第6話 イナバ師匠によるシステムチュートリアル
冒険の第一歩として、とりあえず近場の街に向かっていた真太郎は、出発早々、倒木に腰を下ろして休憩していた。
「じ……地味遠い。やわな都会っ子に、いきなり冒険は無理だった……」
現実世界と違って、この勇者ゲーム風の異世界には、舗装された道路なんてものは存在していなかった。その為、普通に歩くだけでもかなり体力を消耗してしまうのだ。
「見た目は結構近くに見えたんだけどなぁ……。しかし、師匠は元気ですね」
だらしなくへばる真太郎と違って、キモオタのイナバは息一つ切らせていない。
「はっはは! シンタロー殿は、だらしないでござるなぁ」
見た目はかなり太っているのにも関わらず、意外なタフさを見せるイナバが得意げに笑う。
(やっぱりキモオタは、アキバとかコミケとかを駆け巡ったりしてるから、タフなのか?)
Theキモオタな見た目のイナバに対して、真太郎は素朴過ぎる疑問を抱いた。
「ま、『戦士職』の拙者と、『魔法職』のシンタロー殿では体力に差があって当然でござるか。今の拙者は、ゲームで拙者が選択していた『侍』の職業ステータスが反映されているから、無茶苦茶タフなのでござるよ」
予想と違う答えが返って来たので、真太郎は思わず聞き返してしまった。
「さっき言ったでござろう? この世界では、『勇者ゲーム』の内容が反映されているのでござるよ。つまり、勇者ゲームで使っていた自キャラは、今やこちらの世界での自分自身なのでござる。ほら、服装なんかは完全にゲームのキャラと同じでござろう?」
そう言われて、真太郎は自分の服とイナバの服を交互に見た。
(師匠はゲームと同じ若武者の格好だな、顔はキモオタだが。こいつの存在はフザけきっているが、奴が着ている鎧はどう見てもおふざけには見えないぞ……)
真太郎達の姿は基本的に、『勇者ゲーム』で自分が操作していたキャラクターそのままだ。
勇者ゲームのグラフィックは、PCのグラフィック機能を最大限に生かした美麗かつ高精細なモノだった。だが、どんなに美麗かつ高精細なものだとしても、所詮は実写には及ばない作り物である事に変わりはない。
「……確かに、言われてみれば、ゲームの自キャラと同じ格好してますね」
しかし、この『勇者ゲーム』に酷似したこの世界においては、かつてポリゴンであったそれが、完全に現実と同じだけのディティールを持って存在していた。
「つか、スゲーリアル。まるでゲームのCGが現実化した、って感じじゃん」
これには、真太郎も驚きを禁じ得ない。
「ここは、本当に不思議な場所でござるよ。果たしてここは、ゲームの中の世界なのか、はたまたゲームを模した異世界なのか、あるいはゲームによって侵食された現実世界なのか……。いずれにせよ、この世界では『勇者ゲーム』の全てが確固たる現実として存在している事だけは、揺るぎのない事実なのでござるよ」
「色々と不明な事が多い今の状況で、そこまで断言するのはどーかと思いますけど……『魔法』と『スキル』、『ステータス画面』の存在と、体力面と服に限って言えば、師匠の言う通りみたいですね。確かに、『勇者ゲーム』が現実化したと言っても過言じゃあない。でも……」
よくよく観察してみると、この世界は単純にゲームが現実化しただけという訳でもなさそうだった。
『勇者ゲーム』におけるキャラクター造形は、基本的に現実を忘れてファンタジー世界に没入させる為に、男はカッコ良く、女は可愛いくデザインされている。
だがしかし、イナバの今の風貌は、『勇者ゲーム』でのハンサムなポリゴンモデルを現実化したものとは到底言えない『どキツい』ものだった。
妙な光沢を帯びた長い髪。ダサいメガネ。だらしなく太ったメタボ体型。何かの業の報いか、はたまた神に呪いでもかけられたかの様なキモオタフェイス――。
(あ……改めて見ると、ものスゴイな。ボイチャで声を聞いた事が無ければ、ここまで打ち解けられなかった。一目散に逃げるか、さもなきゃ殴り殺していたよ)
かなり辛辣かつ率直な感想を抱いた無礼な真太郎ではあったが、それを口に出さない程度の分別は持っていた。
「しかしシンタロー殿は、ゲームのビジュアルと瓜二つの見た目でござるね。あ~、でもよく見ると殆どの人と同じく、ゲームに少し現実の姿が混ざっている様でござるな。ゲームではもっと凛々しくて、今の様にそんな眠たげな顔つきの目つきの悪い少年ではなかったでござるもの」
手元に鏡が無い今、自分の顔を見る事が出来なかったので何とも言えないが、どうやら現実世界での特徴が、この世界の身体に反映されているらしい。
(……ゲームでのキャラクターと現実の自分の姿が混ざっている、か。となると、ゲームの中に精神がダイブしちゃってキャラクターに乗り移った的な状況ではない、って事なのかなぁ?)
「って、ちょっと待てよ! ゲームのキャラと現実の姿が混ざっているのに、なんで師匠はそんな姿なのっ!?」
思考の途中で重要な事に気付いた真太郎が、急に声を荒げる。
「え? そんな姿って、どういう事でござるか?」
「ええっ!? 気付いてないんですかッ!? 師匠は今、イケメン剣士だったゲームの時とは違って、今は揺るぎなく完膚なきまでにキモオタなんですよ! 師匠は今、キモオタになっているんですよッ!」
「んな! それはどういう意味でござるかっ!?」
真太郎の言葉を聞いたイナバが、目を丸くして驚愕する。
「どういう意味って、師匠は『キモいオタク』になっちまってるって意味ですよッ!」
キモオタにキモオタの意味を説明してやる親切な真太郎だった。
「いや、意味は知っているでござるよ! そーいう意味ではないでござるっ!」
キモオタと呼ばれて馬鹿にされたと思ったのか、イナバが急に荒ぶる。
「しかし、スゲーな。これって師匠は現実の方が個性が強いから、ゲームのキャラを食っちゃったって事なの? いや~、俺を含め他の人達もゲームと現実がちょっと混ざった程度だっていうのに、師匠ときたらゲームを食っちゃうほど個性が強いのかぁ!」
だが、真太郎は馬鹿にした訳ではなく、一切の邪心無くただ素直に見たまま思ったままを言っただけであった。
「まさに異端ですね! 流石師匠、俺達に出来ない事を平然とやってのけるッ!」
馬鹿にされたと思って荒ぶったイナバであったが、真太郎のまるで憧れのロックスターを見るかのごときピュアな瞳を見てしまうと、思わず怒りも忘れて照れてしまった。
「ちょ、やめるでござるよぉ~! 拙者は別に異端なんかじゃないでござるよっ! ちょっと、フツーより個性的なだけでござるよぉ! 異端なんてカッコ良すぎでござるぅ!」
イナバの意外な御し易さを発見した真太郎は、思わず悪戯心が刺激されてしまった。
「やっぱり、その長い髪は、ゲームでの職業『侍』に合わせて伸ばしているんですか?」
「いや、ただ単に髪を切るのが面倒で伸ばしているだけでござるよ」
「マジかよ、野武士じゃん! それ、野武士が髪の伸ばす時の動機じゃん! 師匠、マジ異端な上に超野武士じゃあんっ!」
「ちょ、野武士とか荒々しすぎでござるよーっ!」
「またまた~。みなさーん! ここに日本最後の侍がおりますよーっ!」
真太郎が調子の良い事を言いだすと、イナバはあっという間にご機嫌になった。
「オウフ! 拙者それでは、まるでラストサムライみたいではござらぬかっ! 拙者はただのゲーマーであって、侍ではござらんよっ!」
完全に真太郎の掌の上で遊ばれている格好になっているイナバが、上機嫌ではしゃぐ。
「んもう! 拙者がラストサムライである事はどうでもいいでござるよっ! そんな事より、シンタロー殿。休憩がてらこの世界の『システム』の使い方を覚えておくのはどうでござるか?」
気恥ずかしさに耐えきれなかったイナバが、おもむろに話題を変える。
「とりあえず、この世界で生き抜く為に必要不可欠な『メニュー画面』の操作を最初に覚えておくべきでござろう。シンタロー殿、早速『メニュー画面』を呼び出してみるでござるよ」
当然の事の様に言うイナバであったが、真太郎には何が何だかさっぱりだった。
「早速とか言われても……。一体何をどーすればいいんですか?」
「『メニュー画面』は、ゲームでのメニュー画面を思い起こしながら、おでこの辺りに意識を集中すると、勝手に視界に出現するでござるよ」
イナバは急に師匠らしい態度を取り出すと、真太郎にこの世界での『メニュー画面』の表示のさせ方のコツらしきものを伝授した
「おでこの辺り、ねぇ……」
真太郎は、とりあえず言われた通りにゲームのメニュー画面を思い出しながら、おでこの辺りに意識を集中させた。
すると、まるでそうある事が当然の事の様に、いともあっさりメニュー画面が本来の視界に重なる様にして表示された。
「うおっ! マジで出たよっ!」
あまりに簡単にメニュー画面を呼び出せた事に素で驚いてしまう真太郎だった。
つい反射的にメニュー画面に手を伸ばしたのだが、それに感触は何もなかった。
目の前に確かに見えるのに触れないのは、いささか奇妙なものだ。
「このメニュー画面って、見えるのに触れなくて、なんか飛蚊症みたいですね」
「そ……そんな感想ありでござるの。まぁ、シンタロー殿らしいでござるけどね」
真太郎の素朴だがどこかズレている感想を聞いたイナバが、苦笑いをする。
「でも、触れられない事はないでござるよ。触れていると思いながら触れれば、しっかり触れるでござる。さ、やってみるでござるよ」
言われて、指で触れていると思いながらメニュー画面に再び触ると、今度は触ることが出来た。スマホの画面やPCのタッチパッドの様な滑らかで硬質な感触を指先に感じると同時に、メニューが機械的な動きで素早く展開される。
「お、今度は触れた。どうなってるのか分からないけど、面白いなコレ!」
「今度は普通の感想でござるな。その感覚を覚えておいて、何時でもメニュー画面を操作出来る様にしておくといいでござるよ。この世界で生き抜く為に必要な技術でござるからね」
「流石師匠、ゲームの事ならなんでも知っているッ! 俺は、いつも貴方に多くの事を教えられるぜッ!」
イナバがゲーム同様に頼りがいのある所を見せてくれた事で、真太郎は不覚にも少し嬉しくなってしまった。
「オウフ! なんでもは知らないでござるよ、知っている事を知っているだけでござるよっ! それに拙者は、ただ師匠として当然の事をしただけでござる。そんな賞賛される様な事はしてないでござるよぉ! フォカヌポォ!」
真太郎のリスペクトを隠さない姿勢に、イナバが思わずご機嫌になる。
「んな事ぁ無いですよ。師匠は賞賛に値する男です」
真太郎はそんなイナバを軽くあしらうと、メニュー画面の操作を続けた。
(……本当にスゴイな。細かい所までゲームとそっくりだ。まったく、どーなってるのかね、コレは)
先程見た装備画面や魔法の画面を改めて確認して、ゲームと寸分たがわぬ事に感慨深げにため息を漏らす。
(この『メニュー画面』を使いこなせるか否かは、かなり重要と見たぜ。こいつを使いこなせる様になるのが早ければ早いほど、この世界での生存率が上がる。逆を言えば、この操作に手こずっていれば、それだけ死が近づいて来るって事だな……)
メニュー画面の操作の巧拙が、この世界での生き死にを左右する要素だと本能的に直感した真太郎は、いち早く操作に慣れる為にメニュー画面をいじり倒す事にした。
手始めに『アイテム』の項目から手を付けてみる。
アイテムはゲーム時代と同じものが、メニュー画面に理路整然とリストアップされていた。その中から試しに薬草を選択してみる。
すると、腰にぶら下げていたアイテムバッグが、もぞもぞと動き出した。
気になってバックを開いてみると、緑色の葉っぱの束が飛び出して来た。
どうやら、アイテムメニューからアイテムを選択すると、アイテムバッグから取り出せるらしい。
「あれ? このバッグ、空じゃなかったんだ。どーなってんだコレ?」
アイテムとアイテムバッグの仕組みが気になった真太郎が、おもむろにバックの中を覗く。
魔法の呪文の様なものが刺繍されているアイテムバックの中には、漆黒の闇が広がっているだけだ。
「なんだコレ? 中身が無い? いや、この黒い闇みたいなのが中身なのか?」
アイテムバッグの中にある『漆黒の闇』には、ブラックホールの様な奇妙な引力を感じる。
「う~ん、渦まで巻いててマジでブラックホールだわ。しかし、ファンタジーだねぇ、まったく仕組みが分からんよ」
アイテムバッグのあまりにも現実離れした仕組みに、思わず感心してしまう真太郎だった。
「中はどーなってんだろ? 手を突っ込んじゃれ!」
アイテムバッグの中が気になった真太郎が、好奇心の赴くまま「えいや!」とバッグの『闇』に手を突っ込む。
しかし、『闇』には感触が全くなかった。熱い・冷たいも無いし、本当に何もない虚無という感じだった。
「……う~む、何もない」
闇の中で手をグルグル回してみるが、特にアイテムなどに触ったりすることも無かった。
「本当に何もないぞ。じゃあ、さっきの薬草はどこから出て来たんだ?」
アイテムバッグの事を調べる度に、強い疑問が続々湧き上がってくる。
「これは、今調べても到底分かりそーにないな。一旦、保留にしよう」
だが、『勇者ゲーム』の世界を再現しているのが、『この世界』なのだから、こういう説明出来ない不思議な事もあるだろうと思って、深く考えない事にした。
(そーいうものは、そーいうものって割り切って、現象だけを理解していかないと、無限に湧き出る疑問に押し潰されちまうよ。これからは、生き死に関わる様な重要な問題以外は出来るだけ、『理由は全てゲームだから』って事で流していこう)
早速この世界でのスタンスを決めた真太郎は、再びアイテム欄に意識を戻した。
「おや? 早速、色々試してみている様でござるな。ゲームでの所有アイテムは、そのアイテムバッグに全部入っているでござるよ」
「へぇ~、凄いですねぇ」
「スゴいと言えば、もっとスゴい事がござってな。そのバッグは、バッグの口から中に入れられる物は、全て収納出来て、かつ取り出しも自由自在なのでござる。ただ、厄介な事にゲーム同様、『収納上限』と『重量制限』が存在するのでござるがね」
『勇者ゲーム』には、所持出来るアイテム数に上限があり、アイテムバッグの上限枠を超えて新規のアイテムを収納する事は出来ない。また、アイテム毎に重さが設定されており、キャラクター毎に設定された重量制限をオーバーする量のアイテムは持てない仕様になっている。
「ほう、こういう所もしっかりゲームの仕様が反映されてるのか。でも俺は、『収納上限・重量制限』無視の機能が付いたアイテムバッグを持っているから、関係ないですよ」
「おや、そうでござったか。これは失敬」
イナバがそう言うと、真太郎はアイテムバッグの使い方を詳しく知る為に、再びアイテムを取り出した。
今度は、予備としてストックしてある杖を取り出してみる。
「とりま、バッグよりデカいものを出してみるか……って、マジで出て来たよっ!」
どう考えても、アイテムバッグの中に入るはずの無い長い杖が、するするとアイテムバッグの中から出て来た。その光景は、ちょっと手品みたいで面白い。
「アイテムバック、クソ便利ですね! これ持ってるだけでも、この異世界転移は勝ったも同然じゃないですかっ!」
アイテムバッグの便利さに気を良くした真太郎は、テンションそのまま、小さなものから大きなものまで一通り取り出したりしまったりして使い方を覚えた。
「薬草。服、宝石。おっ! 剣と槍までそのまま入ってるよ。これはスゲーなッ!」
『アイテム』の項目を一通りいじり倒した真太郎が、次いで装備の欄を見る。
「アイテムの次は、『装備』でもいじってみるか」
『装備』の欄は、真太郎が現在装備している装備品が、名前を先頭にした各種ステータスと共に羅列されている。
「そうだ、言い忘れてござった。装備品は、ただ実際に着ているだけだったり、持っているだけでは、システム的に装備した事にならないのでござるよ。故に、『着替えをしたら、必ず装備メニューで装備! これを忘れずに☆』で、ござる。防具を装備し忘れたせいで怪我して死んでしまったり、武器を装備し忘れたせいで戦えないなんてのは、この世界において本気で洒落にならんでござるからな」
師匠らしい所を発揮するイナバが、ワンポイントアドバイスをくれた。
そのアドバイスに従い『装備』の欄を見ると、防具は装備していても、武器は装備していなかった事に気付いた。
「あれ? 杖を確かに持ってるのに、装備されてないぞ」
真太郎は装備メニューの装備品から、先程拾って今も手に持っている『神器・アスクレピオスの杖』を選択すると、すぐさま慣れた手つきで武器を装備した。
すると、ゲームで操作していた時と同じ効果音が鳴り、ステータス表示が武器を装備した状態に変化する。どうやら、これで装備完了という事だろう。
「装備完了っ! でも、フツーに手で持てるんだから、これって意味なくないですか?」
「確かに言う通りでござるが、そこら辺は『勇者ゲーム』にそっくりな世界って事で、ゲームの設定に従っているのでござろう。まぁ、持っているだけでも普通に使えるのでござるが、武器ごとの固有スキルや固有攻撃の使用が出来なくなるので、面倒でも装備しておくに越したことはないでござるよ」
イナバは既に、ゲームを模したこの世界のルールにかなり慣れているようだった。流石は、筋金入りのネトゲ廃人という所だろうか。
「成程。流石、師匠。タメになる情報をいっぱい知ってますね」
真太郎は続いて、『魔法』と『スキル』の項目をチェックし始めた。
リストにはゲーム内で使用していたものと同じ項目が並んでいる。
「名前、消費MP、リキャストタイム、威力や効果持続時間、それに付与効果なんかの各種ステータスとフレーバーテキスト……か。これもゲームと一緒だな」
とはいえ、文字だけ見ても良く分からなかった。
という事で、真太郎はとりあえず試しに、安全性が高そうな回復魔法を使ってみる事にした。
(さっきは訳も分からず焦って使っちゃったから、今度はじっくり確認しながら使おう)
「え~と……確か、魔法を使うには、名前を言えばいいんですよね?」
先程イナバに教えられた知識を確認し、彼が頷くのを見てから、魔法を唱える。
「『ヒールライト』!」
魔法を唱えた瞬間、真太郎とイナバの体の周りを優しい色の光が包み込んだ。
柔らかな光に包まれると、体の底がじんわりと暖かくなって元気が湧いてきた。
どうやら、これが回復魔法の効果らしい。
「出来たっ! スゲー、本当に魔法が使えたよ! これは、面白いなぁ!」
本当に魔法が使えた事に感動しつつも、ステータスのMPの減り具合やリキャストタイムを確認する。
幸いな事に、ゲーム時代から変わった所は見られなかった。
どうやら、この摩訶不思議な『魔法』も、基本的な仕様はゲームと同じらしい。
(ってことは、この世界では新しく魔法についての知識を仕入れなくて済むって事か。ゲーム時代に培った知識が、そのまま使えるのはありがたいな)
などと考えていると、イナバが気持ちの悪い声を出した。
「オウフ……! これは癒されるでござるぅ~。この穏やかな春の日差しの様な暖かさに包まれたら、HPが回復するのも納得でござるなぁ~」
「さっきの戦いで減ったHPもこれで回復出来たし、とりあえず調べ物や実験はこれぐらいで終わりかな?」
真太郎は一通りメニュー画面をいじり倒すと、突然思い立ったかの様にある項目を探し始めた。
真太郎が探すものは、ゲーム内で問題や異常が発生した時に、運営会社に連絡を取る為の機能――『報告機能』だ。
(今の状況が、なんらかのゲームの仕様だとしたら、運営に連絡つけるのがとりあえずの筋ってやつだよなぁ)
現状の打破に繋がりそうな手段を見つけた真太郎が、報告機能のボタンを押そうとするなり、イナバが先んじて話しかけて来た。
「シンタロー殿がやろうとしている事は、既に拙者がやったでござるよ。この状況を解決できる可能性のある手段は、それ以外にはあり得ないでござるからな。でも残念ながら、『報告機能』は、機能停止しているでござるよ」
イナバが虚を突くような事を言い出すなり、思わず真太郎の手が止まる。
だが、真太郎はすぐに無言で『報告機能』のボタンを押した。




