第17話 湧き上がる疑問 僕らが異世界に来た理由とは?
気付いたらうっかり仲間になっていた霊長類ヒト科最強のキモオタ・イナバ。
PKに襲われていた所を助けたら、すんなり懐いた小悪魔系元気娘・みこ。
そして、なんだか良く分かんないうちに仲間になった荒ぶる中二病美少女・刹那。
真太郎は、ゲーム風の異世界に異世界転移してから、小一時間も経たないうちに妙な連中達を次々と仲間にしていた。
そして、彼らとパーティーを組むなり、何を思ったか、突然『魔王を殺しにいく』などと物騒な事を言い出しており――。
「お前、馬鹿か? 何言ってんだよ」
真顔で妄言を吐く真太郎を、馬鹿を見る目つきで刹那がたしなめる。
「馬鹿は、お前だチュウ。いいか、『勇者ゲーム』のゲーム目的を思い出せ」
『勇者ゲーム』は、ゲーム内で自由気ままに生活を営みながらコミュニケーションやバトルを楽しむ事よりも、どちらかと言うと、プレイヤーの選択で刻一刻と変わり続けるストーリーを解き進める事に重きを置いたゲームだった。
そして、ストーリーの最終目的は、タイトルから分かる通り、プレイヤー達『勇者』による『魔王の討伐』である。
「話変わるけど、皆はこの世界に来た直前の事を覚えてるかい?」
「なんで話を変えるんだよ?」
目ざとい刹那が即座にツッコむ。
「いいから、答えてよ」
「あん? 確か……ゲームをアプデして『あたらしい冒険を始めますか』とか出て来たから『はい』って押して、気付いたらここにいたな」
「……成程。師匠もチュウと同じ感じですか?」
「うむ」
「みこちゃんも?」
「そうだね。アプデの時の質問に『はい』って答えて、気が付いたらオリエンスの街にいたよ。あたし以外の人達も大体、そんな感じだったよ」
「……ふーむ」
皆の答えを聞き終わった真太郎が、腕を組んで眉間に皺を寄せる。
「……おかしいな。俺だけ皆と違うぞ」
「ん? 何が?」
真太郎の呟きを耳にしたみこが、小首を傾げて彼に尋ねる。
「俺は皆と違って、そもそもあたらしい冒険うんぬんの質問に『はい』って答えてない」
「え? それって、どういう事?」
真太郎が思いがけない事を言い出すなり、みこが訝しげな顔をした。
「どうもこうも、言ったままだよ。俺はアプデの際の質問に『はい』って答えなかったんだ。そしたら、いきなり画面が光って、気が付くと真っ白い場所にいて、そこで『女神』を名乗る女に出会ったんだ。んで、そいつに無理矢理、この世界に転移させられたんだよ」
「「「はぁぁぁ~!?」」」
真太郎がここに来た時の事を話すと、全員が変な声を出した。
「良く分からんでござるが、『女神を名乗る女』って、どんな女でござるの?」
疑問に駆られたイナバが、いの一番に質問をする。
「どんなって、勇ゲーに出て来る『運命の女神』そっくりの女ですよ。皆、覚えてるでしょ? 勇ゲーのナビゲートキャラで、ゲームのパッケージや宣伝に必ず出て来る青い髪の女神だよ」
『運命の女神』は、勇者ゲームにおける公式のマスコットキャラであり、世界を救わんとする『勇者』であるプレイヤー達を導く、ストーリーの要的存在である。
「俺は、この世界に来る前に『運命の女神』に会ったんだよ。皆も言ってないだけで、女神に会ったでしょ?」
真太郎がそう言うなり、みこ、イナバ、刹那の三人が揃って首を横に振った。
「ううん、女神様になんて会ってないよ」
「拙者もでござるよ」
「おい、一体どういうことだ? 女神に会った奴なんて誰もいねーよ。しょうもない嘘をつくんじゃねーよ!」
嘘をつかれたと思った刹那が、キーキー言い出す。
だが、真太郎は主張を変える事は無かった。
「俺は、ここに来る前、『運命の女神』に会っている、これは揺るぎない事実だ」
どう見ても嘘をついている風には見えない顔をする真太郎を見た皆が、揃って眉間に皺を寄せる。
「……この状況で、つまらない嘘をつくとは思えないでござるな。となると、これは一体どういう事でござるか、シンタロー殿?」
「それは俺が聞きたいですよ。むしろ俺は、なんで皆が『運命の女神』に会っていないのか、の方が、気になりますよ」
「へぇ、いいなぁ。女神様かぁ~、きっとすごい美人なんだろうなぁ~」
メルヘンな所があるみこが能天気にそう言うなり、刹那が真太郎に食って掛かった。
「なんだ、ソレ!? お前だけズルいぞっ! チートか、このやろー!」
「まぁ、あれじゃない? 俺はお前と違って『選ばれし勇者』って事なんじゃないの?」
「くぅ! 得意げな顔が、むかつくぅ!」
「所で、リアルの『運命の女神』は、どんな人でござった?」
イナバがそう質問するなり、真太郎が急に真顔になる。
「……怖い奴だった。現れるなり、いきなりドロップキックしてきて、そのまま鬼ババアみたいな形相で、逃げる俺をずっと追いかけて来た……!」
あの時の事を思い出した真太郎が、強い恐怖を顔に滲ませ、体を震わせる。
「え、なにそれ怖い。俺の知ってる異世界転移ものとなんか違う」
思っていたのと違うとんでもないエピソードを聞いた刹那が、思わずドン引く。
「で、めっちゃ蹴られて痛めつけられた後、トドメのエネルギー弾みたいな変な攻撃喰らって、気が付いたらこの世界にいた」
「なんだよ、ソレ!? こえーよ! なんで、女神に攻撃されてんだよっ!?」
真太郎の嘘か本当か分からないが、とにかく得体の知れないエピソードを聞かされた刹那が、小さな体をぶるっと震わせて怯える。
「なんでかなんてのは、俺が聞きたいよ。っていうか、あの怖い女が本当に勇ゲーの世界に出て来る『運命の女神』だとしたら、一つ問題がある」
「問題?」
真太郎の言葉を聞いたみこが、小首をかしげる。
「そう、問題だ。あの女の正体は皆目見当がつかないけど、今のゲームが現実になっている状況から推測すると、勇ゲーの世界の『運命の女神』なんだろうよ。で、あの女が『運命の女神』だとすると、おかしな事がある」
「おかしな事?」
真太郎の言葉を聞いたみこが、再び小首を傾げる。
「うん。あの女が『運命の女神』だったとしたら、今の状況的にゲームの世界のルールで動いているべきなんだ。だけど、あいつはいきなり俺に問答無用で襲い掛かり、無理矢理この世界に転移させた」
「それのどこが、変なの?」
みこが間抜けな事を言い出すなり、真太郎が呆れ顔を作る。
「いや、変過ぎでしょ。この世界が勇者ゲームの世界なら、あの女はゲームを始めた時に『運命の女神』が、オープニングで言う様な『魔王を倒して世界を救ってください、勇者様』みたいな台詞を言ってしかるべきなんじゃない?」
「あー。確かに」
「それ以前の問題として、何かやらせたい事があるんだったら、その目的を言うのが普通でしょ? でも、奴は俺に対して『問答無用でリアル勇者ゲーム参加だかんな!』って怒鳴り散らしただけだった。つまり、あの女が何を目的にして俺をこの世界に送り込んだかが、皆目見当がつかないんだよ」
真太郎はそう言うと、ふぅとため息をついた。
「ただ、この異世界が『勇者ゲーム』に酷似している事は紛れもない事実だ。という事は、おのずと俺達のやるべき目的も決まって来る」
「あたし達はかっこいい勇者様になって、わる~い魔王をやっつけて世界を平和にするんだねっ!」
何気にロマンチストな所があるみこが、元気いっぱいに答える。
「俺もそう思う、だからさっき魔王を倒すって言ったんだ。だけど、今色々話してたら、話がそこまで単純じゃないのかも、と思い直してもいる」
「ふぇ? なんで?」
「なにせ、女神を名乗る鬼ババアは俺達を無理矢理拉致して、この世界に送り込んだまま、まったくコンタクトを取ってこないんだ。実の所、俺達は、魔王を退治する為の、ただ使い捨ての駒にされただけかもしれないよ」
「そんな事ないでしょ? だって、女神様だよ?」
「便宜的に女神と言っただけで、正確な所は邪神に近かった。そんな邪神がやるんだから、俺達は魔王を倒す為だけに異世界に拉致された訳じゃないだろう。下手したら、人間同士をこの世界で争わせ蠱毒みたいな事をしているのかも……」
女神との遭遇エピソードがかなり暴力的で恐怖に満ちていた為、真太郎の考えはかなりネガティブな方向に向かっていた。
「何言ってんのさ! 勇者ゲームの目的は、仲間達と力を合わせて魔王を倒す事だよ! 女神様がそんな酷い事する訳ないじゃん!」
「確かに。『勇者ゲーム』は、魔王を倒す事で、晴れてゲームのエンディングを迎える――あの女神を名乗る鬼ババアの人格に期待は出来ないが、もしあいつが勇者ゲームを作った存在だとするならば、運営としての良識にすがりたい」
真太郎がそう言うと、刹那が何かに思い当たって「あっ」と声を漏らした。
「運営としての良識? あぁ、勇者ゲームの運営は、他のゲームと比べても格段に親切だったからな。ちょっとした質問メールでも、すぐに丁寧に返信して来たし、RMT業者の排除とかスゲー熱心だったし。ロールバックした時の謝罪でアイテムの大盤振る舞いとかもあったな」
「そうそう、意外と運営がいい奴らなんだよ。そーいえば、サイトも充実してたよねっ。あとは、ゲーム実況とか、ファンアートとかも運営が積極的に関わって、すごい盛り上がってたし」
ゲーム時代の事を思い出したみこが、刹那の話に加わる。
「でも怖いでござるな。シンタロー殿の話が的を得ているとするならば、能天気に『異世界転移で、チート使ってハーレム作りだぜッ!』とかは、口が裂けても言えない状況でござるよ。最早、サスペンスかホラー状態でござる」
「……確かに。俺は今ん所、お気楽な異世界転移モノじゃなくて、サバイバルホラー状態だしな」
思っていた以上に良くない事態に巻き込まれている事を知ったイナバと刹那が、目に見えて顔を曇らせる。
「必要以上に怖がらなくてもいいとは思いますけどね。全ては俺の想像にすぎない訳ですし。それに、今の俺達は、ゲームの勇者同様にかなり強い。単純にサバイバルするだけだったら、そんなに問題はないんじゃないのかな?」
邪推に振り回されつつも現状認識は割と冷静に出来ている真太郎が二人を励ます様に言うと、同じく深刻な顔をしていたみこが、ここで顔をパッと明るくした。
「だねっ! なんだか良く分かんないけど、『勇者ゲーム』にそっくりな世界に来た以上、やる事はゲームと同じだもん! なら、やる事は一つ――」
みこがそこまで言うと、彼女に続いて真太郎が口を開いた。
「「魔王、ぶっ殺すッ!」」




