第32話 クールな王子様のグールな正体!
「す、すごい……光と花が乱れ飛んでて……お姫様と王子様がダンスするみたいに戦ってて……なんて綺麗なの……!」
「こんにゃスゴイ戦い……ゲームでも見たことにゃい……!」
そんな華麗過ぎる戦いを目の当たりにした観客たちは、歓声を上げる事も忘れて戦いに見入った。
「ふはは! 素晴らしいよ、恵璃華、百合子! この世界ではてっきり何の役にも立たない愚図だとばかり思っていたキミ達が、ここまでボクに付いて来れるなんて予想外だっ!」
戦いに興奮するあまり、言葉遣いが乱暴になっているアダーが、楽し気に笑い声を上げる。
「なんて生意気な言い草なのかしらっ! 思い上がりも甚だしいですわっ!」
「私達二人を相手にして、いつまで余裕の態度でいられるかしらっ!?」
アダーの挑発で頭に血が上ったエリーゼと百合子が、揃って武器を構える。
「なつきちゃん! あんまり私達を馬鹿にすると痛い目を見るわよっ!」
「馬鹿になんてしていないさ、素直に賛美しているんだよ。それより、百合子はボクの事を心配する前に、自分の事を心配した方がいいんじゃあないのかい?」
アダーが妙な事を言って、百合子の後ろを指さした。
何か嫌なものを感じた百合子が、素早く背後に目をやる。
すると、首筋にナイフがそっと添えられた。
「そうヨ、敵はアダーだけじゃないアルからネ?」
百合子の細い首筋に鋭いナイフを添えて薄く笑うのは、赤いチャイナ服を着た妖艶でセクシーなチャイナ美女だ。
「テンテンさんっ!?」
蛇のように残忍な目をして薄く微笑む美女の正体が、インヤン飯店ギルマスのテンテンだと知った百合子が目を見開いて驚愕する。
「キミらが一人で戦っていないように、ボクも一人では戦ってはいないよ」
驚く百合子を見たアダーが、いたずらっ子のように笑った。
「え?」
「ギルド会談を蹴った恵璃華がバトルロイヤルに乱入して来る事も、戦いになったら百合子が恵璃華と手を組む事も、高い確率で予想される事象だからね。しっかりと対策をさせてもらっていたよ」
何もかもを予想し、前もって準備をしていたアダーは、なかなかの策士だった。
「この女狐っ! 油断も隙もあったもんじゃないですわっ!」
アダーにまんまと踊らされた事を知ったエリーゼが、地団太を踏んでヒスる。
「仲良しこよしなんて気に食わないケド、残り選手が一ケタになるまでは、アダーと共闘する話で取引しててネ。マ、悪く思わないで欲しいヨ」
テンテンは商人らしい愛想笑いを浮かべると、百合子の白い首筋をナイフで斬り裂いた。
「そんな……!」
白い首筋から薔薇よりも赤い血を流して百合子が事切れる。
「百合子。崩れ落ちる君は、とても綺麗だよ」
百合子の死を見届けたアダーが、魔女のように妖艶な笑みを作る。
「いやああああああああああああああああああああああああああああああーっ!」
百合子の死を目の当たりにしたエリーゼが、突然大声を上げて発狂した。
「うわああああああああああああああああああああああああああああああーっ!」
次の瞬間、目にも止まらぬ速さでテンテンに肉薄したエリーゼが、思いっきり乱暴に剣を振るう。
「え?」
エリーゼに力任せに一刀両断されたテンテンが、悲鳴を上げる間もなく即死する。
「これは予想外っ!」
隠し玉のテンテンがあっさり殺されてしまった事に内心驚くアダーだったが、それを表に出す事は決してなかった。
常に余裕たっぷりにクールに振舞うのが、彼女の幼少からの習い性なのだ。
だが、それがいけなかった。
「化野なつきっ! わたくしは貴女を許さないッ!」
親友である百合子を失ったエリーゼの怒りに火を注いでしまったからだ。
「気に入らないっ! その余裕の顔がっ! 何か企んでいるのでしょうっ!」
エリーゼが言葉を区切る度に、強力な斬撃がアダーに襲いかかる。
「ひ・み・つ」
アダーが言葉を区切る度に、器用にエリーゼの斬撃を躱す。
「教えなさいっ! また悪い事なのでしょうっ!」
エリーゼが強烈な一撃を放つ。
「今はまだ言えないなぁ。でも、すぐにわかると思うよ」
アダーがそれを大鎌で受ける。
「生意気なっ!」
アダーの人を食ったような態度にキレたエリーゼが、剣を構えて疾駆する。
「そんなつもりはないんだけどなぁ」
アダーが応戦しようと、鎌を水平に振る。
「そういう所が生意気なんですわっ!」
エリーゼが素早くジャンプし、大鎌の柄を蹴って弾く。
「はしたない。スカートがめくれてドロワーズが見えているよ」
「うるさいっ!」
そして、そのまま自分の剣を大鎌の鎖の隙間に差し入れ、地面に突き刺した。
「これで、その鎌は使えませんでしてよっ!」
まんまとアダーの武器を封じたエリーゼが、縦ロールの金髪を揺らして得意げに笑う。
「やるね。でも、キミではボクに勝てないッ!」
そう言ってクールに笑ったアダーはあっさり武器を捨て、エリーゼに殴りかかった。
「キミが勝てない理由その一、ボクは長年の付き合いから、キミの考えている事がなんとなく分かる」
咄嗟の反撃に対応出来なかったエリーゼが、アダーのパンチを顔面に喰らってのけぞる。
「キミが勝てない理由その二、実戦経験の差。子供の時から家庭の事情で、荒くれ者の兄たちと喧嘩をして培われた『戦いの勘』ってやつが、考えるよりも先にボクを動かし戦いにおいて最適な行動を取らせてくれる」
アダーの攻撃を喰らってのけぞったエリーゼがすぐに立ち直り、剣の鞘を握りしめる。
「わたくしが勝つ理由その一! わたくしは貴女の考えなんてお見通しっ!」
エリーゼが逃げるアダーの腕を掴んで動きを止めると、思いっきり鞘で殴りつけた。
「乱暴な奴だっ!」
強烈な一撃だったが、アダーの漆黒のコートが形を変えて自動的に防御したせいでダメージを与えられない。
「わたくしが勝つ理由その二! わたくしは、貴女に勝つためにここにいるっ!」
エリーゼは鎖を引き千切ってアダーの大鎌を奪うと、彼女の漆黒のコートを乱暴に斬り裂いた。
「これで、貴女を守るものは何もないですわっ!」
勝利を強引に引き寄せたエリーゼが、アダーを始末するべく死神の大鎌を振るう。
三日月のように冷たい光を放つ大鎌が、アダーの体を引き裂くべく襲いかかる!
「だが、キミの負けに変わりはない」
大鎌がアダーの体を捉えた次の瞬間、何者かが彼女の目の前に飛び出して来た。
「なんですってっ!?」
当たると思っていた攻撃が予想外の外れ方をした事に、エリーゼが目を丸くして驚く。
「ボクの勝利は依然、揺るぎない」
だが、彼女が本当に驚くのはこれからだった。
「テンテン……さん……!?」
アダーを守ったのは、『死んだはず』のテンテンだったのだ!
しかも奇妙な事に、彼女の青白い顔に生気はなく、だらしなく開かれた口からは不気味な唸り声が漏れている。
その有様は、まさにゾンビ!
「キミが勝てない理由その三、君はたった一人で戦っているが、ボクは『みんな』と戦っている……!」
「み、みんな……?」
アダーの言葉に嫌なものを感じたエリーゼが、彼女から無意識に距離を取る。
「さぁ、みんな! 『屍の王』の凱旋だ! 立ち上がって出迎えてくれッ!」
言い知れぬ殺気を纏うアダーの目が、ギラリと紅く光る。
すると、コロシアムに倒れている選手たちがピクピクと痙攣し、次々と起き上がり始めた!
「な、なんなのこれはっ!?」
死者たちが次々と甦る不気味な光景を目にしたエリーゼが、恐怖に顔を引きつらせる。
「言い忘れていたが、ボクの職業は『死霊術師』。そして、ボクのオリジナルスキルは、バトルエリアにいる死者を下僕として甦らせる『屍者狂宴』――」
アダーのスキルによって甦った死せる敗者たちが、赤い目をギラリと光らせ、エリーゼを睨みつける。
「さぁ、死人たちのパーティーのはじまりだっ!」




