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第22話 せっちゃんの心変わり ~この地雷からの卒業~

 断末魔の叫び声を上げた刹那が地面に倒れると、彼女の頭の上に30という数字が浮かび上がった。

『勇者ゲーム』では、HPが無くなると『瀕死状態』になり、本当の死までのカウントダウンが始まるのだ。この数字がゼロになるまでの間に回復すればめでたく『瀕死状態』から復活するが、回復をしなければ本当に死んでしまい、即座にリスポーン地点送りになってしまう。


「47(しな)ないと、粋がってたら、死にました。煉獄刹那、心の俳句」

 刹那の地雷っぷりに、思わずしょうもない一句を詠んでしまう真太郎だった。

「……チュウは、放っておいていいっスよね?」

「……ゲームだったら百パー放置でござる。でも、これは現実。生き返らせてあげない訳にはいかないでござろう……」

 ため息交じりのイナバに言われて、真太郎も同じくため息をついて刹那に回復魔法を使う。


「俺達から中古のレア装備を貰って、俺TUEEEE無双して喜んでいただけのチュウには、最初からまともな立ち回りなど期待するべきじゃなかったのかもね」

「パーティープレイ必須のゲームバランスでなかった事が幸いでござるな」

 などと二人が呆れ顔で言い合っていると、復活した刹那がぷりぷりと怒り出した。


「ふざけんなよ! お前らがしっかりしないせいで、死にそうになったじゃんかよっ! つか、なんでお前らは攻撃すら喰らってねーんだよ! チート死ね! ばーかっ!」

 自分勝手で生意気な刹那は、復活させてもらったにも関わらず、謝ったり礼を言うのではなく、何故か口汚く煽って来た。

「うるせー、馬鹿! チートはてめーだ、チート級の地雷&雑魚じゃねーか! パーティー組んでんだから、チームワークを考えろ! テメー一人で自分勝手なことすんなっ!」

 流石にこれは、真太郎もキレてしまう。

「うるせーな、俺はそもそも孤高のソロプレイヤーなんだよ! くそ、パーティー組むと、こうやってちょっと失敗しただけで、叩かれるから嫌なんだよ! この効率厨のクソ廃人どもがっ! チームワークっていうんなら、テメーらが俺に合わせろよなっ!」


 自分の主義の為に他人を巻き込んで迷惑をかけるそのふざけた態度こそが、刹那が地雷と呼ばれる所以なのだった。

 彼女は自分自身を『孤高のソロプレイヤー』などと言っているが、その実態は、パーティーを組んだメンバーとすぐに仲違いし、いつまで経っても固定メンバーを確保できない為、仕方なく一人でいるだけなのである。


(ゲーム時代だったら「地雷乙」ですんだところも、今の状況だとチュウの地雷行為が直接こっちの死につながる危険性があるし、もうこいつは捨てよう)

「おい、チュウ。なんで最上級の装備を持ってるのに、そんなにヌーブなんだよ? チームワークも無ければ、チートで無双も出来ない。無い無い尽しのド低能は消えてくれないか?」

 地雷が過ぎる刹那には、もうついていけないと思った真太郎が、一方的に別れを突き付ける。

「チュウ、悪い事は言わないでござる。しばらく隠れ家で大人しくしていた方がいいでござるよ」

 いつもだったら止めに入るであろうイナバも、刹那には愛想が尽きていた様だ。

 すると、二人に見捨てられたとでも思ったのか、刹那が急にしおらしい態度をしだす。


「えっ、なんだよそれっ!? やだよ、手伝ってよっ! 俺もお前らみたいに強くなりたいんだよ! だから特訓手伝ってよ! よろしくおねがいしますっ! きょう誕生日なんです! だから手伝ってよっ! ね、ね、ねぇ~、お願いっ!」

 絶対嘘だった。


「……くっ! こいつ、可愛いっ!」

 しかし、嘘だと分かっていても、ロリっ娘さを全開にしておねだりして来る刹那の可愛さを前にしてしまうと、真太郎はツッコむことが出来なくなってしまう。

(ゲームだとただムカつくだけのクソガキだったが、ここでは美少女補正が入るせいでちょっと可愛いっ! そんな風に思ってしまう自分にムカつくっ!)

「クッ! この淫乱JCめ、またしても拙者の心をかき乱しに来たでござるなっ! くやしい……! でも……萌えちゃう!」

 JCのポテンシャルを全開にする刹那のおねだり攻撃に、思わず心が揺れてしまう情けない真太郎とイナバだった。


「今度は頑張るから、一緒にいてよっ! ねぇ~、お願い~っ!」

 自分のポテンシャルを知ってか知らずか、刹那が涙目の上目遣い攻撃まで使い出すなり、真太郎とイナバはもう何も言えなくなってしまった。

「……ま、まぁ。反省するなら、許してやるよ。ねぇ、師匠?」

「そ、そーでござるな。しかし、チュウはもっとチームワークを考えないとダメでござるよ?」

「……う、うん。今度は頑張るよ」

 真太郎達に諌められた事で我に返ったのか、刹那が殊勝な態度を見せて素直に応じる。


「なんて言うと思ったか、クソ共が! 俺を馬鹿にしやがって、地獄に落ちろッ!」

 と思われたが、流石筋金入りの地雷キャラ。そう簡単に改心などしない。

 それどころか、刹那は諌められた事を逆恨みして、真太郎達に襲い掛かった。


「「はぁぁぁ~。だと思った!」」

 しかし、刹那が反抗してくるだろう事は、長年の経験から既に予想済みだった真太郎とイナバは、驚く事も無い。

 それどころか、ただただ呆れ顔でため息をつくだけだ。

「この地雷娘、少しは反省しなさいっ! ホールドエネミー!」

「あぅ! またこれかッ!」

「もうこの流れは、一種の風物詩になりつつあるでござるなぁ」

 光の鎖に雁字搦めにされた刹那を見たイナバが、様式美を感じてため息を漏らす。


「ったく、なんでチュウは、こういう地雷プレイをするでござるかなぁ? 戦闘で勝手に突っ込んで自爆したり、意味も無く不快な暴言を吐いたり、ホントに酷いでござるよ。皆が真面目に特訓しているのを台無しにして、何が面白いでござるの? やっぱり、さっきシンタロー殿が言っていた様に、サイコパスでござるの?」

「大体、基本スタイルが、自己中プレイ、暴言による煽り、みんなの邪魔して楽しむ、なんてフツーじゃあない。こいつはサイコ野郎に違いないぜッ! そもそも『ドキッ! 丸ごと水着! 女騎士だらけの水泳大会』もコイツのせいで散々な事になったしな!」

 イナバと真太郎が、刹那のここでの暴挙とゲーム時代の悪行を列挙して非難する。


「あれは、お前らがスケベな事を企むからいけないんだろッ!」

「黙れ! あと一歩で女騎士を全員丸裸に出来たのに、馬鹿なお前が邪魔したせいでクエストが大失敗だよッ! 男キャラを演じるなら最後まで男を演じきれよ、お前はやる事なす事、全てが中途半端なんだよ。だからチュウなんだよ、このボケが!」

「黙れ、スケベ野郎! 何が丸裸だ、頭おかしんじゃねーか! あとこれを解けッ!」

 光の鎖に縛られた刹那が小動物みたいにキーキー言って、キレる真太郎に牙を剥く。


「ゲームの時は、地雷のチュウをあえて仲間にしてその地雷っぷりを愉しんでいたが、この状況ではマジで冗談抜きに邪魔なだけ。煉獄刹那……目障りだ、消えて失せろッ!」

 色々と昔の事を思い出していたら、怒りが収まらなくなった真太郎が、キツい言葉を投げる

「言い過ぎでござるよ、シンタロー殿! チュウが涙目になっておるでござるよ」

 イナバの言う通り、刹那は女の子らしいあどけない瞳にうっすらと涙を浮かべていた。


「う、うっせ! 黙れよ、キモオタ、涙目になんてなってねーよ! たかがゲームごときで、キレやがって、おめーら二人揃って大馬鹿かよ!」

「たかがゲーム、されどゲーム。だが、ここはもうゲームではない。この状況をゲームなどと言ってしまうお前は、やっぱりチュウだな。いつまでも状況を理解できない大馬鹿者を仲間にしておく事は出来ない。お前のせいで死ぬなんて、俺は絶対に嫌だ」

 真太郎がそう言うなり、魔法の効果が切れて刹那が自由になった。

 その瞬間、彼女が反撃しようと剣を構える。


「……次に俺に攻撃したら、もうお前を敵とみなして、容赦なくぶっ殺す。その後は、見かけるたびにPKを仕掛ける。それが嫌だったら、剣をしまってどっかへ消えろ」

 冗談を言っている様には思えない真太郎のマジな顔を見た瞬間、刹那が激しく戸惑い、あどけない顔を不安で歪ませる。

「は、はぁ? な、なんだよ、それ……ふ、ふざけんなよっ!」

 刹那はビビってしまっているのか、心なしかいつもの暴言にも力がない。

「おい、キモオタ! なんとか言ってくれよ!」

 真太郎に嫌われたと思った刹那が、助けを求める様にイナバに視線を移す。


「……チュウ。さっきの戦闘、痛かったでござろう?」

 イナバがいつになく真面目な調子で言うなり、刹那は反抗せずに小さくコクリと頷いた。

「それに死にかけて分かったでござろう……ここはもうゲームではないのでござるよ。だから、お主の自分勝手な行動で、今お主が感じた恐怖を皆が感じ、そして最悪死んでしまうのでござる。さっきのお主の地雷行為はゲーム時代とは違い、死に直結する危険行為なのでござるよ?」

「……なんだよ、急に。偉そうに語るなよ」

 いつもの様に刹那が反発するなり、イナバが目だけで彼女を黙らせる。


「チュウ。もし、さっきの敵が強敵だった場合、拙者もシンタロー殿もお主を助けられなかったと思うでござる。という事は、さっき死にかけたチュウは、本当に死んでいたのでござるよ。何度でも言うが、ここはゲームの世界なんかじゃないのでござる……」

「あっ……」

 ここで刹那は、真太郎とイナバがさっきからずっとキレている理由を理解した。

「お主にはそのつもりはなくとも、実の所、お主の先程の自分勝手な行為は、皆を殺そうとしていたのと同じ事なのでござるよ」

 その瞬間、刹那は自分がしていた行為の危険さと愚かさに気付いてオロオロしだす。


「あ、あぅ。ちがっ……俺はそんなつもりは……」

「拙者達は何も、チュウが嫌いで怒っている訳ではないのでござるよ。『仲間』だからこそ、ここまで感情的になっているのでござる。これが、どうでもいい奴だったら、速攻で斬り捨ててそれでおしまいでござるよ」

「……え?」

 イナバの思いがけない言葉を聞いた刹那が、ハッとした様子で顔を上げる。


「煉獄刹那。もしお主も、拙者達の事を仲間だと思ってくれているのならば、その剣をしまって欲しいでござる。そして、もう地雷プレイはしないと誓って欲しいでござる」

 ただのキモオタだと思われたイナバが、得てせず大人らしい振る舞いで刹那を改心させ始めた。

「……俺だって、お前らの事……」

 イナバの言葉に思う所があったのか、刹那はいつもの様に反抗する事も無く、大人しく剣をしまった。

 そんな彼女を見た瞬間、イナバが強張らせていた顔から険を取る。


「この通りチュウも反省しているようでござるし、シンタロー殿も怒りを収めてくだされでござるよ。それともまだ何か、言いたい事があるでござるか?」

 イナバに言われて、真太郎は刹那の顔を見た。

 目に見えてしゅんとしている刹那は、どうやら本当に反省しているようだ。

(……意外だな。あの気の強いチュウが、師匠の言う事を大人しく聞くなんて。しかし、こんな見た目ながらチュウを諭す事に成功するなんて、この人はキモオタじゃなくて、本当に師匠みたいだ)


「いえ、言いたい事は全て師匠が言ってくれましたから、これ以上は言う事は何もないっスよ」

 真太郎はこれ以上グダグダ言うのも良くないと思って、気持ちを入れ替える事にした。

「ただ、『ドキッ! 丸ごと水着! 女騎士だらけの水泳大会』を失敗させた事については決して許せない! という事だけはキツく言っておきます」

 が、許せる事と許せない事の線引きはしっかりしておいた。


「なんだよ、お前しつこいぞ! しかもソレ、ゲーム時代の話じゃねーかっ!」

 この刹那の怒りはもっともだったので、イナバは何も言わなかった。

「とりま、反省したチュウには、これから嫌でもコンビネーション技を覚えてもらう」

「いやだよ、めんどくせー!」

 お説教タイムが終わった瞬間、いつもの生意気さを取り戻す刹那だった。


「ダメだ。お前は、もう俺達の大事な仲間。チームワークを覚えて強くなって貰わなければ困る!」

「だ、大事な仲間……!」 

 大事な仲間と言われた瞬間、刹那が顔をぱぁっと明るくして、嬉しそうににへっと微笑んだ。 


「し、仕方ねーか! そこまで言うなら、馬鹿共に付き合ってやるよっ!」

 急に元気を取り戻した刹那の小動物的なはしゃぎ方を見た真太郎が、訳知り顔で独り言ちる。

「やっぱり、あの無茶苦茶な行動は、自分に関心を引く為の行動だったか」

(リアルでぼっちだから『せめてゲームでは、人気者に!』と思って、ネトゲを始めたが、やはりぼっちはぼっち。コミュ障故にゲームでも友達は出来なかった。やがて寂しさに耐えかねて、迷惑行為で人目を引く地雷キャラに……みたいな感じだったからなぁ、チュウは)


「地雷とはいえ、バカだから扱いやすいっスね。けど、やっぱり面倒な奴っスわ」

「慣れれば、素直で可愛い奴でござるよ。さ、元気出していくでござるよ、チュウ!」

 本当の意味で刹那が仲間になり始めた事に気を良くしたイナバが、スカッと爽やかなキモオタスマイルを浮かべる。

「おい、キモいぞ。キモオタ。ふつーにしててもキモいんだから、やめろよなッ!」

 しかし、仲間になったとはいえ、懐いた訳ではなかった。

「……すまんでござる」

「いや、今のはキレていいと思いますよ?」

「おい、アホ共。俺達はパーティーだろ! チームワークを乱すんじゃねーよっ!」

 妙にやる気に溢れている刹那が、特訓を再開するべく元気に駆けだした。


「あっ、お説教終わったの? よーし、じゃあ特訓再開だねっ!」

「あれ? みこちゃん、元気いっぱいじゃん。どうしたの?」

 刹那がお説教を喰らっている間、みこはずっと放置されていたので、死ぬほど退屈していたのだ。

「みこ! 特訓再開するぞ! チームワークを乱すなよっ!」

「それはあたしの台詞だよっ! まったくもう、全然反省してないじゃないっ!」

「うるせー! 俺は反省するよりも、過去を顧みず前に進むタイプなんだよっ!」

 そんな事をやって、みことじゃれつく無邪気な刹那を見ていたら、真太郎もイナバも完全に毒気がなくなってしまった。


「あはは。チュウは、無邪気でござるなぁ~」

「まったくです。んじゃ、特訓再開といきますか」

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