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幕間1-3 見えざる敵との電脳戦

 課長から申し付けられた捜査中止命令には、到底納得がいかなかった物部は、独自に事件の捜査を続ける為、自宅に帰っていた。


「捜査でずっとオフィスに缶詰だったから、我が家がまるで他人の家に見えるな」 

 どこか他人の物の様な感じがする人気の無い部屋を眺めていたら、不意に随分と前に妻と娘が部屋を出ていった時と同じ様な感覚に襲われた。

「いかんな、相当疲れている……」

 センチメンタルに浸りそうになるなり、物部は顔に軽くビンタをした。


「今は昔の事より、仕事だ」

 物部は仕事の為に家に帰って来た事を思い出すと、おもむろにPCデスクに向かった。


 スリープ状態にしてあるデスクトップパソコンを起動させると、ブーンという静かな起動音が薄暗い部屋に響き渡る。

 PCが起動するなり、物部はデスクトップ画面に鎮座する『勇者ゲーム』のショートカットアイコンをダブルクリックした。 


「『勇者ゲーム』……性別も年齢も、住んでいる場所さえ違う失踪者達を結びつける唯一の接点……そして同時に、彼らと私を繋ぐ唯一の糸だ……!」

 物部は、『勇者ゲーム』のユーザーだった。

 それも、ベータ版時代からの筋金入りのヘビーユーザーだ。

 だが、仕事の都合上、最近はほとんどログインしていなかったが。

(それゆえ、失踪事件に巻き込まれなかったのだから、幸いともいえるな)


 物部は椅子にどっかりと座ってネクタイを緩めると、机の上に置いてあるウイスキーのボトルを無造作に開けた。

「まったく、最も答えに近い手がかりに手を出すのが、ようやく今って、どうなっているんだ?」

 グラスに琥珀色のウイスキーを注ぐ物部が、気怠げな顔で自嘲気味に愚痴を漏らす。


「課長のせいで『勇者ゲーム』に触れられなかったから、今回の捜査中止は災い転じてなんとやらだな。ただ、果たして本当に、ゲームが原因なのか……」

 失踪した娘の事で泡食っていた課長が、捜査の直接指揮を執ってた都合上、直属の部下の物部は、公安の捜査を抜けて独自に勇者ゲームを捜査する事が出来ていなかったのだ。

「――なんだとっ!?」

『勇者ゲーム』を起動させるなり、物部が訝しげな顔で声を荒げた。


 PCモニターに映るのは、すっかり見慣れた『勇者ゲーム』のログイン画面だ。

 しかし、そこに映し出される文字は、驚きに満ちていた。


『このアカウントは存在しません』


「アカウントが存在しないだと! 一体どういう事だっ!?」


 思いがけない事を知らされた物部が声を荒げるなり、その質問に答えるかのように画面の文字が切り替わった。


『勇者ゲームは、現在運営を停止しております。長きに渡るご愛顧、誠にありがとうございました。ご縁があれば、またどこかでお逢いいたしましょう』


「なんだと、いきなり運営停止だと! おい、どういう事だっ!?」

 思わずマウスを連続でクリックするが、勿論反応は梨の礫だ。 


「またか! また手がかりが目の前にあるのに、手が届かないのかっ!」

 この事件の捜査をしてから何度も遭遇した歯がゆい状況に、ここでも遭遇するなり、物部は今までの鬱憤が爆発して思わずキレてしまった。


「この私を舐めるなよっ!」 

 ぶちキレた物部は、もう一台のPCを立ち上げると、九台のマルチモニターを起動させた。

「クソが! ハッキングを仕掛けてやるッ! あの娘達が使っていたC&Cサーバーを拝借して、『勇者ゲーム』のゲームサーバーにアクセスするッ!」


 物部がハッキングを開始するなり、九台のマルチモニターに呪文の様なソースコードが次々と表示されていく。

 キーボードを激しく打ち鳴らしてハッキングを続けていた物部が、突然声を荒げた。 


「サーバーのデータが消滅しただとッ!? 一体、どうなっているんだっ!? 今さっきまで存在していただろうがッ! どういう事だ、私がハッキングしている事を分かっているのかッ⁉」

 物部がマウスを動かそうとするなり、マルチモニターに物凄い勢いでソースコードが表示され始めた。


「逆侵入されているだとッ⁉」

 異変に気付いた物部が対策を取ろうとすると同時に、目の前のPCモニターに文字列が表示された。


『警告! 物部様。不正接続は許可されていません』


「何ィーッ!? 私の存在に気付いているというのかッ!?」

 勇者ゲームの運営にハッキングしている事がバレるどころか、物部の名前までバレている事を知らされるなり、モニターに表示されている文字が変化した。


『物部様、ゲームは終了いたしました。またのご利用お待ちしております』


「知るか! 強行突破させてもらうッ!」


『ゲームは終了しました。ゲームは終了しました。ゲームは終了しました。ゲームは終了しました。ゲームは終了しました。ゲームは終了しましたゲームは終了しました。ゲームは終了しました。ゲームは終了しましたゲームは終了しました。ゲームは終了しました。ゲームは終了しました。ゲームは終了しました――』

 物部が抗おうとするなり、PCモニターに無機質な文字列が猛スピードで表示され始めた。

 

「クソッ! 完全におちょくられているッ!」

 次の瞬間、物部は通信回線のコードを引っこ抜き、予備の通信回線に繋ぎ直した。


「ゲームサーバーはダメだ! 次は、アップデートサーバーだ! 一週間前にアプデがあったばかりだから、まだ生きているだろう……生きていてくれ……!」

 ハッキングの第一弾攻撃が失敗したと判断した物部は、次の標的としてアップデートのデータを管理しているサーバーにハッキングを仕掛けた。

 

 祈るような気持ちでキーボードを操作し、モニターを食い入る様に見つめる。


「よし! まだ生きてたッ!」

 祈りが通じたのか、『勇者ゲーム』のアップデートサーバーにアクセスする事が出来た。 

「ハッキングしている事はバレているからな、逃げられる前にデータを全部抜き出さないと……!」

 早速データの抜き取りを仕掛けようとするなり、物部は『勇者ゲーム』のソースコードを見て思わず息を止めた。


「なんて、美しいんだ……」


『勇者ゲーム』のソースコードは、まるで何かの詩か呪文の様な構文で形作られていた。そして、それは見る者を虜にする美しい旋律を奏でている。

「……ははっ。なんだこのコードは、まるで魔法の呪文の様じゃあないかっ!」

 物部がそう言って笑うなり、PCモニターに『World Transition』との文字が表示された。

「World Transit……? うわっ!」

 それを物部が発見した次の瞬間、PCモニターが強烈な光を発した。


『あたらしい冒険をはじめますか?』

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