第11話 猫人と書いて「ねこんちゅ」と読む!
『魔術結社JMA』との交渉をまとめた真太郎達は、次の目的地に向かっていた。
「JMAは意外と簡単に話がついたな。やっぱ、ゲームでも話が通じる人は、リアルでも話が通じるみたいだ。最初に顔見知りを回ったのは正解だったぜ」
「その様でござるな。それで、お次はどこへ行くのでござるか?」
「次は、生産系ギルドの最大派閥である『獣人同盟』ですね」
『勇者ゲーム』における『ギルド』は、その活動目的や達成目標による違いで、大きく二つに分ける事が出来る。
一つが戦闘系ギルド――これは、『勇者ゲーム』の大きな売りの一つである『大規模戦闘』を楽しむ事を目的としたギルドだ。戦闘系ギルドのメンバーは、各種戦闘フィールドやダンジョンにおいて、敵とのバトルを楽しむ事を主な活動目的とする。
オリエンスの街の有名な戦闘系ギルドといえば、規模の大きい順に『渾沌騎士団』、『ポム・アンプワゾネ』、『蒼天海賊団』、『七☆剣』があげられる。
ここに名前が出た戦闘系ギルドは、熟練のメンバーが揃っており、一度戦闘となれば、さながら軍隊の様な動きをする事もある程、戦闘に特化している。
そして、もう一つは生産系ギルド――なのだが、その前に『勇者ゲーム』における職業の説明を述べておく。
『勇者ゲーム』では、大きく分けて『戦闘職』、『魔法職』、『生産職』の三つの職業カテゴリーが存在する。
まず、戦闘を司るメイン職業が、イナバの『侍』や刹那の『暗黒騎士』、みこの『魔法戦士』などの『戦闘職』と、真太郎の『治癒魔法師』や先程の板垣の『魔導師』などの『魔法職』だ。
そして、それらの戦闘の為のメイン職とは別に、『サブ職業の生産職』というカテゴリーが存在する。
これは、ゲーム開始時にメイン職業を選んだ後、ゲームの中で必要に応じて取得する事が出来るサポート系の職業だ。
この『生産職』は、大きく四つにカテゴライズされており――『採取系』の『農家、狩人、漁師、採掘家』。『制作系』の『料理人、大工、裁縫師、武具職人』。『知識系』の『学者、調教師、占い師、調剤師、医者』。『芸術系』の『吟遊詩人、踊り子、音楽家、芸術家』――などが存在する。
上記の生産系職業をメインとするプレイヤーによるギルドが、『生産系ギルド』だ。
そんな生産系ギルドは、往々にして大規模になる傾向がある。
というのも、アイテム作成の素材の一括購入や倉庫での物品の管理など、大人数によるメリットが露骨に発生するからだ。
更に言えば、『渾沌騎士団』、『ポム・アンプワゾネ』、『魔術結社JMA』などの大規模ギルドは、ギルド内に生産職ギルドを抱えているので、必然的に生産職ギルドの規模は大きくなるのだ。
オリエンス街で有名な生産系ギルドを挙げるとすれば、まず最大派閥である『獣人同盟』。次いで、商人プレイヤーや情報屋などが多く在籍する『インヤン飯店』だろう。
基本的に勇者ゲームにおいて、生産職オンリーのプレイヤーというのは稀だ。
だが、『獣人同盟』や『インヤン飯店』などを筆頭にした生産系ギルドには、生産職一筋の職人プレイヤーや、制作したアイテムの売買を専門にした商人プレイヤーなどの生産職オンリーのプレイヤーが、数多く集まっている。
そんな彼らは、商売を通じてプレイヤーとプレイヤーを繋げる役割を無意識的に担っている事から、彼らの存在そのものが、ゲームの活気の良し悪しに直接作用している所があった。
「板垣さんの言ってた通り、生産職の連中は店を引っこめてるみたいだな」
通常の勇者ゲームであれば、生産系ギルドの職人やフリーの商人達が市場所狭しと、通りにまで店をはみ出させていたはずなのだが、今や彼らの姿はどこにも見えない。
活気と商売っ気に溢れた元気な彼らが見えないせいか、人通りのない街は一層寂しげだった。
「ま、とりあえず『獣人同盟』の本店に行ってみますか」
真太郎達は人気の無い寂しい街を後にして、次の目的地に向かった。
人気の無い通りをてくてくと歩くと、猫をモチーフにした三階建ての大きなお店が見えて来た。
この巨大な猫の様な店が、生産職ギルド最大派閥の『獣人同盟』のギルドハウスだ。
元々は装備品を作るアイテム職人が集まった小規模ギルドだったのだが、彼らは勇者ゲームに『お洒落』の要素を持ち込む事で、一気に最大派閥に成り上がったという経緯がある。
元々、剣と魔法の世界観を基本にした『勇者ゲーム』の世界において、服飾の基本的なデザインコンセプトは『中世ヨーロッパ風衣装のファンタジー添え』みたいなものなので、戦闘職は厳つい金属鎧や無骨な鎖帷子や粗末な皮鎧、魔法職は野暮ったいローブやしみったれた法衣みたいなものしか着る事が出来なかったのだ。
皆が衣装のバリエーションの無さにうんざりしていた所に、急遽『自作お洒落着パッチ』とソフトウェアのアップデートによる『コスチュームカスタマイズ』要素が追加された時、しみったれた状況は一変した。
最初はそれこそ、ギルドの紋章を自作して鎧にプリントしたり、手持ちの服を染料アイテムで染めてカラーリングを楽しむなどの既存の衣装のアレンジ中心だったのだが、時が経った今では、現実世界と変わらない状況になっていた。
例に出してみると、中世ヨーロッパ風のファッションを基本にして、着物や袴などの和装や、サリーやチャイナ服にアオザイなどのエキゾチック調の民族衣装、タキシードやオートクチュールのドレスなどの社交界向けのシックな衣装、更には女子高生風の制服や、フリルがふんだんにあしらわれたメイド服、更には幾何学的な蛍光色のラインが入ったサイバーなラバースーツといった、いわゆる『オタク趣味』の衣装までもが、金属鎧や麻のローブと一緒になって存在する様になっているのだ。
この渾沌じみたファッション革命に一役買ったのが、件の『獣人同盟』であり、彼らは運営会社に自作の服を着たキャラのファンアートを大量に送り付けたり、自らがゲーム制作会社に就職して実際にモデルデータを作成するなどして、現在の状況に至る大きな潮流を作り上げていた。
そんなアーティスティックなイマジネーションと、それを現実のものにする情熱とスキルを持った凄腕職人集団が『獣人同盟』――真太郎がこれから、交渉に向かう相手だ。
「そーいえば、『獣人同盟』の連中は、殆ど『猫人』だったよな?」
魔王率いる魔族と戦う人間達の生命と運命のサーガをテーマにしている『勇者ゲーム』において、プレイヤーが操作できるキャラクター種族は基本的に人間のみなのだが、アプデに伴って追加された種族で『猫人』というものがある。
『猫人』は、その文字が表わす通り、人間の様に二本の足で立って歩き、両の手を自由に使う猫だ。
「『猫人』もゲームそのままに再現されているのかな? だとしたらスゲー可愛い存在になってると思うんだけどっ! なっ、チュウ?」
猫好きな所を垣間見せる真太郎が俄かにはしゃぐなり、刹那が馬鹿にしたようにあしらった。
「んな事ねーよ。それに万が一あったとしても、語尾に『にゃん』とかつける奴は95%くらいが、キモいおっさんとメンヘラババアだ。猫人が、猫耳つけたオッサンだったらどーすんだよ?」
刹那が意地の悪い事を言うなり、真太郎が不意に真顔になった。
「殺す」
「即答っ!? あんなに胸をときめかせてたのに、思ったのと違ったら即殺すとか、こいつやっぱヤバい奴だっ!」
真太郎が久しぶりに見せたサイコパス的側面に、思わず素で恐怖する刹那だった。
「おいおい、冗談だよ。本気にするなよな」
「ホントかよ。つか、ネトゲでちっこい獣キャラを選ぶ奴は、ガチで性格悪いのが多いから、お前の期待は裏切られると思うぜ」
割とネトゲをやり込んでいる刹那が、訳知り顔をする。
「確かに、チュウの言う通りかもしれない。だが、ドラえもん、じばにゃん、サザエさん、ホワッツマイケル、と人気作品にはみんな猫がいる。俺達にも猫が必要だ」
「なんの話だよ。つか、キャラ名と作品名がごっちゃじゃねーかよ。抜き出すならどっちかに統一しろよ」
だいぶ真太郎の言動に慣れて来た刹那が、ガンガンツッコミを入れる。
「そんな事はどうだっていいんだよ。今は『重兵衛ちゃん』だよ! 重兵衛ちゃんは特別な猫なんだっ! だって、重兵衛ちゃんは、正真正銘のアイドルだからねっ! 勇ゲーの実況プレイでしゃべってる時、声優張りの萌えボイスだったもんっ!」
『重兵衛ちゃん』とは、勇者ゲームに何人か存在するアイドル的プレイヤーの一人の事だ。因みに、真太郎のお気に入りのプレイヤーでもある。
「知ってるか? 中身ガチ女は、皆にチヤホヤされたいからって理由だけで、猫人を使う傾向にあるんだぞ。きっと、重兵衛も正体はメンヘラかまってちゃんのカス女だろう」
「ちっ。人が胸をときめかしている所に、気分悪い事言うんじゃねーよ!」
小生意気な刹那の態度にイラついた真太郎が、腹立たしげに舌打ちをする。
すると、通りの向こうで悲鳴が上がった。
「「なんだッ!?」」
突然の悲鳴に驚いた真太郎と刹那が、声がしてきた方に目をやる。
それと同時に建物の影から、三毛猫が猛ダッシュで飛び出して来た。
「うにゃにゃーっ!」
「……なんだ猫か」
「脅かすんじゃねーよ」
悲鳴の主が猫だと分かった真太郎と刹那が緊張を解くなり、三毛猫が急に二本足で立ちあがった。
「ひぃー! おたすけにゃー!」
しかも、ハッキリとした日本語で助けを求めて来た。
「「な、なにぃぃぃーっ!?」」
日本語をしゃべる猫を目撃した真太郎と刹那が、二人同時に声を上げて驚く。
「おい、バカタロー! 猫が日本語しゃべったぞっ! しかもよく見ると、服まで着てやがるっ!」
「ま、まさか……このしゃべる猫は……『猫人』っ!?」
目の前の三毛猫が日本語をしゃべった事にも驚いたが、それよりもその見た目がゲームに出て来る『猫人』にそっくりな事に、より強い驚きを禁じ得ない真太郎だった。
「待ちやがれ、猫野郎ッ!」
怒鳴りながら三毛猫を追って通りに現れたのは、黒いコートを来た若い男だった。
三毛猫のステータスを確認しようとしていた真太郎が、慌て気味に黒コートに視線を移す。
「あ? 次はなんだよ?」
動きやすそうな騎士服の上に漆黒のコートを羽織って、背に黒い剣を背負っている若い男の姿に、真太郎は妙な既視感を覚えた。
黒いコートを着た若い男の簡易ステータスを見ると、真太郎が急にうんざりした顔でため息をついた。
「また、お前かよ……」




