第18話 魔王ぶっ殺すッ! でも、その前に特訓だよね♪
いきなり声を揃えて魔王を殺すと言い出した真太郎とみこに、イナバと刹那が軽く引く。
「ま……魔王、ぶっ殺すッ! でござるか……」
「お前ら、無茶苦茶だぞ……!」
イナバ達が自分の言葉に引くのを見たみこが、拗ねたように口を尖らせる。
「え~、間違った事言ってないよぉ! だって、ここで答えの出ない問題を邪推と妄想まみれで考え込んで鬱になっちゃうより、魔王を倒しに行った方がいいもん。だって、この世界はゲームと同じルールで動いているんだよ?」
「ふ~む……。みこ殿もシンタロー殿と同じく、このリアル版勇者ゲームでも、『魔王を倒せばゲームクリア』だと思っているのでござるな……」
イナバがどこか悩ましげに言うなり、刹那も困惑気味に眉を寄せる。
「バカタローが言うならともかく、割とまともそうなみこも、魔王をぶっ殺せば、このリアル版勇者ゲームが終わるって考えてるのか……」
直感で思った事を単純に口にしただけのみこは、刹那達が何故考え込むのかが分からず、きょとん顔をするだけだ。
「え、違うの? だって、ここは勇者ゲームの世界そのまんまじゃん。だったら、やる事も同じじゃないの?」
そんなみこを見かねた真太郎が、話に混ざる。
「多分、みこちゃんが今言った事は正解だと思う。ってのも、この世界は、あまりにも『勇者ゲーム』にそっくり過ぎるからね。だって、景色とか建物だけじゃなく、スキルに魔法、更にステータス画面とかのゲームシステムまでもが、現実のものとして存在してるんだよ。なら、ストーリーまで現実に存在してなきゃ、逆におかしいよ」
「……確かに、言われてみればその通りでござるな。という事は、拙者達が魔王を倒せば、エンディング……そこまではいかなくても、今の状況が好転する様ななんらかのリアクションが起こる事は、十分に考えられるでござるよ」
確信は持てないが、状況的には確かに、真太郎の言う事には筋が通っていた。なので、最初は半信半疑だったイナバも彼の話に納得せざるをえなかった。
「でしょ? そして、そのリアクションは、かなり高い確率で現実世界の帰還だと思う。根拠なき推論ながら、この考えには奇妙な確信を持てる。何故ならば、勇者ゲームでの俺達プレイヤーは、『運命の女神』の手によって、魔王を倒す為に現実世界から勇者ゲームの世界に召喚された存在『勇者』、っていう設定だったからね」
「今の拙者達の状況と瓜二つな設定でござるな……」
「それに、それに! ゲームでラスボスの『魔王』を倒した後、勇者達が現実世界に帰るストーリーのエンディングが存在したよ。みんなも見たでしょ? って事は多分、この世界でもあたし達『勇者』は、魔王を倒す事で現実世界に帰れるんじゃないのかなぁ?」
真太郎の話を引き継いだみこが言い終わると、イナバが得心のいったような顔をした。
「何ゆえ、拙者達『勇者ゲーム』のプレイヤーが、ゲームそっくりの世界に転移させられたのか、ずっと疑問だったのでござったのだが、シンタロー殿とみこ殿の話でなんとなく答えが分かったでござるよ」
「ああ、俺達をこの異世界に転移させた奴は、俺達に魔王を倒して貰いたいって事だな! きっとそいつは、ゲームを利用して、魔王を倒せる勇者を探してたんだよ。ふふん、ありがちな話だが、それだけにまんざら外れでもなさそうだぜ」
などと、すっかり分かった気になっている刹那が訳知り顔をする。
「よっしゃ、この世界での目的が分かったぜ。早速街に行って、魔王退治の準備をしねーとなっ!」
現実に帰れるという希望を得た刹那が、俄然やる気を出して仕切り始める。
だが、真太郎はそんな彼女の提案を却下した。
「いや、街にはいかない。さっき退治した奴が、目を覚まして俺達にリベンジしようとしている確率が高いから、鉢合わせしたら困る。もう面倒はごめんだよ」
真太郎の言い分はもっともだった。
「確かに、シンタローの言う通りかもな」
なので、刹那は不満げに口を尖らせるだけで、いつもの様に反発はしなかった。彼女は地雷キャラだが、馬鹿ではないのだ。
「だから、しばらくここら辺で時間を潰そう」
「それはいいけど。時間を潰すって、何すんだよ?」
「魔王と戦うと言うのならば、本格的に今の『勇者としての体』の動かし方と、この世界での『ゲームシステム』の使い方を知らなきゃならないと思う。とりあえず、簡単な戦闘訓練みたいな事がしたいかな?」
先々を見通す真太郎の提案に、刹那が素直に応じる。
「確かに。魔王を相手にするんだったら、特訓は必要だなっ!」
「あはっ、なんか面白そう! 特訓なんて、わくわくしちゃうねっ!」
「ちょっと、三人とも! なんで魔王と戦う事が既に決定になっているのでござるかっ!? もっと色々考えなきゃ、ダメでござるよ! 早計でござる!」
すっかり魔王と戦うつもりで話を進める真太郎、刹那、みこの三人を、割と冷静なイナバが諌める。
だが、すっかりやる気になっている三人は、キモオタの事など気にもかけなかった。
「特訓場所なんだけど、街にすぐに逃げこめて、かつ人目につかない所がいいなぁ……。チュウは、ここら辺を根城にしてたんだろ? どっか良い所知らない?」
「ふふん。お前、俺を仲間にしてよかったな。うってつけの場所に案内してやる」
得意顔の刹那はそう言うと、パーティーの先頭に立って歩き出した。
「え、マジで知ってんの!? やったね、お前を仲間にしてよかったわ!」
「ふん、当然だ。今頃気付くな。だから、お前はバカタローなんだ」
「刹那ちゃんは、頼もしいなぁ!」
「ふふん、そうだろう」
他人であるみこに褒められるのは、知り合いの真太郎に褒められるより嬉しかったのだろう、刹那が一層得意げ胸を反らす。
「ちょ、三人ともどこへ行くでござるかっ!? もう特訓する事は、決定なのでござるかっ! 拙者はまた一人だけ、除け者なのでござるかぁぁぁー!?」
楽しげにじゃれ合う真太郎達の後を、除け者のイナバが慌てて追った。
「しかし、バカタローは妙な奴だな。勇ゲーのプレイヤー達が、この世界に取り込まれてから、もう七日も経つが、新規でこの世界に来た奴を見たのは、お前が初めてだぞ」
先頭をトコトコ歩く刹那が、不意に妙な事を言い出した。
「どういうこと?」
「どうもこうも、今言った通りだ。この世界に俺達『勇者ゲームのプレイヤー』が飛ばされて来たのは、ほとんど同時だ。それより先にこの世界に来ていた奴も、それより後に来た奴もいなかった……お前を除いてな。これはどういう事だ? お前だけが特別な何かなのか? やはり、運命の女神にチートを授かったのか?」
ズルを指摘する様な顔つきの刹那が、真太郎をジト目で睨みつける。
「チートって何のだよ? 皆より早く来てれば、チートかもしんないけど、遅れて来てるんだからチートじゃねーだろ。しかも、ここに来る前に女神に半殺しにされてんだぞ、そんな事あり得るかよ。多分、ただのラグかなんかだろ?」
「ラグだと?」
「俺の使ってたパソコンは古い奴だし、ネットは無線だったし、それで異世界への転送が遅れたんじゃねーの? ゲームをやっててこの世界に転送されたんだったら、そーなるだろ?」
「この世界に転移する速度って、ネット回線の速度と比例するの?」
みこが素朴なツッコミを入れると、イナバが脇から話に混ざって来た。
「おや、シンタロー殿。ログインが遅れた事は、言わないのでござるか?」
「ログインが遅れた? なんだそれは?」
イナバがそう言うなり、刹那が真太郎にすぐさま質問をぶつけた。
(チッ。キモオタめ、余計な事を)
面倒臭かったので言わないでおいたのだが、イナバが余計な口を挟むので仕方なく、自分がここに来た時の事を刹那に聞かせる真太郎だった。
「成程。お前は、アプデ直後にインしてなかったから、こっちに来るのが遅れたのか。しかし、基本毎日ゲームにインしていたお前がなぜ、一週間もゲームをほったらかしにしていたんだ? しかもアプデ直後に」
(こうなるから、言いたくなかったんだよ……)
真太郎は、受験に落ちた事を再び思い出すと、急に胃が痛くなって死にたくなった。
「……一身上の都合だよ」
多くを語らない真太郎のあまりにも苦渋に満ちた暗い顔を見た瞬間、刹那はそれ以上追及するのを止めた。
「なら仕方がないな。良く分からんが、元気出せよ?」
ヤバいぐらいに落ち込む真太郎を見て慰めの言葉をかける事が出来る刹那は、思ったよりいい子なのかもしれなかった。
そんな事をやっているうちに、刹那は雑木林の中の開けた一角に、真太郎達を連れて来ていた。
「どうだ。ここなら、街から近いし、背の高い草木が壁になってくれているから、雑木林の外からは、こっちが見えないぞ。なのに、こちらからは、向こうがよく見える。ふふん、ご要望通りのいい場所に連れて来てやったぞ」
そう言って胸を張る刹那の隣で、真太郎が大きな石を撫でる。
「座って休めて、スキルや魔法の的にするにも手ごろなデカい石もあるし、いい所じゃん。特訓におあつらえ向きだな」
「だろ? 実は三日ぐらい前から、ここでスキルの使い方の練習をしてたんだ。ここなら、PKみたいなアホが寄ってこないから、集中して特訓できるぞ」
刹那はそう言うと、おもむろに袖口から仕込み剣を飛び出させた。
どうやら、既に気合は十分の様だ
「所で、チュウはもう戦闘は経験したの?」
「あるぞ。お前となっ!」
意外と執念深い刹那が、そう言って仕込み剣を真太郎に突き付ける。
「いや、それはもういいんだよ。俺以外の誰や何かと戦った経験は、あるのか?」
「あるかよ、そんなもん。戦いなんて、怖くて出来ねーよ……」
刹那はふてくされたかの様に言うと、近くの草を剣で薙ぎ払った。
「チュウは戦闘未経験、っと。じゃあ、師匠はどうですか?」
「人間は、シンタロー殿を襲ったあのアキトとかいうPKのみでござる。モンスターは、キラーハムスターを三匹ほど倒しただけでござるな」
「成程。師匠は対人、対モンスター戦を経験済み、と。みこちゃんは?」
「はーい、先生! あたしは、戦闘未経験でーすっ!」
「はい、みこ君。分かりました、席についてください」
元気におどけるみこを石に座らせると、真太郎はふむと言って腕を組んだ。
「んで、俺の戦闘経験は、アキトとチュウのPK二人のみ、と」
全員の戦闘経験を聞いた真太郎は、とりあえずの現状分析を始めた。
「どうやら、四人の戦闘経験にバラつきがあるので、これからそれを調整しましょう。出来れば、特訓の中でモンスターと人間の双方と戦いたい。とはいえ、いきなり実戦はかなり怖いので、この面子で模擬戦をしようと思う」
「それが妥当でござろう。四人いるとはいえ、いきなりモンスターは危険でござるし、見知らぬ人と戦う訳にはいかないでござるからな」
「そうだね。シンタローさんの提案に賛成するよっ!」
「俺は、バカタローをぶっ飛ばせれば何でもいいぜっ!」
真太郎の意見に、イナバ、みこ、刹那の全員が、満場一致で賛成する。
「せっちゃん、はしゃいでる所悪いが、この世界での戦闘はなかなか難しいよ。現実にいた頃と身体感覚が変わらないから、実感が無いと思うけど、この世界では見える世界が、元いた世界とは違っているからね」




