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第26話 怪奇! 萌豚イナバ! 合言葉はフォカヌポゥ!

 刹那が真太郎に教えられた通りの台詞を言った瞬間、あれ程ブチキレていたイナバが一瞬のうちに彼女を許した。 

 しかも、この世界に来て以来、最も爽やかなキモオタスマイルでだ。


「うぇ! マジかよっ!?」

 予想外の展開を目の当たりにした刹那が、思わず変な声を出して戸惑う。

 だが、策を授けた真太郎はニヤリと微笑み、得意顔だ。

「計画通り……!」

(師匠はロリコン疑惑濃厚だったが、どうやらビンゴだったようだな。美少女にお兄ちゃんと呼ばれて喜ばないロリコンはいない。これは、世界が変わっても、決して変わらない万物の摂理だ)

 最初に刹那に会った時以来、イナバをロリコンだと見抜いていた真太郎が、見事な采配を振るって、彼と刹那を仲直りさせた。


「イナバお兄ちゃんは、もうチュウの事を許してくれますよね?」

「おいおい、シンタロー殿。心優しい拙者が、可愛いせっちゃんのちょっとした悪戯ごときで怒るはずないでござるろう。なぁ、せっちゃん?」

 お兄ちゃんと呼ばれていい気になっているイナバが、刹那を馴れ馴れしく妹扱いする。

「誰がせっちゃんだっ! 気安い呼び方してんじゃねーよっ!」

 勿論、当然のごとく刹那がキレる。

「フヒヒ、サーセン!」

 しかし、イナバはむしろキレられて嬉しがった。


「笑うな、キモいんだよッ!」

 イナバの迸るキモさにキレた刹那が、彼のケツに蹴りを喰らわせる。 

「ブヒィ! 美少女JCからのスパンキングは、ご褒美でござるぅーっ!」

 ロリ萌えな妹キャラを演じた刹那は得てせず、イナバの開けてはいけない禁断の何かを全開にさせてしまったらしい。

「キモいんだよ! 死ねッ!」

「フォカヌポゥーッ!」

 イナバ史上初の至福のフォカヌポゥだった。


「蹴りを入れられて喜ぶとは、これはもう完全に仲直りしたという事ですねッ! いや~、二人が仲直りしてくれて良かった、良かった!」

 自分の采配で、殺し合い寸前だった刹那とイナバを仲直りさせる事に成功した真太郎が、諸手を挙げて上機嫌で喜ぶ。

「いや、よくないでしょ! なんかさっきより、状況が悪化してるよっ!」

 イナバが完全体のキモオタに変貌を遂げた事に恐怖を感じているみこが、前のめりでツッコむ。

「いや、これが師匠とチュウのあるべき形なんだよ。新入りのみこちゃんには、分からないだろうけどね」

「ほんと、さっぱり分からないよっ!」

 みこはそうツッコんでくるのだが、真太郎はもう面倒だったので、無理矢理話を丸く収める事にした。


「さて、二人が仲直りした事だし、早速魔王をぶっ殺しに行くか!」

 イナバと刹那の仲たがいの件を、上手くまとめた真太郎が早速本題に入る。

「おい! 話が急すぎだろっ! つか、キモオタがこんな調子じゃ、魔王殺しなんて無茶だぜっ!」

 M属性の萌豚ロリコンに成り下がったイナバを蹴り飛ばす刹那が、話を勝手に進める真太郎に抗議する。 


「確かに、無茶だよ。でも、勇者ってのはね、無茶を承知で勇気を振り絞って戦う者の事を言う訳よ。そんな勇者だからこそ、お姫様も救い出せるし、お宝も手に入れられるし、魔王もぶっ倒せるんだよ」

 なんだか正論っぽい事を真太郎が言うので、刹那は思わず黙ってしまった。


「でも、モンスターとの連戦で疲れた体で、ラスボス戦は無理だろ?」

「問題ない。俺の魔法で、怪我も疲れも癒すことが出来る」

 真太郎は言うと、ヒールライトをパーティー全員にかけた。

 柔らかく暖かい魔法の光が三人の体を包み込むと、全ての傷が治り全身の疲れが一瞬にして消える。


「さて、これで傷も疲れも癒えたし、早速魔王の城に乗り込もうっ!」

「おっ。なんか変な事やってるうちに、決戦の時が来たぞっ!」

「待て待て! やる気になるのはいいが、本当に魔王を倒せるのかよ?」

 やる気満々の真太郎とみこと違って、刹那は魔王との戦いに不安を覚えている様だった。


「俺達は既に、魔法とスキルを自由自在に使いこなせるんだ。その上、更にレベルは99だし、パーティーの連携も完璧だ。この状態が、いわゆる『強くてニューゲーム』ならば――」

「開幕早々、魔王に挑む事は、充分に可能だねっ!」

 真太郎の言葉をみこが引き継いだ。


「うむ。魔王など、この剣聖イナバの刀の露にしてくれるわ!」

 どうやら、イナバもやる気らしい。きっと、脳内妹である刹那の前で、兄として格好を付けたいのだろう。

「決め顔すんな、キメェーんだよッ!」

「オウフ! ごっつぁんですっ!」

 刹那に蹴りを入れられるなり、イナバが歓喜の悲鳴を上げる。


「バカタローの言う通り、今の状況が『強くてニューゲーム』っていうのは、なんとなく納得はできる。それだったら確かに、魔王に挑む事も出来るだろう。だが、魔王がいる魔王城まではどうやって行くんだよ?」

 考えなしに見える真太郎に対して、刹那は地雷キャラの癖に大分慎重な様だ。

「『韋駄天ブーツ』を使う」

 そう言って真太郎は、自分が履いているブーツを杖で指し示した。

「『韋駄天ブーツ』のアイテム効果は、一度行ったことのある街やダンジョンにテレポート出来るというものだ。それを使って、魔王城に乗り込む」

「でも、シンタロー殿は、この世界ではまだ魔王城に行った事が無いでござるよ。いや、それ以前に、街やダンジョンに一回も入っていないでござる」

 ケツを蹴られて喜んでいたイナバが、目ざとく突っ込む。


「確かに、師匠の言う通りです。俺はこの世界に来てから、まだどこの街にも行っていないので、どこにもテレポートできません」

 すると、真太郎がニヤリと不敵に笑った。

「ですが、何故か韋駄天ブーツのステータス画面には、『魔王城』の文字が表示されています」


「えっー! うっそー!?」

 真太郎の言葉を聞いたみこが、彼のステータス画面を覗き込むなり、刹那とイナバも続いた。

 三人揃って真太郎が手元に表示させているステータス画面を覗き込む。

 すると、そこには本当に、『転移先・魔王城』との文字が表示されていた。


「……マジじゃねーかよ!」

「ゲームと同じ表示という事は、ゲーム同様にテレポートが出来ると思っていいよな?」

「今までの感じだと、そう考えても良いでござろうなぁ……」

「ゲームの内容が全て反映されているこの世界なら、そう考えるのが普通だよね」

 イナバに続いてみこまでが、真太郎の言葉を納得する。


「おいおい、お前ら本気で言ってんのかよ?」

「この世界には、魔法もスキルもあるんだ。だったら、アイテム効果だってあるに決まっているだろ? 現に、俺が装備しているアクセサリ『祝福の残り香』は、HP・MP自動回復のアイテム効果を発動している」

 疑り深い刹那が真太郎のステータスを見ると、確かにアイテムの効果で、彼のHPとMPが秒刻みで回復していた。


「でも、いきなり敵の本拠地に乗り込む前に、本当にテレポートが出来るのかどうか、確かめた方がいいんじゃねーのか?」

 もっともな事を刹那が言うが、既に魔王城に乗り込むつもりでいる真太郎は聞く耳を持たなかった。

「街に戻る時間がもったいない。それに、テレポート出来たらよし、出来なくてもそれもまたよしだ。魔王城に乗り込めれば魔王を倒し、乗り込めなければ街に帰って宿屋に泊るだけの事なんだから、いちいち検証実験などしても意味ないね」

 真太郎は真太郎でもっともな言い分だったので、刹那は思わず口籠ってしまった。


「つうか、チュウはさっきから話の腰を折ってなんのつもりだ? もしかして、ビビってんのか?」

「ビビってねーよっ!」

 真太郎の軽口に、刹那が脊髄反射的に言い返す。


「まぁ、ビビっててもいいよ。確かに、雑魚モンスターから急に魔王は怖いもんね。弱虫チュウは、無理して参加しなくてもいいよ」

「誰が、弱虫だっ!」

真太郎の煽りに、刹那が小動物の様にキシャ―っと牙を剥く。


「無理するな、弱虫でいいんだよ。無茶して失敗したら良くて再起不能か、最悪死んじゃう世の中だし、弱虫は長生きするよ。でも、何も手に入れる事は出来ないけどね」

 真太郎はそう言うと、杖を握り直して遠くを見つめた。


「これは個人的な理由でしかないが、俺はこれ以上、理不尽な運命ってやつに振り回されるのが我慢ならないんだ。自分の力で運命を切り開けるのであれば、俺はそうしたい。現実の俺は、あまりにも無力で弱虫だった。その結果、俺は……」  周りと上手くなじめなかった高校生活や受験で失敗した切な過ぎる過去を思い出す真太郎が、伏し目がちに呟く。

「とにかく、今の俺はなんだか知らんが、苦境を乗り越えられるだけの力がある事は確かだ。だから、自分の力でやれる所までやってみたいのさ。それが出来れば、何か今までのダメな自分みたいなものが、変えられそうな気がするからね」

 この世界で何かを変えようとしている真太郎はそう言うと、ふっと小さく笑った。


「勿論、俺の我儘に三人を付き合わせる気は毛頭ない。三人が、魔王退治をしたくないのならば、別にそれは構わない。ここまで訓練に付き合ってくれただけで、十分にありがたいんだからね。こんな俺に、ここまで付き合ってくれてありがとう。改めて、お礼を言わせてもらうよ」

 真太郎はそう言うと、三人に向かって深々と頭を下げた。

「だから、これ以上は無理に付き合ってくれなくていいよ」

 真太郎が話し終わるなり、みことイナバがすぐに声を上げた。

「ちょっと、シンタローさん! あたしは、参加するからねっ!」

「待つでござるよ。誰も行かないなどとは、一言も言っていないでござる」

 イナバに続いて、刹那も参戦表明の様な事を言い出した。

「ホントだよ。しょーもねー自分語りなんかしてないで、人の話を聞けよボケ!」

 刹那がそう言うなり、真太郎がちらりと彼女の顔を見た。


「皆のその口ぶりは、俺と一緒に魔王退治に出かけると受け取っていいのかな?」

「うむ。拙者とシンタロー殿はコンビでござる、行動する時は一緒でござるよ」

 真太郎が試す様な事を言うなり、イナバが真っ先に同意を表明した。

「それに、シンタロー殿だけ行かせて、師匠の拙者が行かないでどうするのでござるか? 冗談はやめるでござるよ」

 師匠らしい口ぶりのイナバが、眼鏡をクイッとさせて参戦を表明する。 


「魔王退治みてーな面白そーな事、テメーらだけにやらせるかよ。俺も行くぜ」

 自分だけ置いてけぼりは嫌だった刹那が、強がりながら参戦を表明する。

「はーい、はーい! みこちゃんも行くよっ! あたしだけ仲間外れなんて絶対に嫌だからねっ! みんなで魔王を倒して、お家に帰るんだもんっ!」

 最後にみこが元気いっぱいに参戦を表明してくれた。

 

「ありがとう。みんなは、本当に良い仲間です……!」

 皆の友達がいのある言葉を聞くなり、真太郎がニヤリと笑った。

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