第7話 素直な少年と昭和の成金
(ま、死んでも生き返るし、病気になっても回復魔法で何とかなるだろ。それに、この世界の滞在が長期化するとすれば、この世界の食い物に慣れておかないといけないしな)
だが、それよりも空腹と好奇心が優ったらしく、真太郎はハムとチーズを黒パンで挟んだサンドイッチをひょいと掴み上げた。
「これ、おいしそうだね。一つ貰っていいかい?」
真太郎はアイテムバッグに手を突っ込むと、金貨を雑に掴んで少年に手渡した。
「え、ええ、どうぞ……って! こ、こんなにいただけませんっ!」
いきなり両手いっぱいに金貨を受け取った少年が、目を白黒させて戸惑う。
「生憎、持ち合わせがそれだけしかなくてね。お釣りをもらっても邪魔になるから、取っておきたまえ。はっははは!」
八千万も持っているという余裕から、大盤振る舞いをする真太郎だった。
「やる事が、昭和の成金じゃねーかっ!」
刹那がツッコむなり、少年が慌てて金貨を真太郎に突き返した。
「ダメですよ、こんなにもらえません! 値段以上のものは受け取れませんっ!」
「何故だい? とても美味しそうなパンに、俺はこれだけの価値があると思って、その金貨を渡したんだぜ?」
何を思ったか、真太郎が試す様な目つきをしながら少年に語り掛ける。
すると、少年は三枚だけ金貨を取って、真剣な表情で見返して来た。
「いくら俺が貧乏でも、勇者様に施しを受ける訳にはいきません」
(ふむ。これはゲームの仕様通り、アイテムの売り買いは決まった値段でしか出来ない、って事なのかな?)
「別に施したつもりはないのだけれどね。それより、折角お金をあげたんだ、貰ってくれよ。それとこれはお節介だけど、お金は貰える時に貰っておかないと、損するぜ?」
疑問に駆られた真太郎が、少年がゲーム通りの『アイテム売買行為』を貫くのどうかを試してみる。
「止めてください、俺は施しを受けるほど落ちぶれちゃいません。お気持ちだけありがたく受け取っておきます」
少年はそう言って、きっぱり真太郎の誘惑を断った。
(……断った、か。ゲーム通りって事なのかね? でも、なんか「お前から金を貰ったら俺の沽券にかかわるッ!」みたいな台詞なのも気になるなぁ)
色々と調べる事が多いな、と真太郎は小さく呟くと、金貨を九枚だけ残してアイテムバッグにしまった。それから、手元に残した九枚の金貨を少年に手渡す。
「君を侮辱する様な真似をして申し訳ない。そのお詫びと言ってはなんだけど、もう三つ買ってもいいかな?」
「え? ええ、どうぞ」
真太郎が再び親しげな笑みを浮かべた事に一瞬戸惑った少年だったが、直ぐに商売に戻った。
「チュウ、師匠、みこちゃん。さっきの敗戦のお詫びとして、ここは俺がおごりますよ」
そう言って真太郎は、自分と同じハムとチーズの黒パンサンドイッチを三人におごった。
「……パン? これ食えるのか?」
真太郎が手渡してくれた黒パンのサンドイッチを、刹那がしげしげと見つめる。
「おい、チュウ。人からおごって貰ったら、礼ぐらい言えよ」
「ふん。知るか、お前が勝手におごったんだろ」
相変わらず小生意気で礼儀知らずな刹那に、真太郎が舌打ちする。
「チッ、そういう所がチュウなんだよ」
「ありがとう、シンタローさんっ!」
「みこちゃんは、本当に素直な子だねぇ」
元気いっぱいにお礼を言うみこは、刹那と違ってやはりいい子だった。
「じゃ、お世話様」
あまり長居しても仕方がないと思った真太郎が、少年に礼を言ってその場を立ち去ろうとする。
「お買い上げありがとうございます!」
すると、少年が引き留める様に真太郎に声をかけ、ぺこりとお辞儀をした。
「あ、あのっ! 怪我を治してくれて、ありがとうございましたっ!」
「気にしなくていいよ。勇者として当然の事をしただけさ」
少年に無垢な笑顔を向けられてちょっと照れてしまった真太郎が、照れ隠しにカッコつけて言う。
「シンタロー殿っ!」
それと入れ替わりで、先程からずっと黙っていたイナバが真太郎に話しかけた。
「あ、師匠の分のサンドイッチを渡すの忘れてました。はい、どうぞ」
真太郎はイナバにサンドイッチを渡すのを忘れていた事を思い出すと、手に持っていたサンドイッチを彼に手渡した。
「え? あ、ありがとうでござる。って、違うでござるよっ!」
何を思ったか、急にイナバが荒ぶった。
「え? 何んスか? 急にどうしました?」
「どうもこうも、見損なったござるよ! あの少年に怪我をさせた狼藉者達を放置して、少年に金を渡して解決するなんて、何を考えているでござるか!」
「何って、金で解決出来る事は金で解決しよう、って考えただけですよ」
「んなっ!? 穢れているでござるっ! 成金思想でござるっ!」
成金的発言をした真太郎を、イナバが指を差して非難する。
「穢れているってのは、失敬ですねぇ。師匠は、正義のお侍様だから、悪・即・斬なのかもしれないですけど、あいつらを斬った所でなんも解決しないじゃないですか?」
イナバに言いがかりを付けられた真太郎が、諭すように彼に語り掛ける。
「いいですか? 無銭飲食して暴力行為まで働いた奴らは、確かにお仕置きが必要な悪人でしょう。しかし、奴らを始末した所で、この少年の損失が埋まる訳じゃあないんです。勿論、怪我も治りません。それになにより、街中じゃPKは出来ないんですよ? 俺達が、あの少年にしてあげられる事は、魔法で怪我を治してあげる事と、タダ食いされた分の損失を埋めてあげる事位なんですよ。金で解決するとはそういう意味です」
冷静に真太郎に諭されたイナバは、彼の話を理解すると、小さく頷いた。
「……確かに、そうでござるな。シンタロー殿の言う通りござる」
「分かって頂けて何よりです」
「拙者、非道な行いを目にして、つい頭に血が上ってしまった様でござる。先程の無礼を許してほしいでござるよ」
真太郎の真意を知ったイナバが、素直に己の非を認めて謝る。
「気にしないでください、俺も師匠と気持ちは同じです。ここがフィールドだったら、あいつらをぶっ飛ばしていましたよ」
「やだ! 拙者ったら、シンタロー殿が同じ気持ちだったのにも関わらず、とんだ勘違いをしてしまったでござるよっ!」
「それに、師匠のそういう熱血漢な所、嫌いじゃないですよ」
「デュフ! シンタロー殿の真意も知らず罵声を浴びせた拙者を責めるどころか、逆に褒めるなんてどういう事なのっ! そんなに拙者を褒めてどうするつもりでござるのぉっ!?」
真太郎の掴み所の無い言動に、初心な乙女の様に翻弄させられてしまうイナバであった。




