表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/161

第19話 僕らの初めてのギルドクエスト

 昨日と同様に、今日も街は、息苦しく鬱屈とした雰囲気で満ち溢れていた。


 爽やかな朝の陽ざしの中、街の至る所で絶望に支配された人々が、うめき声を上げたり、啜り泣きをしている。

 今日もまた元いた世界に帰れる事なく、新しい朝をこの世界で迎えてしまった事に苦しんでいるのだろう。


「酷い光景だねぇ……。しかし、なんで皆、街に出て来てるのかなぁ?」

 朝から街を徘徊している人々を目にしたみこが、素朴な疑問を口にする。

「ここで待っていれば、いつか運営サイドの人間が現われて、この状況に対してなんらかの説明をしてくれる、とでも思っているんじゃないのかな?」

 みこの疑問に、アダーが若干馬鹿にするような声音で答える

「成程ねぇ」と小さく漏らしたみこが、また人々に視線をやる。

 

「もうこの状況になってから、一週間も経つんですよね? 運営を待つのもいいけれど、そろそろ別の方法を模索するべき時なんじゃないのかなぁ? 元の世界に帰るにせよ、この世界で生きるにせよ、さ」

「そんな事を考える人間は、皆無に近いよ。そういう建設的な事を考える頭がないのか、あるいは精神的にキてて物を考えられないのかは、分からないけどね」

 アダーがそう言ってシニカルに笑うと、真太郎が後に続いた。

 

「あるいは、考えても仕方がない、と悟って諦めているのかもね。つか、元の世界に帰れないのなら、気持ちを切り替えて、逆にこの世界で暮らしていく事を考えるべきだよ。少なくとも、その選択肢も視野に入れるべき時に来てるんじゃないの? 昨日、この世界に来たばかりの俺が言うのもなんだけどさ」

嘆いてばかりいる人達が理解出来ない真太郎がそう言うと、アダーが呆れ顔で肩をすくめた。


「皆が真太郎の様に、切り替えを早く出来る訳じゃないのさ。ここにいる大半の人間は、自分の頭で考え、自分の体で行動しなければ何も状況は良くならないと分かりきっているのに、どこかの誰かに頼って自分の頭で考えて行動を起こそうとしない人間ばかりなんだよ。こういう輩を何と言うか、知っているかい? 愚か者っていうんだよ」

 アダーに愚か者扱いされた人々は、救いを求めて広場に出てきても、何かをする訳でもなくただひたすら嘆いているだけだった。


「相変わらず、手厳しいなぁ」

 アダーに愚か者認定された人々をよく見てみると、多くの人が十人に満たない少人数でまとまってあちこちに集まっている事に気付いた。

 彼らは、外には警戒の視線を向け、内には不信の視線を向けており、お互いを信じきれないまま、ただ不安を紛らわす為だけに身を寄せ合っているみたいに見える。


「……な~んだかなぁ。いや、不安な気持ちは分かるよ。不安で怖いのは俺も一緒だし、家にマジで帰りたいし。でもさぁ、流石に一週間も状況が変わらないんだったら、もうちょい何かやる事があるでしょうよ」

 真太郎がそう言葉を漏らすそばから、状況を悲観した女の子達のすすり泣きや、行き場のない感情を爆発させる男達の怒声が、街のどこかから聞こえた。


「実の所、彼らは、『何をやればいいか』が、分からないのさ。ま、仕方ないと言えば、仕方ないのかもしれないけどね。平和や安全も含めて生活に必要な物事が、ほぼ完璧に機能するのが当たり前な日本という稀有な国で育った現代人が、こういう想定外の事態に、すんなりと対応出来る訳がないんだからさ」

 アダーはニヒリズムを滲ませながら言って、ため息をついた。


「でも、日本人は、災害時の助け合いやマナーの良さが凄いじゃん。それはある意味で、想定外の事態に対応しているって事じゃないの?」

「それは日常に回帰出来る事が分かっているから、落ち着いているだけに過ぎないよ。だが、今は事故とか災害とか、そういう日常の延長のトラブルではなく、ゲーム風の異世界に突然転移してしまったなんていう、超常識外れの異常極まる非常事態なんだ。否が応でも、本人の危機管理能力やサバイバルスキルが試される。そういう意味で、何もせずにただ助けを待っているだけの彼らはもう失格。順当に考えて、次に待つのは死だろうね」

 手厳しいアダーは言ってから、何者かによって破壊された建物を見た。


「そういう無能は、大人しくしてくれればありがたい……のだが、そういう奴らに限って醜く足掻くから手におえない。見てみたまえ、この街の荒れ果てた姿を」

 次いで、現地民に暴力を働く無法者と、仲間同士で小競り合いを始めた連中に視線をやる。

「助けをねだるばかりで何もせず、助けが来ないと分かれば、鬱憤を晴らす為に暴力に身を委ねてこの様だ」


「まぁ、しょうがないと言えば、しょうがないんじゃないの? こんな状況だし、暴れたくもなるでしょ」

 真太郎が何気なく言うなり、アダーが彼の顔をじっと覗き込んだ。


「真太郎は、この状況が暗示する未来が見えていないみたいだね? いいかい? 今、この街には、約三万人の勇者ゲームのプレイヤーが取り込まれているんだ。そして、ここからが問題だ……ここには国も無ければ法律も無い、おまけに警察もいないし、頼りになる家族もいない……いわばここは、か弱い自分を誰も守ってくれる人がいない無法地帯なんだよ」

 全てを語らないアダーだったが、彼女の教え子である真太郎には、彼女の言わんとする事が一瞬で理解出来た。


「あー、成程。このまま今の状況を放っておいたら、近いうちに盗みに犯し、更には壊しと殺しと、何でもありのバイオレンスの嵐吹き荒れる世紀末状態になっちゃうって事だね」

「その通り。取るに足らない無能共とはいえ、数は万を超える。一度、タガが外れれば、なす術も無く全てが崩壊に向かうだろう。そうなったら、女の子には……いや、男の子にも、というか、この街にいる全ての人間に地獄がやって来るよ」

 最悪の事態を想定しているアダーが、深刻な顔で言葉を詰まらせる。

 

「はぅ……怖い……」

 すると、後ろで話を聞いていた刹那が、恐ろしげな想像に小さな体をブルッと震わせた。


「ハインリッヒの法則や割れ窓理論で今の状況を考えると、自暴自棄な人々や小競り合いを繰り返すPKなどの小さな綻びを放っておくと、やがて手に負えない事態に進展するだろう――」

 アダーがそこまで言うと、真太郎が彼女の言葉を遮って先を続けた。

「だが、逆に考えれば、小さな綻びのうちに事態を収拾してしまう事で、大事に至らなくさせる事も出来るとも言える」


 真太郎がそう言うと、アダーがパチンと指を鳴らした。

「そう、正にその通り。だから、ボクとしては一刻も早く手を打って、この状況を支配下に置きたい。力を貸してくれるね、真太郎?」

 アダーはそう言って、王子様然とした爽やかな笑顔で、真太郎に誘いをかけた。


「今の俺は、アダーの右腕なんでしょ? それに力を貸さない、なんて言っても、無理矢理協力させるつもりでしょ? なつき先生は言い出したら、聞かないから」  

 アダーの人となりを良く心得ている真太郎が、肩をすくめて言う。

すると、アダーが嬉しそうに切れ長の目を細めて笑った。


「ボクの事を良く分かっているじゃあないか。流石は、ボクの可愛い教え子だ」

 アダーは銀髪を揺らして笑うと、真太郎の肩をポンと叩いた。

「ボクら『名無しのギルド』は、これから三大ギルドをまとめるというクエストを開始する。まずは乙女達のギルド『ポム・アンプワゾネ』から攻略するよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ