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第8話 フレンドリストにフレンドはいない

「さっきから何キメェやり取りしてんだよッ!」

 真太郎達の妙な絡みを見てイラついた刹那が、イナバのケツを蹴り飛ばす。

「ごっちゃんです!」

 刹那に蹴られると、条件反射的に礼を言ってしまう脳が可哀想なイナバだった。


 そんな様式美の様なやり取りを終えた後、イナバが気を取り直して少年に声をかける。


「しかし、災難でござったな。さっきの狼藉者は、拙者が退治しておいてあげるでござるよ。勇者が皆、あんな輩ばかりだと思われたら困るでござるからな」

 イナバがキモオタフェイスをキリリとさせて正義漢ぶるなり、少年が顔面を蒼白させて戦慄した。


「うわぁぁぁー! モンスターだッ!」

 イナバの怒涛のキモオタフェイスを見た瞬間、少年が物凄い速さで逃げ出した。

「ござッ!?」

 少年に化け物扱いされたイナバのキモオタスマイルが、一瞬にして凍り付く。


「オ……オウフ……男の子にまでドン引きされたでござるよ。これはもう……笑うしかないでござる。フォカヌポゥ……」

 絶望に支配されたイナバが、スゴイ勢いで遠ざかる少年の背中を泣きながら見つめる。


「やっぱ、ここはゲームの中の世界じゃなくて、別の異世界なんだ。村人を助けたら当たり前のように感謝されるあの優しさに満ちた日々は、もう戻ってこないんや……!」

 非情な現実を前にした真太郎が、イナバにつられて思わず涙ぐむ。


「まぁ、そんな事もあるよね。っていうか、二人とも、いい加減学習したら?」

 流石のみこもいい加減、毎度毎度のこのやり取りには、うんざりして来たようだ。

「ふん、馬鹿共が。いい子ぶるからそんな事になるんだよ」

 ひねくれ者の刹那が、人助けに興じていた真太郎達を「けっ」みたいな感じで嘲る。

 そんな彼女に気付いた真太郎が、呆れ顔で反論する。


「あのねぇ、いい子ぶりたいだけで、厄介事に首突っ込む訳ないでしょ? 俺は、人助けすると同時に調べ事をしてたんだよ」

 真太郎が妙な事を言い出すなり、刹那が訝しげな顔で聞き返す。


「さっきの少年はNPCつか、この世界の現地の人だろ? あの人らにも、『勇ゲー』のシステムが反映されているのかどうか調べてたんだよ」

「ホントかよ?」


「ホントだよ。その証拠に、さっきの少年に俺達と同じ仕様のステータスが表示されていたのを確認したよ。HPは怪我して少し減っていたんだけど、回復してやったらHPの数値が増えたのも確認した。この事から、現地の人にも俺達の魔法は使用できるし、効果もある事が分かったよ。他にも、ゲーム同様にアイテムの売買は、一定の価格が決められているって事もな。さっきの少年、あの大金を前にしても金貨を受け取らなかっただろ?」


「見知らぬ人間にいきなり大金渡されて、受け取る奴がいるかよ」

「おい、しょうもないツッコミを入れるな」

 小生意気なツッコミを入れて来る刹那に、真太郎が舌打ちする。


「つか、俺はあの一瞬で、これだけの事を探っていた訳だが。チュウ、お前は俺に茶々を入れるだけなのか? 何か調べて分かった事とかは無いのか? ひょっとして、俺と少年のやり取りを、ただボーっと見ていただけじゃあないだろうな?」

「……ぐっ!」

 図星を突かれた刹那が、悔しそうな顔で真太郎を睨みつける。


「ったく、使えん奴だ。もっとしっかりしてくれ、だからお前はチュウなんだよ」

「うるせぇーっ!」 

「うるせーじゃないよ。お前の方がうるさいわ、ほんとお前はチュウだわ」

 気に入らない事があるとすぐにキレて誤魔化す刹那に、うんざり顔の真太郎だった。


「はぁ、いつまでも地雷キャラでいられちゃ困るなぁ。中二から高二ぐらいにはレベルアップしてくれよな? それより、現状を確認しよう」

 気持ちを切り替えた真太郎はそう言うと、近くの花壇の縁に腰を下ろした。


「現在、このオリエンスの街は、殺人上等なPKや、NPCに手を上げる傍若無人な方達、そして大多数の絶望君達が、ごった返す無法地帯になっています。その上、街を一歩出ると、奇妙で凶暴でグロテスクなモンスターや、最強レベルの勇者を瞬殺する魔王と愉快な仲間達が、ごくごくふつーに存在しています。そんな危険な場所が、今俺達がいるこの世界だ。所で、チュウ。勇者ゲームの基本的な流れってどうなってたっけ?」

 唐突に話を振られた刹那が、戸惑いつつ答える。


「え、急になんだよ? 敵を倒してレベルを上げたり、アイテムを手に入れたりしながら、色んなイベントをこなして、最後に魔王を倒すみてーな事だろ」

「はい、ありがとう。所で、それを今俺が言った状況下で出来そうですか?」


「……多分、無理」

 無理だと判断した刹那はそう言うと、暗い顔をして黙ってしまった。

「はい、チュウちゃん大正解。これは無理ゲーですっ!」

 真太郎は投げやりに言うと、持っていたサンドイッチに食らいついた。


「冒険する際の本拠地となるホームタウンのここが、こんなに荒れ果てた有様だと、安心して宿屋で休む事すら出来そーにないね。正直、現状は魔王を倒すとか夢のまた夢だよ。うわっ、なにこれ!? めっちゃ味薄いなぁ!」

「だからこそ、『仲間』を集めるんでしょ?」

 みこがそう言うなり、真太郎が『仲間集め』という当初の目的を思い出す。


「あっ、そうだったね。さっきのボケ老人と少年の件のせいで、すっかり忘れてたよ。だけど、肝心の『仲間』は、どうやって集めたらいいんだろう?」

「何を言ってるのさ、シンタローさん! 『チャット』があるでしょ。それで誰か知っている人に連絡を取ればいいんだよ」

 みこの言葉を聞いた真太郎が、ハッとする。


「そうだ、チャットがあったんだっ! そうだそうだ、チャットがあった。いや~、最初に師匠に遭っちゃったせいで、チャット機能の事をすっかり忘れてたよ」

「『会った』のニュアンスが何か違う気がするけど、拙者の気のせいでござるよね?」

 真太郎の言葉に不穏なものを感じたイナバが、目ざとくツッコむ。


「いや~、『知り合いに連絡する』っていう、こういう時に真っ先にやるべき事をすっかり忘れてましたよ、迂闊だなぁ。でも、師匠っていう心強い仲間がいるんだから、他のネトゲ廃人の屑共なんてどーでもよくなって忘れても仕方ないっスよね?」

「やだ、シンタロー殿ったらっ! またそんな事言って拙者をからかう気っ!?」

 真太郎に信頼感に満ちた爽やかな笑みを向けられた瞬間、イナバの中の乙女が戸惑う。


「とはいえ、師匠に出会ったせいで、つい気が大きくなってしまって、出来もしない無謀な事をして死んでしまった訳ですけどね」

「天まで持ち上げた後に思いっきり地面に叩きつけられたでござるのっ!?」

などとしょうもないやり取りをやりつつ真太郎は、すっかり忘れていた『チャット機能』をステータス画面から起動させた。


『チャット機能』は、現在ゲームにアクセスしている知人に連絡を取る為の機能だ。勇者ゲームの『チャット機能』は、音声会話と文字会話の二通りを選択する事が出来るので、コミュ障が多くなりがちなゲーマーも安心の親切機能になっている。


「ゲームでは当たり前の様に、いつでもどこでも、どんなに距離が離れていてもチャットが出来たけど、『この世界』ではどーだろ……? つか、繋がんのか?」

 真太郎はチャット機能を起動させると、慣れた手つきで『フレンドリスト』を呼び出した。


『フレンドリスト』には、真太郎がゲーム中に登録した他プレイヤーの名前とレベル・職業といった簡単なステータスが表示されている。

 名前の欄が白く輝くのは、『ゲームに接続中』であるという事だ。反対に、名前の欄が暗くなっているものは、『ゲームに非接続』という事になる。


(ふ~ん。やっぱゲームとそっくり同じだなぁ。しかし、連絡を取ろうと思ってはみたものの……誰に連絡を取ればいいのか分からないな。相棒の師匠はもういるし、ギルメンのチュウもいる、更には意外と頼りになるみこちゃんまで……)

 誰に連絡するかを悩んだ真太郎が、フレンドリストの欄を流し読みする。

 

 一応、魔王討伐を目指すという共通の目的を持った一団である『攻略組』に所属していた真太郎だったので、ゲームの中には、そこそこ多くの知り合いがいた。


 だが、既にこういう時に一番連絡が取りたい相手である相棒のイナバと合流してしまっているので、誰に連絡を取ればいいのかが思いつかないのだ。

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