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第21話 地雷ガール刹那 初実戦で初自爆!?

 この世界での基本的な体の動かし方を刹那、みこらと共におさらいした真太郎は、モンスターとの戦闘を経験するべく、フィールドエリアへと出掛けていた。

 向かった先は、オリエンスの街に隣接する『名もなき雑木林』だ。


『名もなき雑木林』は、ゲームにおいて、戦闘のチュートリアルイベント以外では、ほとんど用がなかった場所だけあって、出現するモンスターのレベルはかなり低い。

 十レベル前後の小動物型の雑魚モンスターが徘徊するだけのこの雑木林は、本当になんの変哲もない雑木林であり、名前が付けられていないのも納得である。


「……おい。なんか今、デカい猪みたいな奴がいたけど、大丈夫なのか?」

 林の向こうに動く何かを見た刹那が、不安げにシンタローの袖を掴む。

「そんなビビるなよ。『オリエンスの街』の近くで、強いモンスターは出ないさ」

『オリエンスの街』は、勇者ゲームの東日本サーバーのプレイヤータウンで、ゲームに新規参加したプレイヤーのスタート地点だ。

 それ故、街の周辺のフィールドエリアには、ゲームを始めたばかりの初心者が、ソロでも楽々倒せるような低レベルの雑魚モンスターしか出てこない。


「そうでござるよ。それに、拙者とシンタロー殿は、レベルカンスト。チュウもみこ殿も、レベルは40以上あるでござる。となれば、大抵の雑魚モンスターは、拙者達を恐れて、近づいて来る事すらしないでござるよ」

 イナバの言う通り、勇者ゲームにおいては、敵よりも圧倒的にプレイヤー側が強い場合、フィールド上の敵が逃げ出す仕様になっていた。


「仮にゲームの仕様と違って、敵が積極的にこちらに襲い掛かってくる様になっているとしても、レベル99の俺と師匠に敵はいないと思うよ」

 真太郎とイナバは最高レベルのレベル99で、装備もスキルも最上級のモノを揃えた高レベルプレイヤーだ。

 初心者が戦闘を練習するエリアであるここら一帯のモンスターは、モンスターともいえないモンスターしか出てこないのだから、今の真太郎達に敵はいないと言ってもいいだろう。


「まぁ、この世界はゲーム通りなんだから、確かに、お前らの言う通りかもな」

 不思議な事に、刹那がいつもと違って、反発せずに素直な反応を返した。

「っていうか、シンタローさんもイナバさんも、すっごい強いから、怖いモンスターが出て来ても、きっとあたし達を守ってくれるよっ! ねっ?」

 みこはそう言うと、甘える様な眼差しで小首を傾げながら真太郎を見つめた。

「任せなさいっ!」

 女の子に頼られるのがちょっと嬉しかった真太郎が、張り切ってみせる。 


 すると、先程刹那が見つけた猪型のモンスター『角猪・ホーンボア』が雑木林から飛び出して来た。

「ブルルッ!」

 真太郎達を獲物とでも思っているのか、ホーンボアの目は凶暴な光を帯びて血走っている。

「うひゃあっ! そんな事言ってたら、早速出て来たよっ!」

 ホーンボアの突然の襲撃を受けたみこが、ひっくり返りそうなほど驚く。


「……おいおい。この猪、もう完全に『モンスター』じゃねーか。こんな生き物は、ネットですら見た事ねーよ」

 ホーンボアは、普通の猪よりも一回り以上体が大きく、額には普通の猪には存在しない鋭い角が二本生えていた。しかも、各所が盛り上がった筋肉質の体は、ゲームで見た時とは違う、確かな実体感と迫力を備えている。

 これはもう猪ではなく、『モンスター』と言って差支えが無いだろう。


「ホーンボア。レベル7のノーマルモンスターでござるな」

 高レベルゆえの余裕なのか、真太郎とイナバは、嘶きを上げる凶暴な猪モンスターを目の前にしても、眉ひとつ動かしていない。

 そんな二人に感化された刹那が、何を思ったかホーンボアに襲い掛かった。

「ははっ! 自分から狩られに来るとは、馬鹿な豚だぜッ!」

 両袖から仕込み剣を飛び出させた刹那が気勢を上げると同時に、真太郎達のモンスターとの初戦闘の幕が切って落とされた。


 しかし、真太郎達は予想外に――いや、ある意味では当然と言うべきか、厳しい現実を思い知ることになった。

 

 格下のモンスター相手の戦闘が、思う様に上手く進まないのだ。

 獣の臭いと血の匂い、恐ろしげな咆哮、肌に感じる殺気――モンスター相手の実戦の恐ろしさは、筆舌に尽くしがたいものがある。

 それが例え、低レベルのモンスターであっても、その確かな存在感はそれだけで、真太郎達に恐怖を感じさせるには十分だった。


「激しい運動なんて……体育の授業ぐらいしかッ! したことねーから……! 実戦はキツいぜッ!」

 だが、本当の意味で問題なのは、敵よりも自分達自身だった。

 自分の耳障りな荒い息遣い、背中を流れる汗の不快感、気ばかり急いて思い通りに動かない体――実際に自分の体を動かして戦うという事は、想像している以上に難しかったのだ。


「だが、拙者達は強いでござるッ!」

 とはいえ、決して敵が強い訳ではない。むしろ弱い。イナバが言っていた「生き物と戦うのは怖い」という言葉が、どうでも良くなるぐらいビックリする程簡単に倒せる。

 ほぼ呼吸をするのと同じレベルで魔法を使える真太郎と、刀を自由自在に操るイナバが力を合わせれば、凶暴なモンスター猪だろうが、巨大狼であろうが一撃で倒せた。それどころか、武器を持った知性ある亜人モンスター・ゴブリンですら、余裕で葬り去ることが出来た。


「俺達が異常に強いのって、やっぱ『レベル』の恩恵なんスかね?」

 ゲームの設定が反映されているのは、戦闘でも同じようで、レベルの差というものは絶対的な力の差の様だった。

 というのも、魔術師系で最も弱い攻撃力である『治癒魔法師』の真太郎の杖による直接攻撃でさえ、ほとんどの敵を一撃で葬り去ることが出来るのだ。

 となると、戦闘が上手くいかない原因は何かという事になる。

 それは――


「回避魔法など使うな、雑魚か! こんなもん自力で避けぎゃあ!」

「この俺の必殺技・デッドリースマッシャーを喰らおぎぇ!」

「ゴブリンごとき、俺一人でぶっ殺あいたー!」

 地雷キャラ刹那の存在そのものだった。

 

 格下とはいえ、未知の存在であるモンスターに対して万全の準備で挑む真太郎達と違い、刹那は何故か生身で突進をして返り討ちにあったり、自分のカッコイイ戦い方に酔うあまりスキルの性能を無視して立ち回り自爆、更に厄介な事に自分の力量も分からず敵に突っ込み仲間もろとも大爆死――。

 といったように、刹那が自分勝手な行動をとるせいでパーティーの連携が乱れ、まともに戦うどころではなかったのだ。


「ふざけんな! なんでこんな雑魚共にやられなきゃいけねーんだよっ! 俺はこいつらよりもレベルが40も上の、レベル47だぞっ!」

 この世界は勇者ゲームにそっくりの世界ではあるが、ゲームではなく現実なのだ。たとえ自身の『ステータス上の強さ』を装備やアイテムで誤魔化せたとしても、プレイヤー自身の『本当の強さ』までは誤魔化す事は出来ないのである。


「ステータス画面で表示されている攻撃力=火力じゃねーんだよ! スキルの発動モーションとリキャストタイムを計算に入れて動けっ! あと、指示を無視して勝手に突っ込むんじゃねーよ!」

「うるせー! さっさと回復しろ、バカタロー! キモオタ、敵を引きつけて俺の盾になるのがテメーの役目だろ、仕事しろボケカスがッ! あと、みこは、ちゃんと俺の攻撃に合わせてついて来いっ! あんな雑魚共にしてやられるのは、全部お前らが役立たずなせいだからなっ!」

 自分の失敗を反省するどころか、人のせいにしてブチキレる刹那は、かなり厄介な地雷キャラだった。


「俺はレベル47だぞっ!? この雑魚共よりレベルが上なんだぞっ! なんで負けんだよっ!?」

「雑魚だから」

「雑魚だからでござる」

「雑魚だからよっ!」

 刹那が子供じみた癇癪を起すなり、真太郎とイナバ、みこが怒りと諦めがない交ぜになった複雑な表情でツッコむ。


(ゲーム時代もこうだったな……。仲間として一緒に遊んでいたのに、気が付くとなぜか突然背後から襲われたり、みんなで分け合う報酬を一人で黙って持ち去ったり、早く回復しろだのアイテム寄越せだの自分の要求ばかりを連呼して、それが叶えられないと『死ね』、『殺す』、『うんこ』等の暴言を吐くクソガキ――それがチュウって事をすっかり忘れてた)


「チュウといると楽しいはずのゲームがいつの間にか、馬鹿な子供の子守みたいになってて、気が付くと息抜きで始めたゲームで何故かドッと疲れている――そんなゲーム時代での日々を思い出すでござるよ……」

 真太郎とイナバの思う事は、どうやら同じ様だった。

 いわく――

「「チュウ、うっぜェ~!」」


「おい、アホ共。何ボーっとしてやがる! 今は戦闘中だぞ、テメーらがやる気出さねーなら、アイツは俺一人で倒してやるぜッ!」

 そう言って刹那は、ここら辺で一番弱いモンスター・キラーハムスターに本気で襲い掛かった。

「ぎゃぁぁぁー! 頸動脈を噛まれたァーッ!」


『煉獄刹那が力尽きました』


「「「……」」」

 馬鹿過ぎる刹那には、流石もうツッコむ気力すらない真太郎達だった。

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