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第24話 さらば、キモオタ。イナバ、夕闇に死す!

 真太郎達は戦闘を積み重ねる事で、戦う事自体に余裕が持てる様になっていた。  

 そんな頃になると、彼らは、同じ相手と数回戦ってゲーム時代との差異を調査したり、スキルの発動モーションの動きの癖を体で覚えたり、スキル発動後の硬直時間とリキャストタイム中の立ち回り方など研究する様になっていた


「敵の動きは予想がつかないが、攻撃方法はゲームと同じだな。それより、HP回復は、ダメージを食らうその都度回復魔法をかけるより、自動回復の魔法を予めかけておいた方が安全ですね。ちょっと怪我しても瞬間的に完治してくれますし、なにより敵から目を放してステータス画面を見るのは危険ですからね。基本、敵のダメージが低いから、ゲームでは当たり前にやってた事を忘れがちになってましたね。うっかりとはい、慢心はしちゃダメですね」

 戦闘により変化したステータスをチェックする真太郎がそう言うと、刀の手入れをしていたイナバが話に続いた。


「なんでも基本が大事、という事でござるな。そういえば『スキル攻撃』は、直接体を動かして攻撃するよりも、なんだか肉体の疲労度が高い気がするでござるよ。これがMPを消費するという事なのでござろうか?」

「あ~。だから、みこちゃんってば、みんなよりなんかバテてるのかぁ~。あたしのスキルはMP消費が大きいからなぁ~」

 木に寄りかかってぐでーん、としているみこが、だらけた様子で声を上げる。

「でも、バフ(強化)魔法がかかってると、全然疲れないぜ? みこが体力ないだけじゃないのか?」

 強化魔法のおかげで割と元気な刹那が、へばっているみこに皮肉を浴びせる。

 すると、真太郎がみこに回復魔法をかけた。

「あっ……! やだ、シンタローさんったら、そんな急に……! くやしいけど……あたし、癒されちゃうーっ!」

 回復魔法をかけられた瞬間、みこが悩ましげな声を出した。


「前から気になってたんだけど、なんで皆、回復魔法を食らうと変な声出すの?」 

 などと真太郎がツッコむなり、みこが速攻で元気を取り戻した。

「う~ん……元気溌剌! みこちゃん、大復活っ!」

「って! みこちゃん、元気になるの早すぎっ!」

(しかし、妙だ。アスリートのみこちゃんはともかく、体力の無さに定評がある俺や、どう見ても運動なんてしてなさそうなネトゲ廃人の師匠と、ただの女子中学生のチュウですら、かなり元気だ。あんなに激しく体を動かしたのに、グロッキー状態になってる奴が誰もいない……)


 戦闘を繰り返す中で分かった事がある。

 真太郎達は、現実世界にいた時と違って、肉体が異常に強靱になっているのだ。

 レベルが高いせいなのか、あるいはもっと別の理由なのかは、現時点では不明だが、真太郎達の身体はほとんど疲労に無縁で、戦闘や移動で疲れても数分の休憩を取るだけで、すぐに元気を取り戻すのである。

 おまけに手傷を負っても、あまり痛みを感じないし、怪我は魔法により一瞬で治るのだ。

(良く分かんないけど、今の俺達は無茶苦茶タフだよなぁ。どんなに暴れても絶対に怪我したりしないし、アクション映画の主人公もビックリのタフさだよ)

 そんな今の真太郎達は、正に『勇者』的な強さを持った存在と言っても過言ではなかった。


「やっぱり、無理してでもモンスターと戦って良かったですね。この世界で自分が何を出来るかが分かったし、何より、元いた世界とは違う今の自分自身の体の動かし方が完璧になりました」

「そうでござるな。それに、戦闘を重ねた事で拙者達の友情が深まり、チームワークがいい感じにまとまって来たでござるよ!」

「それは、どーだか分かんねーよ」

 イナバがスカっと爽やかなキモオタスマイルを浮かべるなり、刹那が即座にツッコんだ。 


「いや、一人で突っ走りがちなチュウが、みこちゃんとコンビを組んで動くようになったから、ゲーム時代よりも確実にチームワークは良くなってるよ。しかし、あの聞かん坊のせっちゃんが、やっといい子になってくれたんやね……。あたしゃ、嬉しくて、思わず泣いちゃいそうだよ……!」

 ゲーム時代から刹那のひねくれた地雷っぷりに悩まされていた真太郎は、仲間との戦いを経てチームワークを覚えた彼女の変わりように、不覚にも感動してしまった。 

「おい、バカタロー。何、やっと不良娘が更生してくれたみたいな顔してんだよ!」

 刹那は荒い口調でツッコみつつも、真太郎が自分を仲間だと認めてくれた事が嬉しいのだろう。口汚くツッコミつつも、顔はどこか嬉しそうだった。


「今までチュウに欠けていたチームワークが、みこちゃんによって補われたおかげで、俺達が確実に強くなってる事は確かだ。ありがとう、みこちゃん!」

 ある意味で一番の功労者と言えたみこに、真太郎が礼を言う。

「あたしは、別に何もしてないけどなぁ~。まぁでも、あたしがみんなの仲間に加わった事で、パーティーが華やかになった事は事実だよねっ! まな板ボディーの刹那じゃ、色気に欠けるもんねっ!」

 そう言って刹那をからかうみこが、悪戯っぽくにひっと笑った。


「ああっ!? みこの癖に調子のんなよっ!」

「だって真実じゃ~ん。それにあたしは、おっぱいぽよんぽよんだもんっ! ね、シンタローさん?」

 みこはそう言うと、年の割には形の大きい胸を揺らして巨乳アピールをした。

「う、うん」

「むむっ! 歯切れの悪い返事だぞ! シンタローさん、ちゃんと見てよねっ!」

 思わず照れてしまった真太郎が曖昧な返事を返すなり、みこがムッとする。

 

 そして、何を思ったか、みこは大きな胸を両手で寄せて上げると、真太郎にずいっと近寄った。

「どう? これで良く見えるかしら?」

 完全に真太郎をからかっている確信犯のみこが、小悪魔っぽく微笑む。

「そ、それより! そろそろ休憩を止めて、最後の特訓を始めようか」

「あ、逃げたぁ~!」

「さて、ラストバトルと行こうか。みんな、気合入れようぜ!」

 そんなこんなで真太郎達は、結局、日が暮れるまでみっちりと戦闘訓練を行った。

 

「お昼から夕方までみっちり戦った割りに、経験値もアイテムも金も、収穫物は全部微々たるものですね……」

 真太郎の言う通り、戦いの相手が雑魚モンスターだったので、獲得した経験値は雀の涙ほどだし、アイテムも役に立たないようなものばかりだった。

 だが、彼がこの一連の戦闘で本当に得たものは、実戦経験とチームワークだ。  

「ま、チュウも更生したし、新入りのみこちゃんも俺達に馴染んでくれたし、結果オーライって事でいいのかもね」

 目に見えないがかけがえのないモノを手に入れたと知っているからなのか、真太郎の顔は不思議と明るい。


「しかし、ゲームと実戦はまったく違うものでござるな。初めてゴブリンと戦闘した時は、恐怖で思わず腰が抜けそうになったでござるよ。なぁ、シンタロー殿?」

 現実世界には決して存在しない『モンスター』は、イナバにとって恐怖の対象だった。とはいえ、ギラギラと血走った凶暴な目つきで血で薄汚れた斧を振り回す緑の小鬼ゴブリンに恐怖を感じない方が、どうかしているともいえるが。

「いや、別にそんなん無いっスよ」

 しかし、真太郎はそんな事はなかったらしい。


「っていうか、俺はモンスターよりも自分の体にビビったね。モンスターを前にすると、呼吸がヤバいぐらい激しく乱れるんだよ。そんで、めっちゃ空気を吸ってるはずなのに息苦しくてさぁ。なんか知んないけど、心臓のバクバクが止まらなくなるし、おまけに視界まで狭くなりやがる。とはいえ、クソモンスター共なんか、この最強にして最凶の殺人鬼・煉獄刹那様の敵ではなかったけどな! な、シンタロー?」

 刹那はそうやって精一杯強がらなければ、恐ろしいモンスターとの戦いを乗り越える事が出来なかったのだ。

 だが、本当の意味で彼女を奮い立たせ、戦いを乗り越えさせたのは、背中を預けられる仲間である真太郎達がいたからだった。

 勿論、強がりな彼女は、そんな事を言う事は決してなかったが。

「チュウはビビり過ぎだよ、別にモンスターなんてそんな怖くないから。つか、俺達がいなかったら、お前速攻で逃げ出してただろ? お前、俺達に出会えて本当に良かったな。これ、お前一人きりでモンスターに襲われてたら、多分ぶっ殺されてたよ」 


「なんだその口の利き方は! お前はさっきから、なんでそんなに強気なんだよ!?」

「んなもん、俺が勇敢な『勇者シンタロー』だからに決まってんだろ?」

 などと言っているが、真太郎は前衛三人の陰に隠れてこそこそ魔法を使っていただけったので、戦闘の怖さを彼ら程には実感していなかっただけだったりする。

「しょうも無い事言ってんじゃねーよ! ったく、バカタローはともかく、ここまでリアルだと、戦闘でHPがゼロになって死んだら、『本当』に死んじゃう……んだよね?」

 一度死にかけている刹那はそう言うと、不安げに瞳を揺らした。


「は? 何言ってんの? 死なないよ」

 そんな不安に満ちた刹那の言葉を、真太郎があっさりぶった切る。

 イナバに斬り殺された後、見事に五体満足で復活したPKアキトを知っているからこそ言える台詞だった。

「は?」

 だが、詳しく状況を知らない刹那は、眉を寄せて訝しげな顔をするだけだ。

 そんな彼女にイナバが詳しい説明をする。


「この世界では勇ゲー同様に、死ぬと『輪廻の神殿』で復活するのでござるよ。つまり、『死んでしまっても輪廻の神殿で生き返る』という事でござるな」

「はぁ? なんだよ、それ。んな訳ねーだろ! また俺をからかってんだなっ!」

「ほんとーだよ。あたしも何人か『輪廻の神殿』で復活した人を見たもん」

 ダメ押しの様にみこが言うなり、刹那はとても話を信じられないと言った様な顔つきをした。

 そして、嘘を見破ろうとでもするかの様に、三人の顔をじっと見つめる。


 だが、話は真実なので、三人の顔にやましい所は見受けらなかった。

「……本当、なのか?」

 人が死なないなんていう話を信じきれない刹那が、もう一度、確かめる様に尋ねる。

「生き死にが関わってる大事な話で、嘘つく訳ねーだろ?」

「左様でござるよ」

「ほんとうだよっ! 刹那は人を疑い過ぎっ! 素直になりなさいっ!」

 実際にこの世界での『死と復活』を見た三人が口を揃えて、今の話は真実だと告げる。


「そ、そうなの……か? ここでは、本当に死んでも死なないのか……」

 三人があまりにも当たり前の様に言い切るものだから、ずっと疑っていた刹那も思わず彼らの話を信じてしまう。

「まー、俺自身が死んだ訳じゃないから断言はできないけど、師匠が一刀両断したPKが、自分で『殺されても復活した』って言ってたから、マジだと思うよ」 

「……PK? あぁ、さっきオリエンスの桟橋で、みこを襲ってたPKか。そういえば、あいつシンタローを襲った時に、キモオタに斬り殺されてたな……」

 真太郎の言葉でアキトの事を思い出した事により、刹那はこの世界での死について、彼らが言っている事が本当だと信じる事にしたようだ。


「……確かに、俺はアイツが死ぬ所を見た……なのに、アイツは生き返ってみこを襲っていた……。ううむ、こいつらの話は、マジっぽいな……」

 ゲーム時代の刹那であれば、彼らの言う事を簡単に信じる事はなかっただろう。

 だが、命を懸けた戦闘を一緒に戦い抜いた今、刹那は彼らの事を『良く知らない画面の向こうの人間』ではなく、『背中を預けることが出来る仲間』だと思っているので、真剣な話であればしっかりと信じるようになっていたのだ。 


「じゃあ、この世界では、『死んでも輪廻の神殿で生き返る』って事でいいのか?」

「そーだよ。ま、HPがゼロになった『瀕死状態』の時に回復すれば、『死亡状態』は回避できるから、そー簡単に本当の『死』に陥る事はないと思うけどねぇ。ねぇ、みこちゃん?」

「ねー」

「そんな当たり前みたいに言うって事は、マジで死んでも生き返るみたいだな」

 真太郎とみこが当然の様に言うのを聞いた刹那は、どうやら本当に彼の話が嘘偽りの無い話であると判断したようだ。


「だから、先程からそう言っているでござろう? チュウは、拙者達の事が信じられないのでござるか? 拙者達はもう仲間であろう? こういう大事な話位は、信じてほしいでござるなぁ~」

 信頼感を表立って見せない刹那に、イナバが少し心を傷つけられる。

「なんでキモオタの事を信じなきゃいけねーんだよ! 馬鹿言ってんじゃねーよっ!」

「ござっ!? ギザひどす!」

 真太郎とみこに対しては、心を開いた刹那であったが、キモオタであるイナバに対してはまったく心を開いていない様だ。


「んもう! 拙者が仮にキモオタだったとしても、今や共に戦場を駆け抜けた仲間なのだから、もう少し信じてくれてもいいと思うでござるよっ!」

「そんなに言うなら、身をもってお前の言葉を証明してくれよ?」

「え? それってどういう意味でござるの?」

 イナバがきょとん顔でそう言うなり、刹那がニヤリと不敵に笑った。


「殺ッ! 『デッドリースマッシャー』!」

 次の瞬間、刹那が必殺の一撃を放った。

『デッドリースマッシャー』は、暗黒騎士の必殺技の一つで、敵に大ダメージを与えると同時に、即死の追加効果をもたらす恐ろしい攻撃スキルだ。

 これを喰らったのならば、流石のイナバもヤバい。

「ござァーッ!?」


『イナバは力尽きた』

 

 断末魔と共にイナバが瀕死状態に陥ったのを見るなり、真太郎が目を丸くして驚愕する。

「おいィィィ! チュウ、テメー何してんだァァァ!?」

 刹那が突然イナバを斬り殺すなり、事態を理解出来ない真太郎がパニックを起こす。

「本当に、死ぬと生き返るのかどうか試しただけだが、どうかしたのか?」

 そう言って刹那がお澄まし顔をする。


「気軽に試すなっ! つか俺らの話を信じろよ、馬鹿っ!」

「勘違いするな、別にお前を信じていない訳じゃない。だけど、実際に生き返るかどうかを自分の目で確かめない事には、お前の話を信じる訳にはいかないのだ」

『死んでも生き返る、という話は本当かどうか知りたい』という衝動に突き動かされた刹那は、事の真相を確かめる為に有無を言わさずイナバを斬り殺していたらしい。


「だからって、いきなり師匠を斬り殺すなよっ!」

 理由は分かったとはいえ、理由が理解出来ない真太郎が、刹那を怒鳴りつける。

「キモオタだったら、殺しても殺人にならないだろ?」

「なるわっ!」

「そんな事言って、お前だって本当は試してみたかったんじゃないのか?」

 試す様な目つきで刹那に言われるなり、真太郎は思わず言葉に詰まった。

 何故なら、図星だったからだ。


(……確かに。俺も『死と、生き返りのシステム』については、もっと詳しく知りたかったのは、事実なんだよなぁ……。あのPKが言っていた事が、本当かどうかは分からない訳だし)


「た……たすけ……。か、カウントが……あと、二びょ……」

 などとやっているうちに、『瀕死状態』のイナバの死へのカウントダウンが終わって本当に死んだ。

「ああっ! 師匠ぉぉぉーっ!」

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