第37話 遂に始まった本当のバトルロイヤル!
「た……助けて、おかあさん……!」
圧倒的なまでのさくにゃんの強さを見せつけられた刹那が、恐怖に飲まれて泣き出す。
すると、さくにゃんが邪悪な笑みを浮かべてニタリとした。
「戦う事も満足できない弱虫が、なんでここにいるのかしらぁ~? アンタって昔から、根っこのところがアレよねぇ~……『負・け・犬』よねぇ~……」
「ひぃ!」
「強がってないで本性見せなさいよぉ~。しっぽをまいて逃げるのが好きないじめられっ子なんでしょう~? おかあさ~んって、もっと泣いてみなさいよォ~」
「うぅ……! や、やめて……やめてよぉ!」
さくにゃんの邪気にあてられた刹那が、いじめられていた過去を思い出して発狂した。
「なにやってんだッ! さくにゃんの言葉に耳を貸すなッ! 無視しろッ!」
真太郎が、いじめのフラッシュバックに襲われている刹那を正気に戻そうとする。
「うぅ! やめてっ! 怒らないでよぉ!」
だが、彼の声は、戦いの恐怖と過去のトラウマに蝕まれる刹那には届かなかった。
「た、たすけて……! 誰かたすけてよぉーっ!」
普通の女子中学生には耐え難いさくにゃんの邪気にあてられた刹那が、正気を失って戦線離脱する。
「クソ! 肉体はゲームの補正を受けて強靭になるが、精神面はリアルのままってことかよっ!」
「精神が脆過ぎねぇ~。やっぱりチュウ坊なのね、いじめがいがないわぁ~」
(やつはただの敵じゃあない……モンスターとは別の意味で、化け物――人間のヤバい部分を凝縮した化け物だッ! もっとそれを意識するべきだった! 俺では奴を殺せないッ! なんて俺は愚かなんだ。仲間だと思って忘れていた。奴は最初に俺の前に現れた時から一貫して、手に負えない化け物だったという事をッ!)
「俺の話術と、師匠の技量と、アダーの賢さを合わせて、暴力でコーティングしたようなぶっ飛んだ化け物を、俺一人で倒せるのか……ッ!?」
ピンチに陥って慌てる真太郎が、無意識に考えを口からこぼす。
すると、地獄耳のさくにゃんがそれを聞きつけ、耳をピクリとさせた。
「誰が化け物よッ! 死ねぃ!」
おしゃべりモードから一瞬にして虐殺モードにチェンジしたさくにゃんが、真太郎に襲いかかった。
「一瞬で殺しに来たッ!?」
(スキルでも何でもないただのパンチが、そのまま必殺の一撃になるさくにゃんの攻撃だ。防御は意味をなさない……ッ!)
「なら、どうするッ!?」
絶対的脅威を前にした真太郎が、頭をフル回転させる。
(防ぐことは出来なくても……躱す事ならできるッ!)
「恐れず一歩踏み出せッ!」
恐怖をねじ伏せ、あえて一歩前に踏み出した真太郎が、体ごとさくにゃんに突っ込んだ。
「なにッ!? 突っ込んで来たですってッ!」
そして、体をグイッと捻って、パンチを躱す!
「思い切りの良さが……取り柄ですッ! 神様、助けてくれて! ありがとうッ!」
そのままダッシュを続け、さくにゃんから距離を取った。
(バリバリの戦闘職のさくにゃんと違い、回復職の俺はステータス面で戦闘力が劣る。まっとうに戦ったら、まず勝負にならない。せっかく使える魔法も回復支援に特化してるから、奴を倒すのにクソの役にも立たんッ! ハッキリ言って、もうどうにもならないッ!)
「とはいえ……ここまでの戦闘で、奴の『攻撃の特徴』と『突くべき弱点』って奴が少し分かって来たぜ……!」
真太郎の脳裏に、何も出来ずに殺された魔王戦の苦い記憶が甦る。
「このまま何も出来ずになぶり殺されるなんて、もうまっぴらごめんだ……反撃するぞ……!」
真太郎は魔王戦で負った敗戦のトラウマを闘志で振り切ると、ぎゅっと杖を握りしめた。
「だが、奴を殺すのは、俺じゃあないッ! 共に死線を潜り抜けたあいつ! 奴に賭けるしかないッ!」
(もう誰が勝つかなんて、どうでもいい。だが、さくにゃんだけは、ダメだ。奴はダメ、絶対にダメッ! 悪い予感しかしないッ!)
「さくにゃんが負けるという結果さえ得れれば、他はもう何もいらんッ!」
杖を握りしめた真太郎が、素早くステータス画面を指でタップする。
(魔王戦後に手に入れた『新スキル』……昨日、実験がてらに使っただけだから、この修羅場で使えるかは未知数……。なんたって、HPとMPを全部消費するタイプの起死回生系スキルだしな……だが、今はこいつに賭ける他ないッ!)
「こいつに全てを賭けるぜッ、『勇者の一撃』ッ!」
起死回生の一発となってくれとの思いを込めてスキル名を叫ぶ!
直後、真太郎の全身が眩く光り輝くオーラに包まれた。
そして、オーラが杖の先端に集まっていく。
「喰らいやがれッ!」
真太郎が、全身の力を込めて杖を思いっきり振りかぶった!
杖の先端に集まったオーラの塊が、さくにゃん目がけて飛んでいく。
攻撃と同時に真太郎のHPが一になり、MPは一気にゼロになる。
「そんな見え透いた攻撃が、当たるわけないでしょ?」
しかし、起死回生の一撃は、さくにゃんにあっさりと避けられてしまった!
「マジか……!」
それを見た真太郎が、全ての力を奪われたように頭から地面に崩れ落ちる。
「避けた……避けたな……! まんまと『避けてくれた』な……ッ!」
しかし、全てを懸けた攻撃を避けられたにもかかわらず、真太郎は何故かニヤリと笑っていた。
「攻撃なんだから、『避ける』に決まってるでしょ?」
さくにゃんが、何を言っているんだ、という顔をする。
「いまいち……いまいち、俺の言葉の意味を理解出来ていないようだな……」
倒れた時に頭を打ったせいなのか、真太郎が妙な事を言い出した。
「俺達『名無しのギルド』は、メンバー全員がなにかしらの能力に特化している……。さくにゃんが殺戮と破壊に特化しているように……この俺は、回復と補助に特化している……!」
真太郎の言葉に嫌なものを感じ取ったさくにゃんが、野獣的勘で後ろに飛び退く。
「何の話をしているのかしら?」
「『さくにゃんが、なぜ負けるのか』って話をしているのさ……」
気持ちよく勝利に酔っていた所に水を差されたさくにゃんが、腹立たし気な顔をする。
「ふざけた事言ってんじゃないわよッ! 安い挑発であたしを逆上させるつもりかしらッ!」
逆上すると言った時には、既にぶちギレている! それがさくにゃんだ。
「自覚しろ、クソババア! お前は既に! 『敗北の道を転げ落ちている』ッ!」
真太郎がトドメの煽りをかますなり、さくにゃんが命を狩りに動いた!
「何をしても無駄ァ! すべて手遅れよッ!」
野獣と化したさくにゃんが、目にも止まらぬ速さで真太郎に肉薄する!
「いいや、俺がやるべきことは全て終わっている……」
(俺がさくにゃんに『負けたら』、全てがおじゃん。何の為にアダーを裏切ってまで勝ちを得たのかが、わからなくなる。なにより、今後の計画が全て無に帰してしまう! それはダメ! そのためならば、『自分が死ぬ』としても構わんッ!)
「死ねィ!」
頭をフル回転させる真太郎に、さくにゃんが襲いかかる。
(さくにゃんの攻撃の特徴ってやつは、『一撃必殺』だ。ゆえに奴は、必ず一撃で仕留めに来る。ならば、突くべき弱点は……急所を狙いに来る攻撃の瞬間ッ!)
「避けられないのならば……耐えられないのならば……攻撃を喰らう『覚悟』をするッ!」
覚悟を決めた真太郎に、さくにゃんの一撃必殺の拳が叩き込まれる。
「グハッ!」
再び胸を貫かれた真太郎が、血を吐いて倒れる。
「何か企んでいそうだったけれど……ただのハッタリのこけおどしだったみたい――んなっ!?」
倒れる寸前、真太郎は何を思ったか、さくにゃんをキツく抱きしめた。
「ちょ! アンタなにすんのよッ!?」
「ちょ……直前に、エリーゼさんの戦いを見ていたおかげで再確認できた……ッ! やはり、勝てない相手を倒すには……自らの命を生贄にして倒すしかないとッ!」
「ちょ、やだ! セクハラーッ!」
命懸けの反撃に出た真太郎は、突然の抱擁に戸惑うさくにゃんをさらにキツく抱きしめる。
「ここで一生で一度のお願いを使うッ! チュウ! 勝ってくれッ!」
そして、刹那を見つめて、思いのたけをぶつけた。
「む、無理……ッ! 無理だよッ!」
しかし、さくにゃんの圧倒的な強さに心身ともに気圧されてしまっている刹那は、その思いに応える事は出来なかった。
「あんな負け犬のいじめられっ子に、何が出来るって言うのかしらっ!?」
「そうだよ……俺みたいなダメな奴には、なにもできないよ……できっこないよ」
かつてのいじめのトラウマに蝕まれている刹那が、さくにゃんの言葉で戦意を喪失する。
「簡単に諦めるな! リアルのお前がどうだか知らんし、そんなのは今の状況でまったく関係ない! 俺が知ってるお前は、クソ雑魚の癖に魔王に挑むような向こう見ずで勝ち気な奴だッ! お前がその気になれば、何でもできるッ!」
自信を喪失して今にも泣き出しそうな刹那を立ち直らせようとする真太郎が、強い言葉を投げかける。
「でも……そのせいで死んじゃった……」
だが、すっかりいじめられっ子のマインドになってしまっている刹那に、その言葉は届かなかった。
「確かに死んだ。だが、それでもお前はその後、戦いに勝ち続けて来た! 凶暴なPKを何度もやっつけた! お前は、俺の頼りになる仲間だッ!」
「仲……間……?」
思いがけない真太郎の言葉を聞いた刹那が、顔を上げて虚ろな目で彼を見つめる。
「俺はお前を……! 他の誰でもない、チュウ! お前をッ! この世界で一緒に死線を越えて来たお前を! 信じているッ!」
真太郎が、今まで決して口に出さなかった刹那への思いを叫んだ。
それと同時に、眩く光り輝くエネルギーの塊が刹那にぶつかる!
「チュウ! 叩き込めッ! 俺の全てをテメーに預けたッ!」




