第28話 真太郎お嬢様、暴走す。
「舞踏会だと? また妙な事を言い出したな、何を考えているんだ?」
アダーが詳しい話を聞かせろとばかりに、真太郎お嬢様に迫る。
「わたくし、最初は『輪廻の神殿』を個人所有しようと思っておりましたの」
「何? 何の話だ?」
真太郎お嬢様が妙な事を言い出すなり、アダーが訝しげに切れ長の目を細める。
「優しいわたくしは、極力血を流さないでかつ、圧倒的に勝利を収められる方法で、強制的に今の混沌とした状況に秩序を作ろうと思っておりました、というお話ですわ」
『勇者ゲーム』は、ゲーム中に登場する施設の多くを個人所有する事が出来る仕様になっていた。
だが、『輪廻の神殿』や『銀行』などのインフラ施設は、この世界の神である『運命の女神』の所有物であり、プレイヤーは決して所有する事が出来ないのだ。
「それはボクも考えたが、実現不可能だったのですぐに破棄したよ。この世界で最も重要な施設『輪廻の神殿』を購入して、それを盾に他プレイヤーを支配する事は不可能だ。故に、大ギルドをまとめる方策を取ったのだよ」
アダーがそう言うなり、真太郎お嬢様は訳知り顔をした。
「やはり、そうでしたのね……。なればこそ、『舞闘会』を開かねばなりませんわ」
「おい、『舞踏会』だと? 何故踊る? 踊りで世界を救うのか?」
先ほどから黙って話を聞いていた刹那が、ここで真太郎お嬢様にツッコんだ。
「踊りだけではありません、戦闘もいたします。華麗に『舞って』、優雅に『闘う』、これぞ『舞・闘・会』ですわっ!」
「「「こ……こいつは、何を言っているんだっ……!?」」」
その場にいた全員が心の中で、真太郎お嬢様の意味不明な発言にツッコミを入れる。
とはいえ、口に出したら勝ち気な真太郎お嬢様に何をされるかわからなかったので、誰も口には出せなかった。
そんな中、アダーが果敢に真太郎お嬢様にツッコミを入れる。
「待つんだ、真太郎。その舞踏会とやら――」
「踏の字が違っていよ。舞踏の『舞』に、武闘の『闘』で、『舞闘会』ですわ!」
しかし、速攻で叱りつけられてしまった。
だが、アダーはすぐに持ち直して、質問をする。
「その『舞闘会』とやらは、一体なんなんだい? 真太郎は何をするつもりなんだい?」
「いい質問ですわ。わたくしには――」
「真太郎さん! その気色の悪い言葉遣いを今すぐにおやめなさいっ!」
ここで我慢の限界とばかりにエリーゼが叫んだ。
「あんな事を言ってますわよ、なつきお姉様はどうお思い?」
「知るか。真太郎が勝手にやっていたんだろう、好きにしたまえ」
アダーは若干イラつきながらそう言うと、真太郎に早く話の続きを言う様に促した。
「では、話し方を元に戻して――俺は今の末期的な状況を収める為に、二つの策を考えた……一つは、三大ギルド、有力な中小ギルド、そして攻略組のハイレベルプレイヤーを集めた『魔王討伐軍』の再編によって、街をゆるやかにまとめる策。もう一つは、『輪廻の神殿』と『銀行』を占有する事によって、有象無象のプレイヤーを強制的にまとめる策」
真太郎はそこまで言うと、ため息をついた。
「だが、二つとも頓挫した。その理由は、全てアダーが作ってくれた」
「何っ!? それはどういう事だ?」
思いがけない言いがかりを付けられたアダーが、ムッとして真太郎に詰め寄る。
「一つ目は、アダーが十年来の友達のエリーゼさんですら、話し合いで仲間に加えられていない時点で、赤の他人である他ギルドとの交渉などするだけ時間の無駄だろうと思った。故に、ギルドをまとめた魔王討伐軍を設立する案は断念。二つ目は、今アダーが今、『輪廻の神殿』は所有できないと証明してくれたので断念」
「成程ね。だが、何故それが真太郎の言う『舞闘会』に繋がるんだい?」
理由を納得したアダーが冷静さを瞬時に取り戻して、真太郎を問い詰める。
「話し合いによる平和的解決策と、システムを利用した強行策がダメになった今、三つめの策として、皆が自発的にまとまる策を考え付いた」
真太郎が意外な事を言い出すなり、その場にいた全員が驚きで目を丸くする。
「俺は、多くのプレイヤー達が、今いるこの世界を『現実だと思っていない』――正確に言えば、『まだ夢か、ゲームだと思っている』と仮定している。なので、そこに付け込む。詳しく言えば、この街の全プレイヤーを集めて、ただの喧嘩をしようと思う」
「喧嘩だとっ!?」「喧嘩ですって!?」「喧嘩でござるかっ!?」
真太郎がまたまた妙な事を言い出すなり、アダーのみならずその場にいた全員が同じ言葉を口にする。
「そう喧嘩。大喧嘩だ。ギルドやパーティーなんて抜きで、皆ただの一プレイヤーになってバトルロイヤルだ。んで、最後に残った奴が王様。負けた奴は全員そいつに従う、何があろうとな。とりあえず、参加者を集める餌として、優勝者には参加者の金貨とアイテムを全てくれてやる事にする。そうすれば、勝った奴は名実共にこの街の支配者だ」
真太郎が話し終わると同時に、皆が一斉にツッコミを入れる。
「んなアホな話に誰が乗るか! バカタローは黙ってろっ!」
「相変わらず言う事が、無茶苦茶でござるよ……」
「おい、そこの敗北主義者共。俺のことをバカにしたり、非難した所で、状況が改善するとでも思っているのか? いいか、今の状況でやらねばならない事は、目の前にある問題を解決することだけだ。分かったら、代案すら出せない敗北主義者共は黙っていろっ!」
「「……ぐっ!」」
真太郎が刹那とイナバを速攻で黙らせるなり、エリーゼと百合子が声を上げた。
「ちょっとお待ちなさい! 真太郎さんは、それを本気で言っているのかしらっ!? この一触即発の状況で、自ら戦乱を起こそうなどとは、正気の沙汰ではありませんわよっ!」
「恵璃華ちゃんの言う通りよ。そんな事をしたら、真太郎さんが先程言っていた恐るべき事態が起こってしまうじゃないのっ!」
「お黙らっしゃいっ! 地獄の真っただ中にいるのならば、死に物狂いで脱出しなければならないのですわっ! いい事、声なき大衆は歴史に埋もれていくのが世の定め。ここで何もしないで指を咥えていたら、わたくし達は歴史の藻屑となって消えてしまいますわよっ!」
エリーゼ達が煽るせいで、真太郎が再びお嬢様言葉になってしまった。
「貴方って男は、どうしてそうやってすぐに厄介事を引き起こそうとするのかしらっ!? なつきさんに迷惑をかけるだけでは飽き足らず、わたくし達まで巻き込むとは、お仕置きが必要ですわねっ! そんな無法を実行させるわけにはいきませんわっ!」
真太郎の馬鹿には付き合っていられないとばかりに、エリーゼが怒り出した。
「エリーゼお姉様、戯言はお止めなさいっ! 見て見ぬ振りは、ここまででしてよっ! 貴女達の様な浅ましい偽善者は、すぐに自己保身の為に多くのものを見て見ぬ振りするのね」
「わたくしが、偽善者ですってっ!?」
「確かに、波乱に満ちた浮世を、そうやってズル賢く穏やかに生きていくのもいいでしょう。危険な厄介事を避けて生きていくのは、小賢しい偽善者にうってつけの生き方ですものね」
「無視するのはお止めなさいっ! 誰が偽善者ですかっ!」
真太郎に馬鹿にされたエリーゼが、金髪を逆立ててヒステリックに喚いた。
「おっと、失礼。間違えましたわ。エリーゼお姉様は偽善者ではなく、馬鹿女でしたわね」
「……このわたくしを馬鹿女呼ばわりとは、良い度胸ですわねっ!」
煽っていくスタイルの真太郎にキレたエリーゼが、食って掛かる。
「事実を正直に申し上げただけで、何を怒っているのかしら? 自分の人生を害する絶対に排除しなければいけない厄介事を放置するのは、馬鹿のする事でしてよっ!」
「二度も言ったわねっ! 貴方の様な俗物に馬鹿にされるなんて、我慢がなりませんわっ!」
元々リアルの頃から相性が悪い真太郎とエリーゼが、今にも喧嘩を始めんばかりの勢いで睨み合う。
「ちょっと二人とも喧嘩はダメよ! ああ、どうしましょう!? なつきんちゃん、二人を止めて頂戴っ!」
そんな二人の様子を脇で見ていた百合子が、わたわたしながらアダーに助けを求める。
「……ふむ。妄想という名の憶測で導いた答えにしては、面白い事を考える……」
しかし、アダーは二人には目もくれず、顎に手を添えて思案に耽っていた。
「真太郎、詳しい話を聞かせてみたまえ。何故、街の全員を集めてバトルロイヤルなんて事をしようと思ったんだい?」
荒ぶるエリーゼと、助けを求める百合子をあえて無視したアダーが、真太郎に話を振る。
「さっきも言ったが、多くの人はこの世界を『勇者ゲーム』の世界だと思っている。だが、現実に帰れないままで、もう一週間が過ぎた。流石にそろそろ、皆の目が覚めて来る頃だろう。とはいえ、目が覚めて、この世界が自分達の新たな現実だと自覚する事が、必ずしも良い方に転がるとは思えない。高い確率で、自暴自棄、他者への八つ当たりが発生するはずだ。とりあえず衣食住は満たされているので、すぐに正気を失って大規模な暴動が起きたりする事はないとは思うが、何も起きないという事だけは絶対にないと言える」
馬鹿な話を続けていた割には、良くものを考えている真太郎だった。
「ふむ。続けて」
それ故、アダーも頭ごなしに否定はしない。
「そうなった時に一番面倒なのが、大量発生した暴徒共が、妄想まみれで暴動を起こす事だ。そうなったらまず、話し合いなど不可能。更に、この世界には死の概念がないので、殺して暴徒を根絶する事も不可能だ。結局、一度人々が暴走状態になったら、まともな人間が街を捨てる事になる。俺は、そうなるのはごめんなんだよ」
「それはボクも同じだよ、街を追い出されるような事態は、ご免こうむるよ。所で、その話がバトルロイヤルにどう絡むんだい?」
真太郎の扱い方を心得ているアダーが、彼を上手くコントロールしながら話を促す。
「俺は、皆が変に目が覚めて暴走状態になる前に、力による秩序を作りたいんだよ。その為に、皆がまだこの世界をゲームだと思っている今のうちに、ゲームのイベントと称して全プレイヤーを集めたバトルロイヤルを行いたいんだ。そして、俺とアダーが昨夜実験した『アレ』を使って、俺達がバトルロイヤルの勝者になる」
真太郎はここまで言うと、何を思ったか、急に大きな声を出した。
「これぞ、『さんざめけ☆めけ! 勇者だヨ全員集合! 天下一舞闘会!』大作戦であーるっ!」
やりきったと言わんばかりの真太郎が、渾身のドヤ顔を決める。




