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第8話 PK再び! お前、生きとったんかいッ!?

 無数の植物の蔦が絡まる高い城壁に囲まれた城塞風の都市は、『オリエンス』。

 真太郎が『勇者ゲーム』で、ホームタウンにしていた街だ。

 長い歴史を感じさせる中世西洋風のファンタジックな街並みは、ゲームに登場するオリエンスの街が、そっくりそのまま現実になった様にしか見えない。


「うおーっ! マジか!? スゲー! マジでオリエンスの街にそっくりじゃん!」

 人生を棒に振る程ハマった勇者ゲームの世界の街が、確かな実物として目の前に存在しているのを目の当たりにした真太郎は、状況も忘れてはしゃがずにはいられなかった。


「……スゴい。本当にゲームそっくりだ……! なんだか、マジでスゴい所に来ちゃってんだなぁ、俺……)

 感慨深い顔でオリエンスの街を眺める真太郎は一通り街を見回すと、次いでPK達らしき連中に絡まれている女の子に視線を移した。


 女の子は、現実ならばあり得ない様な色鮮やかな青色の髪をしており、服は軽装の剣士のようなデザインの服を着ている。

 どう見てもゲームに出て来るキャラの様な格好をしている彼女は、NPCなのだろうか、それとも勇者ゲームのプレイヤーなのだろうか?


「師匠。あの子も俺達と同じように、ゲームをやってたら異世界転移しちゃった的な感じの人なんですかね?」

「多分そうでござろう。ステータス画面を表示させる要領で、彼女を見てみるでござるよ。顔の横か頭の上辺りに、彼女のステータスが表示されるでござる」

 イナバに教えを受けた真太郎が、おでこの辺りに意識を集中させながら改めて女の子を見る。


 すると、彼女の頭の上に『みこ レベル40 魔法戦士』との簡易ステータスが表示された。


「レベル40か。やり込みだして初心者を脱出した辺りかな? これだったら、手助けしなくても自力でなんとかするかもしれないですね。お節介は焼かない方がいいかもしれないですよ」

 女の子のレベルを見て、彼女が自力で問題を解決出来ると判断した真太郎がそんな薄情な事を言うなり、イナバが怒り出す。


「何を言っているのでござるか、シンタロー殿っ!? PK達のレベルを見るでござるよ。レベル70以上が二人、更に99がいるでござる。女の子とPK達のレベル差は明らか、しかも一対四でござる! 自力でなんとか出来るはず無いでござろうっ!」

 イナバが言う通り、PK達に取り囲まれている女の子は明らかに怯えきっており、自力でなんとか出来そうな雰囲気ではなかった。


「まったく、シンタロー殿の気紛れにも困ったものでござるな! ここであの女の子を見捨てれば、それはPKを黙認したという事になるのでござるよ! 分かって言っているでござるかっ!?」

 キモオタの癖に正義感溢れるナイスガイなイナバが、やんややんや言う。

 すると真太郎は肩を竦め、仕方なく戦闘に備える事にした。


「じょーだんですよ、冗談。師匠は、本当にクソ真面目だなぁ。僕だって、女の子がPK共に嬲り殺される所なんて見たくないですよ」

(自分から言っておいてあれだけど、出来れば厄介事には関わりたくないんだよなぁ。……いや、これは実戦で色々試せるいい機会が来た、と考えた方がいいのかな?)


 考え方を変えた事でやる気になった真太郎は、まずは敵の情報を集める為に、PKの簡易ステータスに目を通した。


 まずは、黒剣を背負った若者『†アキト† レベル99 暗黒騎士』。

 次いで、灰色のローブを被った魔導師『XxクラウドンxX レベル76 魔導師』。

 三人目は、鉤爪を装備した筋肉質の大男『DeathJOKER レベル76 魔闘拳士』。

 そして最後は、『なつみかん レベル45 召喚士』――身の丈ほどの木の杖を持って、大きな帽子を被った小柄な女だ。


「あれ? あの女の子に絡んでる奴らって、さっき師匠が倒したPK共じゃないですか?」

 女の子を取り囲んでいるPK達は、先程真太郎に襲い掛かって来て返り討ちにされたアキト一味だった。

 真太郎が気付くと同時に、アキトの側も彼らの存在に気が付いた。


「あっ! テメーら! さっきのキモオタ一味じゃねーかッ!」

 真太郎達に気付くなり、アキトが大声で叫ぶ。


「あのさぁ、キモオタ一味って言うと、俺もキモオタみたいになっちゃうからやめてくれない?」

 変に物怖じしない所がある真太郎が、自分を殺そうとしてきた奴を相手に普通に話しかける。

 この妙に自信のある態度は、この世界で自分が出来る事を知って生まれた余裕の一部であった。


「それより。さっき君ってば、このキモオタに斬り殺されて死んだよね? なんで今、そうやって元気いっぱいでいられるの?」

 イナバに真っ二つにされて殺されたはずのPKが、五体満足で存在している理由が分からなかった真太郎は、思い切って直接本人に質問してみた。


「おいおい、死んだだって? お前、何馬鹿みたいな事言ってんだよ」

 真太郎の無駄にフレンドリーで大胆不敵な態度が幸いしたのか、アキトは敵であるにも関わらず、すんなり話に乗ってくれた。


「この俺が死ぬかよ、ここはゲームの世界だぜ? HPがゼロになったからって、本当に死ぬ訳じゃねーんだよ」

 そんな事も知らないのか、といった様な顔でアキトが吐き捨てる。

 質問にすんなり答えてくれたアキトは、割といい奴なのかもしれない。

 だが、アキトの短い話からでは、肝心な事は何も分からなかった。


「この世界では仮に死んでしまっても、ゲームと同様に『輪廻の神殿』で復活する事が出来るのでござるよ」

 すると、釈然としない顔の真太郎を見かねたイナバが、アキトの言葉に補足を入れてくれた。


「今現在、このリアル版『勇者ゲーム』の世界において、死は一時的な物に過ぎないのでござる。この世界で死んだプレイヤーはゲーム同様、しばらくのタイムラグを置いて、『オリエンス』の街の『輪廻の神殿』で復活するのでござるよ」

「……死んでも死なない? この世界での死は決定的なものではなく、やり直しがきくって事か? おいおい、こいつはマジでゲームだな」

 死んでも復活するという話に対して、イナバもアキトもあまりに自然に話している為、とても冗談を言っている様には見えない。


 という事は、彼らの言っている事は、事実の可能性が高いと判断できる。


(二人の話が本当なら、生死の概念はゲームと同じ様にチープなものになっちまうなぁ。そりゃ、大っぴらにPKしたりする奴が、出て来るのは残当だね)

 この世界の奇妙な仕組みを知った真太郎は、PK達への認識を少し改めた。

(こいつらは、現実の殺人としてのPKではなく、ゲームとしてのPKをしているだけのつもりなのかもな。ま、だからといってPKがムカつく事に変わりはないけどさ)

 PKの事を考えていたら、真太郎はふと別の疑問が湧いた。


(ゲームの世界で死んだ場合、経験値や所持金の喪失というペナルティを受けて復活するのがルールだ。それは、この勇者ゲーム風の異世界でも同様なのか?)

 それについては、死んだばっかりであろうアキトに聞くのが、手っ取り早いだろう。

 そう思うなり、真太郎はすぐさまアキトに質問をぶつけた。


「あの~。やっぱり死んじゃったら、『デスペナルティ』はあるんですか?」

「あるに決まってんだろ! テメーらに奪われた俺の経験値と金、そしてアイテムを今すぐに返してもらうぜッ!」

 怒鳴る様に質問に答えたアキトは言い終わるなり、真太郎達に復讐しようと戦闘態勢に入った。


(成程、デスペナ有り、と。シンタローはまた一つ賢くなった! みたいな)

 一度戦って勝った相手だからなのか、真太郎はアキトに剣を向けられても警戒はしこそすれ、怯えたりはしなかった。 


「お主ら、またPKでござるかッ! ここはゲームに似ているだけで、ゲームの世界ではないのでござるよッ! PKなんてやめるでござる、それは人殺しと同じ事でござるよっ!」

 キモオタな見た目に似合わず正義感に溢れるイナバが、アキトを一喝する。

 すると、アキトが鼻で笑った。


「ハッ! おいおい、マジかよ。キモオタ、お前、何馬鹿な事言ってんだ? ここが、ゲームの中じゃねー事ぐらい分かってるよ。分かった上でPKしてんだよ、リアル殺人なんてサイコ―じゃねーかッ!」

「んなっ! 正気でござるか!?」

 臆面もなく邪悪さを全開にしたPKの不敵な態度に、イナバが目を見開いて驚き、真太郎が不快感を露わにして目を細める。


「この世界に閉じ込められて、既に一週間。未だに助けも来なけりゃ、帰れる当てもねー。だったら、ここで好き勝手に生きていくべきだろ? だって、ここは俺達がリアルを捨ててまでハマった『勇者ゲーム』の世界なんだからなァ!」

 どこまでも嬉しそうに語るアキトが、両手を大きく広げて満面の笑みを浮かべる。


「だから俺は、何一つ思い通りにならねークソな現実なんて捨てて、この世界で生きていく事にしたんだよ。この俺を倒すぐらいだから、お前も廃人になる程ゲームをやり込んでいたはずだ。そして、現実なんてクソだと思ってたからこそ、廃人になるぐれーまでやり込んでたんじゃねーのか? 違うか?」

 アキトの言う通りなのだろう、イナバは口を結んで何も言い返さなかった。


「ふっ、図星みてーだな。あ、勘違いするなよ、俺は別にバカにしている訳じゃねーんだ。俺が言いたいのは、お前もクソな現実を捨てて、この世界で新しく人生をやり直せって事だよ。ここには、お前を縛るクソみたいな親も友達も学校も会社も法律も何もねーんだ。あるのは、現実を捨てる程やり込んだゲームで作った最強の自分と、勇者ゲームの世界だけだ。だったら、ここでゲームみたいに好き勝手に生きたらいい。そうだろ?」

 イナバを仲間にでも引き込むつもりなのか、アキトが親しげな態度で語りに入る。


「寸分たがわず『勇者ゲーム』にそっくりなこの世界は、現実なのか? それともゲームなのか? ここまでゲームにそっくりならば、それはもうただひたすらにゲームなんじゃねーのか? 全てが『勇者ゲーム』にそっくりならば、ここはもうゲームなんだよッ! だったら思いっきり遊ばなきゃ、この世界に対して失礼だとは思わねーか? お前は、廃人プレイヤーだろ? だったら、俺の言ってる言葉に共感できるはずだ。お前は、俺と同じだ。選ばれたんだよ、この世界にっ!」

 説得力がある様に聞こえるアキトの力強い言葉に、心を揺さぶられでもしたのか、イナバは先程までの威勢を失くして何も言わずにずっと黙っている。


 そんなイナバを見て何かを悟った真太郎は、呆れたように溜息を付いた。


(あ~、これ完全に説得されたパターンだな。師匠ってば、アキバの絵売り女とか握手会やってるアイドルとか、ちょっと優しくしてくれる人に簡単に騙されそーな感じだもんなぁ。これ、師匠説得されちゃったら、俺はどーしようかな? ……そーだなぁ。師匠と一緒に俺もPKの仲間になろうかなぁ?)

 完全にイナバがアキトに説得された体で物を考えている真太郎は、早速自分の今後の身の振り方に思いを馳せた。


(まぁ、確かにあいつの言う通りなんだよねぇ。折角ゲーム風の異世界に来れたんだ、楽しまなくっちゃ。異世界転移したのに、現実世界のルールに縛られてても意味ないよ)

「よしっ! 俺も異世界転移もののセオリー通り、現地の女の子達とフラグ立まくって、あんな事やそんな事やこんな事をしようっ!」

 よからぬ考えに支配された真太郎が、ふとPKに怯える女の子に視線をやる。

 すると、女の子とばっちり目が合ってしまった。

 

 助けを求めて縋る様な目つきだ、これは流石に無視できない。


「あ……た、たすけ……」

 だが、女の子は真太郎に助けを求めても見捨てられると思ったのか、最後まで言葉を言わずに口を噤んでしまった。

 どうやらこの女の子は、この世界の非情さと残酷さを既に知っているのかもしれない。

 

 そう――ゲームの様に自分の力でピンチを乗り越えたり、絶対の絶命の状況で助っ人が来ることなどない、と知っているのだ。

 この世界にプレイヤー達が取り込まれて既に一週間、諦めを覚えるには十分な時間である。

 そんな諦めと絶望が透けて見える女の子の泣きそうな顔を見た瞬間、何故か真太郎の心の底から悪戯心がムクムクと沸き起こって来た。


(……いや。やっぱ、今のは止めだ。ゲームならもっと面白い事しねーとダメだろ? 現実だったら、確実に厄介事に関わるのを避けて女の子を見捨てている状況だが、今のここはゲームのシステムが使える世界。なら、ゲームみたいに好き勝手にやれるはず……非情で残酷な現実に喧嘩を売れるはずっ!)

 一種独特の妙な思考回路を持っている真太郎が、非情な現実を前にして妙なやる気を起こす。


(ってことは、PKの仲間になるより、ここでPKと師匠をぶっ倒した方が面白れーはずだ! きっとあの女の子も、『えっ!? アタシを助ける為に、味方も一緒にぶっ倒しちゃうの!?』って、ビックリするはずだ! これは実に面白いッ!)

 とんでもなく馬鹿な事を思いついた真太郎は、眠たげな瞳に好戦的な光を宿し、ニヤリと笑った。


 真太郎がゲームをする時のスタイルは、現実では出来ないであろう遊びをする為に可能な限り全力でバカプレイをする事だった。

 だから、このぶっ飛んだ答えが導き出されるのは、ある意味で当然であったのかもしれない。


(PK野郎の言う通り、ここは勇者ゲーム風の異世界であり、世界を動かす仕組みもゲームそっくりなのだ。であるのならば、ここはある意味でゲームなのだ。そして今や、ゲームが現実になって、そして現実は今やゲームと同じ仕組みで動く様になった。なら、ゲームと同じように思いっきり楽しまないと損だよなッ!)

 アキトとは違う意味でこの世界をゲーム風の現実として受け入れた真太郎は、完全にやる気になって杖を握りしめた。


「やべぇ~。なんかスゲー楽しくなって来たぁ!」

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