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第1話 復活! そして、リスタート! 

 体が紅蓮の炎に包まれた瞬間、目も眩まんばかりの閃光に包まれた。


 そして気が付けば、荒しの中に放り込まれたかの様な、ものすごい衝撃に襲われた。体が引き千切られる様な感覚に蝕まれた後、突然、全てが暗闇に包まれる。

 そして、そのまま天に昇る様な浮遊感に包まれ、暗黒の中を漂った。


 しばらくすると、視界が激しくスパークする。

 万華鏡の中にいるかの様な奇妙な錯覚に襲われるなり、真太郎の意識がブツリと途切れて消えた――。


 意識が戻った時に最初に知覚したのは、懐かしい声だった。


「うおぉぉぉー! シンタロー殿ぉぉぉーっ!」

「さっさと起きやがれっ! このバカタローッ!」

「シンタローさん! 起きてよ! ねぇ、起きてっ!」


 騒がしくがなり立てる声に覚醒させられて、次に感じたのは光。

 光を感じると同時に、急速に意識が戻ってくる。


「がはッ!」

 意識が戻って来るなり、真太郎は思いっきり咽た。

 というよりも、呼吸をしようとして失敗したという感じだった。

 

 二、三回咽ると、意識が明瞭さを帯びてくる。

 深呼吸をすると、途切れた意識が完全に結合し、魔王城で自爆した直前の記憶と繋がった。


「……俺は、死んだのか?」

 深呼吸をする事で何とか落ち着きを取り戻した真太郎に、先に生き返っていたイナバが感極まって抱き付く。

「生き返らないのかと思って心配していたでござるよ! ジンダロウ殿ぉぉぉーっ!」


「うわっ! キッショ!」

「ござァーっ!」

 ハイテンションのイナバの溢れんばかりのキモオタさに恐怖を感じた真太郎が、本能的に彼を思いっきり蹴飛ばす。


「シンタロー殿! 何をするのでござるかーっ!?」

「あ、すいません。死んだばかりで混乱してて」

 荒ぶるイナバに謝りながら、真太郎は復活を確かめる様に、自分の体を手で触った。


(……触れた。つか、師匠を蹴れた。ってことは、自爆して死んだけど、ゲームのシステム通り、俺は生き返ったって事でいいのか?)

 つい数十秒ほど前に、自爆して死んだはずの自分の体に触れる事が出来た事に、真太郎が俄かに驚く。

 その事実を確かめるように、今度は手を開いたり閉じたりした。


(……死ぬ前と同じ様に思い通りに動く。自爆したはずなのに、ちょっとした怪我もない。完全な五体満足だ。マジでこの世界は、死んでも復活するのか?)


「これは夢ではないでござるよ。だって、シンタロー殿は、『生き返った』のでござるからな」

 先に生き返っていたイナバが、真太郎の考えを補足する様な事を言った。

 二回も死んでいる人間が言うと、妙に説得力がある。

「やっぱり、この状況は、死んで生き返ったって事なんですね……」

 真太郎は自分に言い聞かせるように言いながら、辺りをぐるりと見回した。


 見えるのは、神秘的な雰囲気を感じる石造りの神殿だ。 

 一瞬にして、ここがどこか理解出来る――ここは、『輪廻の神殿』だ。

 ゲームでは久しく見ていなかったが、初心者の頃は何度もここで復活していた事から、『輪廻の神殿』の景色には、奇妙な懐かしさを感じる。 


「そうだよ、お前は生き返ったんだよっ! バカタローは何時まで経っても復活しないから、死んだかと思ったぞっ!」

 不思議な郷愁に任せて輪廻の神殿を眺めていたら、刹那がちょっと拗ねた様な顔で声をかけて来た。


「死んだよ?」

「そうだけど! そうじゃねーんだよっ!」

 刹那が真太郎の言葉を否定する。

 だが、真太郎は意味が分からない。

 真太郎が眉をひそめるなり、みこが補足してくれた。


「骸骨お化けにやられた皆が、無事復活した後、シンタローさんもすぐにここで復活すると思ったのに、いつまで経っても復活しなかったから、皆心配してたんだよ」

 みこの補足で、刹那が言わんとしていた事が理解出来た。


「ああ、それは多分、俺が戦ってたからじゃないかな?」

「「はぁ?」」

 何気なく真太郎が言うなり、イナバと刹那が何を言っているのか分からない、といった顔をする。


「はぁ? じゃないよ。俺は師匠とチュウが殺されて、みこちゃんを逃がした後も、一人で魔王達と戦ってたから、二人より復活が遅れたんだと思う、って言ったの。ちゃんと人の話を聞きなさいよ」

「「はぁ!?」」

 ようやく真太郎の言葉の意味を理解した刹那とイナバが、露骨に驚愕する。


「ほほぅ。二人一緒に驚くなんて、俺がいない間に随分仲良くなったみたいですね」

「うるせー、からかうんじゃねーよっ!」

「そんな事より、事情を話してほしいでござるよっ!」 

 刹那とイナバにせっつかれた真太郎は、先程の戦闘の顛末を二人に話して聞かせた。


「――と言う訳で、俺は命と引き換えに自爆して、魔王を爆死させたって訳ですな」

 適当な話し方とは裏腹に壮絶な死闘を演じていた真太郎の話を聞き終わった瞬間、イナバと刹那とみこが揃って戦慄する。


「ガ……ガクブル的展開でござる……!」

「お前、マジかよ……!? なんであんな怖い奴ら相手に、普通に戦ってんだよ……っ!」

「しかも、最後は自爆で敵を道連れにしてやろうとか、普通そんな事考えないよ。シンタローさんってば、無茶苦茶だよっ!」

「つか、それ以前に、俺達を瞬殺する様な化け物相手に戦いを挑むなんて、バカタローは正気じゃねーよ……っ! やっぱ、お前、サイコ野郎だわ……!」

 何故か知らないが、刹那にサイコパス扱いされる哀れな真太郎だった。


「なんだその言い方はっ!? 俺は、お前らの仇を取ってやろうと死ぬ気で頑張ったんだぞっ! それなのに、人を狂人みたいに言いやがって、失敬だぞっ!」

「馬鹿野郎っ! 無茶すんなよ、大人しく死ねよっ!」

 命を懸けて仇討ちをしてやったのに、何故か刹那に口汚く罵られた真太郎だった。

「はぁ!? 仇討ちしてやったのに、なんでそんな事言われなきゃ――」

 言い返した真太郎が刹那の顔を見ると、その瞳には薄っすらと涙が浮かんでいた。


「……チュウ、泣いてるの?」

「ハ、ハァ!? 泣いてねーよっ!」

 刹那は強い語気でそう言った後、ごしごしと目をこすってから、すぐに言い直した。

「いや、泣いてるよっ! お前が死んで、みこが来るまで、キモオタと二人っきりだったんだぞ! そりゃ泣きたくもなるわっ!」

 本当は、ずっと帰ってこない真太郎が無事に帰って来た事で、思わず嬉し泣きしていた刹那だった。だが、例によって強がって悪ぶってしまっている。


「ござ酷すっ!」

 それを知っているイナバは、あえてどけて見せる事で刹那の気持ちをくんでやった。

「せっちゃんは、口が悪いでござるなぁ。シンタロー殿の帰りを心配して待っていたあの女の子らしいしおらしさは、どこへ行ったのでござろう?」

「うっせーぞ、キモオタ! しょうもねー事言ってると、蹴り飛ばすぞっ!」

 ゲームでは長い時間を共に過ごした仲とはいえ、リアルでは赤の他人である真太郎の事を、イナバと刹那は本気で心配してくれていたらしい。

 そんなイナバと刹那の気持ちを知った真太郎は、思わず素で嬉しくなってしまった。


「……どうやら、俺ってやつは、リアルでは友人に恵まれなかったけど、ゲームではいい仲間に恵まれたみたいだね」

 真太郎は少し照れくさそうに言うと、復活したばかりで寝起きの様に重い体を無理して起こして立ち上がった。

 そしてすぐさま、三人に向かって土下座をした。


「すまんっ! 完全に失策だった! あんまりにも自分達が強すぎて、勘違いしていた! 勝ち戦が続いたせいで、チートで無双とか馬鹿な事を思ってたっ! そのせいで皆を死なせちまったっ! 本当にすまないっ!」

「お、おい、バカタロー。急にどうした?」

 突然、土下座をして謝り出した真太郎に、刹那がビックリする。


「俺の失策のせいで、師匠とチュウを死なせてしまったっ! 俺がもっと慎重だったら、二人は死ななくても済んだのにっ! もう二度と仲間を死なせないっ! だから……だから、俺を許してくれっ!」

 自分の失策で仲間を死なせてしまった自責の念に駆られた真太郎が、思いがけず殊勝な態度を取る。

 そんな彼を見るなり、刹那がふんと鼻を鳴らした。


「おい、バカタロー。テメー、うぬぼれんじゃーぞ! さっきの戦いは、テメー一人のミスでどうこうなるレベルじゃなかった。バカタロー一人で勝敗が決まるとか、ナマ言ってんじゃねーよ!」

 刹那がぶっきらぼうにそう言うなり、イナバが後に続いた。


「せっちゃんの言う通りでござる。相手は、ラスボス。しかも四天王までもが勢揃いでござる。シンタロー殿一人の働きで、どうこう出来る相手ではなかったでござるよ。それに、拙者自らの意志で、魔王に闘いを挑んだのでござるから、今回の敗戦をシンタロー殿が気に病む必要はないでござるよ」  得てせずイナバが、師匠らしい寛大な所を見せる。


「……師匠」

「それに、拙者もせっちゃんも殺されはしたが、恥ずかしい事に瞬殺だった為、痛みすら感じず、気付いたらここで復活していたでござる。だから、殺された実感自体が無いのでござるよ。だから、土下座なんてしなくてもいいでござるよ」

 イナバが話を終えると、みこが慰めるかの様に真太郎の肩に手を置いた。


「失敗の責任を感じて素直に謝ったのは、偉いと思うよ。でも、魔王と戦おうってのは、皆で決めた事だから、シンタローさんだけが、殊更責任を感じる必要も無いんじゃないのかな? それに、シンタローさんは、あたしを逃がしてくれたから、リーダーとしての仕事はしっかりしたんだよ。あたしは、シンタローさんが逃がしてくれなきゃ、あの髑髏のお化けに殺されちゃってたんだからさ」

 みこは真面目な顔でそう言うと、真太郎ぺこりと頭を下げた。


「シンタローさん、助けてくれてありがとう」

 そして頭を上げると、悪戯っぽくにひひっと笑った。

「今回は惨敗だったけど、次はリベンジだぜぃ!」

「……ありがとう、みこちゃん。そう言ってくれると救われるよ」

 みこの優しさと元気さが、今の真太郎にはとても嬉しかった。


「ふん、生意気だけが取り柄のカスの癖にしょうもない事しやがって、頭をあげろ。次に行くぞ」

 そうぶっきらぼうに言う刹那は、彼女なりに真太郎を元気づけてくれているようだった。刹那は、我儘な地雷キャラだが、本当は優しい子なのだ。

 話がひと段落すると、真太郎は大きく息を吐いた。


「しかし、良かった。無事だ、みんなも俺も生きてる! 流石に自爆なんてしちゃったら、本当に死んだと思ったけど、予想通り無事に生き返れた! ゲームのシステムで動いている世界で助かったよ」

 真太郎は大きく深呼吸をして生き返った事を喜ぶと、次いで再び体の無事を確かめた。

 手も足もしっかりと感覚を伴って思い通りに動き、目も見えるし耳も聞こえる。鼻から息を吸えば、香りを含んだ穏やかな空気の匂いも感じることが出来る。

 今までだったら、特に意識する事も無い当たり前の感覚なのだが、死を体験してから生き返った今、この感覚はたまらなく素晴らしいものに思えた。


(これが、生きている実感ってやつかねぇ?)

 そして、なにより素晴らしいのは、太陽の光だ。

 太陽の光が窓からさんさんと差し込む『輪廻の神殿』は、暗く湿っぽく死の臭いが満ちた魔王城とは対極の場所だった。暖かい太陽の光を浴びるという、たったそれだけの事で、死地から生還した事を強く実感できる。


(死んだからこそ、初めて分かる生のありがたさ……か)

 真太郎は死を体験した事で、当たり前に生きている事のありがたさを学ぶことが出来たのかもしれなかった。

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