第9話 ここで、まさかのモテフラグ!? 色々あるよ人生は
(さ~て、これから皆殺しタイムだ。どいつから仕掛けるかなぁ~)
すっかりやる気になった真太郎が奇襲を企て始めると同時に、今まで黙り込んでいたイナバが急に口を開いた。
「……違う! お主の言っている事は間違っているでござるッ!」
拳を震わせながらイナバが声を荒げた。大声で怒鳴る彼の顔は、まるで大事なものを傷つけられたかのような悲痛さと怒りがないまぜになっている。
「お主の言う通り、ここは『勇者ゲーム』の世界でござる。ならば、拙者達は『勇者』なはず。その勇者が、女の子を大勢で襲う様な卑劣なマネをしていいと思っているのでござるかッ!? お主のやっている事は、ゲームにかこつけた犯罪行為でござるッ! 小癪な甘言で拙者を惑わそうなど、笑止千万ッ! それ以上、不愉快な戯言を言うのならば、叩き斬るでござるよッ!」
思いがけずイナバが露見させた男気を目の当たりにした瞬間、真太郎の口元が無意識にニンマリと吊り上がる。
(あぁ……やっぱこの人面白いなぁ! てっきり説得されたと思ってたのに、ここで裏切って来るとはズルいなぁ! まったく、面白い人だっ! この人に付いて来て正解だよっ!)
「師匠、アンタはやっぱ最高だっ! そのアホに言ってやってくださいよ!」
イナバが見せた男気をいたく気に入った真太郎が、彼への評価を爆上げさせる。
「さぁ! さっさと、その子を解放するでござるよっ!」
正義の炎を燃え上がらせるイナバが刀を抜くなり、アキトが馬鹿にしたようにニヤリと不敵に笑った。
「おいおい。なんだよ~、つれない奴だなぁ。ここはゲームの世界だぜ? 好き勝手にやって何が悪い? 俺がPKをしても運営は止めに来ないし、この女に手を出しても神は裁きに来ない。ならこれは、好きにやれって事じゃねーのか?」
「そんな訳ないでござろうッ! それにこの世界が仮にゲームだとしても、この世界に転移して来たばかりで右も左も分からないシンタロー殿をいきなり襲ったり、か弱い女の子を集団で襲ったりと、お主のやっている事は全て人間として見下げた犯罪行為でござるよッ!」
「はぁ? 市街エリア以外ではPK制限が無いって事は、それ以外ではPK大いに結構って事じゃねーか。ゲームの時もそうだっただろ、忘れたのか? ゲーム自体がどうぞPKして下さいって言ってんだ。俺は何も悪い事なんてしてねーよ」
アキトの言う通り、確かに勇者ゲームは対人戦闘有りの仕様だった。
「だからといって、ゲームのルールを逸脱したPK行為を奨励していた訳ではないでござる! 勇者ゲームのPvP機能は、プレイヤー同士で腕試しをする為の機能であって、殺人行為の奨励ではないでござるよ! お主の様なセクハラ行為まで含んだ悪質なPK行為は、運営方針に違反しているでござるッ!」
「おいおい~、急にキモオタ大先生のお説教タイムが始まったぜ~」
イナバに正論を吐かれた瞬間、アキトが話をはぐらかし始めた。
「なんでござるか、その態度は!? それは、やましい所がある時に取る反応でござるよっ!」
「ったく、うっせーな! PKして何が悪りーんだ、ああんッ! 俺が楽しければ、それでいーんだよ! それに、テメーらが嫌な思いをしようが、俺の知った事じゃねーんだよッ! だって、テメーら全員、どうでもいい人間だし。お前らが苦しもうが死のうが、俺はなんとも思わねーんだよ。つまり、お前らに対しての情など一切ねーんだよッ!」
PKがどこかで聞いた事のある事を言い出し、剣を構えてカッコつける。
「話は終わりだ。死ねや、キモオタ! お前ら、こいつらを皆殺しにしろッ!」
アキトは吐き捨てる様にそう言うと、仲間達に指示を飛ばした。
「ははは! このアキト様が、この世界の厳しさをテメーら、クソヌーブ共に教えてやるぜッ!」
アキトがそんな事を言うなり、真太郎が噴き出した。
「あはは! やべー、アイツ超カッコいいっ!」
アキトのいかにも小物な悪党ぶりを面白がった真太郎は悪戯心を刺激されたのか、彼の台詞に便乗して悪ノリしだした。
「やめろ! 俺はお前らに嫌な思いをさせたくないッ! それは、お前らが嫌な思いをしていたら、俺の心はきっとすごく痛むからだ。……だって、お前らはリアルで繋がりがなくても、ゲームで繋がった大切な仲間だからッ! 大袈裟に言えば、俺はここでお前らに出逢えた事に感謝している! それは、リアルに負けないぐらい強い絆を、ゲームでの繋がりに感じるからだっ! つまり俺は、お前ら全員に対して……熱い友情を感じているんだッ!」
真太郎が突然、魂が震える様な熱い台詞を吐くなり、虚を突かれたPK達の動きがピタリと止まる。
「ヤダ! シンタロー殿、カッコイイ!」
真太郎の熱い言葉に己の中の乙女を覚醒させられたイナバが、思わず胸キュンした。
「ただし、アキト。テメーには一切の情を感じんッ!」
先程殺されかけた事をしっかり覚えていた真太郎が、アキトに怒りを爆発させる。
刹那、真太郎がメニュー画面を起動させた。
そして、そのまま楽器を弾くような流麗な手つきでアイコンをタップして『魔法』のショートカットスロットを展開する。
「『クイックネス』! 『ストライクパワー』! 『インビンシブル』!」
補助魔法『クイックネス』と『ストライクパワー』で速さと攻撃力を増加させると同時に、一定時間敵の攻撃を無効化する『インビンシブル』によって無敵状態を作る。
(さっき軽く使っただけだから、また使えるかどうか分からず不安だったけど……どーやら、杞憂だったみたいだな! ゲーム時代のやり方を思い出せば、ビックリするほど簡単に魔法が使えるぞ!)
「『パラライズウインド』!」
更に間髪入れずに弱体化魔法『パラライズウインド』を発動して、アキトを麻痺させて動けなくさせる。
「そんなダセー魔法喰らうかよッ!」
「俺のアクセサリ『堕天使の指輪』のスキルは、『魔法必中』だ。お前が『魔法完全無効』のスキルを持ってなければ――」
真太郎がそこまで言うと、アキトの手足がだらりとだらしなく脱力した。
「ク……クソ……や、やひゃれ……た……ッ!」
「テメーは、容赦なく『麻痺状態』になって動けなくなるぜッ!」
麻痺魔法を叩き込んでアキトを無効化したのを確認すると同時に、真太郎は更に魔法を重ねて発動させる。
「『ウィークエネミー』! 『アーマーブレイク』!」
更に『ウィークエネミー』で敵の全てのパラメーター数値を大幅に下げ、『アーマーブレイク』で装備品の防御力を一定時間ゼロにする。
「速いッ! 流石シンタロー殿! 戦闘前に敵を完全に無力化したでござるッ!」
戦闘を始める前に敵を無力化させる事に成功した真太郎が、アキトに攻撃を仕掛けるべく地面を蹴って駆けだした。
「なんだコレ!? スゴイ速さだッ! 魔法の力で本当に身体能力が強化されたのかッ!?」
予想以上にこの世界の仕組みを使いこなせた事に気を良くした真太郎が、攻撃に更なる一手を加える。
「この世界の厳しさを教えてくれたお礼に、今度は俺が現実の厳しさを教えてやるよッ!」
真太郎はそう言って、メニュー画面を『魔法』から『スキル』のショートカットスロットに素早く切り替え、一番使い慣れていた攻撃スキルを選択する。
「『ラッシュワンド』ッ!」
スキル名を叫ぶと同時に、真太郎の持っている杖に紅い燐光が宿る。
次いで、真太郎の体が何かに導かれるかの様にスイングの姿勢を取った。
スキルの発動モーションが発生するなり、真太郎の体が予めプログラムを仕組まれていたかのように自然に動き出す。
腕を弓なりにしならせ、杖をアキトの脳天に叩き込む。
手の平全体に強烈な打撃の手ごたえ。
完璧な初撃をきっかけに、杖の殴打によるラッシュが始まる!
「ぐはっ! い、痛へェェェーッ!」
事前に麻痺状態にさせられたアキトは、攻撃を避けたくても避けることが出来ない。
更に、全パラメーターを大幅に下げられると同時に、装備品による防御力も無力化されたアキトは、今や完全なサンドバック状態だ。
完膚なきまでに弱体化させられたアキトのHPが、ガンガン減っていく。
「これでトドメだ! オラァ!」
嵐の様な打撃のラッシュのフィニッシュが、アキトにクリティカルヒットする。
かろうじて残っていたHPが一瞬にして削り取られる。
「グハッ……! な、なんとか……凌いだ、か……?」
しかし、魔法職の真太郎の低い攻撃力では、戦闘職の『暗黒騎士』であるアキトにトドメを刺す事は出来なかった。
「チッ。殺し損ねたか」
「ええっ!? あんな良い事言っておいて、殺すつもりでござったのッ!?」
いちいち真太郎の言動に翻弄されるイナバが、驚いて変な声を出す。
「やれやれ、結構本気だったのに。やっぱレベルが高いと簡単には倒せないな」
真太郎は、ツッコミを入れて来るイナバを無視して、アキトに近づいた。
「お……俺を殺したって無駄だ。俺はまた……何度でも復活するぜ……ッ!」
瀕死のダメージを負ったアキトが、地面に這いつくばりながら怨嗟の声を絞り出す。
「俺は君と違って、PKじゃないんだ。殺したりなんかしないよ」
何気に慈悲深い所を見せる真太郎が、寛大に振舞う。
「ハッ! あんだけ殴っておいて、カッコつけてんじゃねーよクソがッ!」
「うるさいなァ! 大人しく眠ってなさい、『ヒュプノスノック』!」
痛い所を突かれてキレた真太郎が、睡眠効果のある打撃スキルをアキトに食らわせた。
「グハッ! うぁ……く、く……そ……、…………」
スキルがヒットした瞬間、アキトが深い眠りに囚われる。
「クソ! こいつが意味もなく煽ってくるせいで、決め台詞を言いそびれちまったッ!」
勝利を手にしたにも関わらず何故か真太郎は、不機嫌極まりなかった。
「決め台詞からの、回復魔法かけてちょっと回復、即座にヒュプノスノックを叩き込み撃退! みたいな事がやりたかったのにッ!」
「よ……余裕あるでござるな。まだ二回目の戦闘……いや、この世界に来てまだ一時間足らずでここまでやれるとは……。流石シンタロー殿、拙者の予想の斜め上を行く男」
真太郎の謎のポテンシャルの高さを目の当たりにしたイナバは、驚きを隠せない様子だ。
「嘘だろ、アキトが何も出来ずにやられた……だと……?」
「マジかよ!? なんだよアイツ、圧倒的じゃねーか……!」
「なんでヒーラーが、戦闘職を倒せるのよッ!?」
真太郎の強さに驚いたのはイナバだけではなく、PK達も同じ様だった。
すると、感情の赴くまま思った事を口々にわめきたてるPK達の一人が、急に何かに気付いた顔をして真太郎を指さした。
「容赦のない攻撃を躊躇なく仕掛けて来る殴りヒーラー……ハッ!? こいつ、『PK狩りのシンタロー』じゃねーかッ!」
「なんだとッ! こいつが、辻ヒーラーにして辻斬りキラーの『癒し系殺人鬼』かよッ!?」
真太郎のゲームでの二つ名を想起したPK達が、揃って戦慄する。
「じゃあ、こっちのキモオタは……あの『剣聖・つばめ返しのイナバ』かよッ!?」
PK達に驚愕の眼差しを向けられた瞬間、何故かイナバが決め顔をする。
「左様で……ござるッ!」
「ヒィッ!」
イナバの圧倒的キモさにビビったのか、真太郎の圧倒的強さにビビったのか、その真相は分からないが、PK達はとにかく負け犬の様にビビりまくって一目散に逃げ出した。
「おい! こいつもちゃんと回収していけよッ!」
真太郎が、眠りこけるアキトを置いて逃げ出す薄情なPK達に声をかける。
「知らねーよ! そいつは俺達を脅して無理矢理言う事聞かせてただけなんだ!」
「そーよ! だからあたし達はまだPKもしてないし、悪い事してないから見逃してよっ!」
アキトは先程の台詞から推察される通り、かなり自分勝手な奴だったらしく、仲間達からの信頼が全くなかった。
「まー、『自分が嫌な思いしなけりゃ、お前らがどうなろうと知ったこっちゃない』みたいな事を口に出しちゃったら、そんな扱いされちゃうよなぁ。たとえ、真理だとしても言っちゃダメな事ってあるよねぇ。例えば、キモオタにキモオタって言うとかさ」
PK達がアキトを見捨てて逃げたくなる気持ちがなんとなく分かった真太郎は、もう一度だけ回収する様に声をかけて、それを無視されるともう何も言わなかった。
「とりあえず、戦闘は終わったみたいだけど。面倒なお荷物抱えちゃったなぁ~。こいつ邪魔だし、殺して神殿送りにした方がいいのかな?」
アキトの処分に困った真太郎が、真顔でとんでもない事を言い出す。
「ちょ、シンタロー殿! 何を言っているでござるかッ!? 殺しちゃダメでござるよっ!」
イナバの言う通り、PKとはいえ既に戦闘不能になっている人間を攻撃するのは流石に忍びなかった。
「冗談ですよ。ちょっと言ってみただけですよ。とりあえず、人に踏まれたりしない様に端っこの方に移動させて、そのまま寝かしておきましょう。そのうち勝手に起きるでしょう」
真太郎はアキトを桟橋の隅に移動させると、PKに襲われていた女の子に声をかけた。
「いや~、危ない所だったね。なんか同意も得ないまま勝手に助ける形になっちゃったけど、これで良かったのかな? 実は、君自身であいつらを倒したかったりとかした?」
「う……ううん」
戦闘に見入るあまり、茫然自失としていた所に突然話しかけられた女の子が、青い髪を揺らしてしどろもどろに答える。
「そっか、よかった。あっ、もしかして、君もあいつらの仲間だったりする?」
「ま、まさかっ! 違うよ、違う、違うっ!」
青い髪の女の子が、両手をブンブン振って否定した。
これにより、最後の杞憂であった『女の子が敵かもしれない』という疑問を払拭できた。
その瞬間、真太郎は戦闘が本当に終わった事を悟って安堵する。
(……少し警戒しすぎたな。しかし、もっと手こずるかと思ったけど、PK退治は意外に楽だったなぁ。ひょっとして、俺って強いのか? それともアイツが弱いのか? お互いレベルが99だから、良く分かんないな)
真太郎が自分の強さをどう処理したらいいのか少し困るなり、青い髪の女の子が彼に話しかけた。
「あ、あのっ! 助けてくれて、ありがとうございましたっ! 変な人達に絡まれて、困ってたんです」
真太郎を味方だと理解した女の子が、警戒心を解いた様子で彼に礼を言う。
「お役に立てたなら幸いだよ。実は余計なおせっかいしちゃったと思って、内心ヒヤヒヤものだったんだ」
戦闘が終わって気が抜けた真太郎が、フランクな感じで女の子に応じる。
それにつられて女の子も緊張感が解けたようだ。その証拠に、先程まで恐怖に震えて泣きそうだったつぶらな目に、涙は浮かんでいない。
「さっき目で、つかアイコンタクトで、俺に助けてって頼んできたでしょ?」
真太郎は話しかけながら、青い髪の女の子を観察した。
(青空を思わせる蒼く長い髪の毛。ワンポイントの金色の髪留めは、何かのアクセサリ装備だろう。軽装の剣士の様な凛々しい衣装は、『魔法剣士』の基本的装備だな。無駄にサービス精神がある大きく開いた胸元と、生足が覗くミニスカートと肩出しスタイルは、個人の趣味かな? 健康的なお色気は嫌いじゃないよ。そして、ベルトのバックル部分には……二本の剣か。って事は、二刀流か。魔法剣士で二刀流って事は、典型的な近接戦闘タイプって事でいいのかな?)
などと、真太郎に頭から順番に観察されている事など露知らない青い髪の女の子が、彼の言葉に応える。
「えっ? あ……うん」
「なんで見ず知らずの君なんかを助けたと思う?」
なんでそんな妙な質問をするのだと言いたそうな女の子に、真太郎がニンマリ笑って答える。
「君が、助けを求めておきながら、その実『俺に助けてもらえるなんて、ちっとも思ってなさそうだった』から助けたんだよ! どう、予想を裏切られてビックリした? こーいう意外なサプライズイベントが起きるなんて、ここはまさに勇ゲー風異世界だよね!?」
真太郎が妙な事を言い出すなり、呆気に取られて話を聞いていた女の子が噴き出した。
「ぷっ! 何それ? 急に変な事言うね」
「笑ったって事は、元気になったって事だね? 良かった」
変な話が実は自分を元気づける為のものだったと知った女の子が、頬を緩めて嬉しそうに笑う。
「へへっ、お兄さん、ありがとっ! お兄さんの変な話のおかげで元気になったよ! でもナンパにしては、ちょ~っと強引かな?」
PKの恐怖からすっかり立ち直った女の子が、青い髪を揺らして悪戯っぽく笑う。
「え、違うよ! ナンパって訳じゃないよ! ただの人助けだよ!」
戦闘の余韻で調子に乗ってべらべら話してしまったものの、やはり女の子慣れしていなかった真太郎が急にしどろもどろする。
「まったまた~! 見ず知らずの女の子の為に危険を冒すなんてありえないよ~。やっぱり、可愛いあたしを助けてナンパしようと思ったんじゃないの~?」
「可愛いから思わず助けたってのはあるかも、ね。でも、ナンパなんてする気は無かったよ」
自分で言うだけあって、確かに青い髪の女の子は可愛いかった。悪戯好きで人懐っこい子犬みたいな態度も、更に彼女の可愛さに拍車をかけている。
「へぇ~、あたしの事を可愛いって言ってくれるんだ? な~んか、変な下心でもあるのかな~」
青い髪の女の子が、真太郎をからかうように小悪魔チックに微笑む。
「止めてよ、下心なんてないよ。なんつーか、悪口ならともかく褒め言葉は思ったらすぐに口にした方がいいでしょ? だから、可愛いって言ったんだよ」
「あははっ! 何それ、変わったポリシーだね。でも、ちょっと嬉しいなぁ! なんかあたし、お兄さんの事気に入っちゃったかもっ!」
なんか真太郎と女の子とイイ感じになるなり、先程から大人しく脇に控えていたイナバが彼の袖を引っ張った。
「シ、シンタロー殿。拙者を無視しすぎでござるよっ!」
「見てください、師匠。女の子を助けたら、フラグが立ちましたよ。いやー、マジでこの世界は、ゲームみたいっスねっ!」
なんか急にモテだした事で、テンションが上がってしまう真太郎だった。
「シンタロー殿! 自分だけズルいでござるよっ! 女の子、独り占めでござるか!? モテモテなチーレム主人公気取りでござるかッ!?」
嫉妬交じりの目つきのイナバが、真太郎に食ってかかる。
「まさか! 違いますよ。じゃあ、さりげなく紹介するんで、上手いことやって下さいよ」
イナバが言う様に、女の子を独り占めするといったしょーもない考えなんて持っていない割とピュアな真太郎は、すんなり彼を女の子に紹介した。
「あ、そういえば、まだ名前言ってなかったね。俺はシンタロー」
「へぇ、シンタローさんっていうんだ。あっ、あたしはみこ。よろしくねっ! 親しみを込めて、みこちゃんって呼んでくれたら嬉しいなっ!」
先ほどの会話で完全に警戒心がなくなったのか、青い髪の女の子――みこは、真太郎に対して親しげな笑顔を作ると、元気いっぱいに自己紹介をした。
「よろしく、みこちゃん。んで、こっちが俺の師匠でイナバさん」
真太郎はそう言うと、隣でそわそわしているイナバを、みこに紹介した。
「オウフ! いきなりでござるかっ!? 拙者、まだ心の準備がッ!」
最後に女の子と話したのは幼稚園以来という、筋金入りのキモオタ童貞イナバが危険な程にテンパる。
「デ、デュフフ! ご、ご紹介にあずかりましたァン! せ、せ拙者イナバでござるぅ! 気軽に師匠と呼んでくれていいでござるよ、フォカヌポゥ! 先程は危ない所だ――」
「いやぁぁぁー! モンスターッ!」
イナバの顔を見た瞬間、みこは物凄い速さで抜刀して、彼を斬りつけた。
「ござーッ!?」
女の子に化け物扱いされたイナバのキモオタスマイルが、一瞬にして凍り付く。
「本能的に攻撃したッ!?」
みこがイナバを斬り捨てるなり、真太郎が素で驚愕する。
「はぁはぁ……! シンタローさん、なんなのコイツッ!? 殺していいのッ!?」
みこが物騒な質問をしてくるなり、呆気に取られていた真太郎がハッと我に返って止めに入る。
「ダメダメ、殺しちゃダメっ! 師匠死なないで! 『ヒールライト』!」
真太郎が回復魔法を使うなり、柔らかい光がイナバを包み込み、彼の傷を瞬時に癒す。
「なんで!? コレはシンタローさんが、テイムしたモンスターだから?」
「違うよっ! こんな見た目でも、この人は人間なんだっ!」
「に、人間っ!? う……嘘でしょ……!」
人間離れしたキモオタフェイスを持つイナバを人間だとは到底思えないみこが、冗談抜きで普通に動揺する。
「ギザ酷ス……!」
女の子にモンスター扱いされて斬り捨てられたイナバが、絶望に支配されて人知れず涙を流す。
それに気付くなり、真太郎は慌てて哀れなイナバを慰めた。
「師匠、元気出してください。こういう事もたまにはありますよ」
「ふふふ、たまに? 生まれてこの方、女の子にはいつもこの様な仕打ちをされてばかりでござるよ……」
(そりゃ、そうだよなぁ~……。だって、男の俺でも引くほどのキモオタだもん)
しかし、哀しみで震えるイナバの悲壮な背中を見てしまうと、真太郎は笑うに笑えなかった。
「師匠の溢れ出る個性は、あの年頃の女の子にはちょっと強烈過ぎたみたいですね。でも、俺はそんな個性的な師匠が好きですよ」
優しい真太郎が慰めるなり、イナバが遠くを見つめて泣いた。
「……シンタロー殿、拙者が先程言っていた事は間違っていたでござるよ。やっぱり、ここは現実の世界なんかじゃあない、夢の世界でござる。そう……悪い悪い夢の世界でござるよ……うぅ!」
非情な現実を認めたくないイナバが、泣きながら現実逃避した。
(いや、現実っスよ。現実っていうのは、いつだって哀しいものですからね……)
真太郎は、心の中でそう言うと、思わずもらい泣きした。
そんなこんなで、思わぬ形でここが現実である事を体感した真太郎とイナバだった。




