛はマジで『猫人』になってんじゃねーか」
皆にお礼を言って回る重兵衛に、刹那が偉そうに声を掛けた。
「おおっ! お前は刹那か? にゃんだお前、女の子だったのかにゃ」
刹那に気付いた重兵衛は、ゲームとは違う可愛い少女姿の彼女を見て、丸い目を更に丸くして驚く。
「声から察するに、お前はメス猫みたいだな」
「誰が、メス猫にゃ! 重兵衛は女の子にゃ!」
刹那はいつもの様に尊大で生意気な態度だったが、重兵衛は彼女に対して不思議と親しみを込めた態度で応じていた。
「相変わらず、生意気なガキだにゃん。でも、元気そうで何よりにゃ」
「ふん。重兵衛もな」
というのも、刹那にとって重兵衛は、真太郎達同様の数少ない友人の一人だったからだ。
「止めろ、チュウ! 俺の重兵衛ちゃんに生意気な口を利くなっ!」
刹那と重兵衛が仲良くしているのが気に食わなかった真太郎が、十兵衛を抱きしめる。
「止めるのは、お前にゃ! 重兵衛を猫みたいに抱きしめるにゃ!」
猫扱いを嫌がる重兵衛が、真太郎の顔を爪で引っ掻いて逃げ出す。
「ああっ! 重兵衛ちゃんっ!」
「シンタロー殿は、相変わらず重兵衛ちゃんラブなのでござるなぁ」
ゲームで初めて重兵衛に出会ったその時から、悪魔すら萌え死ぬ彼女の無類の可愛さにノックアウトされた真太郎は、以降ずっと重兵衛のファンなのだ。
「重兵衛ちゃん、チュウなんかと仲良くしないで、俺にもふもふさせてぇ!」
「死ぬがいいにゃっ!」
「ああっ! 猫パンチする姿も可愛いっ!」
気安く触られる事を嫌がる重兵衛に猫パンチを喰らった真太郎だったが、その顔は実に幸せそうだった。
「シンタローは、この世界でも重兵衛のストーカーをするつもりかにゃ!」
ゲーム時代に、事あるごとに今の様なウザい絡まれ方をしていた重兵衛は、あんまり真太郎の事が好きではなかった。
「命を懸けて助けてあげたのにあんまりだよっ! 重兵衛ちゃんっ!」
真太郎がぶーぶー言うその横で、彼を無視した刹那と重兵衛が話を始める。
「そんな事より、重兵衛。お前はなんで、PKなんかに追われてたんだ?」
「うちのギルドのお店の見回りに行ったら、あのクソ野郎が押し込み強盗して来たのにゃ。そんで、慌ててアイテム持って逃げ出したら、いきなり襲い掛かって来たのにゃ」
「重兵衛ちゃんに襲い掛かるなんて、お前ホント、サイテーだなっ!」
愛しの重兵衛に危害を加えたアキトに、真太郎が怒りの鉄拳を喰らわせる。
「止めるでござるよ、シンタロー殿! そんな事をしたら『守護者』が出て来てしまうでござるよっ!」
街の治安を司る警備システム『秩序の守護者』の粛清を恐れたイナバが、慌てて真太郎を止める。
「大丈夫にゃ。その程度の攻撃じゃ、『守護者』は出て来ないにゃ。どりゃあ!」
重兵衛は貴重な情報を教えてくれると、そのままアキトに猫パンチを喰らわせた。
「って、何をしれっと殴っておるでござるかっ!? 重兵衛殿も、止めるでござるよっ!」
「テメーが意味も無く襲い掛かってくるせいで、あんな恥ずかしい真似しなきゃならなかったんだぞっ! このカス野郎、死んで詫びろっ!」
「せっちゃんまで攻撃に参加しちゃったっ!?」
刹那がアキトに死体蹴りを喰らわせるなり、イナバが慌てて三人を止める。
「何をやっているでござるか、三人ともっ!? 死体に鞭を打つ様な行為は、止めるでござるよっ!」
「黙れ、キモオタ! 俺はこいつに殺されかけたんだ、やり返して何が悪いっ!」
「重兵衛は、店を荒らされて商品まで盗まれ、その上、PKもされたのにゃ! 殴らなきゃ気が済まないにゃ!」
「オウフ……。せ、正論でござるな……」
やり返すに足る理由がある刹那と重兵衛だったので、イナバはあまり強く止める事が出来なくなってしまった。
「く、クソ……テメーら……な、何しやがる……っ!」
そんな事をやっていたら、刹那と重兵衛が無駄に攻撃をしたせいで、アキトが意識を取り戻してしまった。
「げげっー! こいつはマズいにゃんっ!」
予期せぬアキトの復活を目にした重兵衛が、尻尾をピンと立てて驚く。
すると、アキトがゆっくりと立ち上がり、懐に手を入れた。




