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第9話 街の現状と裏付け

「成程。つか、俺としては、こういうのは人集めが得意な『JMA』が、一番先にやると思っていたんですけどね。戦闘職も生産職も大量に抱えているから怖いものなしだろうし。板垣さんは、この一週間、何してたんですか?」


「別に何も、ただここに籠っていただけだよ。とはいえ私は、他の皆と同じように、ただ怯えて閉じこもっていた訳ではなく、機を待っていたのだがね」

 板垣はそう言うと、何故か眼鏡をクイッと上げてカッコつけた。


「成程。皆してお家に籠っているから、ここら辺は輪廻の神殿の辺りと違って静かなんですね」

 異世界転移に起こってから早一週間が過ぎたオリエンスの街には、未だに事態を受け入れられずに、パニックと恐慌の中に留まり続ける人々で溢れていた。

 だが現在、オリエンスの街は表面上、奇妙な静けさを保っている。


 街が東西南北に分けられたオリエンスの街の南地区は、プレイヤー達の各種ギルドハウスが建ち並ぶ、通称『ギルドタウン』だ。

 ギルドタウンは、土地や建物の安さから、大手ギルドから中小零細に至る多数のギルドが、そこかしこにギルドハウスを構えていた。

 

 そんな無数のギルドハウスが建ち並ぶ場所故に、人間同士のいざこざがいたる所で起きており、もっと荒んでいると思っていたのだが……。

 どうやら、真太郎の予想は外れたらしい。


「初期のパニック状態は、バラバラだったプレイヤー達が、ゲームの時に所属していたギルドに集結する事で、小康状態になったからね。現在は、ギルド間の棲み分けも出来て、落ち着いて来ているから静かだけど……ちょっと前までは、大変な騒ぎだったんだよ」


「でも、この静けさは、騒いでないから静かって訳じゃなくて、安心しているから穏やかになっている、みたいな感じがしますけど」


「まぁ、街にいればそれなりに安心安全で、衣食住は必要最低限揃っている状況の上、そう簡単には『本当に死なない』仕組みが存在するからねぇ。知り合い同士でまとまる事が出来れば、気持ちが落ち着くのは自然な事なんじゃないのかな?」

 真太郎の疑問に、板垣が具体的な理由で答える。


「暑さ寒さをしのげる服があり、味はマズいが腹を満たすには十分な食料があり、安心して眠る事の出来る家もある。おまけに、HPが無くなる事でシステム的に死にはしても、本質的な死は訪れない。さすれば、生物学的には不死と同義だ。恐れる事など何もないさ」

 板垣は黒縁眼鏡をハンカチで拭きながら、そううそぶいてみせる。


「だが、死に対して恐れる事はないとはいえ、生きる上での問題は山積みだ」

 不意に話題を変えた板垣が、眉を寄せて少し困り顔をする。


「この奇妙な世界では、『死なない』とはいえ、五感が正常に機能しているので『苦痛』が存在するんだ。今の私達は、飲まず食わずでも餓死はしないが、渇きと空腹が消えたわけではないので、飢えの苦痛は現実と変わらず耐え難い。そんな状況なので、先を見越した賢しい連中が手持ちの物資を増やす為に、マーケットの品物をどんどん買い占めているんだよ」


 板垣はそこで一旦話を区切ると、買占めと同時に 『生産職ギルド』やその他多くのプレイヤーが、マーケットでの出品を取りやめている事を真太郎に教えた。


「更には、一部の大手職人ギルドが、通常アイテムから生産アイテムに至るまで手当たり次第にアイテムを買い占めているという噂まであり、マーケットでは品切れで手に入らないアイテムが目立つようになっている」

「ふ~む。買占めに品切れ……面倒かつ重大な問題が発生しているなぁ」

 現実問題的に厄介な事になりそうな情報を仕入れた真太郎が、腕を組んで唸る。


「その通り、面倒かつ重大な問題は多いよ。まずは、これを一つ目の問題としよう、つまり物資不足問題だね。そしてもう一つは、街の勢力図の急速な変化問題だ」

 官僚らしさ(?)を思い出したのか、板垣が急に真面目な口調になった。


「勢力図の急激な変化? ギルド同士で、ドンパチでもしているんですか?」

 真面目な板垣の雰囲気に合わせて、真太郎も自然と真面目な態度になる。


「いや、違うよ。今のPKやらモンスターやらと戦う事もある様な状況で、仲間が少ない事は死活問題だからね。中小ギルドによるソロプレイヤーの勧誘合戦や、ギルド間による人材の引き抜き、更にはギルド自体の吸収合併、あるいは離散なんかが起きていて、人間関係がややこしくなっているんだよ。あぁ、それと、ギルド未所属プレイヤー達が寄生先を探して、行く先々で揉め事を起こして問題になったりしているね」


「勧誘ねぇ……あったなぁ、そーいえば」

 板垣の話を聞いた真太郎は、ここに来るまでの道中で色んな奴らに勧誘された事を思い出した。


 というのも、真太郎はそれなりに名が売れている上、前代未聞の110レベルだし、イナバも高レベルかつ名の知れた有名プレイヤーだ。

 しかも、みこは二度見したくなる様な可愛い女の子だし、刹那に至っては黙っていれば絶世のロリ美少女なのだから、街を歩いているだけで多くの人から誘いの声をかけられるのも当然と言えた。


 しかし、誘ってきた奴らは、イナバの顔を見た瞬間、即座に逃げ出していた、という事も追記しておかなくてはなるまい。


「その『ソロプレイヤー達が寄生先を探して』ってので、出て来る寄生先は、このギルドの事ですよね?」


「私達のギルド『も』含めてだよ。とりあえず、うちはデカいから、助けを求めて来た人は、よほどの人格破綻者じゃなければ、大抵快く受け入れているよ。とはいえ、『お客さん』達は、元いるメンバーと揉めたりして面倒な事になってしまっているから、色々と大変なんだけどねぇ」

 板垣はどこか他人事な様子でそう言うと、苦労を滲ませて苦笑いをした。


(……板垣さんの話で、俺が訴えてた『非常事態に陥った人間は、どこかに所属する事で安心を求める生き物だ』って事が証明されたな。今の状況から考えると、一個の巨大ギルドを作れば、この街の有象無象をまとめ上げる事は比較的容易だろう)


「成程、成程。板垣さん、実に良いお話を有難うございます」

 思いがけない形で自分の思惑の裏付けとなる情報を手に入れた真太郎が、嬉しそうににんまりと笑う。

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