第42話 勇者ゲームを始めよう!
「最初の約束通り、バトルロイヤルで敗退した参加者は、この戦いに勝利した奴の言う事を聞いてもらう。それを承知で参加したんだ、約束は守って貰うぞ。無論、俺も負けたから、優勝者に従う」
バトルロイヤルの興奮が未だ冷めやらぬコロシアムに赴いた真太郎が、参加者と観客を前にして締めの挨拶をする。
「この約束が気に入らねー奴は、回れ右して帰って貰って構わない。だが、ここで逃げたら、ここにいる参加者全てと観客全てから卑怯者となじられるだろう。それでもいいって奴は、ここから出ていってくれ」
真太郎は言い回しを工夫する事で衆人環視の状況を作り出し、参加者に約束を守らせる心理状態を作り出した。
しかし、しょせんは強制力のない口約束。
参加するだけ参加した連中が、パラパラとコロシアムを出ていく。
だが、ギルド会談に参加したギルドや有名プレイヤー達が多数残っているので、大部分はそのままコロシアムに留まり続けた。
(大体、八割残ったって所か……まぁ、こんだけ残れば上出来だろ)
思いのほか、参加者が残った事に真太郎は気を良くする。
「負けても文句を言わず、潔く約束を守る気持ちのいい奴らばかりで嬉しいよ」
真太郎は笑顔でそう言うと、コロシアムに集まっている連中をぐるりと見回した。
「ところで、みんな。死の味はどうだったかな? 君が味わったのが、どんな味かは分からないけれど、それを良く覚えておいてくれ。さっきまで元気に暴れ回っていた君が、次の瞬間、ただの肉塊に変わる。冷たくなり、感覚がなくなり、全てが死の闇に飲まれる。全てがただ静かに闇に包まれる――」
ゆっくりと語り始めた真太郎が、参加者達に『死』を思い出させる。
「そして、光に包まれて君は目覚めた。君が体験したのは、臨生体験ってやつだ。そして、死の闇に包まれていた君を光の中に連れ出してくれたのは、バトルロイヤルを終わらせてくれたコイツだ」
真太郎がそう言うと、アダーに背中を押された刹那が壇上に姿を現した。
「見た目は可愛い女の子でも、コイツは俺達のなかでもぶっちぎりに強いスゲー奴だ。こいつに付いて行けば、少なくとも無惨に敵に負かされる事は無いはずだ。これだけは断言できる」
戸惑いがちによたよたと壇上に出て来た刹那の肩をポンと叩く真太郎が、コロシアムに集まった連中に彼女を紹介する。
「バトルロイヤルを制した優勝者の挨拶だ。みんな、心して聞いてくれっ!」
「え~……あ、あのっ……そ、その……」
紹介されたはいいものの、いきなり大勢の人間の前に出された刹那は、緊張してしまって挨拶するどころではなかった。
「頑張れーっ! 負け犬どもにガツンと一発かましたれーっ!」
緊張し過ぎて今にも逃げ出しそうな刹那を見たみこが、大きな声を出して応援する。
「み、みなさん……こ、こんにちは。あ、あの! 優勝した……ものです……」
刹那が後ろを振り返ると、真太郎とアダーが「一発かましてやれ!」とばかりにジェスチャーする。
それを見て勇気づけられた刹那が、こくりとうなづく。
「自信を持つんだっ! 今のわたしだったら、なんでも出来るはずっ!」
それから大きく深呼吸し、パシン! とほっぺたを叩いて気合を入れた。
「優勝者になったわたしですが、あまり偉そうな事は言えません。だって、わたしが、優勝者としてここに立っているのは、わたしの実力じゃありませんから」
いつもの勝ち気さを捨てた刹那が、控えめながらはっきりした口調で謙虚に語り始める。
「わたしが優勝できた一番の理由は、多分、運とか巡り合わせとかそういうのです。わたしが特別みんなより優れてるとか、そんなんじゃ決してないです」
「「「???」」」
刹那が思いがけない事を言い出したので、みんなは拍子抜けしたような顔をする。
「でも、運も実力のうち。こんなおかしな状況だからこそ、強運の持ち主がリーダーに相応しいかもとか、思ってたりなんかして。あはは……」
たどたどしく言葉を紡ぐ刹那が、照れ隠しのように笑う。
それから、覚悟を決めた顔をして、キリリと前を向く。
「だから一応、わたしが優勝者です。それで、優勝者権限でみんなにやって貰う事を決めました」
刹那はそう言ってから、ぐるりと参加者達の顔を見回した。
「それは、みんながみんなを思いやって、お互いに助け合うことです」
「「「???」」」
てっきり、とんでもない申し付けがくると思っていた参加者達が、訝しげな顔をしたり、拍子抜けしたりしながら刹那の次の言葉を待つ。
「ここに集まったのは、みんな腕に自信のある猛者ばかりです。だけど、そんな猛者でも、あっけなく死んじゃいます。それがこの世界の現実です。不意打ちのPKではなくて、ガチンコ勝負で死んじゃう……それを思い出した上で聞いてください。魔王を含めた上位モンスターは、ここにいる誰よりも強いです。わたしも、わたしの仲間も為す術もなく瞬殺されちゃいました……」
こう切り出した刹那は、自分が体験した魔王との戦いを、コロシアムに集まった全員に話して聞かせた。
「やっぱり、魔王がいたか……」
「だから、魔王討伐軍の再編を急いだんだな」
「あの子でも瞬殺って、どんだけヤバいのよ……」
話を聞いた連中の反応は様々だったが、多くの人間は、魔王の存在に恐怖を覚えているようだった。
「ここでわたし達がまとまらなかったら、きっと死んじゃいます。理由は、魔王やモンスターだけじゃありません。病気だったり、食べ物がなくなったり……なにより怖いのは、わたしたちが仲たがいして、お互いに殺し合って死んじゃう事です」
そんなみんなの反応を黙って見ていた刹那は、彼らの感情が最高に高まった時を見計らって再び口を開く。
「でも、それって逆に考えれば、みんながまとまれば死なないって事です」
刹那ははっきりと断言すると、みんなの顔を見渡した。
「現在の混沌とした状況の原因は、現実世界へ帰れないからです。もちろん、帰る方法は、わたしには分かりません。だけど、この世界で生きていく方法ならなんとなく分かります」
ここで一旦、言葉を区切って間を開けた刹那は、みんなに聞こえるように、良く響く声を出した。
「それは、わたし達が全員『仲間』になればいいんですっ! わたし達が、お互いに助け合ったり出来ないのは、わたし達が仲間じゃないからだと思うんです。だから、わたしは優勝者権限を使い、このバトルロイヤルに参加した全員の人を『魔王討伐軍』にスカウトしますっ!」
「魔王討伐軍?」
「魔王討伐イベントで結成されたギルドか?」
「そこに参加者全員をスカウトする、だって?」
刹那の思いがけない言葉を聞いた参加者達が、各々顔を見合わせてどよめく。
「最初は、『異世界転移で俺TUEEEE!』とか言って浮かれてましたが、まともな食事もとれなければ、安眠すらできないのが、今の異世界生活の現状です。まともに過ごせない今日と、先の見えない明日への不安……想像以上に苦しいです。 サバイバルってやつが、これほど過酷で心身ともにやられるものだなんて思ってもいませんでした……平和な日常を取り戻したい、わたしの願いはただそれだけです」
この刹那の願いに、異を唱えるものなど皆無だった。
異世界に閉じ込められてから、早一週間。
流石に誰しもが、心身共に参っていた。
だからこそ、何か救いがあるかも、なくても何らかの変化はあるだろう――との藁にもすがりつく思いで、罠が仕掛けられている感満載のバトルロイヤルに参加していたのだから。
そんな連中の熱い視線と期待に応えるかのように、刹那の語りにも熱がこもる。
「さっきから偉そうに語ってますけど、具体的にはまだ何も決まっていません。ですが、元いた世界の常識に照らし合わせて人間らしさを失わずに、この過酷な異世界をみんなで力を合わせて生き抜き……そして、ここにいるみんなが誰一人欠ける事無く、元いた世界に……」
コミュ障な刹那は、普段はこんなにしゃべらないし、しゃべれない。
けれども、みんなに自分の思いを伝える為に、精一杯頑張って言葉を紡いだ。
「お家に帰りましょうっ!」
その真摯な思いが通じたのか、話を聞いていたみんなが刹那の意見に全面的に同意してくれた。
「そうだ! みんなで家に帰ろうっ!」
「お嬢ちゃん、ええこと言うやんっ!」
「アンタが、リーダーだっ!」
「はぅぅっ!」
想像以上に参加者達の熱狂的支持を受けた刹那は、思わずテンパってしまう。
「く、詳しくはっ! あ、あの! う、うちのギルマスからっ!」
テンパった刹那が、後ろに控えていたアダーに助けを求める。
「ギルマスは、ボクじゃない。『魔王討伐軍』のギルマスは、刹那だよ」
アダーがそんな事を言うなり、刹那はますますテンパった。
「ええっ!? じゃ、じゃあ! さ、参謀っ! わたし、もうこれ以上無理っ!」
流石に限界だった刹那が、アダーに無理矢理バトンタッチして後ろに逃げてしまう。
そんな刹那を見て「仕方ないな」と小さく笑ったアダーが、壇上で話を始める。
「今、『魔王討伐軍』のギルマスより、紹介にあずかった『参謀』のアダーだ」
アダーは大勢の聴衆を前にしてもまったく緊張してない様子で、いつも通りの涼やかな顔つきで話を始めた。
「我らがギルドの目的は――一つ、この世界で生き延びる事。二つ、この街に平和をもたらし、みんなが帰れる家を作る事。そして三つ、現実世界に帰る事だ」
突然これからの事を語り出したアダーだったが、彼女の話に反対する奴なんて一人もいなかった。
誰もが心の底で欲しつつも実現不可能と諦めていた事を、明確に目的化してくれたのだから。
「今日は困難に立ち向かい、次なるステップに踏み出す日だ。ここで諦めた奴らは、未来を見る事は無いだろう。だが、困難を乗り越えた奴には、必ず未来が見える。それをこの小さな女の子は、あの過酷なバトルロイヤルに勝利する事で我々に示して見せてくれた」
アダーはそう言って、刹那を再びみんなの前に押し出した。
歓声に迎えられた刹那が、恥ずかしそうに彼らに手を振って応える。
「最大の悲劇は、悪人の暴力ではなく、善人の沈黙である。沈黙は、暴力の陰に隠れた同罪者だ。見ざる言わざる聞かざるを続けても、自分を脅威からは守れない。卑怯者や狂人を恐れることはない、みんなで守ろう! この街を、仲間を、なにより自分自身を。悲観や冷笑を止めて、優しさや勇気を取り戻そう!」
アダーが話を締めくくると、入れ替わりで真太郎が話を始めた。
「苛立ち紛れのPKとか、絶望して泣き続けるとか、そういうダサイのはもうやめよう。俺達は、ここが第二の人生ってぐらい勇ゲーにハマったゲーマー連中だ。ここにいる誰もが、一回は思っただろう――『ゲームの世界に入りたい!』と。そして、今俺らは、ある意味で念願叶ってここにいるっ!」
集まった連中を鼓舞するかのように熱く語る真太郎が、ぐるりとみんなの顔を見回す。
先に話していた刹那とアダーのおかげで、みんなの顔に生気というか元気が戻っているように見えた。
良い感じだった。
とても希望に溢れたいい雰囲気だった。
予想外だった刹那の優勝だが、小さな体で精一杯戦い、一生懸命語った彼女のおかげで、ずっと暗く荒んでいたみんなの心が明るく変わり始めていた。
つまり刹那は、みんなに希望に似た何かを思い出させたのだ。
(俺がやる事は、こいつらを煽って煽って、ハートに火をつけて勇者にする事だ。『狂気の扇動者』の底力見せてやるぜ!)
「なのに、やる事はダサい事ばっかり! 冒険もしない、お姫様も救わない、ドラゴンも倒さない! やる事と言えば、自分より弱い奴を狙った卑怯なPKか、仲間内で集まって泣き言と愚痴、あるいは、一人で隠れて絶望に暮れる……こんなクッソダサい事は、もういい加減やめにしないか?」
刹那をアイドルにするついでにみんなを勇者にするべく、真太郎が強い言葉を投げて煽る。
「俺達は、『勇者』だぞっ!? 何をビビる必要があるっ!? 確かにこの世界には、こえー魔王とモンスターいるけど、だからなんだっ!? 俺達には、スゲー強くて頼りになる仲間が、こんなにいっぱいいるじゃねーかっ!」
「俺達は……勇者……」
「そうだよ、あたし達……勇者だったんだ!」
「仲間だってこんなにいっぱいいる!」
「怖いものなんて何もないじゃないかっ!」
真太郎の熱い言葉を聞いた聴衆が、なんだか勇気づけられて無性に心が熱くなるのを感じた。
「レベルはカンスト、アイテム全種コンプ、チートなスキルもある上、死んでも生き返る『強くてニューゲーム』状態だ。ならやる事は一つしかない――」
「「「本物の勇者ゲームを始めよう!」」」
第四章 さんざめけ☆めけ! 勇者だヨ全員集合! 天下一武闘会! ~終~
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