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第27話 駆けろ勇者! いざ魔王城へ!

「はい! 三人の言質は頂きましたっ! これで全滅した場合でも、それは自己責任です。仮に死んでしまっても、この俺を責めないでくださいね? だって、皆は自分の意志で魔王退治に参加するんですからねっ!」

 皆の言質を取った瞬間、真太郎がさっきまでのしおらしい態度を一変させる。


「これは一体!? 一瞬にして、いつもの悪い顔に戻ったでござる……!」

「シンタローさん、顔が怖い……」

「おい、バカタロー! テメー、何してやったりみてーな顔してんだよっ! なんか、悪だくみしんじゃねーだろうなぁ!?」

 真太郎の妙な態度を見たイナバ達が、「謀られたのでは?」と微かに動揺する。


「悪だくみなんてしてないよ。ただ、俺の思い付きに無理矢理付き合わされた、なんて後々責められたら嫌ですからね。皆には、自分の口から『参加する』という言葉を言ってもらいたかったんです。ただそれだけですよ」

 そう言って真太郎はアイテムバッグから、一枚のお札を取り出した。

「そんなより、本題に入りましょう。と、その前に、万が一負けた場合に備えておきましょう」

 取り出したのは、マジックアイテム『保険の護符』だ。これは、所持しているだけで、デスペナルティによるアイテムの喪失を防ぐ事が出来る便利なアイテムだ。


「おい、バカタロー。なんだ、その紙切れは?」

「このお札を持っていれば、死んでもデスペナを受けなくなるんだよ。これは高価なアイテムだから、お前はどうせ持ってないだろう。と言う訳で、優しい俺が一枚くれてやる」

 真太郎はそう言って、刹那に『保険の護符』を手渡した。

 それを刹那が黙って受け取るなり、イナバが眼鏡をクイッとさせた。

「こら、せっちゃん! 人に親切にしてもらったら、ありがとうを言うでござるよ!」

「はぁ! テメーは、さっきから何気取りだよ? ウゼェしキメェんだよ!」

「オウフ! ごっつぁんですっ!」

 刹那に蹴られた瞬間、イナバが歓喜の声を上げる。

 

「別にチュウに礼儀なんて求めてないから、お礼なんていらないっスよ。それより、チュウは、そのお札をアイテムバッグに入れておけ」 

「命令すんな」

「煉獄刹那さんは、『保険の護符』をアイテムバッグに入れてくださいー。お願いします~」

「くぅ! こいつ腹立つぅ~!」

 真太郎にからかわれた刹那が、地団太を踏む。

「はい、みこちゃんも」

「わーい! ありがとう、シンタローさんっ!」

 礼儀知らずの刹那と違って、みこは実に素直で礼儀正しかった。


「みこちゃんは、本当にいい子だねぇ~。って、そういえば、師匠はさっき死んだ時、デスペナが発生してましたよね? 『保険の護符』を持ってないんですか?」

「拙者、ゲーム時代はほぼ無敵だったので『保険の護符』は、持っていなかったのでござるよ。なにせ、無駄に高い上に、そもそも拙者はデスペナとは無縁でござったからな」

「ゲームと同じような気持ちでいると火傷しますよ。俺達はゲーム版勇ゲーなら無敵のベテランプレイヤーですけど、今のリアル版の方ではヌーブなルーキーなんですからね。今後は気を付けてくださいよ」

 真太郎は割とマジな調子でそう言うと、イナバにも『保険の護符』を手渡した。


「面目ないでござる」

 イナバが申し訳なさそうに言いながら、『保険の護符』をアイテムバッグにしまう。

「ほら、チュウも早くしまって。ああ、でもポッケじゃダメだからね、その可愛いポシェットにしまうんだよ。いい?」

「うっさい、バカタロー! 子ども扱いすんなっ!」

 真太郎に言われるなり、刹那がキーキー言いながら『保険の護符』をポシェット型のアイテムバッグにしまった。


「さて、これで出発の準備は出来たし、後は魔王城に乗り込むだけか」

 準備を終えた真太郎が、おもむろにステータス画面を表示させる。

 そして、アイテム欄を表示させ、そこから『連帯の輪』というアイテム選ぶ。

「おい、その紐は何だ? 電車ごっこでもするつもりか?」

 真太郎がアイテムバッグから、輪になった紐の様な『連帯の輪』取り出すなり、刹那が目ざとく尋ねた。

「せっちゃんったら、可愛い発想でござるなぁ! デュフフ!」

 イナバが調子に乗るなり、即座に刹那がケツを蹴り飛ばす。

「うっせ、死ねっ!」

「デュクシ! いただきマンモス!」

 蹴られた瞬間、イナバが歓喜の叫びを上げる。


「師匠……今の貴方は幸せそうですけど、とても哀れですよ……」

 馬鹿を見る目でイナバを憐れんだ真太郎が、刹那に『連帯の輪』の説明をする。

「この輪っかになった紐は『連帯の輪』だ。この紐の中に入ったプレイヤー全員に、アイテム、魔法、スキルの効果を連帯して発動させる事が出来るレアアイテムだ。つまり、この輪の中に俺とチュウが入ると、通常単体にしか使えん薬草やヒールライトの効果が、俺とお前の二人に適用される」

「レアの癖に、大したアイテムじゃねーな」

「かもな。序盤に手に入ると、回復の為の金がちょっと浮く程度のアイテムでしかないからな、最大使用人数も四人と少ないし。でも、使い方次第では結構便利だったりするから、持っておいて損はないよ」

 真太郎は説明を終えると、連帯の輪を地面に落して、輪の中に入った。


「そんな事より、チュウ。ボーっとしてないで、お前も中に入りなさい」

「何するつもりだよ?」

「お前がさっき言ってた『電車ごっこだよ』。みこちゃんと、師匠も中に入って下さい」

「えっ? 本当に電車ごっこをするつもりでござったの?」

「あはっ! なんだか、とっても面白そー!」

 真太郎の言葉に従って、刹那とイナバとみこが連帯の輪の中に入る。


「で、お前の言う通り輪の中に入ってやったけど、これなんだよ?」

「説明する前に、戦闘に備えて自動回復かけとくか。チュウ、よく見ておけ、俺は今から自分だけに魔法をかけるぞ」

 真太郎は言うと、自動回復魔法『ヒールリジェネーター』を自分にかけた。

 すると、『連帯の輪』の効果によって、他の三人にも魔法がかかった。

 鮮やかな緑色の光が真太郎達の体をふわりと包み込む。

「おおっ! 本当にこの輪の中に入っていると、魔法の効果が連帯するんだな。でも、こんな紐使うより、お前のチートスキルの方が良くないか?」

「スキル『コラボレーター』は、『連帯の紐』に似た能力だけど、戦闘中にしか使えないから、今回はこれを使うんだよ。んじゃ、みんな紐を持ってくださいな」

 真太郎は話し終わると、おもむろに連帯の輪の紐を持ち上げた。

 それを見るなり、他の三人も紐を持ち上げる。


「なんかこれ、すっごい間抜けでござるよ?」

 紐を持った真太郎、みこ、刹那、イナバが仲良く縦一列に並ぶ姿は、どう見てもこれから魔王を倒しに行く勇者には見えない。それどころか、いい年こいて電車ごっこに興じているバカにしか見えなかった。

「で? こんな間抜けな格好して何すんだよ?」

 ちょっと恥ずかしそうにしている刹那が、先頭の真太郎に尋ねる。

 すると真太郎は、ステータス画面の装備欄から『韋駄天ブーツ』を選択し、アイテム効果を発動させた。

「えーと……行先は、魔王城っと!」

 そして、韋駄天ブーツのアイテム効果である『テレポート』を発動させ、唯一アクティブ表示されている行先である『魔王城』を選んだ。


「おい、人の話を聞けよ! これからどうするんだよっ!?」 

「決まってんだろ? 走るんだよっ!」

 言うなり、真太郎が突然猛ダッシュした。

「きゃっ!? ちょ、シンタローさん! いきなり走らないでよっ!」

 不意打ちで体制を崩したみこが、真太郎に抱き付く形で前のめりになる。その際、柔らかな弾力が真太郎の背中に触れた。しかも、さらさらの青い髪の毛からは、甘く良い匂い漂ってきた。


「ごめんね、みこちゃん。でも、韋駄天ブーツのアイテム効果を発動させるには、一定距離を走らなきゃならないんだよ」

 みこに抱き付かれた真太郎が、ドギマギを隠しながらちょっと早口で答える。

「つまり、あたし達は、これから魔王城までダッシュするんだね?」

 真太郎の肩を持ってひょこっと横から顔を出したみこが、元気に尋ねる。

「ちょっと違うけど……まー、そういう事だね。と言う訳だから、みこちゃんは、出来るだけ全速力で走ってね」

 真太郎はみこに言い聞かせると、再び連帯の輪の紐を持って走り出した。

「よっしゃー! みこちゃん、行ったるでー!」


 真太郎に続いてみこが走り出すなり、イナバが慌てて駆けだした。

「せっちゃん! 拙者達も走るでござるよっ!」

「誰がせっちゃんだよっ! あと、さりげなく俺の後ろに陣取ってんじゃねーよ! 息がかかってキショいし、ムカつくんだよッ!」

「うるせー、グダグダ言ってねーで、走るんだよォォォーッ!」

 やる気なさそうに突っ立てた刹那が荒ぶるなり、真太郎がさらに荒ぶった。

「走るんだよぉぉぉー!」

 彼につられて、みこも荒ぶる。

「走るんでござるよーっ!」

 真太郎に続いて、みことイナバまでもが荒ぶり出すなり、刹那が渋々と言った様子で走り出した。

「チッ! みこもキモオタも、うっせーな! 仕方ねー、俺も走ってやるよ!」


「チュウ、ちんたら走るな! 全力で走れっ!」

「あん? なんでだよ?」

「風になって限界突破すんだよっ! 行こうぜ、限界の向こう側へっ!」

「いや、意味分かんねーよっ!」

「全力でダッシュしないとアイテム効果が発動しねーんだよッ! いちいち説明させんなっ!」

「いちいちキレんなよ! わーったよ。走ればいいんだろ、走ればっ!」

 事情を知ってやっとその気になった刹那が、全力で走りだす。


「いい感じスピードが出て来たぜっ!」

「っていうか、拙者達。足早過ぎでござるぅぅぅー!」

 ゲームの恩恵を受けた勇者の体を持つ真太郎達の全力ダッシュは、まるでアスリートの様な速さだった。

 速さが増すにつれ、真太郎の履いている韋駄天ブーツが不思議な力を解き放ち、眩い光を帯びて来る。

「お、ゲームと同じ演出が始まったぞ! そろそろワープするぞ、皆衝撃に備えてっ!」


 真太郎がそう言うなり、突如藪の中から何者かが飛び出して来た。

「やっと見つけたぜ! このクソヒーラーァッ!」

 あともう少しでアイテム効果が発動するといった所で、藪の中からPKアキトが突如姿を現した。


「さっきのPK野郎じゃねーか! どうしてここが分かったんだっ!?」

 アキトの突然の襲来に、真太郎が目を丸くする。

「こりゃ、いかん! 逃げるでござるよっ!」

 血走ったアキトの目を見たイナバが、嫌なものを感じて叫ぶ。

「ぎゃあっー!? さっき、あたしにセクハラしてきた変態だぁー!」

 先程倒されたはずのアキトが突然出現するなり、みこが思わず素で驚く。

「なんだ、あの黒づくめのふざけた奴は? なんであいつは、ブチ切れてんだよっ!?」

 殺気立つアキトを見た刹那が、動揺しながら真太郎に事情を尋ねる。

「あいつは、頭のおかしい過激派のPKだ。きっと俺達に仕返しに来たんだよっ!」


「テメーら、何馬鹿みてーな事やってんだよッ!」

 電車ごっこをしている風にしか見えない真太郎達に、アキトが早速ツッコむ。

「んな事より! テメーら、さっきは舐めた真似しやがって、ぶっ殺してやるッ!」

 先程のリベンジの為に、ここまで真太郎達を探してやって来たアキトが、目的を達成するべく漆黒の剣を構える。

 すると何故か真太郎が、アキトに向かって突っ込んでいった。


「ちょ! バカタロー、テメー何考えてんだ!」

 何故か剣を構える敵に向かって一直線に進む真太郎に、刹那がツッコむ。

「止まりたいけど、止まれないんだよ!」

「なにィ!?」

「アイテムの効果が発動しちまったのか、スピードが出過ぎてるのか、わかんねーけど、とにかく真っ直ぐしか進めないんだよーッ!」

 真太郎が恐ろしい事実を告げるなり、イナバも絶叫した。

「拙者もでござるゥゥゥ!」

「ぎゃあああー! あたしもだぁぁぁー!」

「言われてみれば、俺もじゃねーかァァァ!」

 どうやら、韋駄天ブーツのアイテム効果が発動されてしまっているせいで、真太郎達は止まる事も方向転換する事も出来ない様子だ。


「へへっ! 突っ込んでくるとは良い度胸じゃねーか! 斬り刻んでやるぜッ!」

 鈍い光を反射する黒い剣を両手に構えたアキトが、自分に向かってくる真太郎達に狙いを定める。

「クソ! 避けられないならば、このまま真っ直ぐ突っ込むしかねェーッ! テレポート出来ればよし、失敗してこのまま突っ込んでも、この速さならアキトを吹っ飛ばす事が出来るからなッ!」

 思い通りに動かない体を動かす事を諦めた真太郎は、一か八かこのまま走り続けてテレポートする事にした。


「お前ら、気合入れろ! 行くぜ、魔王城ォォォーッ!」

「「「おおっー!」」」

 真太郎達が声を揃えて叫んだ瞬間、彼らの体が目も眩まんばかりの閃光を放った。


「クソッ! また小癪な事をしやがってェー!」

 閃光に目潰しされたアキトが、訳も分からず乱暴に剣を振りかぶる。

「うおおおォォォー! 死にやがれェェェーッ!」


「「「「うおおおォォォー! 行くぜ魔王城ォォォーッ!」」」」

 それと同時に真太郎達が、まるで風に溶けるかのように虚空に消えた。

 

 その後、その場に残されたのは、真太郎達が残した光の軌跡と、剣を空振りするアキトだけだった。

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