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第13話 モンスター図鑑とワープゲート

「――調子乗って魔王を殺しに行ったら逆に殺された。おサブい話でっしゃろ」

 旧友にして家庭教師アダーに、先ほど魔王と一戦交えた経緯と自分達の現状を話して聞かせた真太郎が、冗談交じりで話を終える。


「な……なんて奴らだ。キミ達、頭がおかしいんじゃないのか……?」

 右も左も分からない状況で、何の準備も無くゲーム時代最強の敵に挑むという無謀な荒業をやってのけていた真太郎達に、アダーが心の底から驚愕する。


「頭がおかしいのは、バカタローだけだよ。こいつは、イカレたサイコ野郎だからな」

 真太郎の話を聞いて、今更ながら彼を馬鹿だと思い直した刹那が毒を吐く。

「せっちゃん、言い過ぎでござるよ」

「そうだよ。ちょっといい気になり過ぎてた、ってだけだよ」

 とは言いつつも、強く否定はしないイナバとみこだった。


「ちょっと待ちたまえ、真太郎の話はおかしいよ。現在、都市間を一瞬で移動できる『ワープゲート』は機能を停止しているし、そもそも『勇者ゲーム』には、瞬間移動の魔法は存在しないんだ。どうやって海の向こうの魔王城に行ったというんだい?」

 にわかには信じがたい真太郎の話に、アダーが冷静にツッコミを入れる。

 すると真太郎は、自分が履いているブーツを指さした。


「俺が装備している『韋駄天ブーツ』は、『一度足を踏み入れた場所にテレポートできる』というご機嫌な特殊効果があるんだな。それを使って魔王城にテレポートしたんだよ」

 真太郎は言い終わると、自分の話の正しさを証明させる為、刹那とイナバにも自分達の経験を話すように頼んだ。


「――と言う訳だ。ギルマスが疑う気持ちも分かるが、バカタローの話は本当だし、俺の話も本当だ。俺達は魔王城に乗り込んで、そして魔王と四天王に殺されたんだよ」

「そして、輪廻の神殿で生き返ったのでござる」

 刹那とイナバの話を信じられないと言った面持ちで黙って聞いてたアダーは、二人の話が終わるなり、疲れた顔で椅子の背もたれに寄りかかった。


「……ふぅ。まったく、信じられないね」

 アダーがため息交じりに言うなり、疑われたと思った真太郎達が揃ってムッとする。

「勘違いしないでくれ、キミ達の話を信じていないっていう意味じゃあないよ。ただ、あまりにも現実離れしている話だったから、ついね。死んでも生き返るなんて、とても信じられないよ」

「現実離れしてる状況にいるんだから、常識を基準に物を考えない方がいいと思うよ」

 真太郎がそう言うなり、アダーが背もたれに預けていた体を元に戻す。


「確かに、真太郎の言う通りだ。ゲーム風の異世界にやって来てしまう、なんて嘘みたいな話が本当に起こっているのだから、今までの常識で物事を考えるのは止めるべきかもしれないね」

 冷静なアダーはすぐに頭を切り替える事で、信じがたい真太郎達の話を早くも消化する事が出来た様だ。

「所で、真太郎。もう一度、魔王城に行く事は出来るのかな?」

「出来ると思うよ」

 真太郎はアダーの申し出に応じて、ステータス画面を呼び出した。


「……あれ? さっきと違って文字が暗くなってる」

 しかし、先程と違って、韋駄天ブーツのテレポート項目の『魔王城』は、非アクティブ状態になっていた。

「ほう、本当に『魔王城』と表示されているな。嘘じゃなかったんだね」

 真太郎の手元のステータス画面を覗き込むアダーが、魔王城の文字を確かめる。

「表示されてるに決まってるでしょ。アダーは俺達の話聞いてなかったの?」

 真太郎は、何気なく本音を漏らしたアダーにツッコミながら、薄灰色に変化した『魔王城』の文字を指で押した。


 だが、先程と違って何のリアクションも返してこない。

「……う~ん、無反応。どうなってるか分かんないけど、今は使えないみたいだね」

「MPが足りないんじゃないのかい?」

「いや、そういうのじゃないと思う。『韋駄天ブーツ』のテレポートを使うには、ただ走ればいいだけだからね。なんだろ、やっぱり動かない。バグかな?」

 真太郎は、アダーの相手をしつつも、ステータス画面を何度もいじり続けた。


「真太郎、もういいよ。嘘なら嘘って言いたまえ、怒らないから」

「嘘じゃないって! 俺のレベルを見れば、魔王と戦って来たってのが、本当だって分かるよ」

 真太郎に言われたアダーが、彼の簡易ステータスを凝視する。


「……む。どういう事だ? レベルが上限を超えて110になっているじゃないか」

 真太郎のレベルの変化に気付いたアダーが、俄かに驚いて目を丸くする。

「これは、さっき魔王城で魔王を道連れに自爆した時に経験値が入ってこうなったんだよ。どう、これで俺の話を信じる気になった?」

「魔王の下りはともかく。レベルが上がっているのは事実だから、嘘はついていないとは思うのだが、バグかもしれんし……うーむ」

 確固たる証拠を見ていないせいか、いまいち釈然としない様子のアダーだった。


「あー、もういいよ。信じたくなかったら信じなくても」

 そんな事を真太郎が言うなり、イナバが話に割り込んできた。

「この世界がゲーム通りならば、『モンスター図鑑』に魔王の姿が乗っているかもしれないでござるよ」

 イナバはそう言うと、ステータス画面を表示して何やら操作を始めた。

「……えーと、モンスター図鑑の項目はっと……」

 イナバがステータス画面にモンスター図鑑を表示させる。


『モンスター図鑑』は、冒険で出会ったモンスターの姿が次々と記録されていく不思議な魔法のアイテムだ。最初は白紙だが、モンスターと遭遇する事で姿と名前が図鑑に記載され、討伐すると各種ステータスやドロップアイテムの種類、更には生態や逸話などの詳細情報が追記されるという、勇者達の冒険をアシストする便利なアイテムである。


 モンスター図鑑をスクロールさせているイナバの指が、最後のページでピタリと止まった。

「あったでござるよっ!」

 イナバはそう言って、モンスター図鑑を皆に見える位置に表示した。

 その場にいた全員が揃って、ナバの手元のモンスター図鑑を覗き込む。

 そこには、真太郎達が先程遭遇した魔王と四天王の姿と名前が、寸分たがわぬリアルな姿で表示されていた。


「これだよっ! これが魔王だよっ!」

「これだよ、このクソモンスターどもだよっ!」

 真太郎と刹那が、自分のした話の証拠となるものを見つけてはしゃぎだす。

「ほぅ。これは面白い」

 モンスター図鑑に記載されているやたらとリアルな魔王達を見つけたアダーが、少し驚いた様な感心した様な声を出す。


「ゲームでは、魔王と四天王の項目は存在しなかったのに、イナバさんのモンスター図鑑には、新しく記載されているね。これは……この世界は、ボク達の知っている古い勇者ゲームではなく、新しいアプデが適用された勇者ゲームを元にした世界って事なのかな?」

「多分そういう事なのでござろう。他にも面白い変化があるでござるよ。多くのモンスターは、ゲームでの姿形で記載されているのに、拙者達が実際に戦ったモンスター達だけは、実写で記載されているのでござる」

 イナバの言う通り、モンスター図鑑のモンスター達の多くが、ゲームでポリゴン画像だった。

 だが、実際に戦闘をした角の生えた猪ホーンボアや緑色の小鬼ゴブリンなどは、自分達が見たそのままの現実感溢れる姿で記載されているのだ。


 その驚きの光景に思わず、刹那が腕を組んで唸る。

「まるで写真だな。どういう仕組みなのか、さっぱり分からん」

「それより、本当に魔王が存在する事の方が驚きだ。あと、キミ達が本当に魔王と遭遇した事もね」

 顎に細い指を添えるアダーが、モンスター図鑑の魔王をじっくり見ながら言葉を漏らす。


「これで分かっただろ? 俺達は実際に魔王と遭遇したって事がさ」

 真太郎の確認に、アダーが黙って首肯する。

 流石に、勇者ゲームの仕組みで動いているこの状況で、こんなものを見せつけられたら、疑り深く慎重な彼女も認めざるを得ないのだろう。

「分かってもらえて嬉しいよ。それより、さっき『ワープゲート』が機能停止しているとか言ってたよね?」

 魔王の話をアダーに信じさせる事に成功した真太郎が、おもむろに話題を変える。

「うん? そうだね、今現在『ワープゲート』は機能を停止しているよ」


『ワープゲート』は、不思議な力で街と街を繋いでいる門だ。この門を潜り抜ける事で、一瞬して今いる街から、他の街に辿り着くことが出来る便利な代物である。

「……マジかよ。じゃあ、今は都市間の移動は、全部徒歩って事になるの?」

 非常に便利、というよりも、勇者ゲームにおいて欠かす事の出来ない施設が、現在機能を停止しているという事実は、少なからず真太郎を動揺させた。


「まぁ、そうなるね。ボクの持っている情報だと、三大プレイヤータウンの他の二つの街――『西のガルブ』と『北のセーヴェル』も同じ状況みたいだね。現在、他の都市との交流は、至難の業になってるよ」

『東のオリエンス、西のガルブ、北のセーヴェル』は、勇者ゲームの日本サーバーにおける三大プレイヤータウンだ。勿論、広大な勇者ゲームの世界には、この街以外にも、大小様々な街がしっかりと存在している。

 しかし、多くのプレイヤーは、基本的に三大都市に根城を構えている事が多かった。


 というのも、初心者がゲームをスタートする際、初めに訪れる街が、この三つのうちのどれかだからだ。

 そして、初心者の為に設計されたプレイヤータウンである三大都市は、運営によるサービスが細部にまで行き届いている。そんな訳で、日本サーバーを利用する大多数のプレイヤーは、大抵この三つの街のどれかをホームタウンに決めて活動を行なっているのが常だった。


 そして問題の『ワープゲート』である。

「あの~。さっきからみんな、普通に話してるけど、『ワープゲート』が機能停止してるってのは、大問題なんじゃないの?」

 みこの言う通り、三大都市間を相互に結んでいる『ワープゲート』が使えないとなると、他都市との行き来が一気に難しくなる。

 多く場合、街と街の間はかなりの距離があるので、ワープゲートを使わずに徒歩で移動するとなると、ゲームの中でも結構面倒な作業になるのだ。

 しかも今は、ゲームではなく現実。みこの言う通り、大問題だ。


「みこ殿の言う通り、大問題でござる。街から街へ徒歩で移動するとなると、危険なモンスターや野盗が出る『フィールド』や『ダンジョン』を通らなければいけなくなるのでござるからな」

 イナバはここまで言うと、顔を不安で曇らせた。

「しかも、今はゲームとは違って、現実に『本物のモンスター』が出て来るのでござる。この世界での移動は文字通り、命懸けになるのでござるな」


「オリエンスから一番近いガルブでさえ、ゲーム内時間で一週間はかかるんだ。それをこの状況でやるとなると、一体どれぐらいの時間がかかるんだよ……」

 改めて今の状況が絶望に満ちている事を知った刹那は、思わず泣きたくなった。


 すると、真太郎は何を思ったか、不安に蝕まれている刹那とイナバを鼻で笑った。

「何をビビっているのか分からないな。この街から出られないならともかく、歩けばどこでも行けるんだ。しかも、死んでも五体満足で生き返るんだぞ、何の問題も無い」

 一回死んだせいか、死に対しての恐怖が薄くなっている真太郎が、妙な自信をみせる。


「言い方は悪いが、真太郎の言う通りだ。現在のボクらは、現実世界での脆弱な肉体ではなく、勇者ゲームの勇者さながらに強力な肉体を持っている。村人は言わずもがな、恐ろしいモンスターですら一撃で倒すことが出来るんだ、都市間移動は達成困難ではあるが、達成不可能ではないよ」

 冷静に状況を判断しているアダーが、適切な状況判断をした。


「アダーの言う通りだ。それに、三大都市の間には、強力なモンスターやレイドボスが出て来る場所は存在しない。プレイヤー達が協力して事に当たれば、難なく都市間の移動を可能とする事が出来るだろう。ね、アダー?」

「その通りだよ。イナバさんと刹那は、不安に囚われ過ぎているんじゃないのかい? キミら二人は、勇者ゲーム内で、東西不敗と言われた最強にして最凶のギルド『名無しのギルド』のメンバーなんだ。恐れるものなど何もないだろう?」

 困難な問題を前にしても全く動じない真太郎とアダーの強気で冷静な態度が、弱気だったイナバと刹那に勇気と元気を与える。

 

「……確かに言われてみれば、二人の言う通りだな」

「うむ。『ワープゲート』は元々、移動時間を短縮する為だけのモノであって、決定的な移動手段と言う訳ではないでござる。拙者らは、少々冷静さを欠いていた様でござるな」

 刹那とイナバが持ち直したのを見るなり、アダーが爽やかに微笑む。

「その通り、問題など何もない。あるのは、解決すべき状況だけだよ」


「で、その状況を解決する為には、どーしたらいいんだろうねぇ? 勿論、この解決すべき『状況』っていうのは、街から街への移動の事ではなく、今現在の『勇者ゲーム風の世界からお家に帰れなくなっている』っていう状況の事ね」

 真太郎はそう言うと、皆の答えを待たずに話を続けた。


「とりま、俺は、この世界が勇ゲーそっくりという事から推測して、魔王を倒せばゲームクリアって事になって、晴れて元の世界に帰れる――って考えたんだけど……」

「それは失敗した、か」

 アダーがそう言うと、真太郎が肩すくめた。

「その通り。で、なつき先生は、現状を解決する為には、何をするべきと考えているのかな?」

 問われたアダーが、ふむと言って、一回口を閉じた。

 

 そして、顔の前で手を組み、おもむろに口を開く。

「まずは、この世界で生き残る」

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