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第10話 イケメン? 美女? 美しきギルマス・アダー登場!

 アダーとの待ち合わせ場所に向かう真太郎達は、オリエンスの繁華街を歩いていた。

 かつて――ゲーム時代は、武器屋や防具屋、各種アイテム屋が、色とりどりの派手な看板を掲げて道沿いに軒を連ねていた繁華街だった。

 

 だったのだが、ゲームが現実となった今は違った。 

 店は自暴自棄になったプレイヤーに荒らされでもしたのか、ドアや窓が壊され略奪にあっている店が幾つも散見された。粗末な露店に至っては、店の原型が想像出来ないほどに破壊されている。

 街のアクセントとして植えられている巨大な木々は、スキルや武器によって試し切りでもされたのか、無残に根元から折れてしまっているものが多数。他にも攻撃力の大きい魔法でも使ったのか、石畳の道路は敷石が抉れ、すっかり土が見えてしまっている所もある。


「いや~、これはドイヒーだねぇ……」

 ゲームの『勇者ゲーム』の風景ならば、この繁華街には、多くのプレイヤーがアイテムを求めて街を練り歩き、生産職ギルドの連中がワイワイと騒がしく露天を開いていたり、クエストやレイドに出掛ける連中が気合の入ったやり取りをしていたりと、非常に活気のある場所だったはずだ。

 しかし、今の繁華街には、かつての面影はどこにもない。

 そこにあるのは、混乱と不安に満ちた人々と、彼らが撒き散らす苛立ちと恐怖に満ちた暗澹とした光景だけだ。


「しかし、活気はないが、意外にも人が多いな」

 真太郎の言う通り、ざっと見回しただけでも軽く百人を超える数のプレイヤーが、この繁華街にたむろしていた。もっとも、これは見える範囲だけの話であり、広場を見下ろす時計塔の中や近くの家屋、あるいは路地の裏側からも視線と気配を感じるので、実際のその数はもっと多いのだろう。


「……酷いなぁ、ゲームの頃の賑やかだった街の面影がどこにも無いよ。ネガティブな空気の人が多過ぎて、ここにいるだけで暗い気持ちになっちゃいそう」

「……嫌な雰囲気だぜ。ヒャッハーなPK野郎とか出て来ねーだろうな?」

 ゲーム時代と全く違ってしまった繁華街の荒れ果てた姿を見たみこがそう呟くなり、刹那が怯えた顔で悪態をつく。

 各々感想を漏らす彼女達の胸の去来するのは『不安』。ただそれだけだった。


「ったく。アダーの奴は、こんな所に呼び出して何考えてんだよ?」

 真太郎がそう毒づくなり、街を見回していたイナバが口を開いた。

「アダー殿の事だから、きっと訳があるのでござるよ。アダー殿は、曲者揃いの攻略組をまとめて『魔王討伐軍』を指揮した程の御仁。意味も無く、こんな危険そうな所に呼び出した訳ではござらんよ」

「そうだぞ、バカタロー。ギルマスは、お前ら馬鹿共と違って、頭がいいんだ」

 自分達が所属していた『名無しのギルド』のギルドマスターを務めていたアダーを、イナバと刹那は随分と信頼しているみたいだった。

「呑気だなぁ。君らはアダーの事を分かってないね、奴は一筋縄ではいかないよ」

 そんなやり取りをしながら、一同は件の人物との待ち合わせ場所に向かう。


 荒れ果てた表通りから一本外れ、裏通りに入る。

 ここは表通りと違って、ゲーム通りの光景を色濃く残していた。元々、何もない場所なので人が来なかったのだろう。裏通りは、自暴自棄になったプレイヤーの八つ当たりの被害を免れていた様だ。


「ゲーム通りならば……確か『酔いどれドラゴン』は、この辺りのはず……」

 待ち合わせ場所を探す真太郎が、木造のアパートメントの間に隠れる様に佇む一軒の酒場を見つけた。

「ギルマスは、街が荒れている事を勘定に入れて、人のいない隠れ家的な場所に俺達を呼んだんだな。やはり、頭がいい」

 赤い火を噴く竜がコミカルに描かれた『酔いどれドラゴン』の看板を見つけた刹那がそう言うなり、真太郎がピタリと足を止めた。


「……やっぱ、帰ろう」

「あん? なんでだよ?」

 真太郎が妙な事を言い出すなり、即座に刹那がツッコむ。

「怖いから」

「怖いって、何がでござるか?」

「……アダー」

 イナバの問いかけに、真太郎が怯えた様子で答える。


「怖い? バカタローとギルマスは、リアルで会うぐらい仲がいいんだろ?」

 件の人物・アダーと真太郎は、ゲームの中で幾つもの戦場を共に歩き死線を越えた戦友であるだけでは留まらず、リアルでも友人関係を築いていた。 ある意味でアダーは、真太郎にとって『勇者ゲーム』の中で最も親しいプレイヤーだと言えるのだ。


「まぁ、仲はいーと思うよ。家に泊めて貰った事もあるし」

「そんなに仲がいいのならば、何を怖がっているのでござるか?」

 そこまで親密な相手に真太郎が何を怖がっているのかが、まったく理解できないイナバと刹那が小首を傾げる。 

「二人は、リアルのアダーを知らないからそんな事が言えるんだよ。俺が初めてリアルにアダーと会った時……奴は三人のヤクザを素手で半殺しにしていた」

「「ふぁっ!?」」

 耳を疑う様な事を真太郎が真顔で言うなり、イナバと刹那が変な声を出した。


 そうこうしているうちに、『酔いどれドラゴン』の中から、一人の人物が颯爽と姿を現した。

「真太郎っ!」

 その人物は真太郎に気付いた瞬間、嬉しそうに微笑んで手を振った。

「ひぃ! 出たアダーだっ!」

 アダーの良く響くアルトボイスを聞いた瞬間、真太郎が鬼にでも出会ったかの様なゲドゲドの恐怖面を作る。

「はわわ、見つかってしまった。もう逃げられない……!」

 何故か真太郎は、アダーに死ぬほどビビっている。


「よく来たね、真太郎」

 だが、当のアダーは鬼とは程遠い柔和な顔をしていた。

 スラリとしたモデルの様な長身、風になびくショートカットの銀髪、涼しげな目元、すっと通った鼻筋、にこやかに微笑みを浮かべる唇。そして、真紅のドレスシャツの上に銀狐のファー付きの黒いロングコートを羽織ったその姿は、ゲームの世界の住人というよりも、ファッション雑誌の世界の住人といった方が的確だった。

 こんな美しい人間が存在していいのか、という程見目麗しいアダーが、広告でしか見た事が無い様な爽やかな笑顔を浮かべて、真太郎に近寄って来る。

「やぁ、久しぶりだね。まさか、このこの世界でもキミに会えるとは、思わなかったよ。実に素敵だ」

 一見、美し過ぎる故に近づきがたいオーラを放つアダーだったが、その態度はどこまでもフランクで人懐っこいものだった。


「あ、ああ……うん。そ、そーだね」

 怯える真太郎が、両手を広げて歓迎してくれているアダーに対して、しどろもどろに返事をする。

 すると、アダーが柳眉を寄せた。

「どうしたんだい? 元気がないじゃあないか? しかし、この世界では大抵の人が、ゲームの影響を受けて美化されると思っていたのだけれど……キミは『まんま』だね」

 ゲームだけでなく、リアルでも顔見知りのアダーだからこそ言える台詞だった。


「そっちこそまんまだよ。ゲームの世界でも、お美しくて何よりです」

「おいおい、なんだい? その他人行儀なワザとらしいお世辞は?」

「お世辞なんかじゃないよ。逢えない時間が愛を育てたりそうじゃなかったりしたのか、今日は一段とアダーが輝いて見えるんだよ」

 やましい事を隠すかのようにお世辞を言い続ける真太郎を、アダーが怪しむ。

「真太郎が見え透いたお世辞を言う時は、ボクに怒られたくない時だよね? キミは、ボクが何か怒るような事をしたのかい……?」

 真太郎の姿からよからぬものを察知したアダーが、何でもお見通しとばかりに彼を問い詰める。


 そんなアダーの様子を真太郎の後ろで見ていた刹那とみこが、ヒソヒソ話をする。

「イ……イケメンだ……!」

 こまっしゃくれているとはいえ、刹那も一応は女の端くれ。アダーのイケメンぶりに思わず胸をときめかせた。

「ひゃー! スゴイよ、何アレ人間なのっ!? ゲームの美形キャラより美形じゃないっ!」

 こまっしゃくれた刹那でああなのだから、年頃の女の子であるみこに至っては、大はしゃぎせざるを得ないようだった。

「オウフ……! これでもかっていうぐらい物凄いイケメンでござる……!」

 そればかりか、ロリと二次元以外は興味ナッシングなキモオタのイナバですら、アダーのイケメンっぷりに思わず見惚れてしまっている。


「お、おい、バカタロー。その人がギルマスなのか……?」

 頬を微かに赤く染める刹那が、そわそわしながら真太郎に尋ねる。

 すると、真太郎がしめたとばかりに話題を変えた。

「そうだよ。この人が、俺達のギルド『名無しのギルド』のギルマスのアダーだよ」

 真太郎が紹介するなり、アダーが刹那の存在に気付く。


「ん? この小さなレディーは誰だい?」

「チュウ。ほら、アダーにご挨拶しなさい」

「えっ!? ああ。俺、じゃなくて! わ、私は……れ、煉獄刹那だっ。あ……あの、よ、よろしくお願いしますっ!」

 普段ならば即座に噛みつく気の荒い刹那だったが、超絶イケメンのアダーを前にしては女の子になってしまうのか、随分としおらしかった。


「これはご丁寧にどうも。しかし、刹那はゲームと違って、女の子だったのかい? ビックリだなぁ。あのやんちゃ坊主が、こんなに可愛い女の子だとは思いもよらなかったよ」

 歯の浮くような台詞をごくごく自然に言い放つアダーに褒められるなり、刹那が恥ずかしそうにもじもじしながら俯いた。

「にへへ。か、可愛いだって……!」

 イケメンアダーに褒められた刹那は、顔を隠す様に巻かれているマフラーの中で、無意識のうちに口がニヤニヤしてしまっている。


「ギ……ギルマスもカッコいいぞ。素敵なイケメンお兄さんだ」

 刹那が慣れない様子で、アダーを褒めた。

 すると次の瞬間、真太郎が顔を恐怖で引きつらせる。

「こら、馬鹿チュウ! アダーはどっからどう見ても、素敵な『お嬢さん』でしょうがっ!」

 真太郎が妙な事を言い出すなり、からかわれたと思った刹那がムッとして眉を寄せる。


「馬鹿はテメーだ。こんなイケメンな女がいるか、死ねっ!」

「アダーはイケメンだけど、イケメンじゃないのっ! イケレディーなんだよっ!」

 口では怒りながらも顔には恐怖を滲ませるという妙な態度の真太郎が、慌てた様子でアダーが女だと訂正する様に刹那に強く迫る。


「こんな女らしいお嬢さんは世界中探したって、どこにもいないだろうがっ!」

「ふざけんな! なんでこのイケメンが女なんだよっ! さっきから、これはなんの悪戯なんだよ、意味分かんねーよっ!」

 刹那が声を荒げるなり、先程から黙っていたアダーが声を押し殺してポツリと呟いた。


「……ボクは女だよ」


「は?」

 どっからどう見てもイケメンなアダーが自分を女だと言うなり、刹那は口をぽかんと開けて呆けた。

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