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第20話 あの子もその子も仲間外れはダメよ

 ギルドマスターであるアダーの計画に従って、この街の『三大ギルド』をまとめるというクエストに身を投じる事になった真太郎達『名無しのギルド』一行は、三大ギルドの一つ『ポム・アンプワゾネ』の本拠地に向かっていた。 


「こんな爽やかな小春日和なのに、皆辛気臭いなぁ」

 オリエンスの街はどこを歩いても、現在の状況に絶望した人々が目につき、小春日和の陽気に似つかわしくない暗澹とした空気が満ちていた。


「確かに……。しかし、シンタロー殿は、元気でござるなぁ」

 多くの人々が現在と未来に絶望している状況にあって、何故か妙に元気がいい真太郎をイナバが不審がる。


「俺は、リアルでは受験に失敗して浪人になっちゃったから、家に居場所が無くてかなり息苦しい生活をしてたんですよ。だけど何の因果か、この世界に来た事でしょっぱい日常から解放されて、今は実に気分がいいんです」

 現実逃避的にゲームをしようと思ったら、本当に現実から逃避する事になってしまった、という事実は、リアルが行き詰っていた真太郎にとって好都合だったようだ。


「つか、俺や師匠みたいに現実世界で詰んでて、ある意味でリアル・イズ・デッドな人間にとって、今の状態はハッピーな状況ですよね? なんで師匠もちょっと暗いんですか?」

 三十五歳無職童貞なイナバも同感だろうと思った真太郎が、同意を求めた。


「むむっ! 勝手に一緒にしないでほしいでござるっ!」

 明らかに現実では終わっている経歴のイナバであったが、真太郎の言葉に同意する事はなかった。

「拙者は来月からネットで小説を書いて、ネット小説家になるのでござるよ。拙者のリアルの生活が終わっていると勝手に決めつけないでほしいでござる!」


 イナバがそう言うなり、刹那が冷たい目つきでツッコむ。

「おい、キモオタ。何故、今月から始めない?」

「べ……別にいいではござらぬか。どっちみち、こういう事になったのであれば、ネットで小説など書けないのでござるからな!」


「そうそう、元いた世界にこだわっててもしょーが無いっスよ。折角の異世界での大冒険なんだ、ハメはずして派手にやりましょう!」

「流石は、真太郎殿。良い事言うでござるな」

「それほどでもありますよ。さて、異世界転移したなら、やる事は一つ――」

「「俺TUEEEE無双でござるー!」」

 真太郎とイナバの馬鹿コンビが盛り上がるなり、刹那が呆れ顔で肩をすくめた。


「こいつらホント、クソだわ」

 馬鹿な男共を完全に格下扱いする刹那が、先を歩くアダーに声をかける。

「ギルマス、こいつら捨てようぜ。こんな馬鹿共、連れてても意味ねーよ」


「そうはいくまい。彼らは馬鹿かもしれんが、勇者ゲームの中ではトップクラスの実力者だ。おまけに、ゲームが現実になったこのイカレタ世界で、確かな実力を持っており、既に対人・対モンスター戦で幾度も勝利を収めている猛者だ。捨てるのは惜しい」

 人を感情で判断する刹那と違って、アダーは冷静に真太郎達の事を分析していた。


「更に真太郎に至っては、魔王相手に自爆をして道連れにしようなどとする始末。彼らは、およそ常人では考え付かない事を平気でする馬鹿ではあるが、その常識に縛られない思考力と、無駄にパワフルな行動力は、使いどころさえ間違わなければ強力な武器になるよ」

 アダーは、教え子故の贔屓目もあるのか、真太郎の事を随分と買っているようだった。


「ギルマスは、こいつらを買いかぶり過ぎだ。こいつらは、ただ狂ってる……いや、どこまでも馬鹿なだけだよ」

 しかし、真太郎達の馬鹿に巻き込まれて、いきなりボコボコにされたり、死んだりしていた刹那は、アダーの言葉を認めない。


「だが、なんだかんだいって、刹那やPKに襲われていたみこちゃん助けたりと、人助けも進んでしているよ。狂った馬鹿ではあるが、悪ではない。まともで賢いが悪よりは、ずっとマシさ」

 アダーはそう言うと、細く長い指をスッと上げて前方を指さした。


「皆、見えて来たよ。あの館が『ポム・アンプワゾネ』のギルドハウスだ」

 アダーが指さすのは、小高い丘の上に建つ白亜の館だ。

「これから、『ポム・アンプワゾネ』の連中と会う事になるのだが、その前に言っておくことがある。あそこは乙女の園であり、基本男子禁制だ」


『勇者ゲーム』のプレイヤー男女比は長らく、男性が七割・女性が三割という所だった。しかし、三年ほど前に急に女性人口が増え、今では六対四にまで変化していた。

 その原因となったのが、女性プレイヤーのみで構成される乙女のギルド『ポム・アンプワゾネ』である。


「『ポム・アンプワゾネ』の子達は、皆箱入りのお嬢様でね。故に、男に免疫がない。ましてやキモオタなんて見た日には、失神してしまうだろう。更に悪いことにギルマスは、大の男嫌いだ。と言う訳で、イナバさんは、ここに残っていてくれたまえ」

「ござっ!?」

 アダーが突然あんまりな事を言うなり、イナバが普通に驚く。


(『きっもw パーティー抜けるわw』みたいに思った事が、どれくらいあったのだろう。だが、それは決して言ってはいけない事と思って、俺はずっと黙っていたのに……)

 自分が我慢して越えなかった一線を、アダーが一切の躊躇なく踏破するなり、真太郎がなんかイラつく。


(流石なつき先生! 俺が出来ない事を平然とやってのける所に、シビれる! あこがれるゥ!)

 だが同時に、自分が出来ない事を平然とやってのけたアダーに、妙な憧れを覚えてしまうピュアな真太郎だった。


「ア……アダー殿? 本気で言っているのでござるの?」

「本気だよ。『ポム・アンプワゾネ』は基本男子禁制、キモオタなど言語道断だ」

 アダーは完全にイナバを置いて行くつもりだった。それについては、一歩も譲らないと言った顔である。


「イナバさんが、彼女たちのテリトリーに入った場合、問答無用で殺されるだろう。更に、キモオタを連れ込んだ罪で、ボクの立場が危うくなる。大仕事の前に危険は犯せない」

「そ……そうでござるか。アダー殿が言うのならば、仕方ないでござるな……」

 あまりにもきっぱりとキモオタ扱いされてしまったイナバは、抗議する気力すらなくなってしまったようだ。イナバの分厚い眼鏡の奥の瞳に薄っすらと涙がにじむ。

 すると、何を思ったか、真太郎がアダーに抗議した。


「アダーの言い分は分かった。だが、師匠を外す訳にはいかない」

「シ……シンタロー殿……?」

 思いがけず救いの手が差し伸べられるなり、イナバが驚き交じりで真太郎を見つめる。


「師匠。アクセサリで『面頬』を持っていたでしょう? 今すぐにアレを装備して顔を隠してください」

「……それは、拙者がキモオタ――」

 裏切られた様な顔でイナバが尋ねる。

 だが、彼を真太郎は無視して刹那に話を振った。


「チュウはフードをかぶってマフラーで顔を隠せ、ガキだと思って舐められると面倒だ。それに、顔を隠しておけば、コミュ障なお前でも緊張感が和らぐから、まともに話せるようになるだろう」

「偉そうに指図すんな、意味分かんねーよ」

 真太郎が命じるなり、刹那がいつもの様に反発する。


「お前は、ネットで相手に自分の顔が分からないと思えばこそ、誰にでも強気な態度が取れたんだろ? だが、今はそうじゃない。お前は見ず知らずの他人相手に、今みたいな態度がとれるのか? 少しでも不安に思うんだったら、顔を隠しておけ」

 真太郎のもっともな言い分に納得した刹那が、「ふん」とか言いながら、フードをかぶってマフラーで顔を隠す。


「あたしは?」

「みこちゃんは、物怖じしない性格っぽいから、笑顔で武装してくれればいいよ」

「おっけ! 任されよっ! 微笑の爆弾でみんなをやっつけちゃうよっ!」

 みこは元気よく返事すると、にこっとひまわりの様な明るい笑顔を作った。


「シ……シンタロー殿? せ、拙者は……?」

 無視されて不安になったイナバが、おずおずと真太郎に声をかける。

「せ……拙者は、キモオタだから、このキモい顔を隠す必要がある、と言う事なのでござるか?」

「師匠もチュウと同様の理由です。これ以上説明が要りますか?」

「い、いや、不要でござるっ!」

 イナバの扱いを心得ている真太郎は、キモオタという事には触れず、コミュ障という所を問題視する事で、彼を思い通りに操った。


「拙者、キモオタではなくコミュ障でござるから、顔を隠す必要があるのでござるよねっ!? キモオタではなく、コミュ障でござるからっ!」

 真太郎がキモオタ扱いしなかった事で、アダーにへし折られた心を何とか立ち直らせたイナバだった。


 イナバがアイテムバッグから面頬を取り出してそそくさと装備するなり、アダーが真太郎に声をかける。

「真太郎、何を考えているんだい? 妙なトラブルは起こさないでくれよ」

「そうならない様に手を打っているんだよ。アダーがどう思おうと、師匠はゲームでは名の知れた存在だ。連れているだけで抑止力になる」


「抑止力だと? これからするのは、ただの話し合いであって、交渉事じゃない。武力による後ろ盾など不要だ」

 アダーが抗議するなり、真太郎が彼女の側に寄って行って耳打ちする。


「アダーは師匠を軽視しているみたいだが、俺は違う。あの人は勇ゲーにおいて、五本の指に入る最強のクラスのプレイヤーだ。その力と知識は、今の状況で何よりも役に立つ。師匠は、その強烈な見た目と痛い言動さえ無視すれば、この勇ゲー風異世界で最も頼りになる人間と言っていいだろう。アダーの好き嫌いで、ここであの人との友好を壊す訳にはいかない」

 割と冷静に物事を判断していた真太郎が、アダーをたしなめるように語る。


「失敬な。ボクは別に好き嫌いで、あんな事を言った訳ではないよ」

「嘘をつくな。アダーは師匠と話す時、いつも奴を視界に入れない様にしているじゃあないか。俺は全てお見通しだよ」

「はぅ」

 真太郎に全て見透かされていたアダーが、気まずそうな顔で呻く。


「それはともかく。見知らぬ相手と対峙するんだ、こちらもそれ相応の態度で挑ませてもらう」

 そう言って真太郎が話を打ち切るなり、アダーが釘を刺す様な態度を取った。


「さっきから、真太郎は何かを勘違いしているようだから、先に言っておくよ。キミ達を『ポム・アンプワゾネ』に連れていくのは、別に何かの交渉をさせる為じゃあない。キミ達には、モンスターとの戦闘方法、そして死と復活について語って欲しいんだ」

 自分が思っていたのと違う思惑をアダーが語るなり、真太郎が訝しげな顔をする。


「何それ? 話と違くない? 三大ギルドをまとめるって話じゃないの?」

「真太郎の言う通りだ。だが、先方との交渉は全てボクが取り仕切る。いいね?」

 真太郎は特に反対する理由も無かったので、アダーの言う通りにする事にした。

「いいよ。ギルマスはアダーだ。アダーのやりたいようにやってよ」


 真太郎がそう言うと、イナバと刹那、みこも彼の意見に同意した。

「異論はないでござるよ」

「俺に交渉事などできん、ギルマスに全部任せるよ」

「アダーさんに、お任せしまーすっ!」


「素直なメンバーばかりで、ボクは嬉しいよ」

 全員の同意を得たアダーは小さく頷くと、目的地に向かって歩き出した。

 目指す先は、『ポム・アンプワゾネ』のギルドハウスだ。

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