第1話 武闘派ギルドにアポなしで突撃!
真太郎は現在、オリエンスの街の治安を正常化させる為に、有力ギルドを集めた会談の実施を決めたアダーの命令に従って動いていた。
そして、真太郎が最初に訪れたのが、オリエンスの街の三大ギルドの一つ『渾沌騎士団』だ。
「きーりーひーとく~ん! あーそびーましょ~!」
二人の戦乙女の巨像が門番の様に飾られた豪奢な扉の前で、真太郎が馬鹿みたいな声を出している。
「友達の家に遊びに来た小学生かよっ!」
刹那がツッコむなり、真太郎はチャット画面を展開した。
「……いや、止めておこう。チャットより、直に声をかけて呼んだ方が心理学的に親近感を抱かせることが出来るだろうしな」
真太郎は訳知り顔でそう言うと、チャット機能を閉じた。
「きーりーひーとく~ん! あーそびーましょ~!」
「言ってる事は策士的でござるが、やっている事は小学生でござる」
言ってる事とやっている事の差が生む間抜けさに、イナバが思わず呆れ顔をする。
「きーりーひーとく~ん! あーそびーましょ~!」
真太郎は扉の向こうに向かって大声で呼びかけるのだが、一切返事が返ってこない。
「あれぇ~? いないのかなぁ?」
全く返事がない事をみこが訝しがる。
「いや、多分居留守を使っているのだろう。その証拠に窓に人影が見える」
目ざとく窓に人影を発見した真太郎は、直ぐに呼びかけを再開した。
「きーりーひーとく~ん! あーそびーましょ~!」
すると突然、頭上の窓が勢いよくバンッ! と開いた。
「馬鹿なの、お前っ!? 静かにしろよっ!」
窓を開けて出て来たのは、金髪をツンツンと尖らせた大学生ぐらいの青年だ。
彼こそが、真太郎の尋ね人である三大ギルド『渾沌騎士団』ギルマス『斬人』だ。
「きーりーひーとく~ん! あーそびーましょ~!」
「いや、聞けよっ!」
「きーりーひーとく~ん! あーそびーましょ~!」
「なんだよ、うるせーなっ! お前、シンタローだろ!? 何しに来たんだよっ!」
簡易ステータスから真太郎の正体を見破った斬人が、怒鳴り気味に質問する。
「きーりーひーとく~ん! あーそびーましょ~!」
「なんだそれは!? 遊びに来たって事かっ!? だったら、事前にアポ取って来いっ!」
「きーりーひーとく~ん! あーそびーましょ~!」
「なんなのお前っ!? さっきからしつけーよっ!」
「きーりーひーとく~ん! あーそびーましょ~!」
「……えっ、ヤダ何? ちょっとこえーわ、お前……」
自分の言葉に全くリアクションを取らず、同じ言葉をただひたすら真顔でオウム返しして来る真太郎に、斬人が思わず恐怖を覚える。
そんな怯えた斬人の顔を見るなり、真太郎はイタズラが成功して満足したのか、大声で叫ぶのを止めた。
「俺、うざくね?」
「うぜーよ! そして、こえーよっ!」
真太郎の馬鹿に真面目に付き合う斬人は、三大ギルドのギルマスと言う割に、そんな大層な威厳を感じない。
「斬人くん。遊びに来たから、お家に入れてよ」
ゲーム時代では、何度も共闘して戦友としての絆を深めて来た斬人は、真太郎にとっては友達と同じだった。
それ故に、お互い扱いが雑になりがちだ。
「はぁ!? ふざけんな、帰れっ!」
真太郎におちょくられた斬人が、キレ気味に吐き捨てて乱暴に窓を閉める。
「新宿の風俗で本番強要したら、ヤクザにボコられて、受付にポラロイド写真を張り出されて出禁にされたきーりーひーとく~ん! あーそびーましょ~!」
窓が閉じられるなり、真太郎がより一層大きな声で呼びかけた。
「きーりーひーとーく~ん! ギルドハウスに入れてくれるまで、叫び続けるよ~!」
次の瞬間、超高速で重厚な扉が開かれる。
「とっと入れっ!」
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「いや~。まさか、こんな風にしてリアルの斬人君と出会えるとは、思わなかったよ」
アポ無しでいきなり押しかけた真太郎だったが、斬人の弱みを握っていたので、まんまと渾沌騎士団のギルドハウスに入る事に成功していた。
「俺は、お前になんて会いたくなかったけどな。シンタローくん!」
そう言って、『渾沌騎士団』のギルドハウスの謁見室に真太郎を招いたのは、オリエンスの三大ギルドの一つ『渾沌騎士団』のギルドマスター『斬人』だった。
ロックスターの様にツンツンに立てた金髪、歴戦の傷が目立つ漆黒の鎧、そして龍を模した白と黒の双振りの大剣――といった見た目から付いたあだ名は、『黒騎士』、『双龍剣の斬人』。
斬人は、日本サーバー有数の高レベルプレイヤーにして、最強の武闘派ギルド『渾沌騎士団』の創設者だ。そして、彼は『勇者ゲーム』のベータ版から、幾多の大規模戦闘を先頭切って駆け抜けて来た筋金入りの戦闘狂でもある。
「なんだシンタロー。お供を連れて、キモカム気取りか?」
ずっと不機嫌そうな顔をしていた斬人が、不意に妙な事を言い出した。
「キモカム?」
「キモオタズ・カム・トゥルーでキモカムだ」
上手い事言ってやったと言わんばかりに、斬人がニヤリと笑う。
「俺のどこがキモオタだよ。しょうもねー事言ってんじゃないよ」
「しょうもねー事言ってんのは、おめーだよ。この俺が、風俗店で本番強要して出禁になっただと?」
「事実じゃん。キリヒト・イズ・トゥルーじゃん」
名の知れた手練れの回復職であるシンタローは、助っ人として何度も斬人と共に戦闘をこなしていたので、今ではすっかり彼と顔なじみなのだ。
故に、二人のやり取りは、完全に家で寛いでいる学生のノリだった。
「馬鹿野郎、事実じゃねーよ! 勇ゲー最強プレイヤーのこの俺に嫉妬したカス共が、俺を貶めようとネットで流してる与太話を真に受けてんじゃねーよ、タコ!」
斬人が不機嫌に突っぱねるなり、真太郎が「あれれ?」みたいな顔をする。
「あれ、そーなの? でも、コージさんが、斬人ちゃんと同じ店で同じ事やって出禁になったって、クリスマス明けに話してくれたよ?」
「だはは! マジでっ!? あの人もかよ! ほんと、どーしようもねーおっさんだな! ったく、クリスマスに風俗かよ! 何やってんだよ、あのおっさん!」
斬人がはしゃぐなり、真太郎が嘘を暴いてやったとばかりに指をさす。
「ほらー! 『あの人も』とか言ってんじゃん! やっぱり本当じゃん!」
「は? ははは、はぁ!?」
嘘を暴かれた斬人が、分かりやすくきょどりだす。
「何言ってんの、意味分かんねー! 何言ってんの、お前っ!? つか、なんでコージさんが、リアルの俺の顔知ってんだよっ!?」
「なんでって、斬人とコージさんは、中学と高校の時の先輩後輩なんでしょ?」
「はぁ!? なんでお前、俺の事そんな詳しーんだよっ!? こえーよ!」
何気に事情通な真太郎に、斬人が思わず恐怖を覚えてのけぞるなり、謁見室に赤い髪の女が入室して来た。
「扉の前で叫び続けていた妙な侵入者とは、こいつだったのか」
燃え盛る炎を思い起こさせる赤い髪の女の名は、『紅』。並み居る猛者共を尻に敷く『渾沌騎士団』のナンバー2の女傑だ。
「確か……君は『名無しのギルド』のシンタロー――『名無しのギルド』と言えば、凶悪なPKと有名な迷惑プレイヤーを寄せ集めた最凶の困り者ギルドだったな。ふ~ん、その中心人物の割に、意外に普通な見た目ではないか……」
紅は値踏みする様に真太郎を見つめながら、彼の周りをゆっくり回った。
「お久しぶりです、紅さん」
「久しぶり? いや、君に会うのは初めてだよ。ここが『現実』であればね」
炎の様に紅い髪と肉感的な大きな胸を揺らす紅が、朴訥とした話しぶりでクールに応じる。
「紅さんは、ここを『勇者ゲームの世界』ではなく、『現実』だとお捉えなんですか?」
随分とクールに見える紅に、真太郎が様子を見ながら丁寧に言葉を投げかける。
「自分が今いる場所、それが『現実』さ。たとえ、それが『ゲームの世界』であろうがね」
(う~ん。アホの斬人と違って、やっぱり紅さんは肝が据わってるなぁ)
トップゲーマーとしてのカリスマ性はあるが、ギルマスとしての実務能力が皆無な斬人に代わって『渾沌騎士団』を率いている紅は、随分と冷静に今の状況を受け入れているようだった。
「そんな事より、ここへ何しに来た?」
紅は言ってすぐに、言葉を止めた。
「いや、君の飼い主は『狂人使い』のアダーだったな。その使いで――」
「なにそれ、俺が狂人だって言いたいのっ!?」
「間違ってはいないだろう? たった七人のギルドメンバーで全ギルドに闘いを挑んだり、お色気系イベントを制覇する為だけに全ギルドから手練れの男共を強引に集めて即席のギルド連合を作ってみたり、更には、股間に葉っぱを一枚張り付けただけの変態軍団を作って全レイドを制覇したり、考える事もやる事もマトモとは言えん」
「ぐぬぬ……!」
酷い言われ様に真太郎が思わずツッコむが、あっさりいなされてしまった。
「話を戻そう。キミは、あいつ――アダーの使いできたのか?」
「まぁ、そーなるね。とりあえず、挨拶代りに俺のちょっとした小話を聞いてくれよ」
真太郎はそう言うと、自分が魔王と戦った事を、斬人と紅に話して聞かせた――。




