第19話 特訓開始! いや、その前に職質です
魔王を倒す前に特訓をする事になった真太郎は早速、戦闘未経験の刹那に指導を始めた。
「額か眉間の辺りに意識を集中すると、ゲームと同じ見た目の『ステータス画面』が出て来るだろ? それを出しっぱなしにした状況で、俺の杖を避けてみろ」
真太郎はそう言うと、手に持っていた杖を軽く振り上げた。
「いきなりだとっ!?」
「いきなりじゃないよ。カウントダウンしてやるから、避けてみろ」
さっと身構える刹那に真太郎はそう言うと、おもむろにカウント始めた。
「三、二、一……はい」
スリーカウントの後、真太郎が刹那の小さな頭めがけて、杖を振り下ろす。
「おい、なんだそのへなちょこは。こんなもんガキでも避け――あいた!」
特に力も入れていない様子の真太郎の攻撃が、あっさり刹那に命中した。
というか、刹那が真太郎の攻撃を避けれなかった、と言った方が正確か。
「どう? 『ステータス画面』が邪魔で、視界が狭まくなるでしょ?」
「……確かに、スゲー邪魔だよ。ステータス画面が視界に覆いかぶさるから、杖が見えなかったもん」
頭をさする刹那が、視界に映るステータス画面を鬱陶しそうに手で振り払う。
「でしょ? とはいえ、慣れれば、表示・非表示を上手く切り替えられる様になるから、視たい物だけにピントを合わせたり出来るんだけどね。でも、それは普通にしている時だけの話で、戦闘中は常にステータス画面を表示させてないといけないから、最終的には常に視界にステータス画面がある状態に慣れなくちゃならない」
真太郎がそう言うと、みこが『ステータス画面』を閉じたり開いたりして、視界の違いを確かめた。
「わぁ~。ステータス画面が有ると無いとじゃ、見える世界が全然違うや。っていうか、ステータス画面の表示・非表示の切替作業を戦闘中にやるのは、結構大変だぞぉ~」
「そうなんだよ。でもだからって、ステータス画面を出さない訳にはいかない。なぜなら――」
真太郎がここまで言うと、脇にいたイナバが話を引き継いだ。
「ステータス画面を出さない事には、『勇者ゲームのシステム』を使う事が出来ないから、でござるな?」
「その通り。後方で回復や補助をしていればいいだけのヒーラーの俺はまだしも、師匠とチュウとみこちゃんは前衛職だから、どうしても前に出なきゃいけなくなる。そんな『敵が目の前にいる状況』で、ステータス画面を操作しつつ敵と戦うってのは、かなり難しいはずだ」
「その言い方だと、戦闘は結構厳しいってことか?」
てっきり俺TUEEEEが出来ると思っていた刹那が、現実の厳しさに触れてしゅんとする。
「そう思っておいた方が良いと思うね。少なくとも、慣れるまでは」
「ここは勇者ゲームに酷似した場所でござるが、実質は『ゲーム』ではなくて『現実』でござる。ゲームの様に簡単に戦えはしないでござるよ」
一応、何回も戦闘をこなしている二人の言葉には、確かな説得力があった。
「そうは言っても、『魔法』も『スキル』も、慣れれば楽に使える様になるから、視界とステータス画面の操作の問題さえクリアしちゃえば、単純な戦闘なら難なくこなせるんだけどね」
「経験者は語るって事か? バカタローの癖に生意気だな」
「親切に教えてやってるのに、なんて口の利き方だ。『ホールドエネミー』!」
「うわっ! ツッコミの要領で魔法を仕掛けんじゃねーよっ!」
真太郎はPKとの実戦に加え、イナバと刹那に戯れで魔法やスキルを何回もけしかけていたので、既にこの世界独特の『システム』の使い方をかなり極めていた。
「因みに、魔法を使用する際『ゲーム版』では、ステータス画面の魔法メニューの魔法リストから、いちいち選択しなければいけないのだが、それでは『リアル版』では危険が高すぎる。故に、使用頻度と利便性に優れた魔法やスキルは、予めショートカットに登録しておく事を推奨する。さすれば、音声入力の要領で、こういう事が出来る」
「ふむふむ。勉強になるなぁ」
意外に真面目なみこが、真太郎の言葉をメモに取る。
「補足すれば、剣技や体術などの『スキル』も同様の操作で、即時発動が可能でござる。ただし、スキルは発動モーションがあるので、それを覚えていないと、予期せぬ体の動きに翻弄されて失敗してしまうでござるがな」
「このクソ野郎共っ! したり顔で語ってねーで、これを解けよっ!」
「ホールドエネミーの有効時間は三十秒だ。しばらく待っていなさい」
真太郎はそう言って、激しく暴れる刹那をあしらうと話を続けた。
「ところで師匠、職業は?」
「恥ずかしながら、ノージョブでござる」
不意な質問をぶつけられたイナバが、気恥ずかしそうにはにかみながら答える。
「……いや、リアルの話ではなく、勇者ゲームでの『職業』です。この会話の流れで、リアルでの話なんて聞く訳ないでしょ」
「ござっ!? こいつは恥ずしミステイクでござるぅ~!」
「馬鹿め。キモオタはやっぱり無職だったか」
勝手に自爆したイナバを刹那が「けけっ」と嗤う。
「失敬な、拙者は無職ではないでござるよっ!」
「まーまー、チュウの言う事でそう荒ぶらないで。んで、チュウは中学二年生だっけ?」
「おい、勇者ゲームでの『職業』の話じゃなかったのかよっ!?」
『勇者ゲーム』には、MMORPGのご多分に漏れず数多くの『職業』がある。
基本になるのは、ゲーム開始時に選択する『基本職』で、これには『戦士、格闘家、シーフ、弓使い、魔法使い』の5種類が存在する。
そして、これらの『基本職』の『職業レベル』を上げる事で、『基本職』を卒業して『上位職』にクラスチェンジする事が出来る様になる。
例えば、基本職『戦士』からは、『守護剣士、聖騎士、暗黒騎士、剣闘士』。
基本職『魔法使い』からは、『祈祷師、治癒魔法師、呪術師、魔導師』――といった具合に、それぞれの系統の『基本職』から、様々な『上位職』に派生して転職していくのが、勇者ゲームの『職業システム』だ。
「いいか、よく聞けバカタロー! 俺の職業は『暗黒騎士』だ、中学生じゃねぇ!」
『暗黒騎士』――『闇の力に魅せられ、魔と共に暗闇に堕ちた騎士。戦う目的や意味は最早無く、ただ敵を殺戮する事のみに生の喜びを見出す』などという中二心をくすぐるフレーバーテキストにより、中高生プレイヤーの圧倒的支持率と断トツの地雷キャラ率を誇る職業だ。
本来は敵殲滅に特化した優良アタッカーだが、プレイヤー人口に占める地雷キャラ率の高さから、厄介者扱いされがちな不遇な職業だったりもする。
「んで、俺が『治癒魔法師』か」
『治癒魔法師』は、魔法系職業の中でも最も回復に特化した職業であり、『勇者ゲーム』の世界において回復の要の存在である。基本的には、仲間に守られながら後方で回復と支援をするのが、治癒魔法師の役目だ。
しかし真太郎は、自分に補助魔法と自動回復魔法を重複使用する事で、戦闘能力にブーストをかけ、戦闘職に頼る事無く自らの手で敵を撲殺する『攻守一体スタイル』を好んでいた。いわゆる、『殴りヒーラー』である。
「そして、拙者が『侍』でござる」
『無職』と思われたイナバの職業は、実は『侍』だった。
侍は、凄まじい切れ味を誇る武器『刀』を用いた武術を使用する異国の戦士だ。
前衛職の中でも高威力の特技を持つ生粋のアタッカーである。また鎧兜で重装備する事により、壁役も担える。更に、『槍』や『和弓』、超レア装備の『和銃』を装備すれば、即座に遠距離アタッカーにもなれるという玄人好みの万能選手だ。
この様に、基本は玄人好みの侍だったが、大鎧や袴、刀に薙刀といった和風な見た目の装備品が『侍』の専用装備として用意されている為、バトルよりもロールプレイングを楽しみたいライト層にも非常に人気がある。
とはいえ、MPの代わりにHPを使用するスキルや、リキャストタイムが長いスキルなどの、運用が少々難しいスキルが多いので、『侍』を職業に選ぶ際には、常に戦況を見極めながら戦闘を組み立てるプレイヤースキルが必要になってくる。
そんな訳で、実戦で運用するにあたって、ある程度のプレイヤースキルが必要とされる侍は、初心者よりも中・上級者のプレイヤーの人口が多い。
「んじゃ、最後、みこちゃんの『職業』は?」
「はーい! あたしの『職業』は『魔法戦士』だよっ! カッコイイ武器さばきと魔法の合わせ技で、わるーい魔王をやっつけちゃうよっ!」
みこの職業『魔法戦士』は、特殊な条件を満たす事によって転職が可能になる『特殊職』だ。
『特殊職』には、『魔法戦士』の他に、『狂戦士』や『古武術家』、『死霊術師』に『陰陽師』などのちょっと変わった職業がカテゴライズされている。
『特殊職』に転職する為には、多くの場合、専用のアイテムの入手や、専用のクエストをクリアしなければいけない。因みに『魔法戦士』に転職するには、戦士と魔法使いの基本職を両方マスターする必要がある。そして、一応特殊職である『侍』は、なんでもいいから種別・『刀』の武器を入手するだけで、転職が可能だ。
さて、本題の『魔法戦士』である。
『魔法戦士』は、魔法と武器攻撃を融合させた特殊スキル『魔法戦技』を操る魔法の戦士だ。この『魔法戦技』はかなり強力なスキルで、そこら雑魚敵から強力なレイドボスまで、幅広く活用できる便利な代物である。
魔法戦士の基本的な戦い方は、敵の弱点属性の魔法を武器にかけて攻撃するというものであり、敵の弱点に合わせて攻撃の手段を変える事が出来る魔法戦士は、どんな敵を相手にしても、相手の弱点を突く事が可能なのだ。その為、かなり使い勝手の良い職業となっている。
因みに、戦士の名の通り、剣はもちろんの事、槍や斧、盾と鎧などの重装備も可能である。だが、この職業の装備の真骨頂は、ファンタジックでヒロイックな衣装の多さにあるだろう。
オペラや戯曲に出て来る様なバロック風の衣装や、ターバンやヴェールなどのアラビアン風衣装、ビジュアル系の様に耽美でコスメティックなゴス系衣装、あるいはマジカルでリリカルな魔法少女――といった派手で華美な衣装が多数取り揃えられており、お洒落さんなら誰もが、一度は使ってみる職業だったりもする。
「成程。暗黒騎士と侍、魔法戦士に治癒魔法師か。何気にバランスいいね」
パーティーメンバーの職業調査が終わるなり、真太郎がほほぅと声を漏らす。
「スゲー適当に組んだ割には、俺達のパーティは、アタッカーがチュウとみこちゃんの二人、タンクが師匠、ヒーラーが俺と、なかなかまともな形をしているじゃあないか」
「う~ん、偶然にしては出来すぎてるね。これは正にディスティニーだよっ! きっと、あたしたちは最初から、この世界で出逢う運命だったのさっ! ねっ、シンタローさん!」
ロマンチストなみこがそんな事を言ってはしゃぐなり、刹那が激しく暴れながら吠えた。
「んな事はいいんだよっ! 語ってねーでこれを解けっ!」
刹那が叫ぶと同時に、ホールドエネミーの魔法の効果が切れて光の鎖が消滅しする。
「お、解けたか。おい、チュウ。もう一回、杖で殴るからまた避けてみろ」
「あぁ!? 殺すぞっ!」
真太郎に散々な目に遭わされていた刹那は、めっちゃキレていた。
「こらっ! 女の子がそんな怖い顔しないの。三十秒も慣れる時間をやったんだ、次は避けろよ」
「またかよ、ふざけんなっ!」
「なんだ、出来ないのか? 勇ゲーをやり込んだ凄腕ゲーマーのお前なら、今の『勇ゲーシステム風』の視界にも、もう慣れたと思ったんだけどな?」
真太郎が試す様に言うなり、刹那がふんと鼻を鳴らして剣を構えた。
「さっさと来な。今度はテメーのその杖を、叩き落としてやるよっ!」
(チュウは分かりやすい性格だなぁ。適当にちょっと煽ってやるだけで、すぐに元気になってくれる)
長年一緒にゲームをやり続けていたおかげで、刹那の性格が手に取る様に分かる真太郎は、手のかかる子供じみた性格の彼女をもう掌握し始めていた。
「今回はカウント無しな」
刹那が「おう」と答えた瞬間、真太郎が杖を振り下ろした。




