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第18話 現状に対するなつき先生の傾向と対策

「言うねぇ。じゃあ、お次は、なつき先生のお考えを聞かせて貰おうかな?」

 真太郎が選手交代とばかりに話をアダーに振る。

するとアダーが、長い足を組んでおもむろに話を始めた。


「ボクの考えは、この街に秩序をもたらす為に大きな組織を作ると言う点において、概ね真太郎と同じだ。だが、真太郎の様に、有力者を全部集める事は考えていない。とりあえず、『三大ギルド』を一つに束ねるという方向で動いている。それが一番、可能性に現実味があるからね」

「人が少なくない? 三大ギルドの人間だけじゃ、プレイヤー全体の二割ぐらいじゃん。出来れば、三、いや四割は欲しいよ」

 真太郎がアダーの考えにツッコミを入れる。


「問題ないよ。何故ならば、物事は何でも八○対二○で構成されているという『パレートの法則』に従う傾向が強いからだ。よって、全体の二○%をまとめられるのならば、残り八○%の烏合の衆をまとめるのも容易いだろう。二割の人間を仲間に引き込めば、次の目的に移行出来る目途が立つ」

「次の目的って?」


「この世界での生活基盤を築く事と、現実への帰還方法を探す事だよ」

「ダメだった場合は?」

 真太郎がそう尋ねると、アダーはさも当然と言った風に涼やかに微笑んだ。


「ダメになる可能性など考えていないよ。初日で既に三大ギルドの一つ『ポム・アンプワゾネ』に入り込む事に成功し、残り二つの『JMA』とは現在チャットで交渉中、『渾沌騎士団』とは明日会談の予定だ。近日中に三大ギルドは一つにまとまるだろう」

「マジかよっ!? もうお世辞抜きにスゲーなっ!」

 自分の先を何歩も先に進んでいたアダーに対して、真太郎は素直に感服せざるを得なかった。


「ふふ、またボクの事を尊敬したくなったかい?」

 真太郎に手放しに褒められるなり、アダーは得意げにお澄まし顔をした。

「なんかアダーがここまで上手くやってくれてるなら、俺の『実験』はあんまり意味ないかもなぁ~」

 そう言った真太郎が、腑抜けた顔で椅子に背中を預ける。


「すっかり忘れていた。キミの『実験』とやらは、何に使うつもりだったんだい?」

「今やっている『実験』は、話し合いが上手くいかなかった場合に使おうと思っているんだよ。『アレ』を使えば、かなり簡単に人がまとまるはずだからね」

「ちょっと待てっ! 『アレ』でどうやって人をまとめる気だッ!?」

 真太郎の話を聞いた途端、アダーが前のめりにツッコんだ。


「アダーに読むように言われた本の中に、心理学者のユングの本があったのだけれど――」

 真太郎の無学を憂いたアダーは、彼に受験勉強を教えると同時に、様々な本を読ませて教養を付けさせていたのだ。


「その本によると、人間の無意識層の更に深部には、プシコイドという領域があって、そこにある種の感情の楔を打ち込むと、人間は条件反射的に動くようになる、と書いてあったんだよね」

 真太郎がそこまで言うと、聡明なアダーは彼が言わんとする事を察したようだ。


「……成程。やっと、真太郎が何をしたがっているのかが分かったよ。ショックな出来事を体験させる事で心に空白を作り、そこにやらせたい事を叩き込む――洗脳の初歩的なテクニックだね」

「そんな怖いものじゃないよ。俺がやろうとしてるのは、一種のショック療法さ。それはともかく、早い時期にこの街にいる人間がまとまれないと、確実に大変な事になる。具体的に言うと……魔王に殺されて全滅。あるいは、プレイヤー同士で喰い合って自滅だね」


「……そういえば、勇者ゲームでの魔王の目的は、『全人類の抹殺』だったな」

「この世界が、勇者ゲームそっくりな場所である以上、魔王は絶対的な脅威として存在していると考えるのが、自己防衛上正しい判断の様に思うね。だから、今の状況が長引く様だったら、俺の手荒な方法を使ってでも、街の人達をまとめなければならない。何も出来ないうちにゲームオーバーにはなりたくないからね」

 真太郎の話を最後まで聞いたアダーが、ふむと言って腕を組んで黙り込む。


 すると店の外から、刹那とイナバ、そしてみこの声が聞こえて来た。

「寝起きでアホ毛を生やしたせっちゃん、ギザかわゆすでござるっ~!」

「うっせー! 朝からキメェんだよっ!」

「朝からごっつぁんですっ!」

「あはは~。君達って何気にスゴイ仲良いよねぇ~」

 いつもの間の抜けたやり取りをしながら刹那達が、酒場にやって来た。


「おはよう、刹那、みこちゃん。昨日はよく眠れたかい?」

 イナバのケツを乱暴に蹴り飛ばす刹那と、それを呆れ顔で見つめるみこを、アダーが爽やかな笑顔で迎える。

「う、うん」

 イケメンなアダーに笑いかけられた刹那が、思わずドギマギする。


「はいっ! 朝までぐっすりでしたっ!」

「それは良かった」

 朝から元気いっぱいのみこを見てアダーは満足げに微笑むと、イナバにも話を振った。


「イナバさんもおはよう」

「Good morning! でござる!」

「あはは。イナバさんは朝から元気だね」

 無駄に発音の言いイナバに、アダーは若干引くと、真太郎にそっと耳打ちした。


「あれはどういう事だい、真太郎? イナバさんは宿屋で寝たにも関わらず、キモオタのままじゃあないか。キモオタのステータス異常が治っていないよ?」

「いや、別にキモオタはバットステータスじゃねーよ。宿屋で寝たからって治らないよ、寝ても覚めてもキモオタはキモオタなんだからさ」

「そ……そうか。実に残念だよ……」

 真太郎のツッコミを受けたアダーが、非情な現実に打ちのめされたかの様な悲痛な顔をする。


「アダー殿、昨日は素敵な宿を用意してくれて、ありがとうでござる。拙者が泊っていた宿より、数倍快適な宿でござったよ」

 快適なベッドでぐっすり寝たイナバは、朝から元気いっぱいだ。スカッと爽やかなキモオタスマイルにも元気が漲っている。


「あ、うん……。喜んでもらえて幸いだよ」

 アダーはそう言いながら、イナバからさりげなく距離を取った。

 王子様の様に凛々しい見た目に反して意外と女の子な所があるアダーは、イナバのキモオタスマイルを生理的に直視する事ができなかったのだ。


「おや? アダー殿は元気がないでござるなぁ? さては、寝起きが弱いタイプでござるな?」

「あはは、低血圧なもんでね」

 アダーは笑って話を誤魔化すと、椅子からスッと立ち上がった。


「これで全員集まったね。これからキミ達に会わせたい人達がいるから、ボクに付いて来てくれ」

 そう言ってアダーが酒場を出るなり、真太郎達が彼女の後に続く。 



「おい、バカタロー。お前、昨日の夜、ギルマスとどこへ行ってたんだ?」

 アホ毛を揺らしながらちょこちょこ歩く刹那が、不意に真太郎に話しかけた。

「は? 何の話?」

 面倒だったので、速攻でとぼける真太郎だった。


「とぼけるな、俺は何でもお見通しだぞ」

「何でもお見通しなんだったら、俺が話す事なんて何もないんじゃないの?」

 真太郎が適当にあしらうなり、刹那がつぶらな瞳をキッといからせる。


「生意気な口を利くんじゃねーよ! お前がギルマスと街の外に行ったのを見たんだからなっ! 俺を仲間外れにすんじゃねーよっ!」

「仲間外れにされたくなかったら、その場でついて来ればよかったじゃないか?」

 何気なく真太郎がそう返すと、刹那が目を伏せて言葉を詰まらせた。 


「……怖くて、外には行けなかったんだよ」

 刹那がぽつりと言うなり、真太郎は不憫に思って仕方なく話をしてやることにした。


「俺は昨日、お前が感じているその『怖い』をなくす為に、アダーと一緒に色々とやってたのさ。チュウが一緒に来たいのならば、今日はお前も呼んでやるよ」

「何っ、本当かっ!?」

 真太郎が思いがけない事を言うなり、刹那がつぶらな目をキラキラと輝かせた。


「本当だよ。チュウだって、仲間外れは嫌だもんな?」

「ぶーぶー! あたしも仲間外れは嫌いだよっ!」

 二人の話を聞いていたみこが、真太郎と刹那の間にひょこっと顔を出す。

「じゃあ、今夜はみこちゃんも誘っちゃおうかな?」

「是非、そうしてくれたまえ。シンタローくん」

 すぐに誘われた事で気を良くしたみこが、お澄まし顔でふざける。


「拙者も仲間外れは嫌でござるよ……」

 三人の話を後ろで聞いていたイナバが、切なげな声を漏らした。

「うるせー! お前はキモいから来なくていいんだよっ!」

「オウフ! ご無体でござるっ!」

 すると、刹那がイナバのケツを蹴り飛ばして追っ払った。


「いや、師匠も是非、一緒に来てください。実験材料が少なくて困っていたんです」

 真太郎が妙な言葉をチョイスした事に気付いた刹那とみこが、嫌な予感に駆られる。


「あん? 今なんて言った?」

「え? 今なんて言ったの?」

 だが、彼女達は、その嫌な予感の正体を確かめる事は叶わなかった。

 なぜならば、街を歩くなりすぐに、嫌な光景が目に入って来たからだ。

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