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第33話 可愛い生徒に、なつき先生ご満悦

「ふはは、迂闊だなぁ。追いつかれたくなかったのなら、同じ所に留まって長い間、立ち話なんてしていちゃダメじゃあないか」

 会話に集中させる事で真太郎の足をまんまと止める事に成功していたアダーが、イタズラっぽく微笑む。

(……ハメられたな。というか、俺が迂闊過ぎた)


「真太郎、キミが何を警戒しているかわからないが、ボクは最初からキミを仲間にするつもりだったんだよ」

「冗談言うなよ。アダーみたいに賢い人間が、俺みたいなアホを信頼するかよ」

「逆に考えるんだ。ボクは、真太郎が何でも行動をお見通しに出来るアホだから信頼しているのだよ」

「は? なにそれ?」

 アダーが一切の含みも無くさらりと言うなり、真太郎が間の抜けた顔をする。


「勿論、イナバさんと刹那も、状況が落ち着き次第、仲間にするつもりだったよ。だってキミ達は、ボクの大切な仲間だからね。おっと、もちろん、みこちゃんもだよ」

 全く邪心なくアダーはそう言うと、王子様スマイルで爽やかに微笑んだ。

 次の瞬間、刹那とイナバとみこが、黄色い悲鳴を上げる。


「ギルマスぅ~!」

「やだ! アダー殿、拙者をときめかせてどういうつもりでござるのっ!?」

「あらら~、アダーさんは女の人なのに、なんか変な気分になっちゃったぞぉ~」

 刹那とイナバとみこが、お嬢様界最強の王子様アダーにコロッとやれるなり、真太郎が馬鹿を見る目つきでため息をついた。


「はぁ。アダーの王子様スマイルごときにやられるなんて、安い人達だなぁ~」

「真太郎、キミの良い所はボクに簡単になびかない所だ」

 一瞬にして刹那とイナバとみこを惚れさせたアダーが、銀髪をかき上げて真太郎に微笑みかける。


「はぁ?」

「そして悪い所は、ボクを出し抜けると思っている所だ。先生より優れた教え子などこの世にはいないのだよ?」

「なつき先生。藍より出でて藍より青し、って言葉を知らないの?」

「キミの悪い所を追加しよう。出来の悪い生徒の癖に、生意気に先生に反抗する所だ」

 アダーはそう言って悪戯っぽく微笑むと、真太郎にデコピンした。


「何故、男の真太郎が、か弱い乙女であるこのボクを警戒するのかが、まったく分からないが、心配する必要はないよ」

「別に警戒なんてしてないし、信用してない訳じゃないよ」

「ならば、何故ボクを避ける?」

「そんなの……」

 真太郎が言いづらそうにすると、アダーが弟に接する様に優しく微笑んだ。


「怒らないから正直に言ってごらん」

「……アダーのそーいう所だよ。アダーは俺を……すぐに子ども扱いするだろ? そーいう事をされると、人に舐められるじゃないか」

 なんだか照れた様に口を尖らせて真太郎が言うなり、アダーが切れ長の目を丸くした。

 そして一拍の間の後、破顔した。


「ふっ……ふははははっ! 真太郎、キミは本当に可愛い奴だなぁ!」

 アダーはとても嬉しそうに笑うと、真太郎の頭をわしわしと撫でた。

「ちょっ!? 急に何っ!?」


「あはは! ボクはてっきり、人間はどんなに上辺で仲が良くても、根っこのところでは決して理解し合えないとかそういう深刻な問題を想定していたのに、真太郎は、よりによってそんな可愛い事で悩んでいたのかいっ!? ふははは!」

「昨日も言っただろ、俺はアダーを信頼してるって! そこを信じろよっ! ってか、頭を撫でるのを止めろっ!」

「いいや、止めない! そんな可愛い事を言う奴は、もっと可愛がってやる!」

 真太郎は上機嫌なアダーの手を乱暴に振り払うと、うんざりした顔を作った。


「とにかく! 今みたいな事をされると、困るんだよ。斬人も板垣さんもテンテンもヘタレ忍者も、俺がアダーに子ども扱いされてるのを見たら、絶対にからかってくる様な嫌な性格だし、コージさん達に至っては面白がって何して来るかわからない。だから、今の俺はアダーと一緒に行動したくないんだよ」

 真太郎が照れ隠しの様に、一人で行動したがる真意を早口で打ち明けた。


「成程、成程。ふふふ、まるで親をうっとうしがる思春期の子供じゃあないか。そうかそうか、まったくキミってやつは、ほんと無駄に可愛げがあるなぁ」

 すると、アダーはようやく納得した顔をした。


「で、なつき先生は、エリーゼさん達の説得に成功したのかな? 成功したからこそ、ここにいるんだよね?」

 恥ずかしさを誤魔化そうとする真太郎が、責める様な口ぶりで話題を変える。

「無論だよ。『ポム・アンプワゾネ』はエリーゼ以外の全員が、ボクの指揮下に入った。なつき先生は、生徒の期待に常に簡単に答えてあげるスゴイ先生だからね、当然抜かりはないよ。ふふん」

 真太郎の胸中を察したアダーが、楽しそうにニヤニヤしながら話に応じる。


「流石、なつき先生。じゃ、お次は、『ポム・アンプワゾネ』が、アプデに伴って発生した新イベントに挑戦しようと人を集めている、っていう噂を流してくれ」

「真太郎は、これからどうするんだい?」

「俺はこれから、渾沌騎士団、JMAと三大ギルドの残り二つを回って、獣人同盟、蒼天海賊団、飛龍忍軍、七☆しちせいけん、インヤン飯店と有力ギルドを回って、舞闘会に参加させる交渉をしてくる」


「魔王討伐軍を仕切っていたボクでも、三大ギルド以外にはまったくコンタクトが取れていないのに、真太郎に出来るのかい?」

「多分、問題ないよ。俺は、『コラボレーター』のスキルを取る為に、色んなギルドに加入していたから、今言った連中はギルマス、ギルメン含めて大体顔見知りだもん」

 真太郎の言い分を納得したのか、アダーは何も言い返さなかった。


「勿論、失敗する可能性も高いよ。でも、俺の交渉が失敗したら、『ポム・アンプワゾネ』が、アプデに伴う新イベントに挑戦する為に人を集めているという話をばら撒いておく。俺の話には乗らなくても、三大ギルドの一つである『ポム・アンプワゾネ』が動いているとなれば、多くのギルドは確実にアダーに連絡を取るだろうからね。だって、部外者とまったく交流を持たない『ポム・アンプワゾネ』とコンタクトを取るには、アダーを介さなければならないのだからさ」

 真太郎の話を聞くなり、アダーが感心した風な声を漏らす。


「ほぅ。ただ暴走している様に見えて、一応はそれなりに考えて動いていたみたいじゃあないか」

 アダーはそう言うと、顎に手を添えしばらく考え込むように黙った。


「……分かった。真太郎の勝手を許そう」

 次いで、ポンと手を叩く。


「だが、計画を変えよう。まずは、真太郎は今言ったギルドを回ってくれ。その際に、『さんざめけ☆めけ! 勇者だヨ全員集合! 天下一舞闘会!』の事は伏せて、単純にボクというか、『ポム・アンプワゾネ』が、有力ギルドを集めた会談の席を設けたがっている、という事で話を進めてくれ」

 アダーが自分の計画を言い出すなり、真太郎が不満げな顔をする。


「気は良くても、気難しい人が多いから、話し合いでまとまったりはしないと思うよ。それより、分かりやすいエサに喰いつかせた方が確実だと思う」

「それは正しいかもね。だからといって、いきなり『この街で一番強い奴を決めたいから、ガチンコで戦おう』では、誰も首を縦には振るまい。違うかな?」


「だから、それをアプデに伴う新しいイベントだって事にして騙すんだよ」

「最初から騙したら、後々信頼関係が築けないではないか。勿論、ボクだって、話し合いで簡単にまとまるとは思ってはいないよ。だけど、話し合いで全てが上手くいくのならば、それが最も好ましいじゃないか。違うかい?」


 話が段々グダって来たのを感じた真太郎が、アダーに核心を問う。

「……確かにね。で、結局アダーは何がしたいの?」


「ボクは、有力ギルド全員との話し合いの席を設けたいだけさ。まずは話し合いをして、それがダメだったら、そこで初めて真太郎の『さんざめけ☆めけ! 勇者だヨ全員集合! 天下一舞闘会!』作戦に移行する。今の状況でいたずらに混乱を起こすのは良くないだろう?」

 アダーがそう言うなり、真太郎が反論しようとする。


 だが、話を始める前にアダーに遮られてしまった。

「真太郎は、自分では冷静に事を運んでいると思っているだろうが、今のキミは魔王と戦った事で精神が興奮して暴走している、という事をよく自覚するんだ。そんな今のキミに必要なのは、落ち着きと――」

「落ち着きと?」


「このボクに甘える事だよ」

 アダーがお嬢様界最強の王子様スマイルで真太郎に微笑みかける。そんなアダーの顔は、まるで不器用な弟を心から慈しむ姉の様に優しい。


(クソ。この笑顔をされると、逆らう気がなくなるんだよなぁ)

 お姉さんぶるアダーの顔を見るなり、真太郎は全て彼女の言う通りにした方がいい様な気持ちになってしまった。

「……参ったね。結局、俺はこっちの世界でも、アダーには敵わないみたいだ」

 自嘲気味に真太郎がそう言うと、アダーが嬉しそうにニコリと笑った。


「知ってる」

「……仕方ない。俺は今から、勇者シンタローから、なつき先生の教え子の真太郎に戻るよ」

「そいつは賢い選択だね。じゃあまた、出来の悪い教え子を可愛がってあげるとするか」

 アダーはそう言って満足げに笑うと、おもむろに話を変えた。


「と言う訳で。真太郎には、ボクと別行動で人集めに精を出して貰おうかな?」

「ん? 別行動でいいの?」

「ボクが一緒にいたら、真太郎が恥ずかしがっちゃうからね。致し方あるまい?」

 完全にペースを掌握したアダーが、上機嫌で真太郎をからかい始める。


「それにボクも新しい仕事が出来た。まずは、会談の為の会場探しをしなければならないからね。それに一応、ボクが会談の主催者だ。おもてなしの準備もせねばならない」

 自分の仕事に取り掛かる事にしたアダーはそう言うと、クルリと踵を返した。


「あれ? 何? マジで行っちゃうの?」

「ああ、そうだよ。寂しいかい?」

「ちょっとね」

 真太郎はアダーが喜ぶだろう言葉を言ってみて、彼女の出方を窺った。


「ふふん、今の嘘は簡単に見抜けたよ」

 真太郎より一枚も二枚も上手なアダーは、そう言って彼をからかうと、おもむろに歩き始めた。

「嘘じゃないよ!」


「おや、そうだったのかい? でも、ボクもなにぶん忙しい、真太郎ばかりに構ってはいられないんだ。なにせ、今回の作戦の保険になるだろう『アレ』を、完全にコントロール出来る様にしておかなくてはいけないのだからね」

 アダーはそう言ってから真太郎に微笑みかけると、そのまま行ってしまった。


 その場に残された真太郎が、狐に摘ままれた様な顔で彼女を見送る。

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