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第29話 ゲームオーバー?

「なんだコレッ!? 生き返ったぞッ!?」

 最初こそ、奇跡の復活を果たした事に動揺を隠せなかった真太郎だったが、五秒もしないうちに、アクセサリとして装備していた『紡命の腕輪』のアイテム効果によって蘇生した事に気付いた。


(そうだ。この世界では勇ゲーのシステムが、現実のものとして存在するんだった……!)

 その事に気が付くと同時に、やはりこの世界は夢ではなく、元いた世界とは違う理で動いているもう一つの現実だという事を思い知らされ、胃が痛くなった。


「……ったく、俺は進学もできなきゃ、死ぬ事すら出来ねーのかよ。とんだ落第生だぜ……」

 仲間と同じように死ぬことすら満足に出来ない自分のダメさ加減を茶化して緊張をほぐすと、真太郎はやけに冴えわたる頭をフル回転させた。


(……死ねなかったから、走馬灯を見る集中力が、思考力に転換されたのか?)

 そんな事を思いながら、真太郎は大きく息を吐き、ゆっくりと立ち上がった。

 死んだばかりだからなのか、体が寝起きの様に重く、頭がガンガンと痛む。

(『死の感覚』っていうのは、進んで味わいたいものじゃねーな……)


「オヤオヤ? ワタシ、確かに斬り殺したはずデスガ……これはどういう事でショウ?」

 自分の手で斬り殺したはずの真太郎が生き返った事に驚く不死王が、訝しげな声を出して彼の体をまじまじと見つめる。


(一瞬、『死んだら元の世界に帰れるかも 』とか思ったけど、『フツーに死ぬ可能性』の方が高い感じだな。危ない、危ない。自動蘇生のアイテムを装備してて助かったぜ)

 あまりにもリアル過ぎる『死』の感覚のせいで、ここで死んだ場合、このまま勇者ゲーム風の異世界で死んでしまうのだろう、という思いを強く感じた真太郎だった。


(いや、蘇生アイテムが普通に効果を発動するのだから、死んでも『輪廻の神殿』で復活する、っていうルールも普通に存在していると考えた方がいいな)

 だがすぐに、ゲーム同様に蘇生アイテムの効果が発動されるのであれば、やはりここで死んでも先ほどのイナバの様に『輪廻の神殿』で復活するのかもしれない、と思い改めた。


「おい、骨野郎! 仕留め損ねてんじゃねーぞッ!」

 真太郎の思考を遮って、空気を震わせる怒号を上げたのは、三つ首の獣人――獣人王だ。

 どうやら、不死王が真太郎を殺し損ねた事をあげつらっているようだ。

「五月蠅いデスネェ。ワザと殺さないでおいたんデスヨ」

 不死王が獣人王を軽くあしらうなり、今度は龍帝が口を挟んだ。


「この城にやってくる人間は、みな例外なく『あの女』の刺客じゃ。油断すると痛い目をみるぞよ。かつて、『あの女』とその郎党に、この城を半壊させられたのを忘れた訳ではあるまい?」

「五月蠅いトカゲジジイですネェ。端っこの方で黙ってお茶でも啜っていてくだサイヨ」

 年寄らしいいやらしい愚痴り方でなじって来る龍帝を、シッシッと追い払った不死王は、続いて水晶球の中から身を乗り出したカリプソを指をさす。


「人魚姫は、可愛いお口を閉じててくださいネ。しゃべると泡になって消えちゃいますヨ」

 からかおうと思ったのに不死王に先手を打たれて黙らされたカリプソが、不満げな顔をしてブクブクと泡を出した。

「ふーんだっ!」


「なんですカ、その不満げな顔ハ? そんなにワタシに嫌味が言いたいんでスカ? まったく、本当に嫌な奴らデスヨ」

 不死王はすぐにからかってくる嫌な性格の仲間に愚痴を漏らすと、おもむろに真太郎に視線を戻した。


「しかし、不思議ですネェ。確かに手ごたえはあったノニ……」

 気障ったらしい仕草で近づいてきた不死王が、怯える真太郎の顔を覗き込む。一切の生命の痕跡が感じられない不死王の骸の目に見つめられるだけで、緊張と恐怖で体がガタガタと震えてしまう。

 

 一瞬でも判断を誤れば即座に殺されると本能で解るプレッシャーで、神経が発狂してたちまち心身に不調が起きる。

(クソがッ! いちいち震えんなッ! いい加減に止まれッ!)

 自分の意思とは無関係に恐怖で震える体に気付いた真太郎が、全身に力を込めて無理矢理震えを抑え込む。


(……一回殺されてるんだから、ビビって当然、か。だが、このままやられっぱなしで終われない……! こっちは仲間を二人もぶっ殺されてんだ、タダでは終われないッ!)

 真太郎は、恐怖に支配されていると同時に、怒りにも支配されていた。

 師匠と仰ぐイナバと、生意気な妹の様な刹那という、大事な仲間を殺されたからには黙ってはいられなかったのだ。


 義憤に似た怒りが恐怖を駆逐して全身に広がるなり、頭が冴えて来た。

(多分、戦った所で絶対に勝てない。というか、確実に逆にぶっ殺される……)

 

 ――思えば出来過ぎだった。

 

 ゲームをやっていたらアップデートに伴い勇者ゲーム風の異世界に転移。そこで何故か、気心の知れた仲間との奇蹟的な出会いを果たす。しかも、その異世界では、散々やりこんだゲームのデータが反映されていて最初から無敵なんていう幸運……そんなものは出来過ぎにも程があった。

 何をやっても上手くいかない俺の様なダメ人間に、そんな幸運は絶対に訪れない、訪れるはずがないんだ。


 高校在学中に彼女も出来なければ、腹を割って話せる親友すら出来ず、家庭教師に付きっきりで勉強を教えてもらっていたのにも関わらず、受験に落ちる始末。そんな不幸に愛された俺に、ツキなど最初からなかったんだ。

 この最悪の事態は、いわば当然の結果。大事な仲間を巻き込んで自爆した愚かさのツケを払う為の必然の結末。


(だが、仮に死ぬとしても、自分に出来る全てを全力でやってから死ぬ)

怒りと罪悪感で感情が昂る真太郎は、この土壇場で、通常ならばあるまじき悪あがきを始めた。


(そうじゃなかったら、死んでも死にきれないッ!)

 今までの不運続きの冴えない人生に対する行き場の無い怒り、仲間をむざむざ死なせてしまった自分への怒り、そして、大事な仲間を殺した敵への怒り、という三つの激しい怒りが、この土壇場で真太郎を突き動かした。


「マ、生きているのならば、もう一度殺せばいいだけの事デスネ。仮にもう一度生き返っても、また殺せばイイのデス。その次も、次も、次も、次も……死ぬまで殺せばイイのデス!」

 しかし、そんな小者の決意など、圧倒的強者がもたらす理不尽を前にしては、螳螂の斧にすら劣る。


(……くっ! こいつに攻撃されたら、一発喰らっただけで死んじまうッ! 『紡命の腕輪』の蘇生効果は、一回の戦闘につき一回。もう一度殺されたら、次は蘇生が出来ない……!)

 死を目前にした瞬間、真太郎の脳が奇蹟的な閃きを得る。


(だが、だからこそ有効! 確実に虚を突き、喉笛を噛みちぎれる策っ! 見つけたッ! 全てに逆襲出来る奇策ッ!)

 だが、それは圧倒的奇策。通常であれば、狂気の沙汰。まず選択肢にすら入らない。

 しかし、それは通常であればの話だ。

 この狂った世界においての通常は、元いた世界での異常。

 この世界で正気は、元いた世界での狂気――。


(俺が今やられる最大効果の逆襲手段は、こいつらを道連れに自爆する事ッ!)

 生にしがみつき、死を恐怖していたら、決して閃く事すらない狂人の愚策。

 だが、死んでも復活するこの世界であれば、それは起死回生の奇策に変貌を遂げる。


(必要なのは、アクセサリ『復讐者の首飾り』……!)

『復讐者の首飾り』は、装備者が死ぬと同時に自爆する特殊効果付きの装備品だ。

 先程、自爆しなかったのは、『紡命の腕輪』の蘇生効果が先に発動したせいだろう。真太郎は、常にイナバと行動していたので、彼を巻き込んで自爆しない為に、蘇生効果付きの装備品『紡命の腕輪』を常時装備しているのだ。


 そして、その思いやりがこの場で生きた。

『復讐者の首飾り』だけを装備していたら、先程殺された時に、殺された事すら分からないうちに自爆して終わっていただろう。また『紡命の腕輪』だけ装備していた所で、復活は出来てもその後の逆襲は決して出来なかっただろう。

 また味方が全員先に死んでくれたのも、ある意味ではありがたかった。

 仲間を巻き込んでの自爆なんて、ダサすぎて泣きたくなる。


(……ツキも幸運の女神も俺を見捨てているかもしれない。だが、そんな事は知った事じゃあない。全てから見捨てられたのならば、もう誰も俺の事なんて見ていないんだ……)

 圧倒的な絶望と死に際して怒りと義憤がない交ぜになった真太郎は、一種独特の思考回路を形成しつつあった。


「だったら、誰に構う事無く、思いっきり醜く悪あがきしてやるッ! じゃなかったら、師匠達に顔向けが出来ねーッ!」

 先に死んだ仲間達の為に、自らの命を代償にして敵に逆襲する事を決意した真太郎が、『復讐者の首飾り』を力強く握りしめる。


「おい、そこで居眠りぶっこいてるクソ野郎ッ! と、その他大勢ッ!」

 真太郎が突然大声を出すなり、四天王達が物珍しそうに彼に視線をやった。

「今回は残念ながら俺の完敗だ……。だが、次はぜってー勝つッ!」


「ンン~? お前はさっきから何を言っているのデスカ?」

 気がふれたように見える真太郎を、不死王が骸骨の眼で胡乱げに見つめる。


「予告するぜ、魔王とその仲間達。次は、今よりもっと強くなって、最強の仲間を引き連れてここにやって来る。そして……俺はテメーらをぶっ倒すッ!」

 ここまで言って、真太郎は決め過ぎだな、と自嘲気味に笑った。


 だが、ここまで言ったなら最後まで言い切ってやる。

「俺の名前を憶えとけ! 俺は、シンタロー! 勇者シンタローだッ!」


 すると、先程からずっと王座でまどろんでいた魔王が、不意に目を開いた。

「……五月蠅いな」

 それと同時に、杖を握りしめた真太郎が、魔王の頭に狙いを定めて駆けだした。

「死にやがれ、魔王ーッ!」

 隙を突いた事で一気に魔王の眼前に迫ることが出来た真太郎が、腕を力いっぱい振って杖をフルスイングする。


 しかし、真太郎の杖は、魔王に触れる事はなかった。


 何故ならば、攻撃の直前に魔王の魔法によって、真太郎の体は紅蓮に燃え上がっていたからだ。


「だが……それでいいッ!」

 地獄の業火の様な紅蓮の炎に体を焼かれる真太郎が、不敵にニヤリと笑う。


 刹那、『復讐者の首飾り』が、閃光を発して大爆発した。

第一章 あたらしい冒険 強制開始! ~終~


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