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第27話 真太郎お嬢様、激昂す。

「し……真太郎。急にどうしたんだい……?」

 急にお嬢様言葉をしゃべり始めた真太郎に、アダーが思わず動揺する。


「なつきお姉様の御学友だから、さぞかしご聡明な方々かと思いきや、とんでもないおバカたれでしたのね、まったく拍子抜けですわっ! お馬鹿なエリーゼお姉様達は、わたくし達が今、絶体絶命の危機的状況にある事がお分かりにならないのかしら?」

 何を思ったか、真太郎が謎のお嬢様言葉で捲し立て始めた。


「いい事? わたくし達は、この世界から逃げ出す事が出来ませんのよ? なにせ、脱出不可、ログアウト不可、現実世界と連絡不可、その上、自殺不可なのですわよ? しかも、滞在を余儀なくされているオリエンスの街は、『異世界転移現象』が起きてから一週間しか経っていないというのに、もう街を歩く事を危険だと感じる有様なのよ?」

 最高に気持ちの悪いお嬢様言葉だったが、妙に引き込まれる話術だったので、誰も真太郎にツッコむ者はいなかった。

 

 真太郎はそれを良い事に、呆気に取られているエリーゼ達を煽りだした。

「この状況があと一週間も続けば、状況は更に悪くなる事は必至っ! 一ヶ月もすれば、わたくし達の様なか弱い乙女は、街にいる事すら出来なくなってよっ! そうなった場合、街から脱出して、危険なモンスターが徘徊する未開地で生活する事になるわ。それが意味する所が分かって、エリーゼお姉様っ?」

 急に話を振られたエリーゼが、答えに窮する。


「えっ、お、お姉様っ!? いや、あ、あの……」

「なんですの、その不明瞭なお答えはっ!? おふざけはお止めになって頂戴っ! よろしくって? 街を出て外の世界で暮らすという事は、今よりもずっと肉体的・精神的に過酷な世界で生きていかなければならない、という事でしってよ! そこのところ、お分かりでして? 百合子お姉様っ?」   自分の所に来るとは思ってもいなかった百合子が、思わず変な声を出す。


「ひゃ、ひゃいっ!」

「ひゃ、ひゃいっ! ではありません事よっ! お耳のお穴をおかっぽじって、よくお聞きなさい! この世界の森は人が暮らせない程深く、平原は凶暴なモンスターが獲物を探してうろうろしているのですわ。そんな所で、わたくし達の様なか弱い乙女が暮らせまして? いいえ、暮らす事なんて決して出来ませんわ。ならば、わたくし達は絶対に街から離れる訳にはいかなくってよっ! そうよね、なつきさん?」


「あ……ああ。そうだね」

 なんとなく次は自分の番だろうと予想していたアダーが、なんとか対応する。

「お黙らっしゃいっ! 貴女はそこのお二人と違って、物が分かるお人と思っておりましたのに……わたくしのとんだ勘違いでしたわっ! このおバカ男女っ!」

 しかし、アダーは同意したにもかかわらず、さっきの仕返しとして怒られてしまった。


「わたくし達が今いる場所は、生まれ育った安全な場所ではなく、人の命を易々と奪う事が出来るモンスターが、当たり前の様に存在する危険極まりない場所なのですわ。血に飢えた殺人鬼と戦い、街の外で凶暴なモンスターと戦い、更にはあの魔王とまで戦ったわたくしでさえ、街の外には好き好んで出たいとは思いません事よ。つまり、それだけ街の外は危険だという事。ここまでお分かりかしら、きらりさん?」


「んな事知ってるよ、俺はお前と同じ経験をしたんだからな。つか、本名で呼ぶなっ!」

 真太郎お嬢様の不意打ちを喰らった刹那だったが、持ち前の気の強さを発揮して上手く対応した。


「いいえ、貴女は何も分かってはいないわっ! 分かっていたのならば、今の状況を指を咥えて黙って見ている事なんて出来ないはずですからね。いい事? 今の状況が勝手に解決したり、何らかの救いがどこかからやって来たり、安全と安心が魔法のようにやって来る事なんて、決してなくってよっ! そんなものを期待して待つのは、もうきっぱり止める時が来た事に、貴女は気が付かなければいけないの、よろしくって?」

 ずっとお嬢様言葉で捲し立てる真太郎は、完全に暴走している様に見えた。


「……確かに、お前の言う通りなのかもしれないな……」

 だが、話している内容そのものはどこまでも説得力があったので、誰もツッコむことが出来ない。


「常軌を逸した危険に満ちた状況を前に混乱する皆さんのお気持ちは、痛い程良く分かりますわ。ですが、どうしてこうなったかなんて考えても無駄でしてよ。この状況は、全く道理が通る話ではない。ならば、考えても無駄な事にかかずらうよりも、現実的な問題に対応しなければいけない、全てを問題解決に注力しなくてはいけない、とは思わなくって?」

 ここまで一気にまくし立てると、真太郎お嬢様はイナバを見た。


「そうであれば、まず一番現実的な問題として存在する『わたくし達は、安全な街に住み続ける事が出来るのか』について、真剣に考える必要がありましてよ」

 しかし、真太郎お嬢様はイナバに話を振る事はなかった。


「お、おぅ! 拙者はスルーでござるかっ!?」

 てっきり次は自分の番だと思って準備していたイナバが、思わずずっこける。

「なんですの、イナバさん? 茶々を入れるのはおよしになって頂戴っ! わたくしは今、真剣な話をしているの。おふざけなら余所でやってくださいましっ!」

「も、申し訳ないでござる……」

 どう見てもふざけているとしか思えない真太郎に普通に怒られたイナバが、目に見えてしゅんとする。


「まったく! いい事? 貴方みたいな自覚が足りない人間が、一番厄介なのよ。確かに、この世界は、『勇者ゲーム』の仕様が良く再現されているわ。だけど、この世界は決してゲームの世界なんかじゃないの、いい加減自覚なさいっ! もう貴方は、35歳でしょう!」

「め、面目ない……」

 イナバが居た堪れない感じで引っ込むなり、真太郎お嬢様がおもむろに話を再開した。


「ここで最年長のイナバさんですら、この世界をまだ『ゲーム』だと思っているのね……。まったく、この世界が『現実』である事をハッキリと自覚しているのは、わたくしだけの様ですわね……。まったく、やれやれですわ」

 真太郎お嬢様はここまで言ってため息をつくと、不意にアダーに話を振った。

「所で、なつきお姉様。わたくしのここまでの話で、何かお気づきになった事がおありかしら?」


「い……いや」

 また怒られると思ったアダーが、ちょっと怯えながら答える。

「……ふぅ。ダメねぇ、なつきお姉様。いい事? わたくしが今、多くの人がこの世界を現実と捉えずに、『勇者ゲームの世界』だと思っている、という話をしていた事は、お分かりになって? 当然分かるわよね、現に貴女自身がそうなのだもの」

「ボクは違う」

 馬鹿にされたと思ったアダーが、きっぱりと否定する。


「だからと言って、なつきお姉様を責める事は出来ませんわね。だってそうでしょう? この世界は、あまりにも『勇者ゲーム』にそっくりなのだから。ここを『現実』ではなく、『ゲームの世界』だと考える方が、道理が通るもの。そう考えるのが普通だと思うわ」

 だが、真太郎お嬢様にあっさり無視されてしまった。


「こら! 無視するじゃないっ!」

「でもね、問題はその先よ。今の状況がこのまま続けば、皆必ずどこかで気が付くはずですわ――そう、ここがゲームの世界なんかじゃあなくって、紛れもない現実だって事にね……」

 真太郎お嬢様はそう言うと、不意に口を閉じて間を作った。

 

 そのせいで、みんな続きが気になり、思わずツッコむ事を忘れて真太郎の次の言葉を待ってしまう。

「真太郎、続きを早く言いたまえ」

「そうですわ。真太郎さん、黙ってないで早く続きをお言いなさい」

 この場にいる全員が、完全に真太郎お嬢様の術中にハマりつつあった。

 

「……そうなった時が、終わりの始まり。今はゲームの世界だと思い込んでいるから、街に蔓延る不逞の輩が行う暴挙は、ゲーム内で行われていた様なイタズラ行為程度で済んでおりますわ。ですが、ここが現実だと気付いたらどうなるでしょう? その可愛らしい小さなおつむで、想像してごらんなさい」

 既に真太郎お嬢様の話術に引き込まれている皆が、彼の次の言葉を固唾を飲んで待つ。


「どうなるか、誰も分からないのかしら? はぁ、仕方ないわねぇ……」

 真太郎お嬢様は、誰からも答えが返ってこない事に呆れてため息をついた。


「そうなったら最後――血と肉欲に飢えた野獣共が、可憐な乙女であるわたくし達を凌辱せしめに大挙して押し寄せる事になりますのよっ! そうなれば、か弱く可憐なわたくし達乙女は、○○なのに○○○されて、○○○かつ○○○○の○○○されながら――」

 真太郎お嬢様の語る未来予想図は、聞くに堪えないぐらいあまりにも酷かった。

 それ故、穢れを知らない箱入りのお嬢様のエリーゼと百合子は、真太郎お嬢様の言葉がとびとびにしか聞こえない。


「ひぃっ!」

 ショックのあまり、エリーゼが白目を剥く。

「いやぁー!」

 あまりの凄惨さに、百合子が思わず耳を塞ぐ。


「それだけには止まらず、○○○を○○され、○○と○○を○○――」

「ふ、ふぇぇ。そんなの入らないよぉ~……!」

「はわわ……! えらいこっちゃ……!」

 ドぎつい18禁に耐性の無い刹那が泣き出し、みこが戦慄して足を震わせる。

 それを見るなり、アダーが全力で真太郎を制止した。


「真太郎ォー! それ以上は止めるんだっ!」

「そうね、少々脅かし過ぎたわね。……ですが、わたくしが今言った様な状況になった時、果たしてなつきお姉様の言葉は、貴女を辱めようとしている相手に届くのかしら? タガが外れてしまった暴徒には、理屈も道徳も哀願も通用しませんでしてよ?」

 真太郎お嬢様がぞっとする様な事を言うなり、アダーが思わず口ごもった。


「暴力が満ち溢れている時に、暴力に対して鈍感であるというのは、とても危険な事ですわ。暴力というものは、常により過激に、そしてより残虐になっていくのですからね。暴力は、それが起きるまでは想像すらできない……しかし、一旦始まると、全てを破壊しつくすまで誰にも止められないのですわ」

「……『有事』になった瞬間に、人権という概念は失われるものだからね。そして、剥き出しの暴力と欲望が、法と秩序に取って変わる……」

  

「その通りですわ、歴史がそれを常に教えてくれておりますわ。卑近な例でいえば、最近の中東地域なんて最たるものですわよね。正義が存在しない世界には、決して『助けはやってこない』……。強大な暴力に巻き込まれると、生きるか死ぬかは運次第となり、多くの女性たちは往々にして悪い結果の方に堕ちていきましてよ」

 真太郎お嬢様が核心を突くような事を言うなり、女性陣は自分達が置かれている状況が、まぎれもなく絶体絶命だという事を心の底から理解した。


 顔面を蒼白させる女性陣を見るなり、真太郎お嬢様がしたり顔をする。

「どうやら頭にお花畑がある貴女達も、ようやく状況の深刻さが理解出来た様ですわね」

 何を思ったか、真太郎お嬢様は、恐怖に怯える女性陣に優しく微笑みかけた。


「さて、ここからが本題ですわ。現実世界とは全く理が違うこの奇妙過ぎる世界で生き抜けるかどうかは、もはや運頼みでしかないのかしら?」

 真太郎お嬢様はそう言うと、皆の顔を順にじっくりと見ていった。


「いいえ、わたくし達の手で運命に介入する事は、『まだ』十分に可能ですわ。ですから、徒に不安に駆られる必要はなくってよっ!」

 真太郎お嬢様は圧倒的絶望を前にしても、怯えなど微塵も見せずに気丈に振舞った。


「……真太郎。キミは一体何を企んでいるんだい?」

 そんな真太郎お嬢様の不敵な態度を見たアダーが、彼が何か企んでいる事を見抜く。

「あら、いやですわ。わたくし、何も企んでなどおりません事よ。ただ、わたくしは――」

 真太郎お嬢様は一拍の間を置くと、ニヤリと不敵に微笑んだ。


「楽しい楽しい『舞闘会』を開こうと思っておりますだけですわ」

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