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第6話 見知った街の変わってしまった風景

「ここはオリエンスの街じゃよ」

「ジジイ、まだいたのか。もうどっか行けよっ!」

 刹那はジジイを追い払うと、おもむろに真太郎に話を振った。


「で、厄介なジジイ共を追い払った訳だが、次はどうするんだ?」

刹那に促された真太郎が、何気なくオリエンスの街を一望する。

「そーだなぁ。どーしたもんかねぇ~……」

 眼前に広がる街は、真太郎が覚えている通りの『オリエンスの街』だ。

つまり、寸分たがわず『勇者ゲーム』に出て来る『オリエンスの街』と一緒という事になる。

 

 規則正しく綺麗に敷き詰められたレンガ造りの大通り。いかにもRPGに出て来るような中世ヨーロッパ風の華やかな建築が建ち並ぶ街並み。そして、外からの侵入者から街を守っている強固な城壁――ここは、『勇者ゲーム』の三大都市の一つ『東の都・オリエンス』である。

 ここは、『勇者ゲーム』の東日本サーバーの中心都市だ。東日本在住の多くのプレイヤーが、この街を拠点としている。その証拠に、オリエンスの街の至る所で、プレイヤーと思わしき人間の姿を確認できた。


「思ってたよりも、結構人いるなぁ。これは、もっと早く街に来るべきだったかな?」 

 真太郎がプレイヤーらしき人間を見ると、視界の隅に自動的に簡易ステータスが表示されていった。

 もしかしたら知り合いがいるかも、と思って注意深く見回してみる。

しかし残念ながら、知った名前を発見する事は出来なかった。


「人はいっぱいいるが、知り合いはいない……か。どっちでも同じだったな」

(プレイヤの総アカウント数が、全世界で330万とかで、アクティブが180万ちょいだったかな? で、日本のは十万前後がアクティブユーザーだったけか。単純に三大サーバーで三分割すると、この街だけで三万人ちょいはいる計算になるのか)

 真太郎は、なんとなくこの街にいる人間の数を予想しながら街を眺めた。


 街にいるプレイヤー達はその殆どが、目鼻立ちが整っている美形か、逆に思いっきり個性的かのどちらかで、普通の凡庸な見た目や、目に見えて不細工な人間が少ない様に見えた。

 だがこれは、ある意味で当然であった。

 というのも、『勇者ゲーム』は、キャラクターメイキングに非常に力を入れており、自分キャラの造形を頭のてっぺんから足の先に至るまで詳細に作り込む事が出来るのだから。


『勇者ゲーム』のキャラクターメイキングは、名前、性別、職業といった基本的な事から始まり、身長と体重、顔や体の造形は勿論、髪の毛の長さや量、瞳の色や形、手足の長さ、果ては爪や黒子に至るまで事細かに創作する事が出来る。

 この異常に作り込めるキャラクターメイキングシステムのおかげで、一週間もかけてキャラクターを作り込み、何時まで経ってもゲームがスタート出来ないプレイヤーも数多くいる始末だ。

 とはいえ、キャラクターの外観によって操作性が変わったり、レベルアップやスキル習得に差が出る事は無かったので、真太郎の様にものぐさなプレイヤーは、割と適当に決めている者が多かったりもする。


(こんな事になるんだったら、もっとしっかり作り込んでおくべきだったな)

 カッコイイ鎧を着こんだ騎士風の美男子や、魔法使いの様な衣服を身につけた美女をぼーっと眺めながら、なんとなくキャラメイクで不精した事を後悔する真太郎だった。


「しっかし、冷静になってよく見ると、皆スゲー格好してるなぁ」

「『勇者ゲーム』は基本的に、剣と魔法の世界をモチーフにしているから、現実離れした格好をしていて当然でござるよ」

 などとのたまうイナバは、ある意味で一番現実離れした見た目をしていた。

(落ち武者みたいな見た目の絶世のキモオタと一緒にいたせいで、この世界が剣と魔法の世界だって事をすっかり忘れてたな……)


「ああいう『いかにもな見た目』の人達を見ると、ここが勇者ゲームの世界だと思わずにはいられないですよねぇ」

 慣れ親しんだゲームの世界に実際の体と意識もって存在している、という奇妙過ぎる感覚は、真太郎のみならず多くのプレイヤーも感じているのだろう。街いく人たちは、なんだか皆、浮足立ったかのようにそわそわしている。

 そんな人々を真太郎と一緒に眺めていた刹那が、顔を隠すマフラー越しにぽつりと呟いた。


「相変わらず辛気臭せー街だな。どいつもこいつも、死んだ魚の目をしてやがるぜ」

 刹那の言う通り、街の人々の顔は、どこか精彩を欠いていた。

皆、ゲームの世界に訳も分からず転移させられた、という現実が受け入れられない様子で、打ちひしがれている者多数。絶望しきった顔で俯き続ける者多数。その他、自暴自棄になって現地民に対して乱暴狼藉を働いている者まで見受けられる。


「……なんつーか、末期的だな」

(こんな状況じゃ、PKみたいな連中が出て来ても全然おかしくねーな、むしろ出てこない方がおかしいレベルだ。これ、一歩間違えば暴動とか起きるんじゃねーの?)

「……早い時期に身の守りを固めないと、ヤバい事に巻き込まれそうだ」

 今にも爆発しそうなネガティブなオーラに満ち溢れた街を見た真太郎は、行動を起こすのならば急がないといけない、と危機感を覚えた。

すると、突然近くの屋台で喧嘩が始まった。


「勇者様、お金を払っていただかないと困りますよっ!」

「はぁ? こんなもんに金なんて払らえるかっ!」

「NPC風情が、勇者様に対等な口を利くんじゃねーよっ!」

 明らかに勇者ゲームのプレイヤーだと思われる男達が、現地民の屋台の店主らしき少年と揉めている。


「こんなクソマズいパンで金取ろうなんて、おこがましーんだよっ!」

「むしろ勇者様に食ってもらえるだけでも、ありがたいと思えよなっ!」

 プレイヤー達はそう言って店主の少年を蹴り飛ばすと、馬鹿笑いしながらその場を立ち去ってしまった。


「ははっ! おいおい、い~具合にすさんでるなぁ。どーりで、さっきの女の子が、俺達『勇者様』にビビる訳だよ」

 分かりやすく「悪」を体現しているプレイヤー達を見た真太郎が、思わず失笑する。

「……あいつら、子供相手になんてことをっ!」

 分かりやすい小悪党っぷりに笑ってしまう真太郎と対照的に、イナバは乱暴狼藉を働くプレイヤー達に怒りを募らせた。

 キモオタフェイスとは裏腹に正義感に溢れるイナバが、腰に下げている刀を握り直す。先だってPKアキトを喝破した様に、彼らに注意でもしに行くつもりなのだろう。


 剣呑な顔でイナバが一歩踏み出すなり、真太郎が直ぐにそれを止めた。

「放っときましょう。アホを見つける度にいちいち始末していたら、埒が明きませんよ」

「何を言っているのでござるかっ!? 正気でござるのか、シンタロー殿?」

「正気ですよ。街じゃPKは出来ませんからね」

 真太郎は言いたい事だけ言うと、イナバとの話を打ち切って、屋台の店主に声をかけた。


「いや~、災難でしたね。大丈夫でした?」

 親しみのある声を出しながら店主の少年に近づいた真太郎が、彼に手を差し出す。

 最初は何をされているのか、分からない様な顔をした少年だったが、真太郎に敵意が無いと分かると、彼の手を取ってゆっくりと立ち上がった。


「……大丈夫です」

 少年は感情を押し殺した顔でそう言うと、体についた土ぼこりを手で払った。

 明らかに自分達と距離を取っている態度の少年を観察するように眺めていた真太郎が、不意に彼の膝の怪我に気付いた。

 気付くなり、慣れた手つきで回復魔法を使う。

「大丈夫じゃないでしょ、怪我してるじゃん。ヒールライトっと」

 

 真太郎が魔法を唱えるなり、少年の体を柔らかな光が包み込んだ。

すると、見る見るうちに、擦り剥いて血が出ていた少年の膝小僧の怪我が治っていく。

「えっ!?」

 怪我が一瞬で治った事と、怪我を治してくれた事の両方に少年が驚き、次いで戸惑う。


 真太郎は少年の怪我が治ったのを確認すると、彼の屋台を覗いた。屋台は手作りの粗末なリヤカーみたいなもので、中には焼きたてのパンとハムやチーズ、ジャムなどが並んでいる。焼きたてのパンの香ばしい匂いが鼻をくすぐると、自然と腹の虫が鳴いた。


「そーいえば、こっちに来てから何も食べてなかったな」

(この世界のものって食えるのかな? さっきの奴らは平気で食ってたけど……。ああ、でも、こんなもんに金払えるか、とか言ってたからマズいのかな?)

 焼きたてのパンに食欲を刺激されつつも、異世界の食べ物には若干の警戒心と恐怖を覚える真太郎だった。


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