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第26話 お嬢様と王子様、喧嘩するの巻

「もしチュウの言う通り、不逞の輩どもが不安と恐怖に押し潰された結果として、暴れているのならば、それを取り除いてやる事で、暴走プレイヤー達は暴走を止めると考えることが出来るかもね。そう思わない、アダー?」

 沈黙を破った真太郎が、刹那の言葉から連想した考えの同意をアダーに求める。


「うむ。恐怖と不安によって人心が荒廃しているのならば、その負の感情を取り除いてやればいい――実に単純な答えだね。では、どうやってそれを成し遂げようか?」

 アダーが皆に水を向けるなり、真太郎が最初に口を開いた。


「今現在、この街にいるプレイヤーには、二種類のタイプがいると仮定しよう。ゲーム時代に所属していたギルドやパーティーでまとまる一派と、誰ともつるまずにいる一派だ」

「うむ。では、何故人々は、その二派に分かれるのだろうか?」

「そんな事、尋ねずとも答えは決まっていますわ。見知った人同士でまとまっていれば、安心安全だからですわ」

 アダーが質問をすると、エリーゼがじれったそうに答えを返した。


「成程、見知った人同士でまとまっていれば安心安全、と。では、見知らぬ人間は安心できないと考えることが出来るね」

「当たり前でしょう」

「では、見知らぬ人間を排して、見知った人間だけを集めたグループを作ったとしたらどうだい? たとえば、ゲーム時代にラスボスの魔王を討伐する為に結成した『魔王討伐軍』の様な物を作ったとしたら、安全性は増すだろうか?」


「きっと増すでしょうね。ですが、それは、『上手くまとまれば』のお話ですわ」

 無理だと言わんばかりの態度で吐き捨てたエリーゼが、ふんと言って腕を組む。

「成程。現状を良くしたければ、かつての『魔王討伐軍』を上手い具合に再編すればいい訳だ。仮に『魔王討伐軍』を結成出来たとして、その場合、街の人々はどうなるだろうか? そうだな……魔王討伐軍が、街をまとめる為に動き出したとしたらどうなるだろう?」

 アダーが問いかけると、一拍の間を置いて百合子がぽつりと答えた。


「皆、助けを求めてすがるのではないのかしら? こんな状況だもの、すがれるものがあれば、なんにだってすがりつきたくなるわ」

 百合子が気弱げな声でそう言うなり、真太郎が眉間にしわを寄せて困り顔をした。


「ん~。話がこんがらがって来たなぁ。つまり、安全を確保する為に何をすればいいのかなぁ?」

(アダーが誘導尋問っぽい事を始めたなぁ。とりあえず、手伝ってやるか)

 アダーの話しぶりから彼女が何かを企んでいる事を察知した真太郎が、わざとらしくとぼけた声を出す。

 すると、エリーゼがじれったそうに声を上げた。


「この世界で安全を確保するには、見知った人間を集めて大きな組織を作るべきだ、というお話ですわ。貴方、一体何を聞いていたのかしら?」

「ああ、成程。流石エリーゼさん、ご聡明でいらっしゃる。つまり、エリーゼさんは、この世界で『魔王討伐軍』の様な大きな組織を作ろうと言っているんですね?」

「そうですわ」

 エリーゼがそう言うなり、真太郎がニタリとほくそ笑んだ。


(多少強引な感じだが、上手くいったな。相手の答えを誘導する様な質問をする事によって、導き出したい答えを引き出す。そして、答えを出した相手は、それが誘導された答えだと思わずに、自分で辿りついた答えだと思い込む。ちょっとした交渉術の一つだ)


「なつき先生。余計なお世話かもしれないけど、言質を取っておいてあげたよ」 

 良くできた生徒の真太郎が、さりげなくアダーに耳打ちする。

 すると、アダーはニッと微笑んで、真太郎の肩に手を回した。

「真太郎、キミは実にいい教え子だ。後はボクに任せたまえ」

 満足げに微笑んだアダーは真太郎に小声でそう言うと、エリーゼの顔を見つめた。


「どうやら答えが出た様だね。この世界においてボク達がするべき事は、元の世界へ帰る事と、帰還するその時までこの世界で生き延びる事だ。そして、この世界で生き延びる為には、拠点としているこの街に平和をもたらさねばならない。その為に必要なのは、この街の人々をまとめる為の組織、つまりゲーム時代の『魔王討伐軍』を再編するのが、ボクらの共通の目標になる。そう考えて、いいかな?」

「よろしいのではないのかしら」

 アダーの誘導尋問の様な問いかけに、エリーゼが躊躇わず首肯する。


「よろしい。真太郎のもたらした情報を得た事で、恵璃華はボクと同じ答えに辿り着いたようだね。昨日は、他ギルドとは絶対につるまない、と言っていたが、流石にこの状況では、そうも言っていられなくなったようじゃないか」

 自分の思い通りに事を運べた事を内心で喜ぶアダーが、銀髪をかき上げて爽やかに笑う。

「では、ボクらはこれから、三大ギルドをまとめて魔王討伐軍を再編する方向で動――」


 アダーが話を次のステージに進めようとするなり、急にエリーゼが話を遮った。

「わたくしたちが、これからやる事はただ一つ。全ての女性プレイヤーを『ポム・アンプワゾネ』に参加させて一大勢力を作り、この街を統治する事ですわっ!」

 すると真太郎が、呆れた様な顔を作って苦笑いした。


(出ました、極度の男嫌いのエリーゼさん。絶対にこんな事を言い出すと思ってたよ)

 リアルでのエリーゼの事を知っている真太郎が、さもありなんと言った感想を抱く。


「なんだと? 恵璃華、キミはこの期に及んで、まだそんな事を言っているのか? 女の子だけでまとまった所でどうにもならないと、昨日も言っただろう! 何度同じ事を言わせるつもりだっ!?」

 実は既に、今日と同じようなやり取りをエリーゼとしていたアダーだった。だが、今日と同じように、エリーゼと折り合いがつかないでいたのだ。

 だからこそ、彼女はエリーゼを説得する為に、真太郎達をここに連れて来て話をさせていた。


 しかし、彼女の策は、どうやら失敗した様だった。

「この街を統治して、治安を維持するだけの人員と戦闘力を、女の子だけで確保する事は出来ない。普通に考えたら分かる事だろうが!」

 アダーが恫喝する様な強い口調で迫るが、エリーゼは涼しげな態度を崩さない。


「全ての女性を集めれば、この街を統治する事は十分に可能ですわ。軟弱な男の力など借りる必要などなくってよ。それに、男なんて用心しても用心しても、それでも用心したりない危険な存在。決して相容れる事などできませんわっ!」

 エリーゼは強い口調で言い切ると、縦ロールされた金髪をサッと手で払った。

  

「これだから、箱入りのお嬢様はっ! いいかい、男が危険なのではない、危険な男がいるだけなのだよ。それは真太郎の一件で分かったはずだろう?」

 男嫌いのエリーゼに頭を悩ませるアダーが、分からず屋を説き伏せるかのような態度で彼女に語り掛ける。 


「真太郎さんは、おバカなので危険性が低いだけですわ。男である以上、危険な事に変わりはなくってよ。その証拠に、こうやってまた、わたくしとなつきさんの仲を引き裂くべく、厄介事を持ち込んで来たじゃないの」

 エリーゼはそう言って、真太郎の顔をビシッと指差した。

「いい事? なつきさんは、真太郎さんに惑わされているのですわ、いい加減に目をお覚ましなさいっ!」


(……言いたい放題じゃねーか。ツッコミたいが、ここは黙っていた方が利口だな)

 リアルでも、アダーとエリーゼの今の喧嘩に似たものに巻き込まれた経験がある真太郎は、これ以上事を荒立てる事を嫌って、言われ放題でも我慢して大人しくしている事を選んだ。


「まだそんな事を言っているのか? 真太郎とボクは、家庭教師と教え子の関係に過ぎない、と何度言えば分かるんだ」

「なつきさんがそう思った所で、真太郎さんはそうは思っていなくってよ。見てごらんなさい、あの肉欲に飢えた獣の様な獰猛な目つきをっ!」

 エリーゼはそう言うと、呆れ顔の真太郎をズビシッと指さした。


「そんな目つきはしていない、アレはどう見ても死んだ魚の目だ。それに、真太郎は、ボクの事を半年間もずっと男だと勘違いし続けた様な馬鹿者なんだ、危険など皆無っ!」

 真太郎の事を守ろうとするアダーだったが、得てせず攻撃してしまっていた。


(くぅ! この男女めっ! 言いたい放題言いやがってっ!)

 かなり言い返したい衝動に駆られた真太郎だったが、場を荒らしてはならないと思ってぐっとこらえた。


「ええい、こんな話はどうもでいいっ! いいかい? 身内が変質者に襲われた時点で、静観の状況は終わったんだ。現実的な脅威を目の前にして、いつまでも幼稚な理想に執着していたら破滅が訪れるという事が、ハッキリ分かったのではないのかっ!?」

「分かっていますわ。だからこそ、一刻も早く全女性プレイヤーを纏め上げなければいけないのっ! なつきさんの方こそ、現状認識が出来てなくってよっ!」

 売り言葉に買い言葉。アダーが熱くなるせいで、エリーゼもヒートアップして来る。


「わたくし達は、このギルドに集う女の子達を守るという使命があるの。なつきさんの個人的な思い付きに従って、危険を冒す事などできないわっ! 貴女は今、ポム・アンプワゾネの参謀なのよ、その事をしっかりと自覚して頂戴っ!」

 エリーゼは女王の様な威厳を持った態度できっぱり言い切ると、アダーを黙らせた。

 

「……くっ!」

「これで、お話は終わりですわ。さ、真太郎さん、お帰りになってよろしくてよ――」

 エリーゼがアダーを黙らせて話を一方的に終わらせる。

 すると、何を思ったか、真太郎が急に高笑いをした。


「おーっほほほ! さっきから黙って聞いていれば、お姉様方のそのお間抜けなやり取りは、一体なんですの? 思わず笑ってしまいますわっ!」

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