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第31話 一人になりたいお年頃

「待つんだ真太郎、勝手な事をするなっ!」 

 真太郎が『ポム・アンプワゾネ』のギルドハウスの外に出るなり、アダーが小走りで追いかけて来た。


「アダー、しつこいよ。ここでも先生気取りかい?」

 小うるさいアダーにうんざりした真太郎が、若干ウザそうに言う。


「そうだ! 悪いか!」

「い……いや、悪くないよ」

 アダーにあまりにも強く言い切られてしまったせいで、思わず動揺する真太郎だった。


「それに今の真太郎はボクの右腕だ。ボクの指示もなく勝手な事をされちゃあ困る」

「勝手な事って……」

「真太郎はボクのいいつけを無視したせいで、大学受験に失敗した事を忘れたのかい?」

「……うっ!」

 リアルで先生と教え子の関係だっただけあって、アダーは真太郎の扱いに手慣れていた。


「分かったら、勝手な事は止めて、ボクの指揮下に入るんだ」

「そうは言っても、アダーと俺の目的は微妙に違うからなぁ……」

「なんだって?」

 真太郎が妙な事を言い出すなり、アダーが切れ長の目を細める。


「街の安定化を目指しているのは、俺もアダーと同じだよ。でも、それは途中の目的であって、俺の最終的な目的は、魔王にリベンジする事なんだ」

 真太郎がそう言うと、二人の後を追って来た刹那が声を上げた。


「おい! バカタローは、まだそんな事言ってんのかよっ!」

「やられっぱなしは、性にあわん。現実だったら、負け犬の様に薄ら笑みをうかべて、『いやー、魔王さん、お強いっスわぁ!』とかなんとか言って、尻尾を巻いて逃げるだろう。だが、ここは『勇者ゲーム』の世界だ。負けたら倍にしてやり返して勝つ。ゲームでは、ずっとそーやってきた。今更ポリシーを変える訳にはいかん」


「いや、さっき、『ここは、勇者ゲームの世界ではない』とか言っていたではござらぬかっ!? 言っている事が矛盾しているでござるよ!」

 刹那に遅れてやって来たイナバが、矛盾した事を言っている真太郎にツッコむ。

「矛盾なんてしてないですよ、ここは『現実』です。ですが、それと同時に『勇者ゲームの世界でもある』と言っているんですよ。俺がさっき言ったのは、この世界を勇者ゲーム風の異世界という現実だと認識しろ、っていう話ですよ。皆まで言わなくても分かるでしょう?」

 真太郎はつまらないツッコミを入れて来たイナバを黙らせると、肩をすくめた。


「いずれにせよ、ここが勇者ゲームに非常に酷似した場所である以上、魔王の存在は絶対的な脅威となる。だから冗談抜きで、ゲーム時代の『魔王討伐軍』をこの世界でも作らないといけない。何故ならば――」

「ん? なになに? それって、魔王軍に街を落とされた場合、『輪廻の神殿』が破壊されて復活が出来なくなるって話かな?」

 真太郎が言い終わるよりも先に、皆を追ってやって来たみこが、彼の言葉の続きを口にした。


「その通り。ゲームでは、南のプレイヤータウンの『ダクシン』が、魔王軍に陥落させられて街が崩壊した。それ以来、ダクシン付近のエリアで死んでも、ダクシンの街の『輪廻の神殿』で生き返る事が出来なくなった、というのを覚えているかい?」

「この世界が勇者ゲームのシステムの通りに動いているのならば、この街にもゲームでの『ダクシン』と同様の事が起きると、真太郎は考えている訳だね?」

 今までの真太郎の話の結論を理解したアダーが、思案顔で尋ねる。


「そうだよ。街が落されて『輪廻の神殿』が破壊されたら、きっと俺達は生き返る事が出来なくなり、『本当に死んでしまう』と思う。だから急いでいるのさ。さっき、エリーゼさんと話してみて思ったけど、話し合いでここにいる人間をまとめるのは無理だと思う。だから、なんとしてでも多くの人間を集めてバトルロイヤルをして『アレ』を使って人心を掌握する必要がある、と俺は考えている」

 真太郎が真剣な表情で言うと、アダーがふむと考え込んだ。


「で、その為の客集めとして、エリーゼお嬢様達『ポム・アンプワゾネ』は絶対に必要なので、アダーはエリーゼさん達を全力で引きずり込んでほしい」

「おいおい、話し合いは無理なんじゃないのかい?」


「俺では無理って話さ。それに、お姫様のハートに火をつけるのはいつだって、王子様だ。『お嬢様界最強の王子様』であるアダーに、うってつけの仕事だろ?」

 王子様と言われるなり、アダーがムキになって女であることを主張した。

「誰がお嬢様界最強の王子様だ! ボクは女だぞっ!」

「そんな事より、アダーの『レベル』はいくつかな?」

「こら、無視するなっ!」


「アダー、もう話題は変わったんだよ? 今は『レベル』の話だ。話の邪魔をするのなら、お家に帰りなさい」

 強引な話運びで翻弄してくる真太郎に、アダーが若干イラつき始める。

「……ボクのレベルは99だ」


「成程。アダーは単純なレベルで、この俺に劣るという事だな」

「勇者ゲームにおいて、『レベル』は、偏差値の様に絶対的な指標ではない。レベル40台の刹那がレベル99のイナバさんを殺したように、立ち回り方次第で格上の存在と互角以上に戦えるのが、勇者ゲームだ」

 アダーの言う通り、プレイヤースキル次第では、序盤から最強クラスのモンスターを始末出来る勇者ゲームにおいて、レベルは絶対的な力量を示すものではなかった。


「それに、レベルが上限突破をして、いい気になっているみたいだが、レベルが上限を突破したという事は、この世界には新しいアプデが適用されているという事だ。そう呑気にしているのもどうかと思うよ」

「ギルマス。それって、どういう事なの……?」

 真剣な顔で話すアダーを訝しんだ刹那が、不安げな顔をする。


「どうもこうも、新しいアプデが適用されているという事はつまり、この世界はボク達の知っている『今までの勇者ゲーム』とは違う、という事さ」

「でも、レベル上限が変わっただけで、それ以外は特に変わった所は無いと思うけど」

 アダーの言葉に少し不安になった刹那が、否定する様な事を言って不安を取り除こうとする。


「それは、あたし達が、まだ気づいていないだけなんじゃないのかな? これから、ここでの滞在期間が延びれば、嫌でも知る事になるんじゃない? 良い事も悪い事もね」

 みこが落ち着いた調子でそう言うと、アダーが彼女に続いた。


「なればこそ、ボク達は集団で行動しなければいけない。新しいアプデが適用されている以上、ベテランプレイヤーのボクらでも知らない事が、山ほど出来たはずなんだからね」

 アダーが真剣な顔をすると、真太郎が呆れ顔で頭を振った。


「それがどうした? 俺は『女神の騎士』の称号を持ち、レベルは上限突破の110レベル。多分、この世界では最強だ。恐れるものなど何もない」

「馬鹿な事を言うな。ここはゲームの世界ではないんだぞっ! もう少し、慎重になるんだっ!」

 妙に強気な真太郎をアダーが叱りつける。


「現実世界では、なつき先生の方が偉いし、優れていたかもしれん。だが、ここでは俺の方が偉いし、優れている。低レベの指図など受けん」

 真太郎が偉そうな事を言い出すなり、刹那が彼のケツに蹴りを入れる。


「何舞い上がってんだよっ! この世界で一番の馬鹿の癖に調子のんなっ!」

「シンタロー殿が一番、この世界を『ゲームの世界』だと思っておる迂闊者ではござらんか。しっかりするでござるよ、また暴走しているのでござるか?」

 刹那とイナバが揃って、暴走し始めたと思われる真太郎を諌める。


「大体、街のプレイヤーを全員巻き込んでのバトルロイヤルを提案したのは、真太郎さんでしょう? 最後まで話し合いの席にいなきゃダメじゃないの」

 馬鹿にはキツく当たってはいけないと思ったみこが、真太郎に優しく言い聞かせる。


「何を言う、もう俺の話は終わったよ。後は、アダーがエリーゼさん達を丸め込めるかどうかのタームに変わったんだ。俺がここでやるべき事はもう何もないのさ」

 だが、既に次の仕事に取り掛かろうとしている真太郎は、みこを軽くあしらうだけで、話を聞くつもりなど微塵も無かった。


「……真太郎。他人を自分の計画に巻き込んでおいて、最後まで責任を取らないなんてふざけているのかい?」

 アダーが語気を強めて叱りつける様に言うと、何を思ったか真太郎が呆れ顔をした。


「マドモアゼルなつき。世の偉い人は、誰一人として責任なんてとっていないよ? 責任者と名のつく人たちでさえもね。考えてもみたまえ、年金問題でも政治家の汚職問題、あまつさえ人の命が関わっている原発事故や戦争でさえ、誰一人として責任なんて取っていないじゃあないか? 責任とは取らされるものであって、取るものじゃあないんだよ?」

「ふっ。真太郎は、世間を良ーく知っているみたいだね……」

 真太郎が小生意気な事を言い出すなり、アダーがこめかみをヒクつかせた。


「出た、シンタローさんの妙に聞き耳を立てたくなる戯言っ!」

 真太郎がアホな事言ってアダーを煙に巻くなり、みこが面白そうに笑う。

「ったく。口が達者なカリスマ性のないファシストって、ただの厄介者だぜ」

 そして、刹那が呆れ顔でツッコミを入れる。


「誰が、カリスマ性のないファシストだよ。ったく、うるさい人たちだなぁ。そんなにやんややんや言うなら、俺はギルドを抜けるわ。低レベのアホ共になど付き合っていられん。あばよ」

 真太郎は一方的に皆に別れを告げると、てくてくと門まで歩いて行ってしまった。

 そして、門を通り過ぎるなり、いきなり猛然とダッシュした。


「しまったっ! 真太郎の狙いは一人になる事だっ!」

 そんな真太郎を見て何かに気付いたアダーが、声を荒げる。


「無駄に喧嘩腰だから、妙だと思っていたんだ。絶対また馬鹿な事をしでかす気だぞっ!」

 アダーが声を荒げてそう言うなり、エリーゼが館の外にやって来た。


「あら、なつきさん。何時まで経っても戻ってこないと思えば、わたくしから隠れて、お仲間達とこそこそ悪だくみかしら?」

「恵璃華、今はキミの相手をしている暇はない。どっかへ行っていろっ!」

 エリーゼを乱暴にあしらったアダーが、真太郎の後を追おうとする。


 だが、すぐにエリーゼに手を掴まれてしまった。

「まぁ! なんて口の利き方ですの、お待ちなさいっ!」

 エリーゼに捕まるなり、アダーが腹立たしげに舌打ちをする。


「イナバさん、刹那、みこちゃん! 真太郎を一人にしておくと、何をするか分からん! 奴が暴走しないうちに連れ戻してきてしてくれっ!」

 アダーが頼むなり、刹那が二つ返事で駆け出した。


「了解だ、ギルマスっ!」

「ちょ、せっちゃん。待つでござるよっ!」

「あらら、またなんか妙な事になって来たぞぉ~」

 一目散に駆けだした刹那を追って、イナバとみこも駆け出した。

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