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幕間2―4 あの日のぼくたち、わたしたち ~刹那日常編2~

「お前ら、ふざけんなよっ! なんで全員揃って、一時間も遅刻すんだよっ!」


「うるせーな、チュウの癖に仲間みたいな事言うんじゃねーよ」

「黙れ、バカタロー! 俺はもう仲間だろうがっ!」

「え、仲間? 毎回勝手に混ざってくるウザいゲストキャラじゃないの?」

「なんだよ、それ!? ふっざけんな! そのきょとん顔をやめろよっ!」

 きらりは、奇妙な縁で出逢う事になった『名無しのギルド』の一癖ある妙な連中と、いつの間にか仲良くなっていた。


 最初に敗戦した後、きらりは『名無しのギルド』を見つける度に逆襲を仕掛けていた。

 だが、その度に返り討ちにあってしまい、だらしなく醜態を晒し続けてしまっていた。


「真太郎、よさないか。刹那は、もううちのメンバーなんだ。仲良くしたまえ」

 そんな日々が何日か続いた頃、『名無しのギルド』のリーダーである『アダー』という人物が、面白がって彼女をギルドに誘ってくれたのだ。


 勿論、敵なのだから、最初はその誘いを断った。

 だが、アダーのおとぎ話に出て来る王子様の様な見た目と、凛々しくも包容力に溢れた人柄に惹かれて、気が付いたら、彼らと良く絡むようになっていたのだ。

 そして今では、立派に『名無しのギルド』の一員になっていた。 


「そうでござるよ。チュウは、もう仲間なのでござる。喧嘩はいかんでござるよ」

 そう言うのは、ござる口調が特徴的な絶世の美剣士『剣聖のイナバ』だ。見た目も言動も、キリリと凛々しくて、正に侍という言葉がぴったりな男だ。

 そんなイナバは、『名無しのギルド』の優しく頼りになるお兄さん的存在だ。

 その上、『剣聖の極意』とかいうチート級スキルまで持っていて、正に、名実共に頼れる男である。


「そーだよぅ。刹那たんはもう仲間なんだよ、喧嘩はめっ! なのだっ☆」

 舌足らずで甘い声を出す、魔法少女みたいな格好をした人懐っこいロリっ娘は、『さくにゃん』。

 さくにゃんは、天使の様に可愛い見た目に反して職業は狂戦士であり、一度戦闘になれば、敵味方問わず蹂躙して血祭りにあげる最凶の危険人物だ。


「アンタ達、元気ねぇ~。若いって羨ましくもあり、憎らしくもあるわぁ~。とりあえず、喧嘩はウザったいから、仲良くしなさいな」

 そう気だるげに言うのは、露出多めで裸同然の格好をした魔女だ。

 この噎せ返る程にお色気むんむんなお姉さんは、ジェニファー。皆からは『ジェニファー姐さん』と呼ばれている。リアルでは、日本とパリを往復する有名なファッションデザイナーらしい。なんの因果で『名無しのギルド』にいるのかは謎だ。


「ふぉふぉふぉ。昔から、仲良き事は美しきかなといってな、喧嘩はいかんぞい」

 そんな事を言って、たっぷりとたくわえられた長く白い髭を撫でるのは、仙人の様なジジイキャラだ。

 この爺さんは、その見た目そのまま、『仙人』と呼ばれている。馬鹿が多く集まっている都合上、すぐに暴走しがちな『名無しのギルド』を抑えるご意見番的存在だ。


「おいおい、待ってくれよ、ジェニファー姐さん。セクシーダイナマイツな女騎士とのパフパフタイムをブチ壊すファッキン野郎と仲良くしろだって!? ジジイまで、冗談はよしてくれよっ!? そんな事は俺が、ジーザスだって出来ねー相談だぜっ!」

 B級ハリウッド映画の台詞みたいなのを嬉々として話す、アメコミヒーローみたいな格好をした全身タイツ野郎は、『ヴァン=クロード・セガローン』。全米が馬鹿にするハリウッド級の大馬鹿者だ。


「ヴァンの言う通りだ。うちは各界の実力者を集めた最強にして最凶の少数精鋭のスタンドアロン型ギルドだ。チュウみたいな低レベの役立たずで、その癖に口ばっか生意気でコミュニケーションも上手く取れねーカス野郎なんていらねーよ!」

 そして、ふてぶてしい態度で舐めた口を利く目つきの悪いヒーラーが、『シンタロー』。このギルドの設立者でありながら、リーダーになるのを面倒臭がってアダーに擦り付けるボンクラ野郎だ。


「うるせーよ、バカタロー! 口ばっか生意気な馬鹿はテメーじゃねーか! つか、、まだ昨日の事を引きずってんのかよ! このドスケベ変態野郎共がッ!」

 ずっと一人で荒みながら孤独にゲームをしていたきらりの周りには、いつの間にか変な奴らがいっぱい集まり、騒々しいぐらいに賑やかになっていた。 


「黙れ、中二病! お前に、おっぱいを逃したこの悔しさがわからねーのか!」 

「んなもんわかるかっ! んな事言ってるから、おめーはバカタローなんだよ!」

 馬鹿相手に感情剥き出しで喧嘩をする事で、きらりは凄惨ないじめによって失ってしまった『感情』を取り戻しつつあった。


「まったく、キミ達は仲がいいね。妬けちゃうよ」

「ギルマス、変な事言わないでくれよ」

 呆れ顔で笑うアダーに、きらりが不満げな顔でぶーたれる。


「ところで、刹那。今日は何か相談があって、ボクらを呼び出したんじゃなかったのかい?」

 アダーがそう言うなり、きらりは一瞬戸惑った。

「あ。う、うん……」 

 あの事を言うべきか言わざるべきか……。


 折角出来た気の置けない仲間を、リアルの事情を話す事で失ってしまうかもしれない。久しく忘れていた友達との賑やかな馬鹿話や、心からの笑顔を失ってしまうかもしれない……。

 そんな不安が、きらりの脳裏をよぎり、彼女の小さな胸をぎゅっと締め付けた。


「あのさ……。実は、俺、いじめられててさ……」

 だが、長年一人で心の中に秘めていた辛く苦しい思いを、これ以上抱えている事は、もう無理だった。


「いじめ?」

 アダーが訝し気にそう言うなり、真太郎とヴァンがはしゃぎだした。


「だっせー! チュウはいじめられっ子かよっ!」

「HAHAHA! チュウボーイが、いじめられっ子だって!? HEY! こんな所でゲームしてないで、ママに慰めてもらって来いよっ! きっと温かいココアにマシュマロを入れて、カウチでお前を抱き締めてくれるぜっ!」

 思いのたけを吐き出そうとした瞬間、意地の悪い馬鹿共に速攻でからかわれた。


「ふっざっけんな! 俺じゃねーよ! 友達だよ、友達っ!」

 その反応から、本当の事を話すのはマズい、と思ったきらりが、慌てて話を誤魔化す。


「ちょっとアンタ達、からかうのはやめなさいよぉ~。刹那は、実生活でいじめられてるのよぉ。ゲームでもいじめられたら、自殺しちゃうわぁん」

「そうだよぉ! 刹那たんは、日々いじめに苦しんでいるだぞぅ! やめなよねっ、いじめかっこわるいよっ!」


「いや、俺じゃねーって言ってんだろっ! 人の話を聞けよっ!」

 人の話を聞かないジェニファーとさくにゃんにイラついたきらりが、小動物の様にキーキー言うなり、イナバが皆を諌めてくれた。


「皆、刹那の話を聞いてやるでござるよ! 今までずっと拙者達に悪態しかつかなかった刹那が、初めて真剣に話を持ち掛けて来たのでござるよ。よほどの理由があるに違いないでござる!」

 絶世の美剣士イナバは、その見た目通り、侍の様に高潔な男だった。


「イナバ……お前、いい奴だな」

 こいつはきっと、リアルでもいい男なのだろう。イナバの正体が、ロリコンでM属性のキモオタだなんて事があるはずがない。


「イナバさんの言う通りだよ。刹那が真剣な話をするに足る相手として、ボクらを選んでくれたんだ。ボクらも真剣に聞いてやらなければ失礼だ。それに、人の話を聞かない奴はロクな死に方をしないよ。分かったら、静かにしているんだ」

「ギルマスぅ~。やっぱり、いい人だなぁ……!」

 皆に馬鹿にされて侮られている味噌っかすの自分に、何時でも優しく接してくれる王子様の様なアダーの事が、きらりは大好きだった。


「ボクは悪人だよ。でも、刹那がいい子だから、ボクもいい人ぶっているだけさ」

 アダーはそう言って冗談めかすと、王子様の様に爽やかに微笑んで話を本題に戻した。

「で、刹那の相談っていうのは、そのいじめられている友達の事かな?」


「う、うん……」

 アダーが自分の意を汲んでくれた事で、きらりは再び思いのたけを吐き出す事にした。


「俺の仲のいい友達が、学校でいじめられててさ……」

 きらりは意を決すると、自分の事を架空の友達に託して『名無しのギルド』の仲間達に話して聞かせた。

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