第4話 NPCとの第三種接近遭遇
「よく考えると、たった三人で魔王に挑んだのは、完全なる間違いでしたね。そもそも魔王は、三大戦闘ギルドと攻略組のトッププレイヤーをまとめた『魔王討伐軍』で挑んで、十三時間の激闘の末、なんとか勝ったってレベルなんだから、どう考えても、四人だけでフラッと行って倒す、なんて無理だったんスよねぇ~」
「えっ!? い……今更、気付いたのでござるか?」
「それに、回復と補助を俺一人でやるのは、キツ過ぎます。魔王に挑むのならばせめて、『名無しのギルド』の連中を全員集めるべきでしたね。アダーとジェニファー姐さんはいなくてもいいけど、ヴァンとさくにゃんの殲滅力が無いのは痛すぎた」
真太郎が、かつて所属していたギルドの事を口にする。
「いや、今必要なのは、ヴァンとさくにゃんの戦闘力ではなく、むしろアダー殿とジェニファー殿の知力でござる」
「……魔王を倒すにはヴァン達だが、今の魔王を倒す為の準備をする状況的には、そーなるのか。ま、いずれにせよ、仲間をもっと集めないとダメって事ですな」
「左様でござる」
「なんだか、急にゲームらしくなって来たねっ!」
魔王討伐の為に仲間を集める事にした真太郎とイナバ、そしてみこが、輪廻の神殿から間の抜けた会話をしながら出て来る。
「おい、待てよ! バカタローっ!」
普通に放置されていた刹那が、首に巻いた長いマフラーをたなびかせながら猫の様にたたたっと駆け寄って来る。
「なんだ、チュウいたのか?」
「いたよっ! さっきまで普通に話してたじゃねーかっ!」
「俺達は、これから魔王をぶっ殺しに行くから、お前はあの廃屋で留守番してな」
先ほどの文句のつけようから、戦いにはもう懲りて戦線を離脱すると思われた刹那を巣に帰るように言いつける真太郎だった。
「はぁ!? なんだよそれ、俺も行くぞっ!」
だが、真太郎の思惑をよそに、刹那は意外な事を言い出した。
「来なくていいよ。どうせ、ちょっと上手くいかなかっただけで、さっきみたいに文句言うんだろ?」
「当たり前だろっ! 俺は、お前の暴走に巻き込まれて、死んだんだからなっ!」
「ふざけんな。死んだのは、雑魚過ぎる癖に調子に乗ったお前の自己責任だ。俺達について来るつもりなら、死んでも文句言うなよな」
言い争いが面倒になって来た真太郎が適当にそう言うなり、刹那がふんと鼻を鳴らした。
「おい、勘違いしてんじゃねーぞ。パーティーのHP管理は、回復職のオメーの仕事だろが。死んだら文句言うに決まってんじゃねーか」
てっきり、無謀にも魔王に挑んで死んだ事をなじられているとばかり思っていた真太郎は、刹那の言葉を聞いてハッとする。
「……成程。チュウは俺の無策ではなく、俺の職務放棄に対して文句を言っていたのか。……そうか、そういう考えはなかったな」
「なんでだよっ!? パーティーはチームワークが大事、みたいな事言ってた癖に忘れんなよっ! お前は回復職だろ、何があっても『仲間』を回復しろよな!」
悪態をつく刹那だったが、真太郎をこの世界で共に戦う仲間だと思っているからこそ、彼女は計画の無策をなじるのではなく、戦闘での無策をなじるのだ。
「あの時、お前が直ぐに皆に蘇生魔法をかけてれば、魔王共を殺せてたんだぞっ! 『次から』はしっかり回復役を務めろよなっ!」
そして、一緒に魔王を退治する仲間だと思っているからこそ、今後の為の注意をするのだ。刹那もまた、死線を越えた事で、真太郎を本当の意味で仲間だと認めたのだった。
「……言われてみれば、確かにそうだな。『次から』は気を付けよう」
なんとなく刹那の気持ちを察した真太郎は、彼女の気持ちを汲むことにした。
「だが、蘇生して戦闘を続けていたとしても、勝てる見込みはなかったと思うよ。つか、下手に戦闘が長引いてたら、生きたままとっ捕まっていたかもしんない。そうなっていた場合、完全なる生き地獄だ。あの場は死んで正解だったんだよ」
真太郎がそんな事を言うなり、刹那はあの時の事を思い出して、恐怖のあまり言葉を詰まらせた。
「……死んだからこそ、無事に戻ってこれた、って事か……?」
「そう考えた方が、俺もお前も幸せになれると思うよ。いずれにせよ、勝ち負けは脇に置いておいて、こうして二人とも無事でいる事を喜ぶべきなんじゃない?」
(しかし、味方が死んだぐらいで泡食って、回復に気が回らなかったのは失態だな……。つか、魔王達の『ヤバさ』に気圧されて、冷静さが一瞬で吹き飛ぶとは思わなかった。……やっぱ、『デカくて怖くてヤバい奴』と戦って『この世界の戦闘』に慣れないとダメだな。戦闘の恐怖が薄い雑魚といくら戦っても、得られるものはもはや何もないもんな)
真太郎は、刹那の相手をしながら、今後の事に思いを巡らす。
「この世界では、戦闘経験の蓄積の有無が、生死に直結すると考えた方がいいな。よし! 次は、レベル上げがてら、ドラゴン退治ぐらいからのんびりやっていくか。な、チュウ?」
「のんびり出来ねーよっ! 今さっき、暴走に俺を巻き込むなっつったばかりだろっ! しょーもねー事言うんじゃねーよっ!」
真太郎がまた馬鹿な事を言い出した瞬間、刹那が小動物の様に荒ぶった。
「師匠は、どう思います?」
だが、真太郎は、小生意気に反抗ばかりする刹那の話など聞いてはいなかった。
「いきなりドラゴンは、また全滅してしまうのがオチでござるよ。まずは、ダイヤウルフ、ブラッドベアとかの大型獣を倒せるぐらい戦闘経験を積み、次にオークとかコボルトとかの知恵があって道具を使う中型モンスター倒し――」
「次は前哨戦としてのワイバーン、その次にやっとドラゴンみたいに段階を踏んでいくべきだよ。この世界が『勇者ゲーム』の仕組みで動いている世界なら、ゲームと同じ様に攻略していくのが、ベストなんじゃないのかな?」
負けの経験から冷静に事を運ぶ事を覚えたイナバとみこが、理にかなったアドバイスを真太郎にする。
「成程。流石師匠とみこちゃん、慧眼ですね」
「普通に考えて馬鹿でも分かるだろっ! あ、お前はバカタローだったか」
刹那が真太郎を馬鹿にすると、不意に妙な老人が真太郎達の前を横切った。
老人を見た瞬間、刹那が何かに気付いて「あっ」と声を上げる。
「こいつ、いつも門の所にいて、話しかけると街の名前を言ってくるジジイじゃね?」
「街に入ろうとすると、門の所でいつもぶつかって来て邪魔になるジジイか?」
刹那の指摘で、真太郎は目の前の老人が、ゲームのNPCキャラにそっくりだという事に気付いた。
『勇者ゲーム』には、プレイヤーでないキャラクターも当然沢山いて、彼らはゲームシステム的にNPCと呼ばれている。
彼らNPCは、村人や王様などの役割設定通りに振舞ってプレイヤーに情報をくれたり、ストーリーを進行させたりする役目の他に、武器防具屋やアイテム屋として様々な物を売っていたり、勇者ギルドや職業斡旋所の様な各種サービス施設で働いている有益で無害な存在だ。
そんな彼らNPCは、『勇者ゲーム』の高精細な描画エンジンと高性能AIにより、リアルの人間そっくりの見た目で、実際の人間に非常に近い挙動をする。
だが、それでも所詮はゲームのキャラクターであり、本物の人間とは程遠い。
「おいおい、このジジイ。俺達『プレイヤー』と同じぐらい、リアルじゃねーか……?」
目の前の老人は、ゲームの登場人物であるNPCとは思えない程に、現実感のある『人間』だった。その上、味のある仕草や表情までして、本当に人間にそっくりだ。
(なんだ、このNPC……人間そっくり。つか、完全に人間じゃねーか)
この世界に来てから、プレイヤー以外の『人間的存在』を見た事が無かった真太郎が、物珍しさに駆られて老人を観察しようと身を乗り出す。
すると老人の顔の横に、自分達と同じ様な簡易ステータスが表示された。
『種族・人間 / 性別・男 / 種別・村人』
(ステが表示された? ……ってことは、このジイさんは、『勇ゲー風異世界』のプレイヤーなのか? いや、種別・村人って書いてあるから、NPCになるのか? それともこの世界の現地民? う~む、分からん。本人に直接聞いてみるか)
ただならぬ疑問が湧くなり、真太郎は即座に行動を起こした。
「ねぇ、おじいさん。一つお尋ねしたい事があるのですが、質問してよろしいですか?」
老いぼれたジジイとはいえ、何をしでかしてくるかは未知数だった為、丁寧に接して様子を見る真太郎だった。
思いついたらすぐに行動する癖は直ってはいなかったが、前回の迂闊な行いから、慎重に行く事を学んだのだろう。
「ここはオリエンスの街じゃよ」
真太郎の問いかけに対しての老人の答えは、質問に対しての答えではなかった。
最初は、聞き間違いか、あるいはボケているのか、と思った真太郎だったが、直ぐに老人の発した言葉の真の意味に気付く。
「ゲームとそっくり同じ台詞じゃねーかッ!」
それは、ゲームで老人そっくりのキャラが、必ずしゃべる台詞だったのだ。




