第38話 覚悟を決めろ、勝利の為に!
「チュウ叩き込めッ! 俺の全てをテメーに預けたッ!」
真太郎の放った『勇者の一撃』が、虚ろな目をした刹那にぶつかる!
「うわっ!?」
エネルギーの塊が刹那にぶつかった次の瞬間、目も眩まんばかりの強烈な光が彼女の小柄な体を包み込んだ。
「な、なんだこれっ!?」
光に包まれた刹那のステータスの各種数値が、急激な勢いで上昇しだす。
HP、MP、攻撃力、防御力、回避力、魔力、運――そして、レベルに至るまで全ての数値が目まぐるしいスピードで上昇していく!
「……『勇者の一撃』――仲間の力を集めて敵にぶつける最終友情奥義。そのスキル効果は、使用者の職業特性に左右される……」
「ど、どういうことっ!?」
「治癒魔法師の『回復と補助』の特性が反映された俺の『勇者の一撃』は……俺の力を全てくれてやって『仲間』を強化する起死回生の一撃となる……ッ!」
真太郎の全ステータスを継承した刹那の各種ステータスは、まだまだ上昇を続ける。
「俺の力を全てくれてやった今のお前のレベルは……157ッ! 化け物ババアの全てを追い抜いたぞッ! これなら……これなら奴を倒せるッ! 後は……後は頼んだぞ……ッ!」
伝えたい事全てを刹那に伝え終わった真太郎が、血を吐いて脱力する。
「……クソ! バカタローの癖に……! 『仲間』だとか『頼んだぞ』とか……」
真太郎の思いのたけを聞いた刹那が、俯きながら毒づく。
「俺のことを『仲間』だなんて言いやがって……! 『こんな俺』に頼りやがって……ッ! あのクソ野郎が……ッ!」
イラついたように毒づく刹那が、ぎゅっと拳を握りしめる。
「テメーら! 『見せつけ』てんじゃないわよッ! 思春期のそういう! がむしゃらな熱さとか! 若さとか! 心底ムカつくのよッ!」
真太郎と刹那のやりとりを見たさくにゃんが、何かのスイッチが入ったかのように、かつてない勢いでブチキレた。
「た……戦えッ! チュウ! 今のお前なら、さくにゃんをぶっ倒せるッ! ビビって泣いてる場合じゃねーッ! 戦え……戦ってッ、勝つんだよッ!」
さくにゃんが戦闘態勢に入ったというのに、俯いたまま動かない刹那を見た真太郎が声を荒げて怒鳴る。
「言われなくても……言われなくてもッ!」
真太郎の思いを受け取った刹那が、バッと顔を上げる。
「戦って勝ってやるッ!」
真太郎の熱い言葉で勇気を取り戻した刹那が、アキトから奪った魔剣を手にして猛然と走り出す!
「友情のツープラトン攻撃とかッ! こんなの許せないッ! こんなものでやられるのだけは絶対にイヤ!」
協力して戦いに挑む真太郎と刹那を見た瞬間、さくにゃんの脳裏にある思いが去来した。
失恋。挫折。孤独。無理解。無関心。仕事に忙殺され、淡々と過ぎていく日々。自分を置いてけぼりにして幸せになっていく友人たち。暗くて寒い、ひとりぼっちの夜。愛に見捨てられたような人生――。
「テメーらだけはッ! ぶっ殺さずにはッッ! いられないッッッ!」
「よくわかんねーけど、体中から力が溢れて来るッ!」
真太郎の全てのステータスを受け継ぎ、さらにレベルが限界突破している刹那のステータスは、絶対的強者であるさくにゃんのステータスを遥かに超えている。
これならば、誰一人として攻撃する事すら出来なかったさくにゃんを倒せるかもしれない……!
「くたばりやがれェーッ!」
さくにゃんに肉薄した刹那が、天高く飛び上がる。
勢いそのまま、身の丈ほどもある魔剣を乱暴に振り上げ、さくにゃんの脳天目がけて振り下ろす!
「さくにゃんは死んでも離さねェ! 俺ごとぶった斬れーッ!」
それと同時に、真太郎が残った力を振り絞ってさくにゃんをキツく抱きしめる。
「うらあああああああああああああああああああああああああああああーッ!」
身動きの取れなくなったさくにゃんの脳天に、刹那が魔剣を叩き込むッ!
「お前らに負けたらッ!」
魔剣が叩き込まれる直前、さくにゃんがカッと目を見開いた。
「このあたしがッッ!」
次の瞬間、自由に動く頭を動かし、魔剣に噛みついた!
「まるで惨めな女みたいじゃないッッッ!」
そして、そのまま乱暴に魔剣をへし折るッ!
「な、なにぃぃぃーーーっ!?」
さくにゃんの予想外過ぎる反撃を喰らった刹那が、激しく動揺する。
「青春野郎がッ、死にさらせッ!」
「しかも、噛み砕いた破片を投げて来ただとおおおおおおおおおおおおおーッ!?」
動揺する刹那に、さくにゃんが規格外の反撃を叩き込む!
「ぐぅ! わ、脇腹が……ッ!」
予想外過ぎる反撃に反応が出来なかった刹那に、さくにゃんのカウンターが直撃した。
魔剣で斬り裂かれた脇腹がざっくり裂け、真っ赤な血が噴き出る!
「このあたしに『見せつけた』奴はッ! 神だろうが悪魔だろうがッ! ぜってぇーぶっ殺すッ!」
この年まで女一人で修羅場を生き抜いて来たさくにゃんには、揺るぎない『覚悟』というものがあった!
「ひぃっ!」
さくにゃんの発する邪気にあてられた刹那が、すさまじい悪寒に襲われて身動きが取れなくなる。
心臓を鷲掴みにされたかのように呼吸が止まり、嫌な感触の冷や汗が全身から滝のごとく流れ落ちる。
「はぁ……はぁ……! こ、怖い……っ!」
かつて体験した『負け』と『死』の苦い記憶が、フラッシュバックして刹那を蝕む。
「もう怖いのは嫌だ……逃げたい、逃げたい、逃げたいっ!」
その瞬間、刹那は、気の強い『煉獄刹那』から、気弱な『星宮きらり』に戻ってしまった。
「ま、前を見ろ……! 今やる事はビビる事なんかじゃねェー……! 今のお前は、今までのお前とは別人だ……! 今のお前なら何でもできるッ! さくにゃんをぶっ倒せッ!」
刹那が再び戦意を喪失するなり、真太郎がすかさず彼女を鼓舞した。
「そうだ……ここで逃げる訳にはいかないんだ……。ここでしっぽを巻いて逃げたら……あの時の『負け犬』のわたしのまんまになっちゃう……! そんなのは……そんなのは絶対に嫌だッ!」
真太郎の言葉に背中を押された刹那が、決意を胸に燃え上がらせて闘志を取り戻す。
「もう負け犬はうんざり……! もうあんな惨めな思いは嫌……っ! 学校でいじめられるのも……! 訳分かんない化け物に殺されるのも……! 『このクソババア』に負けるのも……ッ!」
『二度と負けたくない』、『弱い自分でいたくない』という『刹那』の強い思いが、怯えに屈して負け犬のままでいようとしている『きらり』を激しく奮い立たせる。
「覚悟しなッ! 死って奴をねェーッ!」
そんな刹那の思いなど知るよしもないさくにゃんが、彼女を叩き潰そうと拳を振り上げた。
「あぁ、覚悟したよ……」
全てを受け入れ、噛みしめるように呟いた刹那が、そっと目を伏せる。
「なら死ねィーッ!」
「『なにがなんでも、お前をぶっ倒すッ!』っていう『覚悟』をなッ!」
カッと目を見開いた刹那が、へし折られた剣をさくにゃんの顔面目がけて投げた。
「顔面に物が飛んで来たら、人間は脊髄反射で勝手に目を瞑ってしまうッ! ババアが目を瞑ったその瞬間に、一気に接近するッ!」
魔剣を投げると同時に、刹那が猛然とダッシュする!
「クソガキの狙いは、あたしの視界ッ!?」
さくにゃんは思わず目を瞑りそうになったが、意志の力で無理矢理目をこじ開けた。
「だが、無駄な足掻きィーッ!」
それと同時に、真太郎を背負い投げして盾変わりにする。
「な、何ィーッ!?」
さくにゃんの力技に驚く刹那に、乱暴に投げ飛ばされた真太郎がぶつかった。
「「ぐはッ!」」
もつれあった二人が、土煙を上げて地面を転がる。
衝突のダメージで真太郎のHPがゼロになり、『瀕死状態』のカウントダウンが始まった。
「これでシンタローちゃんは死亡ッ! そしてガキは、これから殺すッ!」
刹那の策をまんまと潰したさくにゃんが、獰猛な笑みを浮かべて突進する。
「き、切り札は先に見せるな……見せるなら、さらに奥の手を持て……!」
最後の力を振り絞った真太郎が、ステータス画面を開く。
「あの時は、魔法を唱える時間もMPも無かった……だが、俺を殺させて、油断させれば……その時間を作らせる事が出来る……!」
『勇者の一撃』で使い果たしてしまったMPを装備品の自動回復で回復させた真太郎が、拘束魔法を発動させる。
「ホールドエネミーッ!」
次の瞬間、光で出来た魔法の鎖が、さくにゃんの手足を縛りあげた!
「『死んでもさくにゃんを止めるッ!』……これが俺の『役割』だぜ……ッ!」
本当に最後の最後の力を使い果たした真太郎が、力尽きて倒れる。
「こ、この死にぞこないがァーッ!」
真太郎にまんまとハメられたさくにゃんが、魔法の鎖を引き千切ろうとがむしゃらに暴れる。
「バカタロー、お前の勇気と覚悟ってやつを褒めてやるぜ……」
真太郎の『最後まで戦い抜く意志』を見せつけられた刹那のハートに火がつく。
「なら、俺の役割は、『死んでもババアをぶっ殺す』って事だッ!」
完全に闘志に火がついた刹那が、腕を乱暴に振って、袖から仕込み剣を飛び出させる。
「そんなちっぽけなもので、何が出来るっていうのかしらァッ!」
魔法の鎖を力づくで無理矢理引き千切ったさくにゃんが、迎撃態勢に入る。
「俺の本当の武器は、あの魔剣なんかじゃねー! この隠し剣『死神』だッ!」
さくにゃんが反撃するよりも早く、刹那が攻撃モーションに入る。
「ダメージは軽いが、即死確率が高い暗殺特化の暗器ッ! それに加えて、即死効果がある必殺のスキルを合わせて叩き込むッ! そうすれば、化け物じみた強さのテメーでもぶっ殺せるッ!」
懐に潜り込んだ刹那が、さくにゃん目がけて必殺のスキルを放つ!
「殺ッ! デッドリースマッシャーッ!」
完璧なタイミングで完全に叩き込んだはずだった――。
「効かないわねェ~! それどころか、痛くも痒くもないわッ!」
だが、さくにゃんにほとんどダメージを与えられていないッ!
「カスみたいな攻撃力を誤魔化す為に、即死効果に頼っているみたいだけれど、『狂戦士』に即死攻撃は効かないわッ!」
ダメージが通らない上、頼みの綱の即死効果も通用しないとなると、刹那に勝ち目はもうない。
「そ……そんな……!」
「アンタみたいな負け犬のカスが! このあたしに楯突くなんて、その時点で自殺行為なのよ。いじめられっ子は、おとなしくママに泣きついて死を待ってなさいッ!」
勝ちを確信したさくにゃんが、刹那を始末するべく拳を振りかぶる。
「……確かに、俺はクソ情けない弱虫のいじめられっ子だ……」
さくにゃんの言葉の刃を受けた刹那が、再びトラウマに蝕まれて俯く。
「だがな……俺はもう二度と負けないし、逃げないっ! 俺はこの世界で生まれ変わるっ! やられっぱなしなんてもう嫌だっ! 無惨に死ぬなんてもう嫌だッ!」
『絶対的な恐怖を前にしても戦い抜く強い意志』――それを手に入れた事で刹那が覚醒した!
「俺の名前を忘れたか? 俺は最強の殺人鬼・煉獄刹那ッ! 狙った獲物はッ! 必ず殺すッ!」
カッと目を見開いた刹那が、再び武器を手に戦いに身を投じる!
「このドグサレがッ、身の程を知りなッ!」
今度こそ刹那を始末するつもりのさくにゃんが、全身から殺気を立ち上らせて攻撃を放つ。
「ラブリー虐殺真拳奥義・滅殺地獄葬ッ!」
当たれば確実に一撃で殺されるさくにゃんの殺人拳が、命知らずにも真っ直ぐに突っ込んでくる刹那の体を捉える。
「奴の攻撃は一撃必殺ッ! 逃げや防御は捨てろッ!」
戦う意志を手に入れた刹那は、以前のように逃げる事を止めた。
「前に進むんだッ! 攻める事だけを考えるんだッ!」
そして、逃げる代わりに、大きく一歩前に踏み出す。
死の恐怖を乗り越えた刹那が逃げるのではなく、逆に一歩、二歩と前に突き進む。
「殺ッ! デッドリースマッシャーッ!」
勢いそのまま、さくにゃんの攻撃よりも早く、必殺の一撃を叩き込むッ!
「それは効かないって言ってんだろォーッ!」
刹那の攻撃を喰らったさくにゃんが、逆上して拳を振り上げる。
「一発でダメなら、死ぬまで叩き込むだけの話だァァァーッ!」
爆発するように叫んだ刹那が、さくにゃんの攻撃を強引に弾いて再び必殺の一撃を放つ!
「デッドリィィィー……スマッシャァァァァァァァァァァーーーーーーッ!」
ちょっとやそっとの攻撃ではさくにゃんに歯が立たない事を痛いほど理解している刹那は、小細工は無用で徹頭徹尾全力で叩き潰しにいった。
そして、そのままMPがなくなるまで、全力で必殺技をぶちかまし続けるッ!
絶え間ない斬撃の嵐がさくにゃんを蹂躙するッ!
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」
さくにゃんのHPが、秒単位でガンガン削れていく!
「オラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
刹那のMPが、秒単位でガンガン減っていく!
「「ガハ……ッ!」」
刹那のMPがゼロになると同時に、さくにゃんのHPがゼロになる。
「この……あたしが……こんなガキ……に……!」
HPがゼロになったさくにゃんが、仰向けにぶっ倒れた。
『さくにゃんが力尽きた』
「ガ……ガキじゃない……俺の名前は、煉獄……」
全力を出しつくした刹那が、膝から倒れそうになる。
「刹那だッ!」
だが、意志の力を振り絞って、無理矢理立ち上がった!
ここで倒れたら、負けだと思ったから!
「さ……さくにゃん選手、再起不能ッ!」
さくにゃんが退治されたのを見届けたみこが、張り裂けんばかりの大声で叫ぶ。
「血で血を洗い、ゾンビまで飛び出した大乱闘のバトルロイヤルの優勝者は――煉獄刹那選手ですッッッ!」
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」」」
次の瞬間、会場にいた全ての人間が、刹那の勝利を祝って歓声を上げた!
「俺が! 俺が! 優勝だあああああああああああああああああああああーっ!」
誰もが倒せなかった最強にして最悪の化け物を倒した刹那が、魂の咆哮を張り上げる。
これにて、バトルロイヤル終了ッ!




