第34話 お色気担当せっちゃんと、最終兵器みこ
(……参ったなぁ、何もかもがアダーの掌の上だ。俺ってば、完全に奴の掌の上で踊ってた。いや、最初から遊ばれていたと考えた方が正確かな。マジで怒らせたら、二、三回は殺されていただろうしね……)
真太郎はそんな事を思いながら、一度も振り返らずに歩くアダーを見送った。
(意外だな、本当に俺に任せるつもりだ。予想では、もっと揉めると思っていたんだけどなぁ。やっぱり、あの人は腐っても俺の先生って事なのかね……)
アダーが完全に視界から消えると、真太郎は気持ちを切り替えた。
「さて、と! なつき先生の期待に応える為に頑張っちゃおうかな!」
真太郎はそう言って歩き出すなり、一緒に取り残されていたイナバ達に気が付いた。
「あれ? みなさん、まだいたの?」
「いちゃわりーか。バカタローが暴走しねーか、見張ってんだよ。お前の暴走を止められるのは俺だけだからな」
「チュウが、俺に何かできた事は一度も無いぞ」
真太郎は刹那にツッコんでから、イナバを見た。
「師匠もですか?」
「そうでござるよ。シンタロー殿は、目を離すと何をするかわからんでござるからな。師匠としては、放っておくわけにはいかんでござろう?」
「ふ~ん……」
刹那とイナバの言葉を聞いた真太郎が、気の無い返事を返す。
「おい、バカタロー。お前、これから、いろんな奴らと交渉しに行くんだろ? コミュ障なお前一人だけじゃ失敗するだろうから、この俺も一緒に行ってやるよ」
「クール&クレバーな俺に、手伝いなどいらん。チュウは、アダーと一緒に帰れ」
「フール&おバカーの間違いだろ?」
そう言って刹那が悪戯っぽく、ひひっと笑う。
「こいつ、腹立つわぁ~!」
「ところで、シンタローさん。普通に疑問なんだけど、有力ギルドの人達との交渉を上手くまとめられる勝算はあるの?」
意外と冷静な事をみこが言い出した。
「なにかな、みこちゃん? それは俺がネトゲ廃人だから、他人とコミュニケーションが取れない、という事かな?」
「む~。そんなつもりで言ったんじゃないんだけどなぁ~」
真太郎がジト目で睨むなり、みこが困り顔で否定する。
「ま、確かに間違っちゃいないから、いいけどね。だが、俺はコミュニケーションは下手でも、ネゴシエーションは上手なんです。それを今から、みこちゃん達に見せてあげましょう」
仲間に侮られっぱなしの真太郎は、彼らを見返す為に、三人を連れて行く事にした。
そう決めるなり、おもむろにステータス画面を展開する。
「三人がついて来ると言うのならば、ここからは四人で事に当たるってことだな。ならば、ここから先は、戦闘になる可能性を考慮してパーティー編成で行きましょう」
「おい、話し合いに行くんだろ? 何で戦闘になるんだよ?」
真太郎が物騒な事を言うなり、刹那が即座にツッコむ。
「一人で会いに行くならともかく、四人で徒党を組んでやって来たら、相手方はどう考えても警戒するだろ? だからだよ」
「……そんな事で戦闘になるのか?」
少し不安になった刹那が、つぶらな瞳を微かに揺らす。
「たりめーだろ。なんの為に俺が、単独で動こうとしていたと思ってんだよ。俺はオメーと違って物を考えて動いてんだよ」
「おい! 口悪りーぞっ!」
と強気に振舞う刹那だったが、不安はぬぐい去れないようだった。
「今の混沌として不安に満ちた状況では、皆、神経がささくれ立っているだろう。だから、何が起こるかわからん。さっきはアダーの知り合いだったから、穏便に事が運んだだけの話だしね。だが、次からは、そうはいかないだろう。戦闘系ギルドの武闘派連中は当然の事として、ゲームとは違って地は好戦的な性格の人もいるだろうし、中の人はヤクザとか犯罪者なんてケースもあるだろう。気を引き締めてかからんとならんよ」
「おいおい……マジかよ……」
真太郎が割とマジな調子で言うなり、刹那がビビって黙り込んだ。
「そうビビるなよ。マジでヤバいのは、ほんの一握りしかいないだろうさ。ここにいる奴の大半は、チュウみたいな人間だ。恐るるに足らんさ」
「は? それはどういう事だよ?」
「何かあればきゃんきゃん大声で叫んで、ビビって凶暴になっているだけのチワワみてーな連中って事だ。例えが分かりづらいかい? 言い換えれば、気が弱くて短い、その上傲慢でキレやすい。だが、それだけで、実際は大した事は何も出来ない馬鹿って事だよ」
真太郎が先程の仕返しとばかりに、キツい口撃を刹那に食らわせる。
「はぁ!? テメー、ふざけんなよっ!」
真太郎に馬鹿にされるなり、キレた刹那がチワワの様な動きで襲い掛かる。
「言葉と裏腹に、行動で体現しているぞ、馬鹿チュウ! 『ホールドエネミー』!」
襲い掛かって来た刹那に、真太郎がすかさず拘束魔法をかける。
次の瞬間、無数の魔法の鎖が、刹那のちんまい体を雁字搦めに縛り上げた。
「はぅぅー! またこれかぁーっ!?」
「せっちゃん……いい加減、学習した方がいいでござるよ」
同じ事を懲りずに何度も繰り返す刹那には、流石のイナバのも呆れ顔だ。
「俺が今言った事は、今のお前の行動で証明されたな。ここでは、俺や師匠やみこちゃんの様に、割と簡単に他人に心を開く余裕のある人間は少数なんだよ。お前が今やったみたいに、どーでもいい事でいちいち喧嘩をけしかけていたら、簡単に戦闘になるから、もう今みたいな事はすんなよな」
「はっ! 雑魚なんか俺が返り討ちにしてやるよっ!」
上下さかさまになっているカッコ悪い姿で縛られながらも、威勢よく啖呵を切る刹那だった。
「ほら。言った通り、ビビって凶暴化してるじゃん」
真太郎が呆れてため息をつくと同時に、刹那にかけられた魔法が解けた。
「さて、チュウも動けるようになったし、そろそろ行くか。っと、その前に、俺達を『パーティー』にするから、三人ともステータス画面を開いて」
『勇者ゲーム』では、最大七人までのメンバーで『パーティー』を組むことが出来る。
パーティーを組む事の利点として、まず各ステータス(STR、VITなど)の強化と、経験値増などの戦闘報酬のボーナスがあげられる。
また、パーティーを組む事で出現するパーティーリストには、メンバーの名前のほか、ジョブやレベル、現在のHPとMP、各種ステータスが表示されるので、戦闘中のステータス管理が容易になるという利点があるのだ。
そう言った点から、複数人で戦闘に赴く際は、出来るだけ『パーティー』を組む事が推奨された。
勇者ゲームに似た仕組みで動いているこの世界でもそれは同様だろう、と考えた真太郎が、パーティーを組む為の準備を始める。
「おいおい、マジで戦闘前みたいじゃねーかよ」
「あんまり気負わなくていいよ、プレッシャーは悪影響しか及ぼさないからね。それにコミュ障のチュウに交渉事で期待する事は何もないから、お前は何もしなくていいよ」
真太郎は刹那を安心させるような事を言うと、自分をリーダーにしたパーティーを結成した。
「その言い方だと、コミュ障の拙者も役立たずみたいで、なんか傷つくでござるなぁ」
「適材適所ですよ。師匠のお力は、戦闘でこそ発揮されるものです。と言う訳で、相手方が舐めた態度を取ってきたら、問答無用で凄んでください。それだけで言語外の威圧の効果がありますからね」
「了解でござる」
分かりやすい真太郎のおだてに、イナバが直ぐに気を良くしてその気になる。
「チュウは――」
「黙れ、バカタローの言う事など聞かん」
先程、魔法をかけられた事に腹を立てる刹那が、生意気なそうに鼻を鳴らす。
「別に良いよ。だけど、俺が笑えと合図したら、何が何でも笑ってくれ。とびっきりのきらきらスマイルだ。チュウ……いや、星宮きらり。キミの女の部分に期待する」
真太郎はそう言って、刹那の顔をビシっと指さした。
「な、何っ!?」
「俺が交渉、師匠が暴力、そしてチュウ……お前は、お色気担当だっ!」
とんでもない事を真太郎が言い出すなり、刹那がつぶらな目を丸くして絶叫する。
「お、おおお、お色気だとぉーっ!?」
人生で一度たりとも担った事のない役割を与えられた刹那が、激しく動揺する。
「ちょっとー、シンタローさん! このみこちゃんを差し置いて、なんで刹那がお色気担当なのかなっ!」
色気が無いと馬鹿にされたと思ったみこが、結構前のめりでツッコんで来た。
「みこちゃんは、普通にしているだけで空気が和むから、ムードメーカーとしていつも通りニコニコスマイルを浮かべて元気にしていてくれ」
「むぅ~。なんか女として否定されたみたい……」
「みこちゃんは、チュウのお色気が通用しなかった時に備えた切り札だ」
「あたしのお色気が切り札ですとっ!?」
「最終兵器と言ってもいいだろう」
「さ、最終兵器っ!?」
ガーン! と言った感じでみこが激しく動揺する。
「うへへ……あたしが最終兵器かぁ~。あたしのセクシーさも遂にそこまで来たかぁ~」
ぐずったみこを適当になだめようとして発せられた台詞が、思わぬ効果を発揮したようだ。
「よし! その役目、このみこちゃん、確かに引き受けたぞっ!」
みこが納得するなり、真太郎が気を取り直す。
「気合十分だね。じゃあ、早速行こうか」
真太郎が歩き出すなり、刹那が慌てて彼を止める。
「お、おおお、お色気だとっ!? 俺が、お色気担当なのかっ!? セクシー担当なのかッ!? あっはーんでうっふ~んなのかぁぁぁーっ!?」
突然、お色気担当にされた刹那の未来はいかにッ!?
第二章(上) 異世界生活 下準備編 ~終~




